051.武器選び
「マサト、お待たせ」
程なくしてサントスを先頭に三人が戻って来る。
「思ったより遅かったけど何かあったか?」
マサトは、サントスの後ろで不機嫌になっているベスに気づいて訊ねた。
「ベスが、イミュランの肉の買取り額が低すぎるって言って、
ちょっと揉めたました」
「あのあの、わたしから見ても、不慣れな感じの人が多くて、
ベスさんが解体した物と比べて臭みがあったのです。
それで安くしか売れないからと、買取りも安くされていたみたいなのです」
「せっかくマジックバックで鮮度を保ったまま持ち込んでいるのに、
それをヘラヘラと笑って買い叩こうとして、ふざけているのにゃ。
道具は立派だったけど、狩猟都市と比べて職人の腕が悪すぎるのにゃ」
「そんなにも違うものなのか。それで結局どうしたんだ?」
「葉っぱ以外が、明らかにダメダメだったのにゃ。
同じイミュランを目の前で一羽捌いて、見比べさせてやったにゃ」
「あれで職人達が黙ってしまいましたね。
ベスが、文句を言うなら全て持ち帰る。
って言ったら、ダミオンが慌ててやって来て、
言い値での買取りを了承してくれました」
「そっかぁ。大口の取引きになるものね。
それをダメにしたら、ギルドが大損しちゃうだろうしねぇ」
「それよりもギルドお抱えの職人が、
アイアンランクのベスより劣る仕事しか出来ない。
って噂が広がる方が大問題だろうな。
それを嫌ったってのが本命だろう」
「ひとまず、イミュランは予定の半分を置いて来たにゃ。
夕方に回収する物が、まともに仕上がっていなかったら
他の冒険者ギルドに持ち込むにゃ。
とにかく、ここの連中は信用が出来ないにゃ。
バッファローとアンテロープも売ってやらないにゃ」
ベスが、かなりご立腹なのが良く分かった。
マサトとしても不味い肉を食べたいとは思わないので、
ここはベスの言い分を素直に聞く。
特にバッファローの肉、大事。
「それじゃあ、次はダーハの武器選びをするか」
マサトは、気持ちを切り替えて冒険者ギルドの練習場へと向かう。
そして足を踏み入れたその場所は、予想外に活気に溢れていた。
狩猟都市の冒険者ギルドの練習場は、
人っ子一人居ない閑散とした場所だったが、ここには多くの冒険者達が居た。
そして熱心に研鑽を積んでいる様で、あちらこちらで口論が交わされている。
「どーよ。このエイジ製の剣。今までのナマクラとは、やっぱり違うぜ」
「ついに武器を新調したんスか。おめでとうッス」
「ふっ、あんな安物をありがたがってるとは、おめでたい奴らだぜ」
「そう言う貴方も、大した差がないように見受けられるが」
「なにっ! ならオマエは、どのような獲物を持っているってんだ!」
「これかね。まぁ、大した品でないんで恥ずかしいのだが」
「ぐっ、名工と言われたダグラスの作だと!」
「いやいや、勘違いしないで欲しい。これは彼の弟子が作った品だよ」
どうやら全うな研鑽の場ではなく、武具自慢の社交場と化していた。
マサトは、お互いに迷惑が掛からないようにと距離を離して、
練習場に置かれた刃引きの武器をダーハに試してもらう事にする。
ダーハが最初に試したのは、短剣だった。
短剣に関しては、普段から包丁を使っている事からも、扱いの把握が早かった。
しかしながら小柄なダーハでは、リーチで劣る上に見た目が可愛いすぎて
威圧にも牽制にもなっていなかった。
それならばと槍や長杖を試してもらうと、リーチがある分、対応が良かった。
特にマサトが槍と対峙して驚かされたのは、
ダーハの低身長から、真っ直ぐに突き上げられた槍先が、
独特の伸びのある軌跡を見せた事だった。
その刺突が混じる事で、突如間合いが崩されて、間合いの計り直しとなる。
その結果、飛び込む事が困難となり、
おのずと槍の間合いで戦わされる事になるのだが、
ダーハは、それを活かしきれていない為、
結局武器に振り回されている感じの方が目立っていた。
その次の弓とクロスボウでは、止まっている標的に対しては、
かなりの精度で当てて見せたのだが、
短剣や槍の時と同ように試合をして見た所、
前日にベスが指摘した通り、射撃と魔法との使い分けに迷ってしまい、
慌ててしまッた所を攻め込まれて、そのままアッサリと倒されてしまう。
最後に盾だが、どうにも相性が悪かった。
攻撃を受け流す事が出来ずに吹き飛ばされる。
盾を構えて止まった所を持ち上げられる。
走り回って逃げた方が、攻撃をやり過ごせる。
と言った結果が出た。
少なくとも対人戦では、弱点にしかならなかった。
「何となくだけど、ダーハちゃんは、槍が一番だったと思うよぉ」
「盾を構えた姿が可愛いくて、思わず両手で持ち上げてしまった」
「まじめにやっているのに、おにいちゃん、ヒドイのです」
「基本的にダーハは、後方からの魔法攻撃がメインなので、
自分から武器で攻撃をする必要はないです。
敵を牽制して時間を稼げるようになれば、
次の行動を起こす為の猶予が生まれます。
マサト相手に抵抗が出来た点から見ても、槍で良いように思えますね」
「まぁ、適正は短剣の方にもありそうだったけど、
身長の事もあって圧倒的にリーチが足りないにゃ。
子狐は、後々自分に合った武器を探すにしても、
ひとまずは槍を持ってみるのが良いかもにゃ。
あっ、買うならもう少し短い物の方が取り回しが楽になって良いと思うにゃ」
「は、はいなのです」
ハルナの率直な意見も含めて、ダーハの武器は槍が良いのではないか。
と言う意見に傾き、ダーハもサントスとベスの意見を受け入れていた。
ダーハの武器の適正チェックを終えて借りていた武器を練習場に返却する。
その間も練習場内では、新調した武器のお披露目会が続いていた。
マサトから見て彼らは、それらの武具を揃えられる事から考えて、
それなりに腕が立つ者達なのだろうと思うも、
時折、こちらが練習用の武器を試している様子をチラ見して、
優越感に浸るような視線を向けて来るのは、どうなのだろう。と思ってしまう。
とにかくマサトは、彼らとこれ以上関わりたくないな。
と思いながら練習場を後にした。
◇◇◇◇◇
マサト達は、ギルドでの目的を済ませて街中に出る。
街中を縫うように通っている水路に沿って、多くの店舗が建ち並ぶ。
そして多すぎるだろう。と思える鍛冶職人達の店舗を中心に探索を始めた。
その目的は、ダーハの武器の調達である。
武器や防具、工具に農具と、それぞれの店舗の品揃えは微妙に違ってはいるが、
とにかく似た様相の店が多い。
その有様から職人達が、こだわりを持って独立した。と言うよりも、
独立したは良いが仕事を得る為に手広く手を出しすぎた。
と言った印象を受けてしまう。
マサトは、基本的に武具の良し悪しが分からないので、
ここは目利きが出来るサントスとベスの後を付いて回る。
サントスは、自前の中古鑑定を使って武具全般を見て回る。
時折、足を止めて武具を手にとって視る事もあったが、結局元の棚に戻していた。
対してベスは、日曜大工でも始めるつもりなのか、
金槌や鋸などの道具を見ながら、ちょくちょく釘を補充していた。
対してハルナとダーハは、目に付いた店舗にフラフラと入り込み、
鍋やフライパン、タルにお椀に空き瓶にと、こちらも色々と補充をしている。
そんな中、購入品の中に乾燥昆布やゴマ、菜種油と言った物が混じっていた。
マサトは、良くぞ見つけて来た。と内心で歓喜しながら、
冷静を装って武具探しを続ける。
皆の行動は、すでに自由行動と大差のない動きとなっていた。
そんな中、サントスとベスが、一軒の店の前で同時に足を止めた。