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057.装備更新

 ──宿屋ルル──


「もう一回、もう一回やりましょう」


「サンちゃん、次は別のをやってみようか」


「まだ他にあるの? じゃあ、それ教えて!」


「その前に、少し休憩なのです。野草茶をいれるのです」


「ダーハちゃん、ありがとう。お願いねぇ」


 宿屋に戻ってから、ベスを除いた四人で、木目トランプを使ったゲームを

いくつかプレイした。


 サンディは、観察を抜きにして神経衰弱が得意だった。

 一度めくられた数字と場所を覚えて、他の人がめくったカードを

間違えてめくる事が無く、常に新しい情報を蓄積していっていた。

記憶力と状況把握で獲得枚数を稼いでいた。

 何かと経験則からバランスを取っていたサンディらしいと思った。


 ダーハは、スピードが得意だった。

 ハンドスピードは、それほど速くはなかったが、

視野の広さと認識速度の速さで、適切な場所に適切なカードを置ていく。

周囲警戒と魔法での攻撃を任せる事になるので、

この結果を見て頼もしく思う。


 ただ、どちらも他人との駆け引きをするゲームに関しては、

不向きなのが浮き彫りとなっていた。


 たかがゲーム。されどゲーム。

 だけどマサトは、ゲームを通して二人の適正を見れた事をハルナに感謝する。


 ちなみにマサトとハルナの勝率は、わずかばかりマサトが上回っている。

しかしながら、マサトは、自分がハルナに勝っているとは思っていない。


 なぜならマサトは、いくつかゲームにおいてイカサマをしていたからである。


 おそらくベスを相手にしたなら見破られてしまう程度の(つたな)いものなのだが、

どの程度のものなら気づけるか。と全員を試してみた所、

全てが通ってしまっていた。

 マサトはギャンブル性のあるゲームは、これ以上教えないでおこうと決めた。


 その後、夕食までの間にやったトランプゲームは、

ジジ抜き、戦争、神経衰弱、スピード、ダウト、インディアンポーカー、大富豪

となる。


 そのうちマサトが得意としたのが、ダウトと大富豪。

ハルナが得意としたのが、ジジ抜きとインディアンポーカーであった。


 夕食は全員が揃って宿屋の部屋で取った。

 食事はミン屋で作ってもらって持ち込んだパンに惣菜(そうざい)を挟んだ物、

いわゆるサンドイッチと串焼肉、あとカンボジャと言う黄色の甘い野菜のスープ。

こちらは要するに、カボチャのスープなのだが、それを食べた。


 サンドイッチと言う物は、元々カードゲーム好きの貴族だったかが、

ゲームの合間に食事をする為に作らせた物だと聞いた事があったので、

ある意味、この場にふさわしい食事風景ではあったのだが、

ダーハの教育上よろしくないので、ゲームは中断している。


「それじゃあ、試着に付き合えにゃ」


 マサトは、食事を手早く済ませたベスから声が掛けられる。


「えっ、もしかしてオレの装備が出来たのか?」


「おお、結構早く仕上がったんだね」


「トラウザーパンツは、比較的に簡単に出来たんだけど、

ジャケットの方が手こずったにゃ。とにかく一度確認したいのにゃ」


「分かった。ちょっと着替えて来るな」


 マサトは、ベスから装備を受け取ると自室に戻って(すそ)(すそ)を通す。


 スカリーラーテルのなめし革で作られたラーテルジャケットは、

下に着込んでいるアンダースーツと併せる事で、

胸部に厚みを持たせて、正面からの攻撃に対して

強固な防御性能を持たされている。


 対してラーテルトラウザは、ラーテルジャケットの肩部や腕部と同じく、

スカリーラーテルのなめし革に依存した防御性能のみで留められている。


 それは、戦闘時の運動性を損なわないようにと、

オーダーを出していたゆえの仕様である。

ただし、それらの箇所も程度の差こそあるが、

硬化処理を施した補強パーツが組み込まれており、

半端な攻撃は寄せ付け無いものに仕上がっていた。


 ちなみに、ベスが作製した装備に組み込まれている補強パーツとは、

なめし革をワックスで煮込んで硬化させた物である。


 なめし革は、水を含んだ後に乾くと変色を起こす。

また、高温にさらされると硬化や変形を起こす。


 ゆえにベスは、なめし革をワックスが沸騰しないように

じっくりコトコトと煮込んで、

ワックスの水を弾く効果と、硬化処理を同時に施して使用していた。


 ここで新しくワックスと言う素材が出て来たが、

これはどこから入手した物なのか?


 その前にワックスとは何かを説明しておくと、

融点が高い油である(ろう)の事を指している。


 では融点とは何かと言うと、固体から液体になる温度の事である。


 つまりワックスとは、常温では固体の油の事を指している。


 では改めて、ベスが使用したワックスとは、

どこから現れて入手した物かを説明すると、それはミツバチの巣である。


 マサト達が、ハニーガイドバードに誘導されて発見したミツバチの巣で、

ハチミツを入手した。


 そのハチミツが、たっぷりと付いたミツバチの巣を、

ダーハはベスが作った、ろ過器で搾ってハチミツを取り出していた。


 ベスは、そこで出たミツバチの巣の搾りカスを布の袋にまとめて入れて、

ナベの中に突っ込んで、沸騰しないようにお湯を沸かす。

 あとは、ハルナがイミュランの脂肪からイミュランオイルを取り出したように、

お湯に染み出て浮かんで来た油を取り出す。


 ただ、ベスはハルナのように水流操作が出来ないので、

搾りカスを入れていた袋をナベから取り出して、自然にお湯が冷めるのを待つ。


 そうして固まった物が蜜蝋(みつろう)と呼ばれるワックスとなったのであった。


 マサトは、ラーテルジャケットとラーテルトラウザ、

そしてグリーブを身に着けてベス達が待つ部屋へと戻る。


「ベス、ありがとう。ひとまず現状のフル装備にしてみた」


「おお、まーくん。なんだか防弾チョッキを着てるみたいにゴツくなったねぇ」


「前衛だから、今まで作った物より補強パーツを増量してあるのにゃ。

それで身に着けた感想はどうにゃ?」


「間接部が自由になっているから動きが阻害される事はないな。

ただ、結構ゴツゴツしていて重量も思ったよりあるから、

まずはそれに慣れないといけないな」


「う~ん、やっぱり盛りすぎたかにゃ」


「いや、このままでしばらく様子見で良いよ。

下手な金属の防具を見に着けるより頑丈で軽いんだからな」


「そうかにゃ。それなら少し調整だけはしておくにゃ。

それで多少は体感重量が変わるはずにゃ。

あとオマエが、無理にこの装備に合わせる事はないにゃ。

装備で防御が硬くなっても、本来の動きが損なわれるような事があったなら、

それは戦力の低下にゃ。

無駄に被弾すれば、それだけ致命傷を受けるリスクが増えるのにゃ」


「ああ、分かった。覚えておくよ」


 マサトはベスの忠告を受け止めて、調整をしてもらう。

そしてちょっといじられただけだったが、確かに体感重量が軽くなった。


「さて、調整はこれで良いんだけど、ちょっとエセ商人。こっち来いにゃ」


 ベスは、ラーテルジャケットの調整を済ませると、サンディを呼び寄せた。


「ベス、一体何よ」


「ちょっと、このジャケットを着てみろにゃ」


「えっ、あたしが着ても良いの?」


「体感重量が、どんな物か知りたいのにゃ」


「分かったわ……って重っ!」


 サンディは、手渡されたラーテルジャケットを受け取って、

その重量感に驚きながら裾を通す。


「それを着てどれ位の戦闘が出来るにゃ?」


「そうね。単なる狩猟だったとしても、これを身に着けて歩いていたら、

クロスボウの照準を、まともに付けられるのは、せいぜい半日かしら」


「えっ、確かにストレージコートに比べれば重量感があるだろうけど、

そんなに違ってくるか?」


「マサト、射撃って言うのは繊細なのよ。

ただ撃つだけなら出来るけど、体力が()がれた状態だと

どうしても狙いが甘くなるわ。

激しい戦闘をしたなら更に精度が落ちるのが早くなるでしょうね」


「まぁ、そうだろうにゃ。

環境が変われば、どこかでデメリットも出て来るものにゃ。

単純な上向き強化なんて、そうそう出来ないにゃ」


「ハルナ達の時は、上手くいっていたように思えたんだけどな」


「程度の差はあれ、同じように重量感の増加はあったにゃ……

やっぱり、もう少し調整するにゃ。オマエら脱げにゃ!」


 その後、身ぐるみを剥がされたマサトは、

ベスのバランス調整による試着に付き合わされる事となる。


 そして深夜近くまで続いた試行錯誤により、

うんざりしたマサトの意思を無視して、ベスが納得いく仕上がりが完成した。

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