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080.距離

「それと、魔道具を作る所を見学させてもらえますか?」


「構いませんが、面白い物ではないと思いますよ」


 マサトが魔道具の作成に興味を示した事に、ミレディは驚いた様子を見せる。

 しかしこれは意外とアッサリと了承された。


 それはミレディから見たマサト達が、良い印象だったからであろう。

 これまでの経緯で、変った客だと言う認識が成されていた。

 しかし同じ変な客なら、今までに訪れた否定的な客よりも良い。

 魔道具に興味を示して、変わった物を求めて来る客の方が貴重な存在なのだ。


 ミレディは、魔道具店の奥にある工房に赴く。

 そして試作品が置かれた棚の中からサーキュレーターに似たパーツを選んだ。

 そして作業台の上に乗せたパーツの改修作業を始めた。


 作業台の上には二つのパーツがある。

 一つは、羽根を回転させるパーツ。

 もう一つは、マサトが要求した大き目のボウル。

 ミレディは、まずこの二つのパーツを組み合わせる作業から進める。


 そして次にミレディは、特注の羽根を研磨して作り出す作業に入る。


 そこで使われていたのは、回転式の研磨機。

 ただ、元の世界にあった高速回転する物とは違って、速度はそれ程でもない。

 送風機があるのだから回転速度を上げれないはずはないのにと不思議に思う。

 一応研磨機の事を聞いてみたら「速すぎると怖い」と言われた。

 うん、女性だしそうだよな、と納得する。


 しかしながら研磨機が有ると無いのでは雲泥の差がある。

 その構造自体は単純に円盤状の砥石を回転させるだけだ。

 この世界の魔工技術のレベルでならあってもおかしくない道具だ。

 でも、魔石加工と言う物がある為か、普及はしていないと言う話だった。

 マサトは、そう言うものなのか、と思いながら作られていく様子を眺めていた。


 しばらくして特注の羽根が完成する。

 さっそく羽根を回転部に取り付けて試運転を行ってもらった。

 その際、ハルナが回転速度を遅くして欲しいと言う。

 一瞬、ハルナがミレディに可愛げで対抗して言ったのか、と疑ってしまった。

 しかし、よくよく考えてみると、ハルナの要求は機能として全うなものだった。

 ミレディは要求を受けて、駆動部に手をかざして魔力を通して調整をする。


 駆動部に魔力を宿す光の記号が浮き上がる。

 ミレディは、その記号を新たに書き換えらて、配線を組み直していった。


 こうして魔道具は調整された。

 それは、マサト達が思い浮かべていた物に限りなく近い物となって完成した。


「おおう、これだよ、これ。ちょっと試しに使って見て良いかな?」


 ハルナが、ミレディの調整が済んだ魔道具を手に取って喜ぶ。

 ハルナは、取り出した小麦粉をと塩を魔道具のボウル部に投入する。

 そして稼動した魔動具の様子を見ながらボウル部に水を少しずつ加えていった。


 ハルナの奇行に目を見開いて驚くミレディ。

 マサトは魔道具の代金を支払って、ミレディに経過を見守るように言う。


 そして十分後、仕上がった麺生地を手に取って満足するハルナ。

 何を作らされたのかを理解して驚くミレディ。

 不思議そうに麺生地を見つめるダーハとサントス、と言った様相となっていた。


 ハルナは、出来上がった麺を醗酵させる為に休ませたてから黒板を取り出す。

 そして、当初の目的であったパスタマシンの図を描いて新たに発注をした。


 その図面を見たミレディは、今度は何を作らされるのかと困惑する。

 ただそれでもハルナの話を聞いて実直にパスタマシンの製作に取り組み始めた。


 その間、ダーハとサントスが、ハルナ命名のコネコネメイカーを使っていた。

 そして新たに麺生地が練られていく様子を、再び不思議そうに眺めている。


「なんで、こんなのでパン生地が出来るのか不思議なのです」


「そうですね。手で練るのとは全く違っているのに、どうしてなのでしょう」


「それは、ボクにも良く分かってないんだけど、

家にあったパン生地を練る機械が、こんな感じのだったんだよねぇ」


「なんとなく覚えていた形だったけど、それっぽい物が再現出来て良かったよな」


「おねえちゃんのお家は、パン屋さんなのです?」


「違うよぉ。ただ、こう言う道具があったってだけだよぉ。

あとは、パスタマシンが出来たら、パンや麺を作るのが、かなり楽になるねぇ」


 ミレディは、必要なパーツを集めてパスタマシンの製作に入っている。

 その間、ダーハは生地の生産と醗酵待ちをしていた。


 マサトは、サントスの観察からの説明を聞きながら店内の魔道具を見て回る。

 そして、客の目に留まらず放置されていた魔道具の品定めを進めていった。

 その結果から、いくつかの魔道具の購入を決めた頃、ミレディが戻って来た。


 その手には完成したばかりの真新しいパスタマシンが抱えられている。

 そこで、事前に作り置きしていた生地を使って動作確認をする。


「はわわ、生地が伸びて行くのです」


「横のダイヤルを回せば、生地の厚みを薄くしていけるから、もっと伸びるよぉ」


「ただ、生地を入れる時に注意するようにな。

生地を滑り込ませる台を取り付けてあるけど、

油断していると、服の袖などを巻き込んで、

ローラーに手を引きづり込まれる危険がある」


「えっ、何それ怖い!」


 マサトの説明を聞いて、サントスが思わず顔をしかめる。

 そしてダーハの顔にも真剣さが増した。


「だから、そんな時の為に、上部に赤色をした非常停止スイッチを

追加してもらった、

この大きいスイッチを押すせば、すぐに動きが止まるからな」


「ダーハちゃん、これだよぉ」


「は、はいなのです」


 ハルナが、目立つように配置された非常停止スイッチを指差して教える。


「それと使い始める時は、

必ず最初に非常停止スイッチが使えるかの確認をしておく事。

いざと言う時に壊れていたら、大怪我をする事になるからな」


「なるほど。

そこに起動の物とは別の停止スイッチを追加したのは、

そう言う意図があったのですね」


 マサトは、実際に非常停止スイッチを作動させて見せる。

 そして魔石の動力による自動運転ゆえの注意と、緊急時の対処法を伝えた。


 マサトの説明を聞いたミレディは、今更ながらにスイッチの意味を理解する。

 その店主の様子を見て、マサトは少し心配になってきた。

 だから購入した魔道具を使う際は、もう一度安全性の確認をしようと思った。


 こうしてマサト達は最後に、伸ばした生地を麺にカットする動作の確認をする。


 そして一通りの確認が出来たら、見繕(みつくろ)っておいた魔道具の購入をする。

 その交渉の際に、店主がやたらと身を寄せて、いろいろと話を聞きに来た。

 マサトは、他の魔道具の話の事もあったので、しばらく話をする。

 しかし、どうにも店主との対人距離(パーソナルスペース)の違いで、話していて居心地が悪くなる。

 一般的に女性よりも男性の方が、対人距離(パーソナルスペース)が、広いとされる。

 その距離よりも内に進入されると人は居心地が悪くなる。

 極端な話としては、ストーカーなどが上げられる。

 こう言った場合、距離に関係なく視認しただけで不快に感じる事もあるだろう。


 だからマサトが感じているそれは、一種の防衛反応だったのかもしれない。


 そうこうしている内に、ハルナまで間に割り込んで来るようになる。

 ハルナは、店主を牽制するようにマサトの腕を取ってくっつく。

 その様子に、店主は可愛らしい者を見るような目で微笑んだ。

 その両者のどうしようもない行動にマサトは辟易(へきえき)として来る。


 そして、早々に魔道具の購入代金を支払って魔道具店から引き上げた。

 魔道具店を出ると、マサトは、いい加減動きづらいのでハルナを引き離す。

 するとハルナも我に返って照れくさそうに笑って誤魔化した。


 その様子にサントスは呆れた表情を見せ、ダーハは顔を真っ赤にしていた。


「それでも、ハルナ助かったよ。ありがとう」


 マサトは、そう言ってハルナに感謝する。

 その言葉を聞いて、ハルナはまた照れくさそうに笑った。


「まーくん、困ったらちゃんとボクを頼るんだよ」


 ハルナはそう言って、またマサトの隣を歩いた。


 そこは、マサトがミレディから逃げた距離。

 しかし今は、決して不快感を感じていなかった。



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