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005.セラ大森林

 狩猟都市フェレースを取り囲む森林地帯。


 人々から【セラ大森林】と呼ばれる森林の一区画を、

マサト達は慎重に歩みを進めていた。


 マサトの前を先行していたベスからハンドサインが出される。


 視線の先には、冒険者ギルドでベスが見繕って来た依頼表のターゲットである、

頭部に大きな一本角を持つウサギ【ホーンラビット】が

三匹が固まって食事に(いそ)しんでいた。


 ベスは素早く風下に回り込み待機し、

円輪の投擲武器チャクラムを取り出して構える。

 それに合わせてマサトはロングソードを、

ハルナは宝杖を構えてバインドの詠唱(えいしょう)に入った。


 ハルナのバインドが一匹のホーンラビットに着弾(ちゃくだん)したのを合図に、

戦闘が開始される。

 と同時にベスが放ったチャクラムがホーンラビットの一匹の首元に突き刺さり

絶命させた。


 二匹のホーンラビットの異変に気づいた残りの一匹が逃走するも、

ベスが逃走するホーンラビットの(もと)へと駆け込み、

チキンナイフで斬り倒す。


 その間にマサトは、バインドで足止めをされている最後の一匹に詰め寄り、

ロングソードを振り下ろし仕留める。

 マサト達にとっての最初の戦闘は10数秒で終了した。


「マサハル、ナイスにゃ」


 ベスは斬り倒したホーンラビットを解体用のナイフを使って、

手際良く血抜きを(ほどこ)しマサトの下へと戻って来た。


「事前に打ち合わせしていたとはいえ、思ったよりスムーズに動けたな。

どうやらオレの場合、魔法適正が無かった分、身体能力が向上しているみたいだ。

あと、さすがにベスは手際が良いな。一人で二匹を瞬殺かぁ」


 マサトはベスがチャクラムで仕留めたホーンラビットの傷口を参考に

もう一匹の血抜きを試しながら返事する。


「う~ん、ボクは戦闘に入ってからだと攻撃魔法は撃てそうに無かったよ。

まーくんに当たりそうで怖い」


「マサハルは、実戦に慣れるまで無理は厳禁にゃ」


「初手バインドじゃなくてサンダーやブリザードでも良かったかもな」


「一撃で倒せなかったら逃げられるのにゃ。今回はアレでよかったと思うにゃ

あっ、ちょっと水を出してくれにゃ。チャチャッと血を洗い流すにゃ」


 ベスはマジックポーチから大きなタライを三つ取り出すと、

ハルナに水を溜めてもらい、ホーンラビットを突っ込み、

三匹まとめて血抜き処理をする。


「いや~、川を探さなくて済んで楽ちんにゃ」


「ハルナの生活魔法の『流水(ストリーム)』って、本当に規格外だよな。

 湯水のように使うってのを地で行ってる……」


「まーくん、もっと()めて、褒めてぇ」


(あき)れてるんだよ」


 ベスは血抜きが完了すると、マジックポーチから大きな木製の作業台を

取り出してホーンラビットを魔石、皮、骨、角、肉に手際良く解体した。


 そして骨、角、肉はマジックポーチへ収納し、代わりに小瓶を三つ取り出した。


「あっ、もう一度タライに水を出してくれにゃ」


 ベスはハルナに、作業台の上に置き直された三つのタライに、

追加で水を入れてもらうと、先程取り出した小瓶の中身とホーンラビットの皮を

各タライに入れる。


 ベスは両手で魔石を握り込み魔石の力を開放する。

 魔石が持つ魔力は、ゆっくりとベスの両手へと流れ込み発光した。

 ベスは、タライの一つを両手で挟み込む。

 するとタライの中にあったホーンラビットの皮が、ベスの両手に合わせて、

液体に包まれた状態で空中へと浮かび上がった。


 ベスの両手にあった魔力の光が、

液体に包まれたホーンラビットの皮に流れ込み収束して行く。


 そして全ての工程の終了をもって、魔力の光は霧散(むさん)した。


 (まばゆ)い光と入れ替わり現れたのは、美しい光沢(こうたく)を持つ

ホーンラビットのなめし革、【ラビットファー】であった。


 ベスは、その工程を都合三回行い、マジックポーチに収納していった。


「よし、じゃあ次の獲物を探してくるにゃ」


 ベスは、道具類をマジックポーチに収納すると再び魔物を探し始める。


【ちょっと待った!】


 マサトが思わず声を挙げた。


「はにゃ? どうしたにゃ?」


「ベスにゃん、今の何?」


「今の魔石を使ったやつが何か教えて欲しい」


 ベスの作業の光景に我を失って見ていたマサトとハルナが率直な質問をした。


「アレかにゃ? アレは【魔石加工】って技術にゃ」


「魔石を使った加工技術があるって聞いていたが、アレがそうなのか」


「そうにゃ。私もこの世界に来て覚えたにゃ。

なめし革に加工するのは、手間が掛かる作業なのにゃ。

だから革細工職人がやってるのを見て、真っ先に覚えたにゃ。

必要な道具は、魔石と水と皮、あとこの小瓶にゃ。

この中身は植物の葉っぱを煮込んで作った、なめし液にゃ」


 ベスは小瓶をマサトに、ラビットファーをハルナに渡す。

 そして、それぞれを指差せながら説明をした。


「この小瓶のなめし液は、私の自作にゃ。

前にも言った様に、私は元の世界で皮の加工を習得しているにゃ。

その知識と経験があるから、魔石加工時に素材の完成形がイメージ出来るのにゃ。

それが出来きないと魔石加工は、まともに成功しないにゃ。

私が言えるのは、魔石加工は、あくまで技術って事にゃ。

この世界の住人は、半端に魔石加工が出来るせいで未熟な職人が多いにゃ。

これは魔石加工のレシピさえ分かっていれば、誰にでも出来る様になる弊害(へいがい)にゃ。

だから私から見れば、基本が出来ていない三級品ばかりが売られているのにゃ」


「うん、すっごくキレイだよ。こんなに差があるんだぁ」


 ハルナの感想の通り、ベスが作ったラビットファーは、

露店で見掛た物と比べて格段に美しかった。


「ベスは他にも魔石加工が出来るのか?」


「試して無いけど、たぶん出来るにゃ。元々革細工が得意だったので、

なめし革の魔石加工を真っ先に覚えたって感じにゃ。

ただし、ちゃんと理解している物って前提(ぜんてい)が付くにゃ。

だから私の場合、なめし革は基本を覚えるのに、ちょうど良かったのにゃ。

ただ……」


「ただ?」


「ハッキリ言って、私のなめし革は売れないにゃ……」


「えっ? ベスにゃんのキレイなのに売れないの?」


「私のは、この世界では高品質すぎるのにゃ……」


「ああ、そう言う意味か」


「まーくん、どう言う事?」


「つまり、高値になりすぎるから買い手が限られるって事か」


「それもあるんけど、相場の10倍で売って路銀(ろぎん)にした事もあるんだけど、

その後、売った商人に雇われた者に付け狙われたので逃げて来たのにゃ……」


「えっ? じゃあベスにゃんは、今作ったコレはどうするの?」


「売るなら、わざと水で濡らして品質を下げて紛れ込ませるにゃ。

私が今使ったなめし液で作った革は、

比較的に水で濡れると劣化しやすい特徴があるにゃ。

このままだと雨に弱く、変色や劣化が起りやすいにゃ」


「おいおい、そんなの商品になるのか?」


「用途の問題にゃ。

室内などで使い、ちゃんと手入れを欠かさなければ問題が無いのにゃ。

使い込んだ時間と共に革が柔らかくなり色艶(いろつや)が増していくのにゃ。

自分の手で革製品を育てていく。つまりオンリーワンの商品になるのにゃ。

まぁ、そこの所を理解出来る職人、商人、客が(そろ)わないのなら、

どっちみち、他の三流品と同じ末路を迎えるので、

最初から劣化品として売ってしまうのにゃ……」


 ベスは何気ないように振舞(ふるま)おうとしているが、

どうしても物悲(ものがな)しさを隠しきれないでいた。


「まあ、魔石加工のおかげで、楽に加工が出来て収入効率が良いのにゃ。

さて次の魔物を探して狩っていくのにゃ」


 そしてマサト達は狩猟を再開した。


 その後の狩りは、マサトとハルナの戦闘経験を重視して行われ、

 ホーンラビット二匹、グレイウルフ一匹を討伐した。


 ホーンラビットを相手に、一対一の戦闘を一回ずつと、

 グレイウルフを相手に、一対にの戦闘が一回。


 どちらもベスが発見し、戦闘には不参加だったが、危なげなく戦闘は終了した。


「マサハル、今日はここら辺で切り上げて帰るにゃ」


「ベスにゃん、まだ早くない?」


「ハルナは、なんでそんなに好戦的なんだ?」


「まーくん、魔法使うの楽しいよぉ」


「マサハルは、今日が初戦闘なのにゃ。余裕を持って帰る事を身につけるにゃ」


「そうだな、街に戻る途中で敵に襲われる事も考えておかないとな」


「まーくん、帰るまでが遠足ってやつだね」


「目的のホーンラビットは、規定の三匹はクリアしているし、

肉も五匹分取れたので十分なのにゃ」


「グレイウルフは、解体しないでマジックポーチに収納したのはどうしてだ?」


「肉が食べれないので冒険者ギルドで解体してもらって、

一緒に牙と皮も売るにゃ。

街の近くまで行ったら、マジックポーチから出して運ぶにゃ」


「了解、じゃあ帰るか」


 こうしてマサト達の最初の狩猟は終了した。

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