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039.早朝にて

 ──休息日初日の朝を迎えた──


「さっさと起きるにゃ。採寸するにゃ」


 朝っぱらから施錠(せじょう)していたはずの部屋にベスが不法侵入して来ていた。


「ホレ、さっさと脱げにゃ。アイツが起きて来る前に終わらせるにゃ」


 どうやら昨晩のアッサリした採寸をカモフラージュにして、

最初から早朝の時間を狙っていたらしい。


「色々と言いたい事もあるが、

まじめに装備を作ってくれる気でいる事は良く分かったよ」


 マサトは、毎回あまり良いとは言えない起こされ方をするよなぁ。

と思い返しながら、両手を挙げてベスの職人としての気質に降参して、

素直に協力して採寸してもらう事を決める。


 なんだかんだと昨晩に計測し終わっている

身長等の大雑把な物を除いて上半身から採寸していく。


「ふむ、昨日も触ってみて思ったけど、最初の素人の様な筋肉の付き方が、

だいぶん武器を振るう者のそれに変わって来たにゃ」


「実際素人だったからな」


「ただ本来の鍛え方では有り得ない(いびつ)さを感じるにゃ」


 ベスは採寸しながらマサトの身体を観察して感じた違和感を口にする。

ベスが言うにはマサトの戦闘スタイルと、主に使用している太刀筋からでは

身に付きそうに思えない筋力の発達が見られるらしい。


「もしそれが本当なら、原因はコイツかもな」


 マサトは首から下げている宝玉のカケラが変化したプレートを指す。


「オレ達の場合、宝玉の成長が自身の強化になる。

気づいたら何時(いつ)の間にか、また少し宝玉の輝きが大きくなっていたし、

それに併せて身体強化が成されて、身体のバランスを取る為に起きている

現象なのかもしれないな」


「まぁ、分からん(もん)と知らん(もん)が話をしていても答えは出ないのにゃ。

次の採寸するから、いい加減ズボン脱げにゃ」


「はいはい、さっさと済ませてくれ」


 マサトは気恥ずかしさもあったが、下手な抵抗をした方が、

結果的に気まずくなる時間が延びるので抵抗を諦める。


「まーくん、朝だよ。起きろぉ!」(ドンドンバンバン)


 マサトの部屋のドアを叩くハルナの声が聞こえて来る。


「あれっ、鍵が掛かっているよ。まーくん、開けてぇ~」


「相変わらず早起きにゃ。ホレ、さっさと採寸を済ませるにゃ」


「えっ、残りはまた今度にすれば良いんじゃないか?」


「どうせアイツに気づかれたら、またなんだかんだと邪魔されるにゃ

鍵は掛かっているのにゃ。手早く済ませるから協力するにゃ」


 ベスが採寸用のヒモを広げて、マサトを急かせる。


「ええい、分かったから素早くやってくれ」


 マサトも昨晩のハルナの様子を思い出して腹を(くく)る。


「あれ、まーくん起きてる? それに今、女の人の声が聞こえたような……」


 ドア越しに何かを察したハルナの疑念の声が聞こえて来る。


「まーくん、開けてぇ……[開けてよぉ]……【開けろぉ!】」


 ハルナの声が荒ぶって来る。


流水(ストリーム)


 挙句の果てに魔法まで使って来た。

しかも意外と冷静に水流操作を行って、

水流を鍵穴に流し込み、錠を上げて開錠した。


「まーくん、何して……」


 勢い良く開け放たれたドアから侵入して来たハルナの動きが止まる。

ハルナはトランクス姿のマサトが一人突っ立っていたのを見て、

我に返り顔を赤らめ始めた。


「まーくん、何で服着て無いんだよ!」


「理不尽だ。ハルナが鍵をこじ開けて勝手に入って来たんだろ」


「まーくんって、もしかして裸族だったの?」


「違う。たまたまだ。とにかくドアを閉めてくれないか?」


「そ、そうだね」


 マサトは平静を装いながら、ハルナを部屋の外に出そうとするも、

なぜかハルナはドアを閉めて部屋の中に入って来た。


「だから何で、当たり前の様に部屋に入って来る。

着替えるから、あとで食堂で合流な」


「うっ、分かったよ」


 そこまで言うと、さすがにハルナも自分の行動のおかしさに気づいてくれて、

大人しく部屋を出て食堂へと向かった。

 その様子を見てマサトは、ホッと胸を撫で下ろして、虚空に向けて声を掛ける。


「それで採寸は終わったのか?」


「もう少し残っているにゃ」


 マサトの背後から隠伏(ハイド)を解除したベスが姿を現す。


「それにしても、よくあの一瞬で隠れられたな」


「視認されていなければ、方法はいくつかあるにゃ。

ホレ、そこに立つにゃ」


 そう言うとベスは採寸を再開する。

そして手際良く計測を済ませると、記録したメモを見ながら

計測の抜けが無いかを再チェックをして、終了を告げて部屋から出て行った。


 マサトも意外と細かく採寸を取っていく様子に、少々疲れ気味となったが、

早々に身支度を整えて、ハルナを待たせている食堂へと向かった。


 ◇◇◇◇◇


 宿屋一階の食堂には、多くの人々が食事を取っていたが、

その中に冒険者然とした者の姿は、そう多くは見受けられなかった。


 それは冒険者の多くが、ハルナのように朝が早い訳では無い事と、

ここに居る者の多くは旅人であったり、

行商人とその同伴者が占めているからである。


 マサトは先に来て場所取りをしていたハルナ達と合流して、

朝食を取りながら簡単な打ち合わせを始める。


「今日から休息日を取る事になっているけど、

冒険者ギルドに狩猟品を渡しておきたいんで、

サントスは持って行くのを手伝ってくれないか?」


「分かりました。ギルドに買い取ってもらうのは、

ジャッカロープとロックバグ、あと鉱石類ですね。

スカリーラーテルは解体を依頼して毛皮を回収で良いんですよね」


「そうにゃ。スカリーラーテルの毛皮は、私が装備を作るのに使うにゃ。

あと鉤爪も全て回収にゃ。

鉤爪は研磨して短剣あたりに加工して、サブウェポンにしようと思うにゃ。

肉や骨等の他の部位は買い取ってもらって良いにゃ」


「ロックイーターは、アルちゃんのエサ用にするのです」


「ベスにゃん。ジャッカロープは全部売っちゃうの?」


「ホーンラビットと大して変わらなかったので、

必要になったら近場で補充が出来るから売って良いにゃ」


「そう言えば、大量のヘビがあったはずだけど、アレはどうするつもりだ?」


「ヘビ酒にした物を宿屋で買取ってもらえたのです。

残りも作ったら買取ってもらえる事になったので、

今日お酒を買って来て時間のある時にヘビ酒を作るつもりなのです」


「ああ、なるほど。ここの宿ならダーハは顔馴染みだし、

お酒の需要もあるから丁度良い取引き相手だよな」


「とりあえずギルドに持ち込む物は、これで良いんですね。

この後、皆はどうする予定なのですか?」


「わたしは、さっきも言った様にお酒等の買い物に行くつもりなのです」


「オレは最初はサンディと一緒にギルドに行くつもりだ。

その後は少し市場を見て回りたいから、

そこでダーハを見かけたら買い物に付き合おうかな」


「ボクは、まーくんに付いて行くよ」


「私は装備作りに必要な他の素材や道具を探すにゃ」


「まぁ、街中に居るなら、目ぼしい物を探せる市場回りをする事になりますよね。

ハルナとダーハは後衛だから鍛冶屋や防具屋より、自分と一緒に回って、

便利そうな物を市場で発掘をした方が効率良く強化が出来るでしょう。

ダーハも自分達と一緒に行動した方が良いと思いますよ」


「分かったのです。わたしも、おにいちゃん達と一緒に行くのです」


 冒険者ギルドへの買取りと解体を頼みに行く段取りを決めると、

ベスは早々に単独行動で出かけて行き、

マサト達は一緒に行動してギルドへと向かった。


 ◇◇◇◇◇


 マサト達は冒険者ギルドで受付嬢のアンナに、

解体作業が終わる夕刻に、解体品を引取りに戻って来る。

と告げて市場へとやって来た。


 その道中でハルナは、サントスを着替えさせる為に連れ出す。


 その為マサトは、ダーハと連れ立って露店を見ながら歩いていた。

 そこに並らぶ品々を見ていると、薬草を扱う露店にマサトが探していた

紫蘇(しそ)の葉が置かれているのを発見した。

しかも青紫蘇と赤紫蘇の二種類が揃っている。

 ダーハに、この世界での紫蘇の扱いについて聞いてみると、


「それはヨーソウと言う野草(ハーブ)なのです。

緑色をした方は、料理の香り付けに()えて使うのです。

赤色をした方は、乾燥させて粉末にして解熱や腹痛のお薬になるのです」


「そうか、オレにとっては食べ物の一種って感覚だったけど、

言われてみれば確かに香草や薬草の扱いになるのか」


 マサトはダーハの説明に納得すると、露店主に紫蘇を全て売ってもらう。

露店主は、マサトがまとめて買ってくれた事に大喜びをして、

感謝までしてくれていたので、ついでとばかりに

(すみ)()けてあった紫蘇の枝や茎を安く売ってくれないか。

と交渉してみた所、元々捨てるつもりだったと言う事で、

サービスとして無料で譲ってもらえた。


「おにいちゃん、ヨーソウの枝や茎なんてどうするのです?」


 ダーハは乾燥させて使うにしても、その太さから下手をすると半乾きになって、

カビの発生の原因に成りかねない枝や茎の部分を買った事に

疑問を投げ掛けて来た。


「コレらは細かく刻んで、お湯で煮出して紫蘇の野草茶(ハーブティ)

してみようと思う。

本当は葉の部分でするのが一番良いんだけど、それは別の事で使いたいから、

まぁ、セコイ代用品だな」


 マサトにとって赤紫蘇は、赤梅干を作るのに使用する事が確定事項。

そして青紫蘇もまた、日本人が求める食べ物の為に無駄に出来ない食材だった。

 その為マサトは、紫蘇の使用用途を先走って模索していた。


「マサト、難しそうな顔をしてどうしたの?」


 マサトが思案に更けていると横から声を掛けられる。

そこには、久しぶりに見る赤髪のサンディの姿があった。

 サンディは、前回のベスの指摘もあり、

赤髪に変えているバレッタを使い、髪をハーフアップに上げながらも、

まとめたサイドの髪を下ろし気味に調整をして

ハーフエルフの特徴的な長い耳を隠していた。


「やっぱり髪の色が変わると印象が変わるな」


「はわわわ、ビックリなのです」


「あっ、そっか。ダーハちゃんは、初めてだったねぇ」


 サンディの後ろから現れたハルナも、ダーハが赤髪のサンディを見るのが

初めてだったと今更ながら気づく。


 とりあえず、皆が合流出来たので、マサトは先程買った物を報告すると、

ハルナは目を輝かせて、青紫蘇のドレッシングや天ぷらを作る。

と言って油と粉物を探し始めた。


 元々ダーハがお酒を買いに来ていたので、

諸々を含めて買い足しながらハルナを落ち着かせる。

 ただマサトも、ハルナが作る料理を内心で期待していたので、

他の揚げ物も作れる様にと、材料をしっかりチェックして補充しておいた。

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