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042.国情

 ──休息日2日目の朝を迎えた──


「試着にゃー!」


 マサトは前日に引き続きベスに叩き起こされた。

しかも部屋の様子から、工房と化したマサトの部屋に不法侵入して、

朝っぱらから作業をしていた形跡がある。


「色々と言いたい事があって、何から言えば良いのか分からないが、

ちゃんと身体を休めているよな?」


 マサトは共有の腕輪から梅干が入ったビンを取り出してテープルの上に置く。


「だ、大丈夫にゃ。これが終わったら少し休むにゃ。

昨日みたいに途中で邪魔が入って欲しくなかったから

時間を調整しているだけにゃ。

だからソイツは必要ないにゃ……」


「そう言う事なら分かった。それでソレがオレのアンダースーツなのか?」


「そうにゃ。正しくは全員の物の試作品にゃ」


 マサトはベスが放って寄こしたアンダースーツを受け取って(すそ)を通す。


 全身を引き締める感覚はあるが、身体の動きを阻害するような物ではなく、

身体に掛かる負荷を軽減させるサポートを目的とした物だと分かる。

 そして身体の各部には、男女の違いこそあれ、

昨晩のサンディに似た配置で、補強パーツが仕込まれていた。


「これって、昨日のサンディの物に似てないか?」


「さっきも言った様に、全員の物の試作品だから基本的には同じにゃ。

ただ、この後の装備込みで完成を考えているから、

アンダースーツとアウタースーツでの補強パーツの競合を避ける為に

配置調整はするにゃ」


「スゴイな。オーダーメイド様々だな。ありがとう」


 マサトは素直に感謝の気持ちを伝える。


「それと一応言っておくけど、

この後は、残りの二人のアンダースーツを作るにゃ。

オマエの試作品で一度作っているから、

魔石加工で大まかに作ってから細部を調整していく感じになるにゃ。

そんでもって、子狐だけ防御が劣る感じになるから

あとでケープコートを補強をするにゃ。

明日以降は順次、手間の掛からなさそうな物から作っていくにゃ」


「分かった。だけど本当に無理をして急がなくて良いからな」


「分かっているのにゃ」


「まーくん、朝だよ。起きろぉ!」


 ちょうどベスと話が付いた所でハルナがマサトの部屋に突撃して来た。


「むっ、今日は鍵が掛かってないと思ったら、

ベスにゃんがもう来ていたよ。

それに、まーくんのソレって……」


「ああ、朝っぱらから叩き起こされて試着させられた」


「へぇ~、アスリートの人が着てそうな感じで、なかなか良いね。

ボク達のもそんな感じになるの?」


「細部は変わってくるけど、基本的に同じにゃ」


「おおっ。昨日のビキニアーマーを見た時は不安だったけど、

これならボクも気に入ったよぉ」


「あとでオマエ達のも作ってやるにゃ。

さて、お腹も空いて来たし朝食を食べに行くにゃ」


「あっ、じゃあボクはサンちゃん達を呼んで来るね」


 そう言って部屋を出て行った二人を見送ると、

マサトは身支度を整えて食堂へと向かった。


  ──冒険者ギルド──


 朝食を終えて各自が自由行動と取る中、マサトはギルドへとやって来ていた。


 その間、他のメンバーは宿屋に引き篭もっている。

その理由は、朝食後にベスがお披露目したアンダースーツを気に入った

ハルナとサンディが、調整の協力を理由に見学を希望し、

ダーハもまた、装備作製に興味を持って残った為である。


 と言う訳で、現在マサトは単独行動中であった。


 冒険者ギルド内では、仕事を探す冒険者達が、

依頼表が張り出されているボードの前に集まっている。

そこに張り出されている物は、

近くて稼ぎ易い森林地帯を対象とした依頼表であった。


 マサトは人込みを避けて、少し遠隔の地域を対象とした

依頼表がまとめられたボードの前へと足を運んで情報を集める。

 その中にロックバグの駆除やスカリーラーテルの素材の納品。

と言った物が目に入り、マサト達の報告が反映されたと思われる依頼もあった。


 他には近隣の街までの護衛依頼や、

その街で近々開催されると言う祭事の事が、ギルド内で頻繁に話題となっている。

 やはり祭りとなると、人の行き交いが頻繁となって、

この手の護衛依頼が増えるようだ。


「こっちの祭って見た事無いから、見に行くのも有りか」


 そう思うと他の事が頭に入って来なくなる。

結局その後は、人々の会話に出て来る

近隣の祭りの事ばかりに耳を傾けてしまっていた。


 聞いていて分かったのは、祭事が行われる場所は、

ナノン辺境伯が滞在している国境の街ナハナハ。との事。


 ここで言うナノン辺境伯とは、ナノン地方で他国からの侵入に備えて

国境の防衛を任されている貴族。と言う意味になる。つまり国の重要人物だ。


 その名前は、ウェキミラ卿と言った。


 現在マサト達がいるミィラスラ王国が抱えている三ヶ所の国境の一つを

防衛している人物であり、狩猟都市フェレースは、

この人物が新たな資源獲得を目的として最初期から支援していた街であるらしい。


 ついでなので、この国について聞いた範囲で分かっている情報をまとめると、


 ミィラスラ王国 王都アシュキット(シノン地方)国王 ラムシノン陛下


 トノン辺境伯(トノン地方)アーオドラ卿 東の国境の街 トリア

 ザノン辺境伯(ザノン地方)イ・カレラ卿 西の国境の街 ザンコウ

 ナノン辺境伯(ナノン地方)ウェキミラ卿 南の国境の街 ナハナハ


 となるらしいが、

ぶっちゃけ、ただの冒険者であるオレ達が覚える必要は全く無い。


 なんとなく三人の名前の最後が一緒なので、ラララ辺境伯で覚えておく。


 とりあえず祭事が行われる国境の街が、狩猟都市に縁のある街である為、

なにかと話題に上がり易かった事は理解出来た。


「とは言え、やっぱり国境の街だからか、荒っぽい(もよお)しなんだな」


 (くだん)の祭りとは、武術際と言う事であった。

なんでも三ヶ所の国境の街が一年ごとに持ち回りで開催している武術大会。

と言う事らしく、今年はナハナハの街で行われるらしい。

 メインイベントとなる武術大会以外のものに

アームレスリング大会や大食い大会等があるらしいが、

要するに国境の防衛に当たって、

駐在兵の鬱憤(うっぷん)払いと兵力の補強を兼ねてのお祭りらしい。


 なんとも、むさ苦しそうなお祭りなので、

うちのパーティには需要が無いだろう。

と途中から情報収集を放棄する。


 ただその時、視界の端にギルドの練習場へと続く入り口が見えた。

ギルド内の人の熱気に当てられて少し疲れていたので、

避難場所にちょうど良いかと足を向けると、

相変わらずガランとして誰も居なかった。


 ヒンヤリとした空気が心地良く、頭もスッキリとして来る。

そう言えばと思い返して、最近は朝の鍛錬の時間が取れていなかった事に気づく。


 せっかくの独り占め状態なので、少し身体を動かしていこうかと考え、

マサトは宝刀・蒟蒻切(こんにゃくぎり)を抜く。


 軽く素振りを行って振りの確認すると、徐々に動きを速めて行く。


 蒟蒻切の特性から、どうしても我流の動きになってしまう為、

マサトは、いまいち自分が成長しているのかが分からない。


 仕方が無いので、いつものように自分が分かる範囲で反復練習をする事となる。


 マサトが今イメージしているのは、遠征中に出会った剣士ケヴィン。

人狼を相手にポジショニングをコントロールし、

堅牢な守りを見せたあの動きは、敵を斬り倒せないマサトにとっては、

学ぶべき物が多い戦い方であった。


 ただ守りの技術とは、相手あっての反復練習で身に付ける物であるので、

自主練習では身に付け難い。

 その為マサトは、実に効率の悪いイメージトレーニングをしている事となる。

また実戦においてマサトは、吹き飛ばし攻撃である刃路軌を主軸とした

中距離戦で戦っている為、尚のこと防御技術の成長が阻害されているのだが、

その事にマサトは気づけていなかった。


 最後に正面に立っている打ち込み用のデク人形を相手に刀を振るう。


【バシッ!】


 景気の良い打撃音と供に、デク人形がマサトに向かって倒れ込む。


「うわっ、危なっ!」


 マサトは慌ててデク人形を横に避けて下敷きになるのを回避する。

 いつもと違う打ち込みを試した結果、

物言わぬデク人形に反撃された形となって思わず冷や汗を流す。


「これは使い方を考えないとな。じゃあ、次は……」


 マサトは構え直して、並べた数体のデク人形を相手に打ち込む。


【ガゴンッ!】


 目の前のデク人形が同時に揺れて、その内の一体が床に倒れる。


「練習場の事を完全に忘れていたけど、これは良いな。

いきなり実戦じゃ使えないアイディアを試せる」


 マサトは、イメージに追いつかない防御技術を補う為に

試行錯誤していた技をデク人形相手に試して行く。

 そのどれもが威力ないし制御が不十分でネタ技と化していたが、

現状確認が出来た事は何よりも大きかった。


 マサトは一通りのアイディアを試していると、いつの間にか昼を迎えていた。

 昼食は久しぶりに食い道楽と洒落(しゃれ)込み、腹が満たされると宿屋へと戻った。


 ──宿屋フォックスバット──


「まーくん、お祭りに行こう!」


 宿屋に戻ると予想外の言葉を掛けられた。


「祭りか。別に良いけど、どこでやってるんだ?」


 マサトは無駄な抵抗だと思いつつもシラを切ってみる。


「あのあの、ここから一番近い国境の街で、近々お祭りがあるのです」


「噂で聞いた武術大会があるって言う街の事か?」


「そうなのです」


「でも、そんな祭りに行っても面白いか?」


「ボクはケットシーが見たいんだよ!」


「ううん? どうしてそこでケットシーの名前が出て来るんだ?」


「ナハナハの街との国境に隣接しているのが、

ポイポイキングダムって言うケットシーの国らしいんだよ」


「それは王都の名前よ。国名はフォイロイ王国ね」


「なるほど。祭りなら隣国のケットシーも見れるって事か」


「マサト、それは無いわ。

ハルナにも説明はしたんだけど、

ナハナハの街はケットシーを警戒しているから、絶対に国境越えを認めないわ」


「もしかしてケットシーってヤバイ種族なのか?」


「あれはヤバイわね」


「ものすごくカワイイのです。でも……」


「私が言うのもなんだけど、あれは子猫の容姿をした悪魔にゃ」


「えっ?」


「あれは【お子ちゃま】なのにゃ」


「はぁ?」


「つまり、ものすごくイタズラ好きなのです」


「しかも悪意が無いから、自分達がやってる事を直す気が無いのよ」


「ふ~ん、それで具体的にはどんなイタズラをやったんだ?」


「国境を守る砦が一つ落とされたわ」


「はぁ? それってイタズラなのか? 戦争じゃなくて?」


「その理由が、あの国のアニィ王女が、天に輝く星の一つが流れたのを見て、

その星を拾いに行くのに砦が邪魔だった。って事だったそうよ」


「フリーダムかよ!」


「その時は、緊急依頼で作らせた星に見立てた宝石を渡して、

帰ってもらったらしいわ」


「攻め込まれたのに、お土産を渡して帰ってもらったのか? 

それは国としてどうなんだ?」


「結果から言えば、アレが最善だったんでしょうね。

ケットシーを相手に意地の張り合いをしたら、砦の一つでは済まないわ。

ケットシーは当初の目的を忘れて、面白がって被害を拡大しちゃうのよ。

あの街にいるウェキミラ卿って言うのは、

その辺りを柔軟な判断をもって対処出来るからこそ、

ナノン辺境伯って立場にいる人物なのよ。

とにかくあの国は、突拍子も無い行動を起こすのよ。

しかも軍事力が(あなど)れないレベルでね。

だからナハナハの駐在兵は、ケットシーには敏感なのよ」


「オレの中で、ケットシーは天災レベルで認定されたな」


「でも子猫の国なんだよね? まーくん、行ってみようよぉ」


「オレは関わり合いたく無いかなぁ……」


 その後、全員の意見を聞いてみると、

ハルナ以外は、ケットシーに関わる気は無いが、

ナハナハの街の祭りには興味があるとの事だった。


 なぜ武術祭なんかに興味があるのか。と聞いてみると、

要するに他の地域から出展される露店が目当てだった。

ベスは毛皮や布地、サンディは中古装備、ダーハは料理や食材となる。


「まぁ、そう言う事なら祭りを見に行くか」


「わーい」


「ハルナ、ケットシーの国には行かないからな。

間違っても国境突破とかしないでくれよ」


「分っかってるよぉ」


「不安だ……とにかく、そうなると移動はどうする?」


「お祭りまでは、まだ時間はあるのです。

でも宿を取る事を考えると、早めに移動しておいた方が良いのです」


「そこの所は宿屋の事情に詳しい子狐の言う事を聞いておいた方が良いのにゃ」


「そうね。今の時期なら商隊の護衛依頼もあるでしょうから、

それを受けるのが一番良いかしら」


「確かに今日ギルドに寄った時に、そう言う護衛依頼があったな」


「じゃあそれで良いんじゃないかにゃ。

向こうに着いたら祭りまでの間は、あっちのギルドで狩りをすれば良いのにゃ」


「じゃあ、まーくん。これで決定だね」


 別に反対する理由も無いので、お祭り見学を受け入れて、

護衛依頼を受けるに際して必要になる物や注意をサンディから聞いておく。


(まぁ、前回の遠征は、オレのワガママを通した形だったし、

バランスは取れるだろう)


 そんな事を考えながら、マサトは翌日に備えて準備をした。

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