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040.日中にて

 ──商業ギルド──


 一通り市場を見た後、マサト達は商業ギルドに足を向け、

店舗内で販売されている流通品を見て回る。


 物によっては市場より値は張るが、ギルドお抱えの鑑定士の目が通っているので

一定レベルの品質が保障されている。

 その為、ギルドの店舗内にある装備品の多くは、新品が取り扱われていた。

 それはギルドの鑑定士の目から弾かれた品が、市場の露店商の下へと流れ、

購買者層の棲み分けも自然とされた結果でもあった。


 この事はギルド、露店商、購買者の皆にメリットがあったが、

サンディにとっては、中古鑑定で付加能力の発掘をするのに

ギルドの店舗が利用し難くなっている点から、わがままな不平を漏らしていた。


 そして本気で装備を整えるなら、オーダーメイドの装備が作れる

武器屋や防具屋を利用する。と言う。

 とは言え、サンディが使っているクロスボウは量産品である。

 言ってる事と、やってる事の違いは何なのか。と訊ねてみると、


「あたしの場合は、ストレージコートがあるから、

矢弾を装填したクロスボウを装備し直した方が、

リロードタイムが短縮出来るでしょ。

もしかして今まで気づいてなかったの?」


 と言われて思い返してみると、たまに射撃の間隔が短かった事があった。

と思い至った。なので、ついでに質問をしてみる。


「じゃあ、クロスボウのストックって何丁くらい持っているんだ?」


「数えた事は無いんだけど、確か約三千丁だったかしら」


「旅団級の武装じゃないか!」


 ちなみに旅団とは、軍隊の編成人数を表した名称の一つで、

師団と連隊の間に位置する規模の部隊で、指揮官は大佐や少将が就く事となる。


「装備を揃えるのに一体いくらつぎ込んだんだよ」


「そ、そんなの知らないわよ。元々ストレージコートに残っていた物だし、

数だってお父様に聞いたものだから……」


「それらが買った物じゃないとしたら戦利品って事だよな。

一体何と戦ってたんだよ。いや、何も話さなくて良い。もう考えるのを止める」


 マサトはサンディの父親である元転移者と、

その友人が歩んだ道のりを聞くのが怖くなったので、違う事を考えようとするも、

矢弾を撃った後のクロスボウを、サンディが夜な夜な装填し直す。

と言うシュールな光景が、頭をよぎってしまっていた。


 サンディと話をしていると、ハルナとダーハが買い物を終えて戻って来た。


 別行動をしていたハルナ達は、

商業ギルドの店舗で、調味料や油を購入して来たらしい。


「結局、装備品の買い直しとかはしなかったのか」


「ボクは落狼の杖があるから、買うなら防具なんだけど、

可愛いのがあっても、そう言うのって魔法付与が掛かっていて無駄に高いんだよ。

あんなの買えないよぉ」


「おねえちゃんが見ていたのは、貴族の方とかが身に着ける物なのです。

普通の冒険者は、あんなキレイなローブは汚れるので着ないのです」


「何となく分かってたよ。でも他の物なら今のと大差ないんだよ。

女神様の初期装備(ログインサービス)が優秀なんだよ」


「まぁ、オレも初期装備だけど、今まで人狼以外は特に問題が無かったからな」


「ダーハも後衛だけど、結局武器は買わなかったのね」

 

「わたしは武器を持っても、振り回されてしまうのです。

ベスさんに危なくなったら戦おうとせず、

逃げるようにって言われていたのです」


「なるほど、下手に武器を持ってると、戦う選択肢が出来てしまうから、

逃げるタイミングを(いっ)する。って事なんだろうな」


「それでも護身用に武器は持ってた方が良いと思うわよ」


「あっ、それならベスにゃんが解体品の鉤爪から作るって言っていた短剣を

譲ってもらえば良いんじゃない?」


「そうだな、スカリーラーテルの鉤爪なら下手な数打ち品より優秀だよな」


「そう考えるとボクやダーハちゃんの防具も、

ベスにゃんに作ってもらった方が良い気がしてきたよ。

確かベスにゃんって半分は生産職みたいな技能持ちなんだよね」


「革細工、骨細工、裁縫、木工、そして調理だったかな」


「えっ、ベスってそんなに色々と出来たの?

って事は、革細工師のレスファーとは、その関係での知り合いだったのね」


「あ、うん。そうだったと思うよ」


 マサトは以前にサントスと商業ギルドをハメた時の

齟齬(そご)を誤魔化しながら話を続けた。


「ただベスに作ってもらうとなると、サンディ以外の防具作製になる。

オレ達のパーティって、ただでさえベスに掛かっている負担が大きいから

頼んでみるのは良いが、あんまりしつこくは言うなよ」


「まーくん、りょ-かい」


「はいなのです」


「まぁ、急いで必要になる訳では無いけど、

オーダーメイドする時に、どんな風にしたいか考えるのって楽しいものよ。

今日は時間がある訳だし、ついでだから布地や革の事を教えておくわ」


 そのサンディの一言で、ウィンドウショッピングが始まる。


 ハルナはまず、展示されているローブやケープを見て、

アレが良い、コレが良い。とデザインや色合いを見て回っていた。

 

 ダーハは、ここにポケットが欲しいとか、フードは大きい方が良いとか。

気にしながら見ている。


 そしてサンディは、素材が持つ斬撃耐性や属性耐性の特徴から

布地等の選び方を教えてくれた。


 そうこうしていると、店舗内でベスと遭遇した。

買い忘れした物を買い足しに来ていたらしい。


 そこで先程のハルナ達の防具作成等の話を切り出してみた所、

アッサリと了承した。


「要するに、今後の事を考えてマタニティドレスが欲しいって事かにゃ」


「ベスにゃん、違うよ!」


 ハルナが顔を真っ赤にして反論した。


「あのあの、マタニティドレスって何です?」


「ダーハちゃん、ワンピースやチュニックの事だよ」


「は、はいなのです」


 ハルナは、ニコやかに威圧感を放出して二の句を封殺する。


 ちなみにマタニティドレスとは、妊婦さんが着る腰回りがゆったりとした

衣類の事である。転じて、まだお腹が膨らむ前であっても、

妊婦である事を周りの人に気づいてもらう為の衣装でもある。


「まぁ、大き目に作っても良いなら楽だけど、

本当に防具として使うつもりなら、ちゃんと採寸に協力するにゃ。

わずかな違いで、重量感や動きやすさが変わって来るのにゃ。


「う、うん、ベスにゃん、分かったよ」


「ただ子狐は成長期だから、大き目に作っておく事にするにゃ」


「ありがとうなのです」


「ベス、なんだかアッサリと引き受けたけど大丈夫なの?」


「別に急いで作る必要も無いだろうし、

要するに、そこに在る見本をパクって作れば良いって事にゃ。

最初からデザインする訳じゃないから多少は楽になるはずにゃ」


「何気に作った職人泣かせな事をするわね」


「エセ商人が分かった様な事を言うなにゃ。

職人は技術を盗み盗まれて、技術を上げていくものにゃ。

それで一応聞いておくけど、

エセ商人はリクエストが無いって事で良いのかにゃ?」


「あたしは別にいいわよ」


「了解にゃ。それじゃあ二人が欲しいって言う物を見せてみるにゃ」


「ボクはこういうの。白色や赤色があるローブが良いなぁ」


「あのあの、このケープコートが良いのです」


 ベスの前に二人が希望するデザインの防具を持ってる。

ハルナは、白色を基調としてアクセントに赤色が使われたたローブ。

ダーハは、白色をした大きいフードが付いたケープコートであった。


 それを見てベスは、少し顔を厳しくしながら防具に触れて注視する。


「エセ商人、この装備の性能ってどの程度の物にゃ?」


「貴族のお嬢さんの自衛用としては、優秀な部類でしょうね。

訓練された戦士の剣でも、そうそう通らない斬撃耐性があるわね。

魔法に対しては、火属性の耐性が付与されているわ」


「スゴイのです」


「そっかぁ、高いだけの事がある性能なんだぁ」


「つまりエセ商人の剣は通らないけど、クロスボウなら通る感じかにゃ」


「まぁ、そんな感じでしょうね」


「なんだか、一気にショボく見えるようになったよ」


「冒険者ランクで見ると、

ゴールドランク近くまで行くと意味を成さない。って感じか。

それって貴族の身を守る防具として考えた場合、脆弱(ぜいじゃく)すぎないか?

シルバーランクの上位なんて、あのギスノフみたいなゴロツキもいる訳だろ」


「アレを基準にしてほしくは無いんですけど……」


「話を戻すけど、コイツはあくまで斬撃で防具が斬りづらいってだけで、

その時の打撃力は緩和されないって感じにゃ。

つまり斬られても死なないだけで、その時の打撃力で気絶コースは有り得るにゃ」


「まぁ、素材が布地だしな。

ベスの目から見て、打撃に対しての吸収力が低いってのが気になってる感じか」


「あと普通に刺突耐性も甘いにゃ。

重くしたくないのは分かるけど、防具として考えないのなら、

最初から衣装として作れ。と思ってしまったにゃ」


「そこは人も魔物も使用頻度の高い火属性の耐性を付与してあるから

コストを抑える為だったんじゃないかしら」


「安い命の選択にゃ。

エセ商人、コレらに使われているのと同じか、

近い特性の布地を見繕って買って来てくれないかにゃ」


「ええ、良いわよ」


 ベスの要望を受けてサンディが布地を買い集めて来る。

その間にベスはダーハを簡易的に採寸して、

ついでにいくつかの素材を買い足して来た。


「子狐は成長期だし、物がケープコートだから厳密な採寸が必要ない。

と判断して、ちょっとした実験をしてみるにゃ」


 そう言うとベスは、サンディが買って来た素材と、

ベスが追加で用意した素材を試着室に持ち込み、


「あっ、他人に見られるとヤバイから、見張っておいてくれにゃ」


と言ってカーテンを閉めて魔石加工を使っての防具作製を始めた。


「なんだか、昔話の鶴の恩返しを思い出すね」


 ハルナの、のん気な言葉を聞いてしばらく待っていると、

ベスが試着室から出て来て、真新しい白いケープコートをダーハに被せた。


「サイズ調整とかは後でやるとして、着た感じはどうにゃ?」


「はわわわ、スゴイのです。フードも大きいのです」


 ダーハは狐耳が余裕を持って収まるフードに感動している。


「着た時の重さや動き(にく)さは無いかにゃ?」


「普通の物より重さは感じるのです。でも特に問題ないのです」


「エセ商人から視て性能はどうかにゃ?」


「斬撃、打撃、刺突の三耐性に加えて、火と水属性の耐性が付与されているわよ。

完全に上位互換じゃない。どうなってるのよ!」


 サンディがケープコートを中古鑑定で視て驚愕していた。


「鑑定では、そうなるのかにゃ……

全体的にコーティングをして耐水・耐火能力を与えて、

部分的に網目状に補強を加えて耐性を付けているにゃ。

部分的なのは、動きを阻害しない為と、

補強した分の重量感を軽減する為にゃ。

つまり、部位によっては何かしらの耐性の強度が劣る部分もあるにゃ。

これは私の襲撃する側からの視点と、職人としての経験からの読み合いの産物にゃ

もちろん致命傷を受けない様に補強はしてあるにゃ」


「でもコレは優秀すぎでしょ」


「あくまでバランスを取った結果の総合判定だと思って欲しいにゃ。

各耐性はそれほど高くはないし、

全ての部位に全ての耐性がある訳でもないにゃ。

だから子狐は、この装備をあまり過信するんじゃないにゃ」


「はいなのです」


「それにしてもベスにゃん、アッサリ作っちゃったね。

ボクのもすぐに出来ちゃうの?」


「オマエの場合は、ちゃんと採寸してからにゃ。

成長期の子狐には悪いけど、ちゃんとした採寸をした物なら

体感的にもう少し重量感を下げれるにゃ」


「そうなんだぁ」


「これで十分なのです」


「あの~、あたしも一つ装備を作ってもらえないかしら……」


 ベスの実力を知ったサンディが、思わず懇願(こんがん)し出した。


「まぁ、構わないけど、ストレージコートを手放せないのに

持っていても着る機会はあるのかにゃ」


「そのストレージコートが防具として機能していないからよ。

だからそれを補う防具が欲しかったのよ」


「う~ん、そうなるとストレージコートの外側や裏地に補強を施すか、

その下に着込むアンダースーツやトラウザを作るかになるかにゃ。

ただストレージコートに直接処置を施した場合、

持っていた機能を損ねる可能性があるから、

補強するなら更に上から着込む外装を作った方が安全かにゃ?」


「ソレ、両方お願い!」


「え~、コレをやるなら図面から引かないといけなくなるから、面倒くさいにゃ」


「そこをお願い。今までストレージコートの事を言えなかったから、

防具の更新が出来ないでいたのよ」


「ああ、なるほど。防御面に不安があったから、

クロスボウばかり使っていたのか。

剣や槍も使えるのに実戦では、ほとんど使っていなかったものな」


「仕方が無いにゃ。

アンダースーツやトラウザあたりなら何とかなるかもにゃ。

ただ外装案は、ケープコートの様に作った経験が無いから

魔石加工が使えないにゃ。

時間も掛かるし、実用性が伴わないと分かったら、

作るのを切り上げると思っていて欲しいにゃ」


「それでお願い。ありがとう」


「そうなると、二人の採寸も済ませておきたいにゃ。

順番に試着室に入って脱げにゃ」


「あっ、じゃあオレは、店舗内を一周見て回って来るな」


「わたしも、おにいちゃんと行くのです」


 マサトは場の空気を察して、真新しいケープコートにご満悦のダーハと一緒に

店舗内を回って時間を潰しをしながら、ベスの採寸が終わるのを待つ。


 予定外に商業ギルドに長居する事となったが、

マサトはパーティの防御面での強化を進められた事は、

結果的に良かったのだろうと思った。

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