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064.誤算

 ──バブルスライム事件明けの朝を迎えた──


 製錬都市を襲った突然の厄災により炎上した冒険者ギルドは、

その被害による倒壊の危険性から、現在は立ち入りを制限されている。


 その中で、継続して使用されているのは、解体部門が管理している作業場と、

厩舎と馬車の荷卸し場を(つら)ねた貸出し馬車置場。


 それ以外の冒険者への依頼に関する受付業務は、

事件時に臨時本部が置かれたギルドが所有している宿舎に移され、

ギルドの施設は、分割して再建されていく予定となっていた。


 マサト達は、前日に依頼していたイミュランとバッファローの解体が、

どうなるのかをギルドに確認する為に訪れた所、

予想通りバブルスライムの腹の中行きになっていた為、

賠償金と言う形で、ギルドから支払いを受け取る事となった。


 マサトとしては、原因の一端を(かつ)いだと見なされても

おかしくない立場でもあったので、お互いの為にも、ここは穏便に事を済ませる。


 そしてギルドが、スライム討伐の英雄を探して、

現在も増殖中の赤髪の剣士達を相手に振り回されているのを

傍目(はため)に眺めながら、本日の狩猟の計画を()る。


「さて、昨日の狩猟成果が、ほぼ無に帰ってしまった訳だが、どうしようか?」


「マサト、もうイミュランは無くても良いと思いますよ」


「そうだねぇ。関わるとまたトラブルが起きそうなんだよねぇ」


「そもそも狙って狩った事は、一度もないのにゃ」


「おっかしいよなぁ。

イミュランって、人間には敵対的じゃ無いって話だったのにな」


「あのあの、二度とも先に人間の方が手を出して、

それに巻き込まれたのです」


「確かにそうだったねぇ」


「ひとまず、子狐の槍を受け取りに行ってから考えれば良いんじゃないかにゃ?」


「そうですね。

ギルドは(いま)だに通常状態に戻っていません。

その為、依頼表の多くは、消失した狩猟品の補充の為の通常依頼です。

我々は狩猟品を、収納でストックが出来るので、

こう言った場合は融通が利きます」


「そう考えると、慌てて依頼を受けなくて済む状況なのは助かるよな」


「ダーハも自分の武器を持てるのを楽しみにしていたでしょうからね」


 ギルドでは、盛んに人が出入りしていたが、

徐々にその密度は色濃くなっていく。


 そんな気の滅入る空間を後にして、マサト達は金物屋へと足を向けた。


 ──金物屋──


「すまない。渡せる物が無い……」


 金物屋に辿り着くと、顔を合わせたベイルが、申し訳ないと謝罪して来た。


「渡せる物が無いって、どう言う事にゃ?」


 ベスが、(いぶか)しげな表情でベイルに訊ねる。


「言葉の通りだ。昨晩のバブルスライム事件の騒ぎに乗じて、

うちに侵入したヤツが、盗んで行きやがった。

俺は依頼の品を用意出来なくなってしまった。すまない」


 ベイルは、再び頭を下げて謝罪を繰り返す。


「オレ達は、別に急ぎはしないので、

もう一度作ってもらうって事は出来ないんですか?」


 マサトは、ベイルの言葉に違和感を感じながら訊ねる。


「製錬都市が、今回の事件に際して、

冒険者ギルドが、自身の施設の放棄を決断してまで、

献身的に都市を守った事を評価して、

老朽化が進んでいたギルドの再建に協力する事を早々に決めたらしい。

その協力として俺達のような職人にも協力が求められている」


「つまり、どう言う事にゃ?」


「冒険者ギルドの早急な再建の為に、

俺の場合は釘の生産と供給の仕事が入っている。

他の大所帯の店だと木材や鉱石などに入手制限が掛けられている所もある。

これは、冒険者ギルドが前日に出した緊急依頼で、

ピックモールの討伐と調査に出ている鉱山の様子が、

未だに不明な点を考慮に入れての処置らしい。

そして、一つ一つはそれほど大きな労力を要しないように割り振られる。

と言う事で、職人達の間では協力を惜しまない雰囲気になっている。

ただ、うちの場合だと、武具作製に回すだけの素材の確保も

作製に使える時間の確保にも、かなり厳しい制限が付いてしまう。

だから依頼の品を用意出来なくなってしまった。すまない」


 ベイルは、三度(みたび)頭を下げて謝罪を繰り返す。


 それは、製錬都市の冒険者ギルド長ディルムと、

マサトとの相性の悪さがもたらした擦れ違いであった。


 両者は互いに、周囲との実力差を埋めるべく、

その持てる知恵を使って(おぎな)っていた。


 しかしながら、それが向けられるベクトルが違った。

マサトは、パーティと言う対内的に協力を仰ぎ、

ギルド長ディルムは、ギルド以外の対外的に協力を仰ぐ。


 それは、マサトの保護対象がパーティであるのに対し、

ディルムの保護対象が冒険者ギルドであったと言う差の表れだった。


 マサトは、パーティの秘匿を優先し、

ディルムは、冒険者ギルドの存在を表面に出す。


 その結果、ディルムは、スライム討伐の英雄を補足出来ない。

代わりにマサトは、ギルド長が今まで(はぐく)んで来た周囲との(きずな)によって、

製錬都市からの助力から弾かれてしまっていた。


「状況は理解しました」


 ベイルの抱えたジレンマを共有したマサトは、

これ以上の状況の好転は無いだろうと引き下がる。


「それなら、私達が素材を集めて来たら良いんじゃないのかにゃ?」


 話を聞いていたベスが、唐突に割り込んで来た。


「ベス、どう言う事だ?」


「単純に売買に制限が掛かっているようだけど、

私達が入手した鉱石を持ち込んで作ってもらうのなら

問題が無いように思えたにゃ。何か問題があるのかにゃ?」


「ああ、なるほど。そう言う事か」


「いやいや、鉱山のある地域には制限が掛かっている。

勝手に入る事は出来ないぞ」


「それは大丈夫にゃ。それで必要な物は、鉄鉱石で良いのかにゃ?」


「そうだ。別に特殊な物を作ろうって訳じゃないからな。

製作時間の方は何とかしよう」


「了解にゃ。ところでエセ商人は馬車は(あつか)えるのかにゃ?」


「一応ですが扱えますよ。

以前に受けた商隊の護衛依頼の時に教えてもらいました」


「ふむふむ、それじゃあ、ちょっと遠出をしようじゃないかにゃ」


 そう言うとベスは、悠々(ゆうゆう)と金物屋を後にした。


 ◇◇◇◇◇


 広々とした無人の荒野を一台の幌馬車(ほろばしゃ)が駆ける。


 それはサンディが手綱を握る、冒険者ギルドからの貸出し馬車であった。


「子狐、やれにゃ!」


「はいなのです。『砂維陣(さいじん)』」


 その幌馬車の中にいるベスの号令の下、ダーハが砂塵操作で、

群がる巨大ミミズ、ロックイーターを駆逐していく。


 そして、その後方を追走するガブリエルが、

窒息死したロックイーターを収穫の腕輪で回収して回った。


鉄鉱石(当たり)のドロップ率は高くないにゃ。掃討戦にゃ!」


「うわぁ……ベスにゃんが、まーくん並に容赦のない狩りを始めたよぉ」


遺憾(いかん)だ。オレは、ここまで一方的な蹂躙(じゅうりん)はしていないっ!」


「はわわわ」


「それじゃあ、次に移動するわね」


 サンディが、マップ片手に幌馬車を走らせる。

 ベスが鉱石探しの入手経路に選んだのは、巨大ミミズの群生地。

 その腹の中に蓄積された鉱石から探し当てようとするものだった。


「ダーハ、ロックイーターを殲滅(せんめつ)すると多弁草の時のように、

周囲に悪影響が出るかもしれないから、手加減はしておいてくれ」


「はいなのです」


 荒野の移動時には、ガブリエルを幌馬車に回収して休ませる。


 そして、途中で遭遇したスカリーラーテルを、

マサトが低空から跳ね上げた摩施(マッセ)で上体を起こさせ、

ベスが晒された腹に切り込んで仕留めた。

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