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054.粘土もどき

 現在、マサト達は出来るだけ他の客に迷惑が掛からないようにと、

大衆食堂の角にあるテーブルに移動している。


 それも全て、本来は非番であるはずの子狐達が集まって来ていたからだ。


 その様子に歓喜したハルナは、隣でせっせと魔石加工に(いそ)しみ、

ダーハは、他の子狐達の世話をしていた。


 ハルナの魔石加工の光りが収束し、その手の中に生成品が出現する。

それは一見して粘土のような白い物体であった。


「は~い、おまたせ」


「わぁ~い。おねえちゃん、ありがとう」


「じゃあ、次の子は待っててねぇ」


「は~い」


 ハルナと子狐達の間で、何度となく繰り返された光景。

その様子を見て、現在仕事中の子狐達がソワソワと落ち着きなくなっており、

明らかに仕事に集中が出来ていない。


「あんた達、いい加減におし! 宿舎を貸してやるから、そっちに行っておくれ」


「イエス、マム!」


 マサトも現状が、限りなく営業妨害に近い状況になっていたのに

気づいていたので、バーバラの指示に間髪入れず返答して、

ハルナの背中を押して即座に食堂から退去した。


「それで、これは一体何なのですか?」


 前日に借りていた部屋に戻り、

ハルナの前に行列待ちが出来ている子狐達の様子を見ながら、

サントスはハルナが作っていた物を手にしてマサトに訊ねる。


「まぁ、見たり触ったりして分かるとは思うけど、粘土のような物だ。

ただし材料が違うんだけどな」


「それって、子狐達が持って来ているアレの事?」


「そう、卵の殻と米だ」


 マサトは子狐達から提供された材料を受取ると、

魔石加工で卵の殻を粉砕して粉末にする。


 そして米の方はダーハに渡して、魔石加工で|米糊《こめのり》にしてもらう。


 最後にハルナが魔石加工で、この両方の材料と水を練り合わせて、

白い粘土状の物体を生成した。


「なんだか、ものすごく手間とコストが掛かっているわね」


「魔石加工を三工程使っているけど、

時間があれば米糊作りは手作業でやっても良いくらいだ。

材料は廃棄品の卵の殻だからタダだ。

こんな大量生成の急ぎ仕事にならなかったら、それ程コストは掛からない」


「はぁ……それでマサト、これで何がしたかったのですか?」


「単純に夕食までの空いた時間潰しに、

ダーハと粘土細工でもしてみようかと思っただけだ。

以前に見た事があった粘土もどきの事を思い出して、

材料も手近にあったから試作してみたんだよ。

そうしたら休みだった子狐達が集まって来たんで、

ハルナが喜んで一緒に遊び出した。

その後は見ての通りで、粘土もどきを量産する展開に発展していったんだよ。

材料は手近にあったからな……」


 マサトは、ダーハと一緒に作っていた

小さなウサギの造形品をサントスに見せた。


「なんて言うか、そのぉ、お疲れさま」


 サントスは、粘土もどきを手にして楽しそうに粘土細工をしている

子狐達見て、何とも言えなくなり、ひとまずマサトに同情した。


「サントスも何か作りたい物があったら使ってくれ。

ただし、それは乾燥すると硬くなるから、

使わないなら[収納]で保管しておいてくれ。

あっ、そうだ、今ちょっと良いか?」


 マサトはハルナに材料を渡して、「少し外に出て来る」と伝えて、

サントスとダーハを裏庭の薪割り小屋の前へと連れて来る。


「サントス、手持ちの使っていない槍を貸してくれるか」


「ええ、構いませんよ」


 マサトは、サントスのストレージコートから取り出された槍を借りて、

柄の中ほどを持って、先程ダーハから教えてもらった

斧での薪割りの動きを取り入れて振り下ろ動作を試す。


「さっきダーハが言っていた薪割りの動きって、こんな感じで合っているか?」


「えとえと、柄の長さも持つ位置も違うので全くとはいかないですけど、

大体そんな感じだと思うのです」


「う~ん、そうか。もう少し試してみるか」


 ダーハの意見を聞いて、マサトは槍を繰り返して振るう。

それを見ていたサントスが、疑念からマサトに訊ねる。


「マサトが何をしたいのか分らないですけど、

それは槍の使い方としては有り得ないですよ」


「まぁ、そう言われるよな」


「マサトがやっているような柄の中ほどを持つ持ち方は、

棒術としては有りですけど、

槍が持つリーチの優位性を捨ててまで取る方法ではないです。

何よりその方法は、よほどの力量がないと、実戦では対応が出来ませんよ」


「うん、オレも自分で試してみてそうだと思ったよ。

ただ、ちょっとダーハにも試してもらって良いか?

ついでにオレは外から様子を見たいから、

サントスが受け手をやってくれないか?」


「は、はいなのです」


「まぁ、分りました」


 マサトはサントスに頼み込んでダーハの練習相手になってもらう。

その際にダーハに、攻撃のパターンと合図を伝えておいた。


 サントスはダーハの練習相手をするついでに、

ダグラスの店で購入した剣を試す為に、ストレージコートから取り出す。

ダーハは槍を持つと、最初に槍を色々と振って、間合いを確かめてから

サントスにと向かい合った。


「それじゃあ、始め!」


 マサトの合図で両者が対峙する。


 ダーハは、サントスとの身長差をから生まれる下からの突き上げで先制する。

受け手をしているサントスは、あまりお目に掛かる事の無い槍の軌道に、

多少困惑するも、速さ自体はそれ程でもない為、簡単に剣で払ってしまう。


 その後もダーハは、槍が持つリーチの優位性を使って、

剣の間合いの外から攻める。

そして次第に、サントスから繰り出される様子見の攻撃にも対処していった。


 サントスも一連の攻防で、ダーハの槍の間合いと錬度を把握する。

そして最後に、防御強度の確認を試みる。


 サントスはタイミングを見計らって、

ダーハの槍を上から剣で叩き落して防御を突破する。

そしてお終いの合図にダーハの頭に手を載せようとした瞬間、


「石突き!」


 マサトの合図と同時に、ダーハは槍先の反対に位置する石突きで、

サントスを突き飛ばす。そして、


「足!」


 更に半回転した槍の槍先が横に払われてサントスの足下を襲う。

サントスは、お腹に突きつけられた石突きの攻撃で、一瞬動きを止められたが、

ギリギリのタイミングで跳躍して足下を刈られるのを回避する。しかし、


「薪割り!」


 再三のマサトの言葉と共にダーハが、

マサトが試していた無意味な上段からの振り下ろし攻撃を繰り出す。


 しかしながら、現在のサントスは直前の足払いを避ける為に跳躍している。

それは加速も減速も出来ない空中で、無防備な姿を晒している事に他ならない。


 サントスは今、自分が回避する事が出来ない死に体となって、

ダーハの渾身の一撃を待つばかりとなっている事に気づき顔を青ざめさせる。


《刃路軌》


【ドゴォーンッ!】


 サントスは、薪割り小屋の薪の山に吹き飛ばされて全身を叩きつけられる。


そしてダーハは、槍を思いっきり地面を叩きつけて、

その反動で腕を思いっきり痺れさせた。


「きゅ~っ……」


「お、おにいちゃん、ヒドイのです」


「うむ、実験は大成功だったな」


 マサトは、サントスが致命傷を受けるのを防ぐと同時に、

ダーハに大技を仕掛けた時のリスクを、

身をもってしっかりと覚えてもらった。


 その後、ダーハの治祇(ちぎ)の魔法を使って二人の治療をしながら

今回の実験について説明と相談をした。


 ──宿屋ルル──


 ベスを含めた全員でミン屋での夕食を取り終えて宿へと戻る。

その際、ミン屋の女主人に明日の朝食をお願いしておいた。


 マサトは、なんだかんだと長かった一日を終えて、

共有の腕輪にストックしておいたお湯を使って身体の汗を拭う。


 そして一息ついていると、夜間の訪問者が現れた。


「じゃーん♪ まーくん、見て、見て。

ベスにゃんに作ってもらっちゃった♪」


 完成したローブを着て上機嫌なハルナが、そのお披露目にやって来た。


「おお、スゴイな。ハルナ、似合っているな」


「エヘヘ♪」


 ハルナのローブは白を基調とし、赤がアクセントとして入っている。

ただ、ダーハのケープコートに当たる肩部とそこから伸びる腕部にかけて

黒いラインが伸びていた。


「ダーハのケープコートに似ているけど、黒色が入っている分、

落ち着いた感じがあるな」


「ベスにゃんが、ラーテルローブって言ってたよ。

そこの黒い部分がスカリーラーテルのなめし革を使っているらしいよ」


「良く見るとフードの裏地もそうだよな」


「うん、ローブの裏地も同じだね」


「かなり贅沢な作りになっているな」


「あと新しいアンダースーツ、イミュランアンダーも渡されたよ」


「新しい? 予備じゃなくて?」


「うん、こっちはイミュランのなめし革を使って作り直したらしいよ。

あっ、まーくんの分はコレだよ」


 そう言ってハルナは真新しいアンダースーツを手渡して来た。


「ああ、ありがとう。

そうか、ベスが大量のイミュランの皮を欲しがっていたのは、この為か」


「うん、イミュランのなめし革は、強度的にはスカリーラーテルには劣るけど、

アンダースーツの補助パーツとしては十分な性能になったから組込んだらしいよ。

あとサンちゃんが視た所、自然治癒能力の向上が付与されているって

大騒ぎしていたよ」


「はぁ? 何でそんな事に……イミュランオイルか!」


「たぶんそうなんだろうね。

ベスにゃんが、なめし革部分の変色と劣化の防止用に防水処理を施した。

って事もあって、ちょっとした耐水性能も付いているって言ってたよ」


「え~と、つまりイミュランアンダーだけで、

イミュラン並の防御力と耐水性能と自然治癒能力向上があるのかよ」


「それに加えてラーテルローブで、スカリーラーテル並みの防御力と、

毒耐性と麻痺耐性の付与だね」


「物理耐性半端ねぇ!」


 マサトは予想以上の防具が仕上がって来た事に驚愕した。


「それでベスは今どうしているんだ?」


「ダーハちゃんのワンピースを手直ししてたよ」


「そうか。ひとまずもう夜も遅いし、

ベスにも無理しすぎないで早めに休むように言っておいてくれ」


「うん、じゃあボクは部屋に戻るよ。

まーくん、おやすみ」


「ああ、おやすみ」


 マサトはハルナを見送るとハルナから手渡された

イミュランアンダーの裾に手を通してみる。


 前回までの物と比べて補助パーツの厚みが薄くなっている。

おそらくイミュランの素材を使った事で、この辺りの改善が進んだのだろう。


 それによって全体的な軽量化も相まって、軽快さが向上している。


 夜も更けていただけに、あまりドタバタと動き回る事は出来なかったが、

それでも最低限の確認が済みませて、マサトは就寝するのであった。

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