表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/100

036.禁断の果実

「まーくん、勘違いだよぉ」


「そフよ。マチャト」(ヒック)


「あのあの、ごめんなさいなのです。

ついつい、つまみ食いをしてしまったのです」


「私は一応止めたにゃ。

証拠を示せと言われても何も出せないけど、

夜間の見張りが出来るように、酔ってない事は誓うにゃ」


 マサトは四人の様子を観察しながら、どうするか思案する。


 ハルナは、梅酒を飲んだ事を認める気がない。

 サンディは、歯止めが利かずに泥酔している。

 ダーハは、梅の果肉をつまみ食い。

 ベスは、飲んではいないが本気で止める気も無かった、と……


「まぁ、真偽が分からないから連帯責任を取ってもらおうか」


 そう言うとマサトは、まず明らかに泥酔しているサンディを引っ張り出して、

皆から離す。そして……


【ガッ、ゴッ、ゴホゴホッ……イヤァーーーッ!】


 あれだけ泥酔していたサンディの意識が一気に覚醒し、

同時にパニクった悲鳴が上がった。


 その声にハルナが、ダーハが、ベスが身体をビクリとさせて戦慄する。


 離れた場所ではサンディが、地面に(うつむ)いて、いろいろと吐露(とろ)している。

 その姿を、まざまざと見せ付けられたダーハが心底(おび)えていた。


「さて、次はダーハの番かな」


 マサトは微笑みを浮かべながらダーハに近づき声を掛ける。


「あのあの、ご、ごめんなさいです。

次からは、ちゃんと言い付けを守るのです」


「大丈夫、これで死ぬ事は絶対に無いから安心して良いよ」


「安心の意味が何かおかしいのです。ごめんなさい。ごめんなさいなのです」


 ハルナとベスの前からダーハが引き離されて行く。そして……


【アァゥ、ウゥア、イィァ……ヴァァァ……】


 ダーハの言葉にならない悲鳴が、

ハルナとベスに否応の無い恐怖と想像力を膨らませる。


 離れた場所でダーハが、地面に俯き、やはり何かを吐露していた。


 ここに至ってハルナとベスは、

二人がマサトによって何かを食べさせられていたのだと気づく。


 マサトがベスの前にやって来る。

 さすがのベスも、その身に迫る得体の知れない危機に、自己保身の弁明に走る。


「ちょっと待って欲しいのにゃ。

私は本当にお酒には手を出していないし、止めたのにゃ」


「でも本気で止めた訳じゃないだろ?

ベスならハルナ達の手から盗る事も出来たはずなんだし」


「そ、それは否定出来ないのにゃ……」


「ただ、今オレから逃げようと思えば逃げられるのに、

それをしなかった事を評価しても良いと思っている。だから選択肢をあげよう」


「ど、どんな選択かにゃ……」


「ここに二つの試作品を用意してある。どちらもオレが試作した物だ。

片方がツヤのある梅、もう片方が同じくシワのある梅。

どちらか好きな方を食べてもらおうと思う。どっちが良い?」


「あっ!」


 マサトの問いにハルナが反応する。

 しかしながらハルナは、それ以上何も言おうとはしなかった。

 その様子にベスは思考する。


(おそらく子狐達が食べさせられたのは、このどちらかに違い無いにゃ。

マサハルの反応から見て、マサハルの世界の食べ物で、

私が選ばなかった物を食べさせられると思ったツガイが、

私に余計な知識を与えないようにと口を閉ざしたと見たにゃ。

梅は生で食べると毒があるって言ってた事と、

梅酒から取り出した梅の実が、柔らかくなっていた事から考えると、

硬い感じが残っているツヤのある梅の方が、毒性が残っていて苦い物で、

シワのある梅の方が、見た目は悪いけど熟していて美味しい物と

考えるのが正しいように思えるにゃ)


「シワのある梅をもらうにゃ!」


「ほいっ」


 ベスの口に、シワのある【梅干(うめぼし)】が数個、放り込まれる。


【ウガァ、ウァッ、ガァ、アァァァ……】


 ベスが梅干の刺激に悶絶する。


「やはり予想した事が、その通りになったとしても

それが良いとは限らないな。

この世界でも梅干は、受け入れられないか……」


「まーくん、やり方が最悪だよ。

それと、なんで同じ物なのにベスにゃんに選ばせてたの?」


「食感が違うだろ?」


「まぁ、そうだけど……。

カリカリ梅なら多少はダメージを抑えられたかもだね。

それで、ボクにも梅干を食べさせるの? ボクは梅干なんて平気だよ」


 ハルナは、ネタがバレている梅干の刑が、自分には通用しないと主張する。


「いや、別の物を用意してある。その前に……」


 しかしマサトもそんな事は百も承知しているので、

アッサリとその手段を放棄した。


 マサトはベスを起こすと、サンディとダーハを連れて来てもらう。


「さて、オレは事前に、もし約束を破ったらどうなるか分かっているな? 

と釘を刺しておいたにも関わらず反故(ほご)にされたので、

梅酒と同じ梅を使った梅干と言う食べ物をしっかりと堪能してもらった。

なかなか刺激的で絶賛してもらえたようなので、定期的にご馳走したいと思う」


「マサト、ごめんなさい。

もう調子に乗ったりしないから、あれだけはもう止めて!」


「おにいちゃん、もう言い付けを破らないのです。ごめんなさいなのです」


「舌がバカになるから、もう勘弁なのにゃ」


 さすがに今回の梅干の刑が堪えたようで、全員が顔を青くして懇願して来た。

 そこでマサトは、救いの手を伸ばす。


「サンディは、何回か同じ事を繰り返しているから、

ベスとダーハが、ちゃんと目を光らせていてくれるなら考えても良い」


「「分かったのです」にゃ」


「うっ、肩身が狭い」


「それで三人が、ちゃんとしてくれるなら、コレを作ってあげても良い」


 そう言ってマサトは新たな梅酒を取り出した。


「マサト、それって別の梅酒?」


「まぁ、試しに飲んでみてくれ」


 マサトは三人に微量の梅酒を注いで渡す。


「甘いのです」


「スッキリしているわね」


「梅の匂いが良いのにゃ」


「えっ、えっ、えっ?」


 三人の高評価に、飲ませてもらえていないハルナが

何が行われているのかと困惑する。


「最初に作っていた時に、予備として残しておいた材料で、

改めて本来の作り方に近づけて作り直してみた。

この方法は、最初に作っていたのを見ていたサンディも知らない方法だから、

例えサンディに作り方を聞いたとしても、ハルナには再現が出来ない。

あの時に比べて、一工程多く手間も掛けているしな」


「まーくん、ボクも飲んでみたい……」


「ハルナ。オレは事前に、もし約束を破ったらどうなるか分かっているな? 

と釘を刺しておいたと、さっきも言ったよな。

これがハルナに対するペナルティだ」


 マサトはハルナに、この梅酒を飲ませる気が無いと宣言する。


「とは言えオレが、この梅酒を共有の腕輪に収納していたら、

ハルナが簡単に取り出せてしまうので、これはベスに預けておく。

ベスの管理の下で節度を以って、三人で飲むのは許可する。

度が過ぎる飲み方をしたり、ハルナに飲ませたら全員に梅干の刑だ。

そして二度とこの梅酒は造らない。

ただし、オレに隠さずに異常を報告をしてくれるのなら刑からは除外する」


 マサトは現代では選挙活動くらいでしか適応されていない、

他人の罪により連帯して処罰するシステム、

連座制でハルナの飲酒抑制の包囲網を構築する。


 ハルナはマサトが造った新種の梅酒を飲みたがっていたが、

他の三人が完全に梅干の恐怖に呑まれ、誰もハルナに味方をしなかった事で、

この騒動は次第に終息して行った。


 マサトとしては、本来は材料が揃ってから作ろうと思っていた梅干を

計画の前倒しをして試作する事となった為、一応の完成が成された事に喜ぶも、

「ただ、やっぱり赤紫蘇(あかしそ)が欲しかったよなぁ」と心残りもあった。


 梅干が赤色をしているのは、赤紫蘇と一緒に塩漬けする事で、

その色素で着色されているからである。

 それが成される前段階までであるマサトが作った物は、

白干し梅と呼ばれる物であった。


「赤紫蘇があれば、紫蘇梅(しそうめ)で赤く出来たし、

漬けた赤紫蘇を乾燥させて、ゆかりのふりかけに出来たのになぁ」


 そんな事を夢想していると白米と一緒に食べたくなってくる。


「よし、米を()ごう」


 マサトは衝動的に米を()く準備を始める。


 そして夜間の見張りの番までの小休止の間に、

米を水に浸して置きながら仮眠を取り、

見張りの順番がやってくると米を炊き始め、

炊き上がるとマサトは、次々と梅干入りのおにぎりを握っていくのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ