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027.強欲

 ──遠征4日目の朝を迎えた──


 マサト達は人狼による閉鎖空間『人狼遊戯』により廃村サスに閉じ込められ、

一匹の人狼を撃退するも、未だに廃村からの脱出が出来ずにいた。


「二匹目の人狼がいます」


 スーランが口火を切る。


「すでに皆がご存知の通り、

昨晩、私とマサト達のパーティで人狼の撃退に成功し、

その正体はマーカスでした。

しかしながら、モーリツが襲撃を受け、

村を覆う閉鎖空間『人狼遊戯』も解除されていません。

つまり二匹目の人狼が居る事になります」


 スーランの言葉を受け、ケヴィンが状況整理をする。


「まず情報の共有をすべきだろう。少し(さかのぼ)って状況を整理するぞ」


 ◆◆◆ケヴィンの情報整理◆◆◆


 前日の話し合いの流れと人狼候補の絞り込み方法。

 人狼の最初の犠牲者は、ゲルド。

 最初の人狼との遭遇戦の参加者は六名。

 アーチン、スーラン、マーカス、ミラ、モーリツ、クモン。


 サントスの観察で、スーランを除外。

 人狼遭遇戦で、人狼との接触が無かった、ミラ、モーリツを除外。

 上記の流れにより、観察対象とされたのは、アーチン、マーカス、クモン。

 上記三名が人狼として疑った対象者は以下。 


 アーチン←─────マーカス

  │         ↑

  └──→クモン───┘


 前日に討伐された人狼の正体は、マーカス。

 人狼討伐戦の参加者は、スーランとマサトのパーティメンバー全員。

 この際、全員が人狼の攻撃を受けずに撃退している事から、

 新たに人狼化した者は居ない。

 よって、この戦闘に参加した者は全て人狼候補から除外。


 人狼討伐戦とは別に、モーリツが人狼の襲撃を受け死亡。

 人狼の襲撃を受けているのは、共にクモンのパーティメンバー。


 現状で人狼候補は、アーチン、クモン。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「こんな所だろう」


「分かりやすいのです。ありがとうなのです」


「それにしても最初はゲルド一人だけだったのに、

マーカスともう一匹の人狼が、二ヶ所を襲撃して来るとは思わなかったな」


 マサトは新たに存在が明らかとなった二匹目の人狼にため息を漏らす。


「そうですね。私も全く予想していませんでした」


「まったく、強欲な人狼なのにゃ」


「そうだな。それでは二匹目を別個体と認識する為に、

以降は【強欲な人狼】と呼ぶ事とする」


 マサトのため息交じりの現状把握に、

スーランもベスも辟易(へきえき)としながら同調し、

ケヴィンが話を建設的に進める為に、二匹目の人狼を識別する。


「分かりました。それと私達が昨夜遭遇した白毛の大狼、

ダイアウルフの事がありますね」


 そしてスーランも話を進めるべく、昨夜見たダイアウルフを話題に出す。


「ちょっと待つウニ。人狼以外に魔物が村の中に居るウニ?」


「ダイアウルフって、随分昔に滅んだ魔物だわさ。

なんでそんな名前が出てくるわさ!」


「おいおい、冗談じゃないぞ。人狼以上の化け物じゃないか。

いや待てよ。それならモーリツの旦那を殺したのは人狼じゃなくて、

そのダイアウルフって魔物の仕業かもしれないんじゃないのか?」


 希少種として名高い強力な魔物の名前を聞き、驚愕の声が上がる。

 マサトは、そんな皆の様子を観察していた。


 アーチンはガタガタと身震いしており、ミラは愕然と立ち尽くしている。

 クモンは落ち着き無くツメを噛んでいる。

 そして、ケヴィンは腕組みをしながら目を伏せて思案していた。


 カブリエルは、なぜか定位置と化しつつあるムーランの足下で伏せており、

ムーランもまた、ガブリエルを可愛がり撫でながら、

スーランの話に耳を傾けていた。


「ダイアウルフは、手負いの人狼マーカスを仕留めた後、

ベスが対峙して、その結果、交戦する事無く身を引いて去って行きました」


「アレは、こっちから余計なちょっかいを出さなければ襲われないにゃ。

実際、私は武器を納めて敵意が無い事を示したら、帰って行ってくれたにゃ。

おそらく人狼は、私達からの逃走時にダイアウルフと遭遇して

突っ掛かって行った結果、返り討ちになったんだと思うにゃ」


「なんだか、とってもマーカスらしいだわさ……」


「触らぬ髪に祟り無しって言うウニ。ウニは髪も命も惜しいウニ」


「ふむ、俺は今の話を聞いた限りでは、

そのダイアウルフの事は放置しておいても良いと思う。

誰も好き好んで、これ以上厄介な敵を作りたくは無いだろう」


「ウチも、まずはマーカスに当てる予定だった観察を、

今日は誰に使うかを話しあった方が良いと思います」


「そうだな。とは言ってもアーチンとクモンの二択だよな」


「でも、もうどっちでも良いよね。狼さんって出なかったら反対の人な訳だし」


 ハルナの言葉で、皆が確かにそうだと気を緩ませる。

 しかし、そこをクモンが(さと)した。


「いやいや、ちゃんと決めましょうよ。

あっしは、アーチンを観察して欲しいです」


「ほう、それはなんでだ?」


 今までモーリスに任せて控えめだったクモンの言葉に、ケヴィンが興味を持つ。


「サントスの観察って、鑑定の下位互換って事でしたよね。

本当に人狼が分かるんですか?

あっしは、人狼の阻害も含めて観察で人狼が見つけれない場合が怖いです。

だから、あっしから見て人狼であるアーチンを観察して確認して欲しいです」


「え~、今更サンちゃんの事を疑うの?」


「だがオレ達からしたら盲点ではあるな。

実際にサントスは観察で人狼を見つけた訳ではないし、

昨晩の戦闘では全員が人狼化を避ける為に、戦闘に集中していた事と、

観察の再使用のタイミングが、どの時点で発生しているのかが

分からなかっただけに、サントスも観察でマーカスの状態を確認出来ていない。

クモンの意見を一方的におかしいと言う事は出来ないな」


 マサト達からすれば、サントスの『観察』の正体が、

中古鑑定と言う鑑定の上位互換である事が常識となっているが、

他の者達には観察を鑑定の下位互換と説明しているだけに、

この意見をマサト達が一蹴する訳にはいかなかった。


「ウチからは、アーチンとミラ、そしてクモンに質問ですが、

昨晩、モーリツが襲撃された頃、何をしていましたか?

特にクモンはモーリツと一緒だったはずですが、どうなのですか?」


「ウニは、ウニ達が確保していた家屋(かおく)に一人で居たウニ。

スーランに起こされるまでは、うっかり寝ていたウニ」


「同じく一人で居ただわさ。ただしアーチンとは別の建物だわさ。

さすがに万が一の事を考えて、

居場所はスーランにだけは知らせておいて身を隠していたわさ。

スーランが知らせに来るまでは、何も分からない状態だったわさ」


「まぁ、ミラはそうなるよな。

アーチンは人狼候補だし、スーランはオレ達とサントスの護衛に出てたものな」


「あっしは、途中まではモーリツの旦那と一緒でしたが、

あっしも人狼候補の一人です。

さすがに旦那に気を使って、別の所で一人で居ました。

外が騒がしくなったので様子を見に出た所で、スーランと合流して、

旦那の亡骸を発見した次第です」


「そうですね。私はクモン、モーリツ、ミラ、アーチンの順で合流しました。

人狼討伐後すぐにクモンと合流してモーリツの遺体を発見。

その後、ミラの保護に向かい、アーチンの寝顔に思わず苛立ち叩き起こしました」


「ひどかったウニ」


 ムーランは、三人とスーランの補足を受け思案する。


「ウチはクモンが、強欲な人狼のように思えます。

アーチンが人狼なら、残念な人狼です。なので除外しても良いかと思います」


「ひどいウニ」


「ウチは、今回の襲撃先からの考察をしてみました。

人狼の襲撃候補は、大雑把に言えば四箇所です。

観察持ちのサントスと護衛をしている者達がいる古民家。

ほぼ人間視されていたミラとモーリッツの二人の住居。

そして、完全に対象外に置かれているウチ達です。

今回の襲撃先は二箇所。サントスとモーリツです。

ここで、人狼の襲撃先と人狼の【襲撃のしやすさ】からの【担当】、

つまり襲撃考察を考えて見ます。

マーカスは人狼が確定ですので、必ず襲撃に参加させます。

そして襲撃するのなら、同じパーティの者が担当するのが妥当な点と、

実際にマーカスがサントスを襲撃している点を考慮した結果は、こうなります」


 ◆◆◆襲撃考察◆◆◆


 ①ミラとモーリツ襲撃の場合

               担当:マーカス→ミラ。クモン→モーリツ。


 ②サントスとミラ襲撃の場合

               担当:マーカス→サントス。アーチン→ミラ。


 ③サントスとモーリツ襲撃の場合

               担当:マーカス→サントス。クモン→モーリツ。


 ④サントスとムーラン達襲撃の場合

               担当:マーカス→サントス。同パーティ者無し。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ここでミラの所在を知っていたのが、スーランのみであった為、

①②の実行が困難だった点を考慮すると、

自ずと③が残り、実際の襲撃と一致します。

よって比較的ではありますが、

ウチはクモンの方が強欲な人狼であると考えます」


「「「「「おおーっ!」」」」」


 ムーランの説明に感嘆の声が上がった。


「あと補足としてですが、④はウチ達二人を相手にする事になるので、

①②よりも人狼のリスクが高くなります。

観察持ちを潰せる訳でも無い為、人狼も素直に除外したのでしょう」


「まーくん、今までで一番それっぽい意見が出て来たよ」


「確かに。クモンは急にサントスの観察も疑い出してたし、

観察を避けたそうにも見えたな」


「クモン、視るでちゅ?」


 サントスはムーランの意見に感嘆し、一瞬(ほう)けていたが、

自分達のパーティから見れば、結局は二人とも観察する事になるだろうと、

かなり気の抜けた返事と共にクモンに向き直る。


【ガキィィィーーーンッ!】


 サントスの視界が(さえぎ)られる。


 その瞳に映っているのはクモンの姿では無く、

黒いマントを羽織った大きな背中であった。


「サントス下がれ。強欲な人狼だ!」


 サントスは声に反応して飛び退く。

 そして強欲な人狼の爪撃を剣で防ぎ、今なお応戦しているケヴィンと

強欲な人狼の戦闘を視て背筋を凍らせていた。


「あぅ、あぅ……」


「まーくん、サンちゃんが、なんか壊れているよ」


「そりゃあ、いきなり人狼化したクモンに襲われて死にかけたんだ。

動揺もするだろう。サントスは下がらせてオレ達もケヴィンの加勢に入る。

ダーハ、サントスを頼む」


「は、はいなのです」


 マサトは身を震わせているサントスをダーハに預け、

強欲な人狼と化したクモンを追った。

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