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045.模擬戦

 焚き火に廃材となった元積荷をくべながら、

細身の年配の商人が、ため息をつきながらマサトの質問に答えてくれる。


「そんな事はないですじゃ。

ワシも長い事、行商をしておりますが、

イミュランの集団に襲撃を受けた話は、そうそうありませんですじゃ」


「それにしても、原因をを作ったヤツラ。

早々に尻尾を巻いて逃げやがって、ふざけんなよ!」


「ああ、彼らはオラっちの目の前で逃げ切れずに無残な姿になっていただよ。

そのとばっちりで、オラっちの馬が巻き添えになって殺されちまっただよ……」


 怒り心頭なガッシリ体格の商人に、疲弊しきっている中肉中背の商人が、

元小さな英雄達の末路を語る。


「それにしても、ボウズ達には助けられたぜ。

最初は真っ先に逃げやがって! 

と思ったが結局ボウズ達が、かなりの数の敵を引き付けてくれたおがげで、

こっちは雇っていた護衛連中で、何とか対処が出来たからな。

知ってるか? アイツラ仕事を放り出して逃げようとしやがったんだぜ」


「いえ、オレ達は乱戦に不慣れなので、

戦い慣れている広い場所に陣取らせてもらっただけです。

皆さんと協力して戦えるだけの力も経験が無かっただけなので、

こちらこそ目の前で不信な行動をしてしまって申し訳なかったです」


「そう言う事じゃったのか。

確かに窪地で ()うは見えなんだが、大きな炎が上がっとりましたからのぉ。

ワシらが近くにいたのでは、あの様にはいかなんだじゃろうて」


「そう言ってもらえると助かります」


 マサトは年配の商人に申し訳なさげに (おう)じながら、

窪地と言う地形とガブリエルの霧で、

手の内を上手く誤魔化す事が出来た事を確認して 安堵 (あんど)する。


「オラっちの所のケガ人も、嬢ちゃん達に治療してもらって本当に感謝だよ」


「そうですな。ワシ達の雇っている護衛の者達に

夜の見張りをさせますのじゃ。ヌシ達は今夜はゆっくりと休んで下され」


「お気遣いありがとうございます。

皆も疲れていると思うので、その事を伝えて先に休ませようと思います」


 商人達からハルナとダーハによる治療も感謝され、夜の見張り番を免除される。

 正直ダーハが、かなりがんばってくれていたので、

この申し出をありがたく受け取って、お礼の言葉を述べると、

マサトは自分達の野営陣へと戻った。


 ◇◇◇◇◇


「それじゃあ、まーくん。今日の事について教えてもらうよ」


 疲れてうつらうつらと船を漕いでいたダーハを早々に休ませて

焚き火を囲んでいると、ハルナが話を切り出して来た。


「何を聞きたいんだ」


 マサトは話の内容に見当は付いていたが、一応確認してみる。


「まーくんは、何で一人で最後まで残るなんて危ない事をしたんだよ。

ボクのマージは、一度に一人しか引き寄せられないから、

離れている距離の分、まーくんをフォロー出来ない時間も増えるんだよ」


「私も撤退時に確認したけど、

確かに本来なら盾になる前衛が残るのが一番良いんだけれど、

オマエの装備は、まだ完成していないのにゃ。

回避や逃走能力を考えれば、私が残るのが一番無難な選択だったと思うにゃ」


「あたしもあの時はヒヤリとしたわ。

本当にギリギリで、ハルナのマージが間に合ったって感じだったわ」


「サンちゃん、あの時ボクのマージは間に合って無かったよ。

一瞬だけど、イミュランの群れの動きが止まって見えたよ。

そしてその後で崩れる様に倒れていたのを見ていたはずだよ」


「あっ、確かに……でもあの時マサトは武器を振るっていたから、

あたしは攻撃が当たって群れを倒したんだと思っていたわ」


 サンディがハルナの説明を聞いて、状況認識の 齟齬 (そご)を理解した。


「分かった。それについて説明する」


 マサトは改めて皆に向き合って話を切り出す。


「オレがハルナのマージで引き寄せられるより前に、

イミュランの郡隊が迫って来ていた。

その時、オレは【 武離路 (ブリッジ)】って技を使って

足止めを仕掛けておいたんだよ」


「ブリッジ? 橋かにゃ?」


「あくまでイメージとして付けた名前だけどな。

もっと単純に言えば、遠くまで飛ばない刃路軌だ」


「どういう事にゃ」


「今までの刃路軌って技は、相手を吹き飛ばす事は出来たけど、

強欲な人狼の時の様に剣筋を読まれて掻い潜られた時、

オレの方が不利になってしまう。

だから、刃路軌の応用を模索していたんだよ。

良い機会だから、1対1を想定した模擬戦の相手をしてくれるか?」


「ほほう。面白いにゃ」


 マサトの提案をベスが受ける。


 ベスはマサトから少し距離を取って対峙する。

その間合いは、マサトの刃路軌が有効に振るえるだけの距離を有していた。


「それじゃあ、行くにゃ」


 ベスはチキンナイフの宝玉の能力で複製したチキンナイフ(偽)(サブウェポン)を使い、

二刀流の構えからマサトに向かって駆ける。


 それをマサトは、基本戦法である刃路軌による吹き飛ばし攻撃で迎撃する。

 マサトの迎撃は最初はベスに、かろうじてヒットするも、

次第に両手の短剣によって、その効果が軽減されていき、

そして強欲な人狼戦の時の様に剣筋を読まれて掻い潜られ始める。


 つまりそれは、二刀流で防御に徹していたベスの思惑通りに

戦闘が推移している事を示していた。


 刃路軌の軌道は、振るわれた剣閃の延長線である。

その為、不可視の剣閃として圧倒的な初見殺しの技ではあるが、

如何(いかん)せん殺傷能力が皆無な為、仕組みがバレ易く簡単に対処されてしまう。


 だがこの場合、マサトにとって有利な点もある。


 マサトが横薙ぎに振るった剣閃をベスが掻い潜って迫る。

しかしながら、そこでベスの足が止まった。そして……


【ドサッ】


 突然ベスが糸の切れた人形の様に地面に前倒しとなって倒れた。


「ベスにゃん!」


「えっ、今何が起きたの?」


 ハルナとサンディは、ベスがマサトに迫った瞬間、急停止したと思ったら、

次の瞬間に地面に倒れたのを見て困惑する。

 それはイミュラン戦で見た光景の再現であった。

 そして、ベスがマサトと一度も剣を交える事無く倒された。

と言う結果だけが明確に残された。


「おいベス、大丈夫か?」


 マサトも、さすがにヤバイ倒れ方をしたのを見て慌ててベスに駆け寄る。


「はにゃ?」


 ベスは自身に何が起きたのか分からす、混乱している様子だったが、

身体に異常が無い事をハルナとサンディが確認した事で、マサトも一安心する。

そして落ち着いた所で、マサトは口を開いた。


「ひとまず、イミュラン戦に近い形で再現してみたけど、どうだった?」


「まーくん、何となくだけど、バインドみたいな

足止めをしていたように見えたよ」


「でも、ベスがマサトの刀を掻い潜った後だったから、

直接は何もしていないように見えたのよね」


「外野からなら、そう見えただろうな。ベスはどうだ?」


「身体が棒にぶつかって、前進を止められた感じだったにゃ。

その後で、完全に背後から不意打ちを食らったにゃ」


ベスは首の後ろを手で(さす)りながら、頭を振っている。


「ベスにゃんは、棒にぶつかっていたの?」


「そうだな。

オレは刃路軌を飛ばさずに停滞させて置いておく。

と言うイメージで刃路軌を応用して作ったのが、武離路って技の正体だ。


「まーくん、なんだか単純な技だったんだね」


「そう言うなよ。手品のトリックなんてタネを明かせば皆こんな物だろ。

とは言え、名前を付けて分類しているのは、色々と特性が違って来たからだ。

武離路は、設置型の技になる。

名前の通り、橋を掛ける様に起点と終点を決めて、そこに置いている感じだな。

その動作は刃路軌に偽装しながら出来るからさほど問題は無い。

後は良いか悪いかは別として、停滞させているからなのか

吹き飛ばしの効果が無くなっている点があるかな」


「ふ~ん、まぁ良いんじゃない。

マサトの自衛用としてのトラップって意味合いが強そうだし、

下手に敵との距離を離すよりも、そこはさっきのベスにした様に

倒してしまった方が良いように思えるわ」


「あっ、そうなのにゃ。

私はどうやって倒されたのにゃ?

今の武離路ってのだけだと倒されるはずが無いにゃ」


「確かにそうだね。

イミュランの時は、後続から後押しされて前倒しになったって考えられるけど、

ベスにゃんの場合は、あんな倒れ方をするはずがないんだよ」


「あれは【 摩施 (マッセ)】って技を使ったんだよ」


「摩施ですか?」


「そう、 ()する。つまり迫る様に(ほどこ)した技。と言う意味だ。

オレが友人の家で遊ばせてもらっていたビリヤードって言うのに

マッセと言う同じ名前の技があるんだけど、そこからヒントをもらっている。

簡単に言うと、ブーメランの様に自由に軌道が曲がる刃路軌だ」


「視認が出来ない上に自由な軌道で攻撃が出来る技かにゃ!」


「うわぁ、まーくん、なかなかヒドイ事を思いつくね」


「いやいや、これはあくまで未完成の技だからな。

今回は、たまたま上手く言ったけど、オレ自身が視認出来ていないんだから、

最終的な着弾位置以外はイメージ通りの軌道を取っているのかが分からない。

つまり正確なコントロールが出来ているとは言えないんだよ。

だから実戦では、まず使えない。

使うとしても1対1で、広い空間があって、更に追撃の心配が無い場面になる。

ほら、ほぼ不可能な条件だし、言い換えれば無意味な技だろ?」


「ふむ、でも私に使った様に、武離路からのコンボなら初見殺しが決まるにゃ」


「ただ結局の所、刃路軌の応用でしかないから、決定打に成り (がた)い。

攻撃を当てる事は出来ても、必ず倒せるとは限らない以上、

いざと言う時の切り札にはならないんだよな」


「あたしが言うのもなんだけど、それはマサトの武器の特性だから……」


 サンディは、ストレージコートから発掘した蒟蒻切(こんにゃくぎり)

マサトの宝刀に組み込まれてしまった経緯を思い出して、

申し訳なく思いながら言葉を掛ける。


「いや、それはもう良いよ。

逆に普通の武器で同じ事が出来たら、危なすぎて使えたものじゃない。

誤爆で味方から血の雨が降る未来しか見えないからな」


「そうだね。まーくんの刃路軌で物が斬れたら、

ベスにゃんの首が落ちてたって事になるものね」


「恐ろしい事を言うなにゃ」


「ともかく、摩施は別として、武離路はイミュランとの実戦で、

有効なのが証明されたし、今後は使っていく事になると思う」


「ふむ、前衛の防御力が上がるのは良い事なのにゃ。

前衛が崩れなければ、後衛が安心して次の手を打てる様になるのにゃ」


「まーくん、りょーかい」


「それじゃあ、マサトの武離路を組み込んだ時の対処方法を

決めておいた方が良いんじゃないかしら?」


「そうだな、それなら……」


 その後、サンディの提案を受けて話し合いを持つ。

そして武離路の設置場所を知らせる簡単なサインを決めて、

マサト達も早々に就寝して身体を休めた。

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