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025.昼

「今、オレが皆の前で毒見をした事からも分かってもらえると思いますが、

このヤカンの中身の野草茶には毒なんて物は入っていません。

ノドが渇いたら好きに飲んで下さい。

注いだ器は皆さんの持参なので、

もし体調に異変が合った場合は、自己責任って事でよろしく。

さて問題の人狼を見つける案があったら、教えて欲しいです。

オレ達は午前中、『観察』持ちのサントスを守る為の拠点作りをしていました。

もし不用意にサントスが殺害された場合、

オレ達のパーティの中に人狼が居る可能性が出て来てしまうので。

お互いの為にも、日数を使って観察で人狼候補を絞って行きたいと考えています。

なので可能なのであれば、

スーランにも今夜からサントスの護衛に参加してもらいたいと言うのが、

オレ達からの提案なのですが、どうでしょうか?」


 マサトは、皆に野草茶を振舞うと言う行為から、

最初の発言権を確保して話し合いの主導権を取りに行く。


「私としては願っても無い提案です。

サントスに仲間の身の潔白を証明してもらえるのですから当然協力します」


 スーランはマサトの提案を受け入れ協力の意思を示す。


「ワシは、ゲルドの仇を取れるのであれば構わないですじゃ。

ただし心情的には、かなりモヤモヤしておるがのぉ……」


 複雑な立場と心境であるモーリツも一定の協調の姿勢を示してくれる。

 それに続いて口を開いたのはケヴィンであった。


「俺達もサントス護衛に関しては問題は無い」

ただモーリツが感じているように、いたずらに日数を掛けたいとも思わない」


「ウチはスーラン達に、人狼と戦った時の事を聞かせてもらいたいですね。

特にその時、傷を負ったのが誰かをハッキリさせて欲しいです」


「そう言えば人狼化の条件が、人狼の噛みや血液感染とか言ってたよね。

もしかして昨日、ボクが魔法で治療した時、

ウニさん達の治りが鈍かったのと関係しているのかなぁ?」


 マサトの問いに、スーラン、モーリツ、ケヴィンが順に答え、

ムーランの質問の意図をハルナが補足し、状況確認が(うなが)された。

そしてその問いにモーリスが応じる。


「それでは、ワシから話すかのぉ。

ワシは護衛のクモンに最後まで守られていたので、

怪我を負う事は無かったですじゃ。

代わりに応戦してくれたクモンが大怪我を負って、

皆さんも知っての通り、今もその傷が癒えていない状態ですじゃ」


「まぁ、あっしからは特に言う事は無いですぜ。

情け無い事にモーリスのダンナの説明通りなんで」


「ウニ達は最初、マーカスが飛び出して行ったのを切っ掛けに戦闘になったウニ」


「チッ、仕方がねぇだろ。オレが行かなければ全滅コースだったろうがっ」


「確かにそうだったでしょうね。

その時はブラックウルフだと思っていましたが、

その個体一匹を相手に、マーカスとアーチンが剣で、私が剣と支援魔法、

ミラが攻撃魔法で応戦して、なんとか撃退しました」


「アタイは後方で魔法を使っていたから、人狼に近付かれる事は無かったわさ。

前線に出ていた三人は、少なからず噛まれたりして

怪我を負っていたのは間違いないだわさ」


 モーリスに続き、クモン、アーチン、マーカスが続き、

スーランとミラが戦闘時の状況を補足してくれた。

 その話を聞きムーランが一つ示唆(しさ)する。


「要約すると人狼と全く接触していないのが、モーリスとミラですね。

ウチは、この二人は人狼化した可能性は無いと思います。

怪我の傷口から返り血が入って血液感染を起こす。という事も無かったでしょう。

少なくとも明日の観察に、この二人は除外して良いと思います」


「おお、まーくん。いきなり候補が二人減ったよ」


「そうだな、無作為に観察を当てるより良いよなぁ」


「そうなると候補は、アーチン、マーカス、クモンか。

こうなると俺はクモンから調べてもらいたい。

最初に食い殺されたのが、いわゆる身内のゲルドだ。

油断していた相手なら容易に襲撃出来たと考えられる」


 ケヴィンが人狼候補の中から、クモンに疑いを向ける。

 しかし、それに対してダーハが素朴な疑問を投げ掛けた。


「えっ、クモンさんは大怪我をしているです。

そんな身体で人が襲えるのです?」


「人狼は、高い自然治癒能力を持っていたはずだ。

確か昨日クモンは、魔法でも(ろく)に怪我が回復していなかったはずだが、

今日は随分と回復しているように見える。この不自然さからも俺は怪しんでいる」


「ワシとゲルドを守ってくれていたクモンが、人狼であるはずが無いですじゃ」


「それを言うなら、商隊の危機に真っ先に救出に飛び込んだマーカスも同列にゃ。

そこのオスの方が感情論を切り離していて、

冷静に物事を見ているように思えるにゃ」


「まぁ、あっしとしては観察を受け入れても良いですぜ。

それで人間って分かってもらえれば、

アーチン達のパーティに人狼が居るって絞れるんでしょ?

分かりやすくなって良いと思いますぜ。

その後は役に立つとは思えないですが……」


「それなら、ここは一番半端で怪しいウニを、明日観察して欲しいウニ」


「なんで怪しまれているのに喜しそうなのです?」


「観察してもらえれば人間と出ると思っているのでしょう……」


「ウニは人間だから、当たり前ウニ」


「アーチン、人間だと観察されれば、人狼に殺されるリスクが増しますよ」


「ウニ?」


「アーチン、観察済みの者は、人狼の隠れ(みの)になりません。

人狼にとっては用済みの存在になるので、

獲物として、ちょうど良い襲撃対象になります。

観察を受けるとは、そう言うリスクも伴うのですよ。

だからクモンは、観察後に役に立つとは思えないとも言っているのです。

そこの所を、ちゃんと考えていますか?」


「ウ、ウニは最後の方を希望するウニ……」


「まーくん、ウニさんは、もう人間で良い気がするよぉ」


「確かにアーチンは、スーランの観察の時も、次の観察を受けたがっていたよな」


「その考え方は止めとけにゃ。カウンタースキルの事を知っていたら、

観察が出来ない事も分かっているのにゃ。

ブラフで観察されない位置にいたかったのかもしれないにゃ」


「オレが言うのもなんだが、少なくとも誰を明日の観察に当てるかを、

この場で言わない方が良くないか?

場合によっては、それが切っ掛けで人狼の襲撃対象にされちまうぞ」


「マーカス、あなたの言い分も分からなくは無いのですが、

それを言うと何も話しが出来なくなります。

あなた達は、もう少し考えてから話をしなさい」


「これもう分かんないだわさ」


「まーくん、結局誰も最初に観察して欲しくないって事になっちゃったね」


「アーチンやマーカスの意見が伸びなかったり、出難(でがた)いのは、

スーランが二人に干渉しすぎるってのが大きいように感じられるな。

同じパーティの仲間って意識が強すぎて、良い子に見せたがってる感じなんだよ。

それで逆に怪しさが出てしまっていたりもするんだと思う」


「す、すみません……」


 スーランのパーティリーダとしての指摘による弊害(へいがい)が浮かび上がる。

 それを受け、ケヴィンが別方向から切り口を開く。


「俺から三人に質問だが、

自分から見て他の二人の中に人狼が居る事になる。

つまり俺達より一人分、人狼が誰か絞れている状況だ。

だから、どちらが人狼に見えるかを言って欲しい。

お前達からだこそ、気づける事もあるんじゃないか?」


「ウニは、クモンが怪しいと思うウニ。

ケヴィンも言っていたウニ。

仲間のゲルドだから、怪我をしているクモンでも襲撃出来たと思うウニ」


「オレは、こう言ってはなんだがアーチンの方が人狼だと思う。

クモンは、あれだけの大怪我を負っていたんだ。

あんな殺し方をゲルドに出来たとは思えないな」


「ちょ、ちょっとマーカス、待つウニ。何その手のひら返し? ウニは無実ウニ」


「あっしはマーカスですかね。

アーチンが人狼なら、わざわざゲルドでなくても、

非力なミラあたりでも良かったと思います。

アーチンとマーカスなら、マーカスの方がまだ考えが回ってそうに思えます」


「結局は、三すくみになったか。

最後に答えたクモンが人狼なら、アーチンに疑いを被せてくるかもと期待したが、

上手くはいかないものだな」


「え~と、今はどうなっているのです? 分からなくなっているのです」


「それではウチが、これまでの話をまとめてみますね」


 ◆◆◆ムーランのまとめ◆◆◆


 現状で人狼候補であった五人の内、観察候補として残ったのは三名。

 アーチン、マーカス、クモン。


 アーチンは、自発的に観察を希望。ただしその後、三人目の観察に希望を変更。

 その理由は人狼からの襲撃を恐れた感じが強い。


 マーカスは、観察先を現時点では伏せる事を提案している。

 観察よりも人狼の襲撃の事を気に掛けているように感じられる。


 クモンは、観察を受ける事を他薦から了承する。

 観察後の事も視野に入れている感じが見受けられる。


 三人が人狼と見ている者は、


 アーチン←─────マーカス

  │         ↑

  └──→クモン───┘


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「こんな感じですね」


「あっ、そう言う事なんですね。ありがとうなのです」


 マサトはムーランのまとめを聞いて指定をする。


「オレは、明日はマーカスに観察を使いたい。

観察に対しての考え方が、他と違っている気がする。

観察先を伏せるって事は、話が進まないし、まとまらない事だよな。

実際、マーカスがアーチンを疑っている事を伏せていたから

おそらく誰も、言われるまで分からなかったはずだ。

対してアーチンとクモンは、他パーティの者を疑っているのが、

ある意味自然だと思う。

それでも他を観察対象にしたいのなら、その明確な理由を教えて欲しい」


「オイ待てよ、逆だろ? 

オレが観察先を伏せたかったのは、身内のアーチンを疑っていたからだ。

身内だからこそ、ギリギリまで考えたいって思うものだろ?」


「スーラン、ミラ。この話をマーカスから相談とかされましたか?」


「いえ、初耳です」


「聞いてないだわさ」


「まーくん、もうここが人狼で良い気がするよぉ」


「そうですよね。

あっしはマーカスだと思ってましたから、それで良いと思います」


「ワシもウニ坊主より、そっちの方が納得出来ますじゃ」


「なんか、とばっちりが来たウニ!」


「マーカス、貴方……」


「はわわわ」


「でちゅぅ……」


 皆のマーカス人狼視が再発する。そんな中ケヴィンが皆を制止する。


「おいおい、落ち着いたらどうだ。

今にも殺しかねない雰囲気になってるが、あくまで観察順の話だったはずだ。

それを素っ飛ばしたら、見誤った時に歯止めが利かなくなる」


「そこのオスの言う通りにゃ。

明日の観察は、どう見てもマーカスに使う事で決定にゃ。

オマエらも、今日はこれで解散にゃ。

それぞれ人狼の夜襲に備えて、明日を迎える為の準備をするにゃ」


 ベスがケヴィンの指摘に協調してバッサリと裁定を下す。

 それらに対して皆に異論は無く、すんなりと解散となった。


 ──そして夜となる──

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