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008.中古屋

「あ、あの……」


 ガブリエルの様子を(おび)えながら見ていたエルフの女性が、声を掛けてきた。


「助けていただき、ありがとうございます」


「あっ、エルフさん、もう大丈夫だよ。ボクはハルナだよぉ」


「ヒィッ、そのケダモノを近づけないでっ! あ、すみません。

あたしはサンディって言います。

そのぉ、エルフではなくて、ハーフエルフです」


「私はベスにゃ。こんな駄犬(だけん)、そんなに怖いかにゃ?

てっきり駄犬をけしかけて悪さするのかと思ったにゃ」


「な、何を言ってるの! こんな凶悪顔のケダモノ、絶対にお断りよ!」


「オレはマサト。なんか、やっと素で話してくれた感じだな。

あっ、別に話し方はそのままで良いぞ」


「そ、そう、ありがとう。それで、あなたがこのパーティのリーダーかしら」


 サンディはマサトをじっと見つめた後、(たず)ねてきた。


「ん? いや、別にオレって訳じゃあ……」


「まーくんだよ」


「合ってるにゃ」


「……どうもオレらしいです」


「そ、そう、分かったわ。それでなんだけど、

あたしをあなたのパーティに入れてもらえないかしら?」


「なんでいきなりそうなるんだ?」


「あなた達って、転移者よね?」


 サンディの言葉にマサト達は警戒レベルを引き上げた。


「マサハル、コイツやっぱり怪しいにゃ!」


「あっ、ちょっと待ってよ。いきなり武器を向けないでっ。話を聞いて!」


 マサト達から向けられた警戒心に、サンディが慌てて両手を上げた。


「それで、なんでボク達が転移者だって思ったの?」


「なんでも何も、あなた達がお父様と同じプレートを下げているからじゃない」


 サンディは、マサト達のドッグタグのプレートを指摘して答える。


「お父様と同じって事は、サンディは転移者の子供になるのか?」


「そうよ。これはお父様のプレートを加工してもらったブレスレットよ」


 サンディは、左手首に着けているブレスレットを見せる。

 それは、すでに宝玉の輝きを失い、色あせたドッグタグにチェーンを通した

装飾の無い無骨(ぶこつ)なブレスレットであった。


「お父様は、奉納の儀式を終えた後もお母様と一緒に居る事を望んで(とど)まったわ。

だから、いろいろと旅の話を聞かせてもらっていたわ」


「へぇ、実際に宝玉の奉納をやり()げた人が居るのか。

それでなんでオレ達とパーティを組みたいんだ?」


「いくつか理由があるけど、順番に話すわね」


 サンディは、一呼吸置いて話し始めた。


「一つ目は、あなたのパーティに女性が二人いた事。

冒険者のパーティって男社会なのよ。女性が一人だと何かと問題が起きるのよ。

だからあたしは【サントス】って名前で男性冒険者として活動しているわ。

でもさすがに、いろいろと無理が出てきていて疲れたのよ。

さっきまでも、野良パーティに参加してて、

ドレッドベアの討伐依頼をこなしていたんだけど、

そこのケダモノが出て来たのを見て、あたしを置き去りにして逃げられたわ……」


 サンディは、チワ・ワンティコアを恐々(きょうきょう)とチラ見している。

 逆にガブリエルは、ハルナの手から逃れ、

サンディの(もと)に逃げ込みたそうに足掻(あが)いていた。


「二つ目は、あなた達が転移者だって分かったからよ。

お父様が話してくれていたような冒険に、あたしも加わりたいって思ったからよ。

あたしには、お父様から受け継いだ【中古鑑定】って能力があるわ。

この能力で中古屋として行商もしているわ。絶対に役に立つわよ」


 サンディは自分の事情と想い、そして能力を猛アピールをしてくる。


「質問して良いかな?」


「ええ、どうぞ」


「サンディの冒険者としての能力、つまり得意な事と、苦手な事って何かな? 

あと中古鑑定について教えて欲しい」


「冒険者としてね。まず戦闘面って事なら、武器はメインが弓ね。

剣や槍も使うけど自衛に使える程度って思っていて欲しいわ。

あと弓と言っても、あたしはクロスボウを使っているわ。

魔法は風魔法を使えれるけど、こちらも弓の補助として使う程度ね」


「一応、オールラウンダーって事で良いのかな」


「器用貧乏とも言うにゃ」


「そうね、あたし自身も、そう理解しているわ。

それで、その補強としても中古鑑定を使っているわ」


「サンちゃん、それってどう言う事?」


「サンちゃんって……まぁ良いわ。

それで中古鑑定だけど、これは【中古品の鑑定が出来る能力】なのよ!」


「うん、名前の通りだねぇ。それで?」


「ええっ! これってすごい事なのよ!」


「そのすごさが分からないから教えて欲しいんだけどな」


「そうね。じゃあ、あたしの着ているコートなんだけど、

これはお父様の友人からもらった古着なんだけど、コレを見てどう思う?」


「年季の入ったコートにゃ。

ちゃんと手入れがされてて大事に使われている良い物にゃ」


「あれっ、思ったよりも高評価!」


「私はこれでも革細工職人の端くれにゃ。それくらいの価値は見て分かるにゃ」


「そ、そう、ありがとうね……って、そうじゃなくて! 

あなた、それが分かっていて、このコートのフードを切り裂いたの!」


「あたりまえにゃ。怪しいヤツが近寄って来たら警戒するにゃ。

まず自分達の身を守るのが第一にゃ」


「うっ、そうね。とにかく、あたしが言いたかったのは、

普通の人が見たら、ただの古着にしか見えなくて、

捨てられちゃうかもって事なのよ」


「うん、それは分かるよ。それでサンちゃん、そのコートがどうかしたの?」


「このコートはね……」


 サンディは、背負っていたリュックを地面に置く。


「おそらく世界で唯一の【ストレージコート】なのよ」


 サンディのコートのポケットに大きなリュックが丸々収納された。


「すっ、すごいにゃ! コート自体がマジックバックになってるにゃ!」


 ベスが、サンディの大容量の収納機能付きロングコートに驚愕(きょうがく)する。


「ベスから見ても、やっぱりすごい物なのか?」


「当たり前にゃ! 私の世界の職人でも、こんなバカな物を作らないにゃ!」


「えーっ? ベスにゃん、そっち方向なの?」


「良く考えてみるにゃ。

マジックバックは、収納機能があっても防御力は無いのにゃ。

正しくは魔術や錬金術を(ほどこ)す関係上、両立が出来ないのにゃ。

このコートは、収納機能に特化した分、防具としての機能が皆無にゃ。

例え商人が盗賊対策に特注した物だったとしても、身ぐるみ()がされれば

意味が無いし、殺されたなら言うまでも無いにゃ。

要するに、魔物が徘徊(はいかい)している世界で持っていも意味が無いのにゃ。

言い換えれば私財を抱えたまま、あの世まで持って行く狂人の持ち物にゃ。

こんなの持つくらいなら、普通のマジックバックを持って、

それなりの防具を身に着けてた方が、よっぽど生存率が上がるのにゃ。

ただし、職人の技術と製作期間に寄る制作費、副次的な利用価値等、

諸々(もろもろ)を考えたら、コレ一つで、お屋敷だって買えるにゃ!」


「えっ、あたしのコートって、そんなに高価な物だったの?」


「なんで自慢(じまん)した本人が、顔を青くしてるんだよ」


「職人や商人なら手腕のアピール。

王族や貴族などなら献上品(けんじょうひん)やコレクターズアイテム。

こう言った副次効果としての使いようは、いくらでも考えられるにゃ。

殺してでも奪い取るってヤツが、今まで現れなかった事が不思議にゃ」


「ガブリエル、なんかすごいねぇ」


「クゥ~ン……」


 気まずい空気が(ただよ)う中、サンディは、なんとか言葉を(しぼ)り出した。


「あのぉ、それじゃあ、あたしはどうすれば……」


「私は、関わらない方が良いと思うにゃ」


「そ、そんなぁ……」


「え~、なんか、かわいそうだよ」


「ひとまず、そのストレージコートと中古鑑定の関係が、

イマイチ分からないので話を続けてもらって良いですか?」


「はい。つまりですね、あたしの中古鑑定は、

【鑑定では識別出来ない、中古品に宿る能力の鑑定】なのよ」


「「えっ!?」」


 マサトとベスの頭にいくつもの可能性が浮かび上がる。


「それじゃあ、ストレージコートの収納機能は、

『鑑定』って能力じゃ見つけられないって事か?」


「そうよ」


「中古品に宿る能力って事は、

ストレージコートの素体の防御力は維持されているのかにゃ?」


「そうよ。あなたにアッサリ切り裂かれたけど、

元がロングのトレンチコートだから……」


「中古品に宿る能力って事は、付喪神(つくもがみ)みたいな……

え~と、長く使われた道具に宿るって事なのか?」


「ストレージコートは、お父様の友人からのもらい物で、

その人は【無限収納】って能力を持っていたの。

その影響を受けて、身に着けていたトレンチコートに

中古能力が宿ったって聞いているわ」


「あと古代の武具、アーティファクトとかにも中古能力ってあるのかにゃ?」


「お父様は無いって言っていたわ。

アーティファクトの様な伝説の武具は、

それ自体が目的に合わせて創られた完成品だからと言っていたわ」


「もしかしてだけど、『鑑定』で識別が出来る事の他に

『中古能力』が見えるのが、中古鑑定なのか?」


「ええ、そうよ」


【名前と性能が逆転しているのにゃ!】


【鑑定の上位互換(じょういごかん)じゃないかっ!】


 サンディの能力にマサトとベスが絶叫(ぜっきょう)する。

 そして思わず小声で相談をし始めていた。


「(ベス、これどうしよう……)」


「(なんで私に聞くにゃ……)」


「(いや、冒険者としての先輩でしょ?

経験が豊富なベスをあてにしているんだよ)」


「(個人的に面白いんだけど、同時にトラブルの種にゃ。

私は自分のなめし革でさえ売れないのに、コイツが持ってるブツはヤバイにゃ)」


 マサトとベスが頭を(かか)える。


「まーくん、話は終わった? じゃあサンちゃん、これからよろしくだよ」


「えっ、パーティに入れてもらえるんですか? 

あっ、ちょっと、そのケダモノをこっちに近づけないで下さい!」


「おい、ハルナ。良いのか?」


「まーくん、エルフだよ。しかもハーフエルフ!  

ボクは今、最高にハッピーだよ♪」


「お、おう……」


「ありがとうございます!」


「まぁ、一度、了承(りょうしょう)したものを断るのもなんなので

これはこれで良かったんじゃないのかにゃ?」


「それもそうだな……ただ、ストレージコートの他にも

(いわく)く付きの中古品をいくつか持っているんだよな? 

それらを(あつか)う時、今までどうやって売買していたんだ?

説明しても、鑑定で証明が出来ないだろ?」


「あたしのお父様から譲り受けたブレスレットにも中古能力があるわ。

それが【鑑定制御】よ。

これで商品の中古能力に対しての鑑定にオン・オフの切り替えが出来るわ。

また、強すぎる能力に対しては、低く鑑定させる為のフィルターを

掛ける事も出来るわ。

前者は売買の為に、後者は戦闘時に鑑定で(のぞ)き見された時の保険ね。

あたしだって無用のトラブルは避けたいから、それくらいは用心はしていたわ。

リュックだってストレージコートのカモフラージュ用で、

中身は空気の入った浮き袋よ」


 サンディは、ストレージコートからリュックを取り出して背負い直した。


「一応の対策はあるみたいだし、なんとかなりそうなのにゃ」


「じゃあ、ギルドに戻って、いろいろと報告しないとな」


 サンディを置き去りにして逃げた冒険者達の事。

 チワ・ワンティコアの事。

 サンディのパーティ加入申請の事。

 帰ってからやる事が増えたなぁ。と思いながらマサトは撤収準備に掛かった。


「そう言えば、三つ目の理由を言って無いのにゃ」


 唐突(とうとつ)にベスが口を開いた。


「な、なんの事かしら……」


 何やらサンディには、思い当たる事があったようで言葉を(にご)す。


「なんでパーティを組みたいんだ? って質問に、

いくつか理由があるって言っといて、二つしか答えてないのにゃ。

三つ目は、なんだったのかにゃ?」


「考えすぎじゃないかしら。話をまとめていたら二つになっちゃったのよ」


「じゃあ、私の予想を話して良いかにゃ?」


「そ、それは、どうなのかしら……」


「ベスにゃん、どう言う事?」


「う~ん、でもマサハルには、言っておいた方が良いような気がするにゃ」


「どう言う事だ?」


「ベスさん、止めませんか……」


「パーティのリーダーが誰かって聞いて来た時の事を覚えているかにゃ?」


「ああ、サンディが、こっちをじっと見ながら聞いて来たのを覚えてる」


「そして、一つ目の理由がパーティに女性が二人いたから。

二つ目が転移者のパーティで、中古鑑定が出来るってアピールして来たにゃ」


「そうだな、覚えてるよ」


「おそらく三つ目は、一つ目と二つ目から判断しての理由にゃ」


「つまりなんだ?」


「ベスさん、本当に止めませんか?」


「私は【中古鑑定は人間にも使える】って思うにゃ」


「「はぁ?」」


「だから、マサハル達を【視て】純情で仲睦(なかむつ)まじいツガイの様子から、

このパーティに入っても、ご無体(むたい)な目に合う事は無いと判断したんだと思うにゃ」


 マサトは振り返ってサンディを見る。

 サンディは顔を(そむ)け、マサトと視線を合わせようとはしない。

 そしてマサトの視界の端には、我を忘れ、顔を真っ赤にしたハルナに、

両手で抱きしめられて死の間際まで追い込まれているガブリエルの姿があった。


「だからマサハル、もし『有事』があったら、

すぐ分かっちゃうので先に教えておくにゃ」


【うわぁぁぁぁぁーーーーーっ!】


 何者かの絶叫(ぜっきょう)と共に、駄犬が耳長に飛んだ!


 かくしてマサト達は、新たにハーフエルフの中古屋サンディと

魔獣チワ・ワンティコアのガブリエルを(むか)える事となった。

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