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034.酒造

 ──遠征9日目の朝を迎えた──


 前日に引き続き寝ずの番をしていたマサトも足下で、

ガブリエルとイミュランのヒナ、アルバトロスが連れ立って寝ている。


 時折、アルバトロスがお腹を空かせて鳴き始めると、

ガブリエルが収穫の腕輪から、ロックイーターをすり潰して作った

ヒナ用のエサを器用に取り出して与えていた。


「オマエ、何気に面倒見が良いよな」


 マサトはガブリエルを撫でながら、カマドに乗せて温めておいたスキレットに、

スライスした芋を敷き詰めて蒸し焼きにしていく。


 小腹が空いたので間食用のつもりで作っていたのだが、

調子に乗ってズルズルと作り過ぎたので、

一旦、共有の腕輪の中に収納して、合間をみて消費していく事にする。


「おにいちゃん、おはようです」


 そうこうしているとダーハが、いつもより早く起きて来た。

そしてアルバトロスの下へやって来ると、楽しそうに眺めている。


 そんなダーハの横を眠そうにしているハルナが通る。

 朝食の準備をしていたハルナだが、明らかに睡魔に根負けしていた。


「ハルナ、大丈夫か?」


「う~ん、ねむねむだよぉ」


「先に休んでて良いぞ。後の事は、なんとでもなるからな」


「それじゃあ、先に休ませてもらうよぉ。おやすみ」


「おねえちゃん、おやすみなのです」


 ハルナは準備をしていた朝食をダーハに引き継いでもらい、

早々にテントに潜り込んで眠り始めた。


「おはにゃ」


「おはよう」


 ハルナと入れ替わりにベスとサンディが起きて来る。


「ああ、おはよう。

今日は午前中はサンディで、午後からはハルナに

休息時間を取ってもらうから、ベスはダーハの事を頼むな」


「分かったにゃ」


「それじゃあ、あたしは山林の方を探索しながら、

森林浴でもさせてもらおうかしら」


「単独行動になるから、あまり無理は……あれっ、口調が戻っていないか?」


「そう言えば……今日は調子が良いわね」


 サンディは、いろいろと発声を試して異常が無い事を確認する。


「どうやら治ったみたいね」


「でもでも、一応もう少し薬湯を飲んでおいた方が良いと思うのです」


「そうね。水筒に残っている分は少しずつ飲んでおくわ」


 サンディはストレージコートで持ち運んでいる薬湯を一口飲んで、

マサトからの引き継ぎ報告を待つ。


 マサトも思いついた事を報告するだけすると、

アクビと共に訪れた睡気に、あがない切れなくなって就寝についた。


 ◇◇◇◇◇


 昼過ぎに目を覚ますと、すでにハルナが起きていてサンディと話をしていた。

 どうやらサンディが午前中に探索していた山林で、

食用のキノコを見つけて来たらしい。


「一応確認しておくけど、これらのキノコに毒は無いんだよな?」


「当たり前よ。あたしの中古鑑定で、ちゃんと確認済みよ」


「大丈夫だよぉ。ちゃんとダーハちゃんに確認してもらうから」


「あれっ、あたしよりもダーハの目利きの方が信用が高い?」


「サンディの場合、何かと見落としをしていそうで怖いんだよな」


 マサトは冗談めかしながら、サンディを生温かい目で見る。

 そして、多弁草の見張りをしていたベスとダーハの下へと向かって、

いろいろと確認をする。


 多弁草は順調に採取出来ており、明日には十分な量が確保されそうだと言う。

 そしてサンディが採取して来たキノコは、

一種類を除いて問題が無い事がダーハによって確認された。


「サンディ……」


「えっ、これ全部毒も無いし、食用なのは間違いないわよ」


「あのあの、確かに食べれるのです。

でもでも、コレだけは、ちょっと問題があるのです」


 ダーハがキノコを一つ手に取って皆に見せる。


「それって『酔っ払いダケ』でしょ。別に毒は無いわよね」


 サンディが心外とばかりに顔を膨らませている。


「あのあの、酔っ払いダケを口にした時に起きる酔ったような状態も、

言ってみれば毒と同じ状態異常の一種なのです。

要するに、幻覚に掛かっているような状態なのです」


「えっ、あれってキノコを水に浸しておいたら、

お酒に変わるって言うんじゃなかった?」


「それはよく勘違いされている間違いなのです。

もしくは分かっていて、お酒の代用にしているのを誤魔化しているのです」


「あたし薦められて、飲んだ事があるわよ」


「サンちゃん……」


「酔っ払いダケは、特に強い味や臭いがある訳でも無いので、

そう言った意味では問題なく食べれるのです」


「あたしの中古鑑定には『食べると酩酊(めいてい)状態になる』って出ているんだけど?」


「状態変化としては間違いでは無いので、鑑定は正常に出ていると思うのです。

でもでも、判断力や集中力が低下するのです。

毒になる物なら『食べると毒状態になる』って出ると思うのです。

つまりそこはサンディさんの認識の違いであって、

毒に掛かっているのと同じ状態なのです。

あとあと、キノコ酒の副作用として現れるのが頭痛なのです。

二日酔いと似ているので本当にお酒だと思われてしまっているのです」


「サンディ、そこの所はどうなんだ」


「言われてみれば、ダーハの言うとおりね」


「要するにエセ商人を信じて、皆でキノコ鍋でも食べていたら、

全員が酔っ払って、最悪の場合、魔物の襲撃で全滅していたって事かにゃ」


「サンちゃん、危なっかしいよ」


「ご、ごめんなさい」


「酔っ払いダケで作られたキノコ酒は、作るのが簡単なので、

それなりに出回っているのです。試しに作ってみるです?

一度飲んで覚えておくのも良いと思うのです。

他のお酒と比べると味も香りも弱い方なので、

知らないでいると気づかないうちに量を飲んでしまいやすいお酒なのです」


「まぁ、わざわざ買ってまで飲もうとは思わないけど、

ダーハが作ってくれるのなら、試しに一度飲んでみるのも良いかもな」


「分かったのです。ヘビ酒と一緒に作っておくのです」


「う~ん、それなら私も酒作りを少し手伝って来て良いかにゃ」


「ああ、構わないよ。見張りは俺とサンディでしておくから」


「じゃあボクは、まーくんを手伝……」


「オマエは、こっちに来て水を出すにゃ」


 ベスが問答無用でハルナの首根っこを掴んで引っ張って行く。


「ベスにゃん、ボクは貯水タンクじゃないんだよぉ」


 ハルナは抗議するもベスに却下され、そのまま連行されて行く。

 その後をダーハと一緒にガブリエルとアルバトロスも連れ立って付いて行った。


 ◇◇◇◇◇


「と言う訳で、こちらが事前に用意しておいた

ヘビ酒とキノコ酒になりますにゃ」


 夕食を前にして、ベスが二種類のお酒を出して来た。


「なんで酒が、こんな短時間に出来るんだよ」


「あのあの、ベスさんに魔石加工を教えてもらって作ったのです」


「どこまで万能なんだよ」


「コレはそう言う物にゃ。

手作業で作れる物の作業工程をちゃんとイメージが出来ていれば、

魔石加工で短縮が出来るのにゃ」


「あのあの、ヘビ酒作りは本来、

ヘビを水で溺れないようにしながら瓶詰めにして、

一ヶ月程掛けて、何度も水を替えながら老廃物を出させてキレイにするのです。

そして改めてビンに入れたお酒で、ヘビを殺して酒漬けにするのです。

その後一年以上漬け込んで、お酒と馴染ませて完成なのです。

なので、今日教えてもらった魔石加工を使っても、一度では出来なかったので、

最初に老廃物を抜く工程をやって、

次にお酒と馴染ませる工程の二度に分けて作ってみたのです」


「まぁ、私はお酒を作った事が無かったので、

子狐がちゃんと作り方を覚えていたのが大きかったにゃ」


「キノコ酒の方は、もっと単純に作れる物なのです。

でもでも、悪酔い状態にならないようにする方が、難しかったのです」


「ボクは、ずっと水を出さされてたよぉ」


「皆、おつかれさま。

そしてサンディ、シレっと酒に手を出してるんじゃない」


「このヘビ酒に使っているお酒は、

あたしがストックしていた物なんですけど……」


「飲むのは良いけど、その手に持っているカップに注ぐのは止めような。

まだ夜の見張りを控えているだろ」


「わ、分かってるわよ」


「それで、おにいちゃんに試飲してもらうおうと思って、

こっちに少しずつ取り分けておいたのです」


 そう言ってダーハが二種類のお酒を薦めてくれる。

マサトは、それらを手に取って一口舐めてみた。


 最初に口にしたのはキノコ酒の方。


 説明を受けていた通り、味も香りもあまり強く感じられない。

 ただ言われたから注意出来るが、知らなければ、

次第に訪れる、ほろ酔い加減に飲まれて、いつまでも飲み続けられる。


 エールの代わりに飲んでみろ、と言われたら水の代わりにと

ズルズル飲んでしまいそうで、予想以上にヤバイ代物だと感じた。


 次に試したのはヘビ酒。


 強目の酒を使っているのは腐敗を防ぐ意味がある為、

飲む時は薄めて飲むのだと言う。

 それでも舐めてみた時に、舌と鼻に強い刺激が来た。


 ヘビ酒には即効性のある鎮痛効果と、徐々に効果を現す疲労や精力回復がある、

と言われているだけあって、この刺激だけで効きそうに思えてしまう。


 二種類の酒が、どちらもクセのある酒だと言う事が分かり、

マサトは口にするなら酒よりも果実水が良いなと思ってしまう。

 苦労して作ってくれたダーハには悪いが、

あまりにも両極端な酒を前にして、

マサトは、どうしてもこれ以外の結論を導けずにいた。


 幸いにして、消費者としてサンディが居てくれるので無駄にはならないだろうと

思いながら、試飲を終えたマサトは、ダーハに(ねぎら)いの言葉を掛けて、

皆で夕食にしようと話題を変えて、その場をやり過ごす。


 しかしながら、食事の合間にちょくちょくと、

ハルナがマサトの空いたカップを見て、

変に気を回してヘビ酒を注ごうとして来る。

 その度にマサトは、先回りして野草茶を注ぎ足すと言う

追い駆けっこをするはめとなった。


 ともあれ夕食を終えるとマサトは、夜の見張りに備えて仮眠を取った。

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