表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/100

067.古馬車

 ──製錬都市に訪れて5日目の朝を迎えた──


 その日の朝は、何かと目まぐるしかった。


 マサトは、大衆食堂の裏庭で、早朝の薪割り(アルバイト)をこなして朝食を取る。


 その後、冒険者ギルドが貼り出している依頼表を見に行き、

引き続きロックイーターを中心とした依頼を受ける。


 この後、前日に解体してもらっていたロックイーターの解体品の回収に(おもむ)くと、

予想以上の鉱石が出て来た事で、

ギルドが高価買取りを前面に押し出して(たか)って来た。


 現在マサト達は、冒険者ギルドと製錬都市の政策の影響を受けて、

ダーハの武具作製に制限を掛けられている状態な為、迷惑を感じている。


 その上で、今朝から貼り出されている、多くのロックイーターの討伐依頼から、

明らかにマサト達の狩猟結果を知ったギルドが、

鉱山でのトラブルによる鉱石の入手量低下と、

そこから訪れる物価上昇を見越しての後追い姿勢に、

マサトは、ギルドが冒険者の足を引っ張ってどうするんだ。と呆れていた。


「なんだか、柳の下の二匹目のドジョウを狙う。って言葉を思い出したな」


「まーくん、この場合だと、地面の下の二匹目のミミズを狙う。だね。

ボク達の場合は、ダーハちゃんとミミズとの相性が良いからなのに、

それを他の冒険者達にマネをさせようとしても同じ成果は出ないのにねぇ」


「そして、この依頼表に振り回された冒険者達は、

無駄に駆けずり回った挙句(あげく)、魔物単体で考えた場合、

ロックイータ-の討伐料の安さから収入も減る。

冒険者は自己責任とは言うけど、ギルドがトラップを仕掛けるなよなぁ……」


「まぁ、オマエ達は普通に乱獲して来れば良いのにゃ」


「そうですね。今日からしばらくはベスが抜けるので、

安全に稼げる時に稼いでおきましょう」


「は、はいなのです」


 マサトは、鉱石を(たか)って来た冒険者ギルドに対して、

相変わらず腹を下して落ち着きが無かった

解体部門の担当者ダミオンを捕まえて交渉をする。


 その結果、冒険者ギルドに、二割り増しで鉱石をギルドに売却した。


 この条件を付けたのはベスだった。


「ぶっちゃけ、今回の鉱石の高騰は、そう長くは続かないと思うにゃ。

短期間での稼ぎと割り切っておいた方が良いにゃ。」


「ベスが言う通りかもな。

いきなり鉱石が、軒並み通常の一割増しに高騰したのを考えると、

この後も値が釣り上がっていきそうだけど、それも鉱山と繋がったって言う、

魔物の巣の対処が出来るまでの一時的なものだろうからな」


「あのあの、売値が一割り増しで、買取り額が二割り増しだと、

ギルドが損をしているように思えるのです。

なんで、そんな買取りをしているのです?」


 ダーハが、ギルドのやっている事を不思議に思って訊ねる。


「単純に考えるのなら二通りの理由かな。

それでも利益が出るから。または、信頼を得る手段にするからだ」


「どう言う事です?」


「この鉱石の値上がりで利益が出るなら良し。

利益が出なくても微赤字くらいなら、現物を必要としている者に回す事で、

ギルドなら物が有る。無くても用意が出来る。

と言う信頼を得る事につながる。

そうなると、今後また似たような状況になった時にギルドを頼ってもらえる。

つまり、仕事が回って来るって事になるんだよ」


「なるほどなのです」


「ただし、グレイライズ鉱石は除く。だったね」


 マサトの説明に納得したダーハだったが、ハルナが横から水を差した。


「予想はしていましたが、懐に大量に抱えているグレイライズ鉱石の買取りは

拒否されましたね。

値崩れが更新中な物なので、さすがにそこは歯止めを掛けて来ましたね」


「まぁ、ベスが使う予定があったから、別に構わなかったんだがな。

ギルドの見通しが分かったので、それはそれで良かったよ。

それに冒険者が、いつまでも鉱石取りをしているようなものでもないだろうしな」


「そう考えたからこそ、

ギルドも需要が高まっている今、鉱石集めで実績を示した私達と

破格の取引きをしたのにゃ」


「まぁ、鉱石を全て売りに出す良い切っ掛けにはなったよな。

おかげで格安とは言え、それなりに値が張る中古の馬車の購入資金が出来たのは、

運が良かったよ」


 そして、ベスとマサトが作業をしていた古馬車に注目が集まる。


「衛兵の人達が使っていた旧式の馬車って事だったよね」


「この前のバブルスライム事件の時に、

今まで牽引していた馬が亡くなったので、

それを区切りに売りに出された物らしいですよ」


「私的には旧型ゆえの頑丈さが気に入ってるにゃ」


「残っていた他の貸出し馬車を参考にして、

ギルドから買った馬車の予備パーツで、

同じように車両部を乗せて固定している台座の所に取付けた。

その他に車軸の所にも追加で板バネを設置したから、

これでかなりの振動対策が出来たと思う」


「はわわわ、スゴイのです」


「ええ、本当に良い買い物でしたね」


 サントスも仕立て直された馬車を視て喜ぶ。


「それじゃあ、私は金物屋に行くにゃ」


「ベス、急ぎ仕事を頼んで悪かったな。ありがとう」


 マサトは、ベスに感謝を述べて送り出すと、狩猟準備を始める。

そして、ギルドから牽引させる馬を借りて、前日同様にミミズ狩りに出発した。


 ◇◇◇◇◇


「これから馬車の扱いを覚えてもらいます」


 製錬都市から離れるとサンディ先生による御者教室が始まった。


「とは言っても、基本的な前進と停止を覚えてもらうだけよ。

両手で握った手綱を左右に動かさず、

馬の首が前に出ないように、その場にしっかりと留めるのが、停止の合図。

その状態から、馬の首に掛かる抵抗をやや緩めて上げると前進するわ」


「へぇ、意外と簡単なんだな」


「それが意外と加減に慣れるまで時間が掛かるんだけどね」


「サンちゃん、左右に方向を変える時はどうするの?」


「当面は馬に任せておけば良いのよ。

貸出される馬達は、ちゃんと教え込まれているから、

危険な所は自分で判断して避けてくれるわ。

下手な事をすると、負担を掛けてしまって、言う事を効かなくなる事もあるから

まずは、前進と停止を完璧に操れるようになりなさい」


「は、はいなのです」


 こうして馬車を(ぎょ)する訓練と狩猟が始まる。


 まずは一度、全員で交代しながら、ゆっくりと試してみる。

 やる事は前進と停止だけだが、その意思を伝える加減が分からず、

マサトは手綱を無駄に動かしすぎだと注意を受ける。


「前進させる時は、手綱の握りを緩めて前方に(ゆず)る感じ。

停止させる時は、手綱を腕で引っ張るんじゃなくて、

身体を後継姿勢にして重心を少し後ろにしながら握りを固める感じね。

腕の力だけだと意外と引く力が掛かっていないわよ」


「う~ん、安定しないんだよなぁ。難しいな」


「あと当然だけど、手綱がブランブランの時に、

握りを緩めたり固めたりしても効果はないわよ」


「それも気をつけてやってみるな」


「まーくん、そろそろボクと交代してよぉ」


「分かった。じゃあ、交代な」


「おにいちゃん、こっちは終わったのです」


「ちょうど良かったわ。それじゃあ移動しましょう」


 マサトとハルナが御者を交代するタイミングで、

ダーハとガブリエル、ついでにアルバトロスが、

ロックイーターの討伐と回収、ついでに散歩を終えて戻って来る。


 ロックイーターが相手だと、本当にダーハだけで事が足りてしまうので、

回収係のガブリエルを連れ立っていれば、問題なく狩猟が出来てしまう。


 ハルナが御者をして馬車を走らせ、マサトは荷台から周囲警戒をする。


 その走行中に、減速に失敗してズルズルと窪地(くぼち)に滑り落ちたりと

トラブルもあったが、出発前に組み込んだ板バネによるサスペンションが

功を奏して、転倒を(まぬが)れる。


 そして、サスペンションの追加処置をした事で、

かなりの振動と揺れが抑えられている為、荷台での休憩も楽になった。


 とは言え、現代の自動車の乗り心地を知っている者にとっては、

未だに満足には程遠いものではある。


 とにかくマサト達は、馬車の速度を上げすぎないように注意をして、

安全運転を心がけながら、御者技術の向上を目指した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ