表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/100

062.ギルドの対応

 ──ギルド臨時本部──


「ギルド長。やはりダメです。

あの巨大なスライムが相手では、表面を焼く事は出来ても決定打に欠けています。

また、ギルド内に保管されている狩猟品からの栄養供給が、

未だに続いている為、再生され続けています。

冒険者達には、順次休ませてマナポーションによる魔力の回復も

(はから)っていますが、このままでは魔力が枯渇(こかつ)してしまいます」


「ディルム。

今のスライムは、自身を守る為に再生能力に力を使っているが、

こちらの攻撃が弱まったと感じれば、その余剰(よじょう)分の力を、

今度は増殖能力に使って来るぞ。

そうなる前にワシらは突入チームを編成して、栄養源にされている狩猟品を

全て処分すべきだ」


「リーデルの危惧もトーラスの言いたい事も分かるが、

アイツの腹の中に人を送り込むにしても、

それを可能とする人材も装備も道具も残ってねぇだろ。

もっとマシなアイディアを出せ!」


 製錬都市の冒険者ギルド長ディルムは、冒険者として大成を成した者ではなく、

調整役と言う貧乏クジを引き続けて得た人脈をもって、

現在の地位に就いた者である。


 その(えん)から、現在はギルド職員である元冒険者のリーデルと、

衛兵達のまとめ役であるトーラスとは、良き協力関係にある。


 そのようなギルド長ディルムは、各部署の実情を把握し、不足している人員を

絶妙なバランスをもって割り振って、冒険者ギルドの運営を維持していたのだが、

直前に発動していた緊急依頼によって、それも崩壊する。


 ギルドは、所有していた戦力の多くを緊急依頼の為に放出してしまっていた為、

現在、通常時の警戒レベルを想定した最低限に近い戦力しか

保有していなかった。


 ディルムは、持てる戦力が(いちじる)しく低下している現状を把握し、

いち早く王国軍と衛兵に情報を開示して応援を要請しつつ、

継続している戦闘の指揮を執り、

スライムを封殺する為に必要と感じ取ると、ギルド施設の放棄も実行した。


 それが良かったのか悪かったのかを、

軽度で抑えられている街中の被害状況と、

スライムが討伐不可能となっている現状を、

天秤に掛けられる今となって論じるのは卑怯であろう。


「ご報告します。

何者かが、ギルド内に向かって突入しました」


 その時、予定外の報告が舞い込む。


「ギルド内に突入だと!

ワシらが準備を進めていた地下水路からの突入口を使って、

勝手に侵入した者がいるのか?

現場にいた者達は何をしていたのだ!」


 トーラスは、報告にやって来た連絡員を問い詰めると、

その者は、慌てて否定した。


「ち、違います。

その者は正面からギルド内に突入して行きました」


「「「はぁ?」」」


 間の抜けた声が通り抜ける。


 ギルド施設は、スライムによって覆われている。

それはつまり、物理攻撃はもちろんの事、魔法攻撃に対しても

柔軟にして強固な防壁が張られているのに等しい。


 そんな場所を正面突破した者がいる。と連絡員は言っているのだ。


「詳細は不明ですが、現在スライムに対する魔法攻撃の効果が向上しています」


「どう言う事なのでしょうか?」


「とにかく、ワシらも現場に向かうぞ」


「トーラスの言う通りだ。これは確認の必要がある。行くぞ」


 続けてもたらされる報告に三人は困惑するも、

何かしらの転機を迎えた事には間違いなかった。


 警戒をしながらも自然と足早になるのは、

彼らの目の前に差し込んだ淡い期待の現われであった。


 そして彼らの視界にギルドが飛び込んだ瞬間、


【パシャーーーンッ!】


 ギルドを覆っていたスライムに、無数の亀裂が走ったかと思うと、

それはまるで泡が弾けたように霧散して虚空へと消失した。


 そのあまりにも唐突に、そして(はかな)さを感じさる余韻(よいん)に、

人々は呆気にとられて静寂を(はぐく)んだ。


「お、おい、誰か、何が起きたのか報告しろ!」


 ディルムは我に返ると、人を使って周囲の冒険者達から

知り得る情報を集めさせた。


 ◇◇◇◇◇


 次第に落ち着きを取り戻していくかに思われたギルド内は、

逆に人々が押し寄せて混乱を極めていた。


 施設内は荒らされ、至る所が溶解されているも、

巨大なスライムの消失現象によって残された物に粘液の付着は無く、

逆に清掃後のような奇妙な輝きを放っている。


 そしてその現象によるものなのか、

ギルドの運営に関わる機能は、予想以上に健在であった。


 しかし、だからと言って平和裏に事後処理が進んでいる訳でもない。


 多くの人々が最初に危惧したのは、

自分達がギルドに預けている品々の確認である。


 納品予定であった狩猟品。換金や買戻し前の品々。

鑑定や解体の依頼の為に預けていた物品などの

取扱いの是非を求める者が多数押し寄せて来ていた。


 彼らの中にいる多くの冒険者達は、いわば日雇い労働者である。


 その日暮らしが常である彼らの薄氷(はくひょう)()むが(ごと)し資金繰りが、

今まさに崩壊の(きざ)しを見せてしまった事と、

対応の方針が定まっていない状態であったギルド職員達の間にも、

不安が広がり始めた事で、混乱の拡大が生じていたのだ。


 それをギルド長ディルムは、早急に職員達を召集して、

対応の指針と説明、職員の配置分けをして対応に当たらせて沈静化させていく。


 まずは、崩落の危険性があるからと、

ギルド施設内から、人々をギルドの臨時本部へと誘導する。


 移動時間と言う冷却時間を取って、一定の落ち着きを取り戻させると、

事前に対応の指示を与えていたギルド職員達に、

人々を要求している事象ごとに振り分けて、

対応する為の書類を提出させて意見の汲み取りを行う。


 これは、書類作業を与えて不安を軽減させるのと同時に、時間稼ぎであった。


 ギルドとしては、これらを踏み倒して信頼と人材を失う訳にはいかないので、

補償はするが、現状で考慮すべき優先度は低い。


 ある程度の不安を払拭させた後は、順次お引き取りを願おうと言う算段である。


 そして同時に、今回の事件の情報の提供を求めて収集した物の中から

ディルムは、一つの情報を浮かび上がらせる。


 その情報とは、スライムの消失現象の起点となったのは、

フード付きのコートを身に着けて、

(ひたい)(はち)がね、口元を頬当(ほおあて)でガードした赤い髪の男性が、

ギルド内に切り込んで侵入して行った直後からスライムの弱体化が始まり、

魔法が効きやすくなった。と言うものであった。


「赤髪の剣士で、それもかなりの実力者と言う事か」


「製錬都市に残っていて、ギルドに登録されている者の照会をしてみましたが、

そのような人物に該当する者はいませんでした。

トーラスは、何か思い当たる人物はいますか?」


「ワシにも無いな。

魔法の効果がある武器や道具を使っていたなら、

その噂話を聞いた事があってもおかしくはないのだが、それもないな」


「そうなると、情報の誤認と言う事はありませんか?」


「それは無いだろう。それならこのような騒ぎは起きないだろう」


 現在、臨時本部に赤髪の剣士風の人物が数名居た。


 その全ての人物が、自分こそが巨大スライムを討伐したと主張して、

その討伐の報酬を要求している。


「中には冒険者ではない者もいましたが、特別な武具や道具の所持もありません。

討伐の際の状況説明を求めても、まともな答えが返ってこなかったようで、

ギルド職員達は、対応に困窮(こんきゅう)しています」


「くっ、こんな時に碌でもないバカをやらかす(やから)が多すぎる。

明日にでも冒険者ランクの引き上げ。と言う報酬を支払うと通達して出直させろ。

 そして厳しい選定試験を受けさせ、そこで落とされるようなら処罰を下し、

合格なら実力に見合うランクを与えろ。

これならギルドは、出費も損失も無い。

その上で本物と確認が出来たなら追加報酬を与える」


「ほほう、面白いな。その場にはワシも同席させろ」


「構わない。

むしろトーラスが(そば)で|睨《にら》みを効かせていてくれると助かる」


 こうして冒険者ギルドの赤髪の剣士探しが始まった。


 ◇◇◇◇◇


 巨大スライムが討伐された直後、

誰もが現状確認の為にギルドの施設内に足を運ぶ。


 ギルド職員は、受付を始めとしたギルドの運営に関わる設備。

 解体職人達は、スライムが増殖した自身の職場である解体場。

 冒険者達も、スライムの残留を警戒をして、それぞれに同行する。


 そんな中、人々の興味から外されたギルドの練習場に訪れる者達がいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ