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024.人狼遊戯

 ──遠征3日目の朝を迎えた──


【ゲルドォーーーッ!】


 廃村の中央に位置する広場から、悲痛な叫びが響き渡る。

 朝食の準備中だったマサト達であったが、

何事かと声のした方向に歩みを向ける。

 同様にアーチン達とケヴィン達も中央広場へと赴いた。


──そしてゲルドの無残な姿が発見された──


 物言わぬ姿となったゲルドの(かたわ)らには、モーリスとクモンの姿があった。


 アーチンは、獣に襲われたような姿となったゲルドを確認し

比較的落ち着いた様子だったクモンに聞いた。


「一体何があったウニ」


「分からない。あっしはゲルドが朝から姿が見えなかったので、

モーリスの旦那と村中を探し回っていたら、こんな形での発見になった次第です」


 クモンは、昨晩まで手放せなかった杖を使わずに歩けるまで回復し、

今は項垂(うなだ)れるモーリスの肩に手を置いている。


「ゲルドは、病弱で眠気に襲われやすい体質じゃった。

しかも睡眠が浅かったようで、時折夜中に出歩いていた様子でしたじゃ。

ワシも、まさかこのような事になろうとは思ってもいませんでしたじゃ」


 モーリスは孫の死を嘆き、力無く崩れ落ち膝をついている。


「このままではゲルドが不憫(ふびん)だわさ、(とむら)ってやるだわさ」


 ミカが廃村の離れにある墓地の一画を魔法で穿(うが)ち、ゲルドを埋葬する。


 その間に誰か、ゲルド又は襲撃した獣の姿を見た者が居ないかを

聞いて回ったが、誰一人として答えを持ち合わせていなかった。


 その時、黒いマントを羽織った二人組みの男女、

ケヴィンとムーランが口を開いた。


「俺は、この地域にはいくつかの廃村があり、その村から人が居なくなったのは、

人化の術を手に入れた魔物が、人の生活の場に紛れ込み、

狩場とされた結果滅んだ。と言う話を聞いた事がある。

その際、村人達は村から出る事も叶わず、

疑心暗鬼に駆られて同士討ちも引き起こしたと聞いている」


「ウチは、その話に出てくる魔物に襲われた住人の様子が、

先程のゲルドさんの姿に似てるのが気になっています。

アーチンさん達に聞きたいのですが、

あなた方が、モーリツさん達を助けた際に戦ったとされる魔物とは、

何だったのですか?

それとすみませんが、サントスさんのパーティの方で、

どなたか村の外の様子を見て来てもらえませんか?」


「あっ、それなら私が外を見て来るにゃ」


 ムーランの要請を受け、ベスが村の外の様子を見に駆けて行く。

そしてベスを見送った皆の視線が、

アーチンとモーリツのパーティに集まる中、スーランが答える。


「あれは、ブラックウルフだったと思います。

ただし通常個体より大きな魔物でした」


「つまり狼種だな。それならおそらくコレで決まりだ。

お前達の中に【呪われし者】がいる」


 ケヴィンの言葉に皆の注目が集まり、その先の言葉を待った。


「アーチン達が遭遇したのは、人と獣の姿を持つ魔物【人狼(ワーウルフ)】だ。

お前達の中に人狼に噛まれ、人狼化した呪われし者がいる」


 ケヴィンの言葉で、アーチンとモーリツのパーティの六人が互いに距離を取る。

そんな中、マーカスだけが微動だにせずケヴィンに異を唱えた。


「ちょっと待てやゴルァっ! テメェ好き勝手言ってるんじゃねぇぞ。

テメェの話が本当だって前提で話を進めるんじゃ……」


【ドンッ!】


 マーカスは叫ぶと同時に背後から押し倒され、地面へと激突する。


「痛ぇだろがっ。誰だ、いきなり背中を押しやがったヤツはっ!」


「はにゃっ?」


 マーカスを背後から突き飛ばした犯人はベスだった。


 それは不思議な光景だった。


 激高するマーカスの背後の空間が歪んだと思ったら

そこからいきなりベスの姿が浮かび上がって、

マーカスへと突進して行ったのであった。


「なんかいきなり視界が歪んだ? と思ったら背中が見えたのにゃ」


 その言葉でベスの方でも、かなり不可解な現象が起きた事が(うかが)い知れた。


 ともかくベスが急にマーカスの背後から現れる、

と言う現象を目撃したマーカス以外の者達は、

ケヴィン達が語る内容が真実であるのだろうと認識し始めていた。


「それで、この事態を解消する為の良い手段を知っているのですか?」


 スーランが事態の収拾の為の情報を求めて来る。


「それは紛れ込んでいる人狼を排除するしか無いだろう。

俺はてっとり早く、この六人を始末してしまうのが良いと思うが」


「ひどいウニ。ウニは人狼じゃないウニ」


 ケヴィンのあまりにも直球な答えに、アーチンも反射的な反応を示す。


「それじゃあ、お前達で人狼を見つけ出して始末するんだな。

人狼化する者は、人狼に噛まれて負傷した者とも、

受けた傷から血液感染した者とも言われている。

戦闘時の様子が分かるのは、実際に戦闘をしたお前達だけだ。

お前達なら気づける事もあるんじゃないのか?」


 ケヴィンも、本気で皆殺しにする気は無いらしく

一旦、二組みのパーティに判断を(ゆだ)ねた。


「ねぇ、まーくん。サンちゃんに『視て』もらったら分からないのかな?」


 ハルナが、ふと漏らした疑問の言葉にスーランが反応する。


「もしかして【鑑定】の能力持ちが居るのですか?」


「え~と、自分のは『観察』(中古鑑定)と言って、鑑定の下位互換なので、

こう言った特殊なケースですと、正確に見極められない恐れがあります……よ」


「何も判断材料が無いよりマシです。お願いしても良いですか?」


 サントスは、人の生き死にが掛かっているこの場面で、

自分に判断を(ゆだ)ねられる事を敬遠し、誤魔化そうとするも、

スーランに押し切られて観察する事となった。


「分かりました。それでは視ま、す……」(フラッ……)


 サントスが、スーランを視ようとした所、急に昏倒(こんとう)し倒れた。


「お、おい、サントス!」


 サントスの横に控えていたマサトは、力無く崩れ落ちるのサントスを、

かろうじて支え、ゆっくりと地面下ろして寝かせる。


 実際の容体が分からないマサトは、ベスにサントスの様子を見てもらう。

 その結果は、気を失ってはいるが、その他に異常は無さそうだった。


 目の前で急に倒れたサントスに動揺するスーランに、

マサトは気休めの言葉を掛けながら周囲の反応を見ていると、

間もなくしてサントスが意識を取り戻した。


「スーチャン、人間でちゅ」


 皆の思考が一斉に停止した。


 いち早く復帰したマサトが再度サントスに聞き直す。


「えっ、なんだって? もう一度言ってくれるか」


「スーチャン、人間でちゅ」


「ピカ虫、元気でちゅ?」


「スーチャン、人間でちゅ!」


「アナタ達、真面目にやって下さい!」


 スーランがら思いっきり突っ込まれた。

 しかし、マサトは真剣にサントスの表情を観察していたので反論する。


「いやいや、真面目にやっているから確認したんだよ。

サントスのやつ、顔を真っ赤にして必死に言ってるんだよ。

おそらく、オレ達が受けている採取依頼の原因である奇病と、

同じものが発症している。

あと観察の結果位しか話せなくなってるみたいだな」


「どうやら『鑑定』に類する能力に対して、

カウンタースキルが発動したみたいですね」


 ムーランがサントスの状態を見て、現状を推測する。


「なるほどウニ。でも全員を調べればそれも無意味ウニ。

次はウニを観察するウニ」


 ムーランの見解を受け、アーチンが観察を希望するが、

サントスは首を左右に振っている。

 そして「視えないでちゅ」と繰り返し言っている。


 その様子を見てケヴィンが口を開いた。


「俺が聞いた話の中に、人狼を見つけた占い師の話があった。

その占い師は、一日に一人占う事が出来て人間か人狼かを見破れたと言う。

なぜそんな、まどろっこしい事をしているのかと思っていたが、

同様のカウンタースキルで、占いを阻害されていたのかもしれない。

そうなるとサントスの観察も一日に一人に対してしか使えない可能性が高い」


「そうなると最悪あと五日間、足止めされる事になるだわさ」


「それは鑑定系統の使い手が無事に生きていられた場合にゃ。

人狼が鑑定の使い手を襲撃して、見つけられる心配が無くなってから

他の者を襲えば、人狼としては、いろいろと事を運ぶのが容易になるにゃ」


「あっ、まーくん。もしかして採取依頼で未帰還だった冒険者って、

そのパターンがあったのかもだよ」


「こ、怖いのです……」


「オイッ、ちょっと待てや。なに部外者ヅラしてやがるんだっ。

テメェらが元凶って可能性もあるだろうが!」


「マーカス、止めなさい!」


 マーカスの暴言にスーランの顔が真っ青になる。


「う~ん、最初のアーチン(しか)り、今のマーカス(しか)り、

オレ達に問答無用で敵意を向けられ続けてるんだよなぁ。

そうなると、まずはスーランを除いた三人を順番に仕留めていって、

村から出れるかを確認する。

それでダメなら、モーリス達、次にケヴィン達と同様の手順を繰り返して、

それでもダメなら、明日以降の観察は、全てオレ達で使わせてもらうって

手順になるんだけれど、それで良いんだな?」


「なんだぁテメェ、アイアンランクのクセに、

シルバーランクのオレ達に敵うと思ってんのかっ!」


「申し訳ないわさ。止めて欲しいだわさ」


「やるならマーカスだけにして欲しいウニ。ウニはまだ死にたくないウニ」


「えっ、お、おい、ちょっと待てって……」


「ワシは、ゲルドの仇は、そちらの三人の中に居ると思っておるでのぉ」


「あっしは、ケガで満足に動けないんで、

モーリスの旦那の意見を優先的に支持させてもらいます」


「皆さん、このバカは本当に単純なんです。

マーカス気づきなさい!

人間に化け、村を一つ支配出来る術を持つ魔物が居るんですよ。

例え我々のパーティに人狼が居なかったとしても、

人狼単体だけでも十分に脅威です。

おそらく我々だけでは倒せません。戦力は有るに越した事はないのです。

そして皆さんも落ち着いて話を聞いて下さい。聞いて下さぁーーーいっ!」


 場が一気にマーカスを人狼視する中、パーティリーダであるスーランが、

必死に皆に呼びかけ、冷静に見極める為の時間を取ろうと訴え掛ける。


「ひとまずオレは、仲間であるサントスの観察で、

人間である事が確定しているスーランの意見だし、

確かに聞く価値は有ったと思う。

だから朝食を挟んで、皆が一度落ち着ける時間を取るって事にしませんか?」


「あ、ありがとう。それと食事は各パーティで取りましょう。

食事に何かを盛られるリスクを軽減する為です。

何か起きた場合、パーティ単位で人狼を特定出来る手掛かりにもなりますから」


「ああ、俺達もスーランの言葉なら聞き入れられる。

昼過ぎまでにパーティの意見をまとめる時間を取るってのでどうだ?」


「ワシ達に異論は無いですじゃ」


 こうしてスーランの説得により、皆の間に一定の冷静さが戻り、

一時解散となった。


 ◇◇◇◇◇


 朝食を取り終え、ダーハが皆に食後の野草茶を入れて回っている。


「駄犬、ゴー!」


「ワウッツ!」


「イヤーーーッ。ヤでちゅ、ヤでちゅ!」


「サンちゃん、カワイイなぁ」


「はわわわ」


「さて、どうするかな」


 ガブリエルをけしかけられ、完全にオモチャにされているサンディを尻目に、

マサトは野草茶を飲みながら、今後の対策を考えていた。


「人狼にとってサントスの観察は邪魔だろうから、

絶対にこっちを狙って来るよなぁ」


 マサトはガブリエルにまとわり付かれているサンディをぼんやりと眺める。


「それはどうかにゃ。

スーランのパーティが、人狼と戦って苦戦の末に撃退したって話だったにゃ。

強さとしては今までとは別格だろうけど、

問題はこれが人狼流のお遊びだって事にゃ」


 マサトの考えにベスが修正を掛けて来る。


「遊んでいるって事か?」


「つまり、今置かれている状況は、人狼の単体能力じゃなくて、

ヤツらのお遊び用の……いわゆる儀式的な魔法に寄るものだと思うにゃ」

 

「どうしてそう言う考えになるんだ?」


「私の世界にも人狼って分類される種族が居たにゃ。

ソイツらは、驚異的な身体能力と高い自然治癒能力を持っていて、

継続戦闘能力に優れていたにゃ。

更に集団戦闘を得意としていた為、厄介極まりない相手だったにゃ。

この世界の人狼の強さは、スーランのパーティを基準で考えて、

単体なら私の世界と、さほど変わらないと思うにゃ。

それなのに、いくら別の世界とは言え、

あの身体能力を持った上に、閉鎖空間の作成やカウンタースキルの所有となると、

あまりにも魔法適正が高すぎて異常にゃ」


「つまり人狼と言われているけど、実は別の種族って事なら納得出来る。

って事なんじゃないのか?」


「別の種族とかでは無いと思うのにゃ。

それは昔話として残っているって事からも、人狼特有の物なのは間違いないにゃ

そして私達が転移者であるように、これが特定の個体のみが持つ特殊能力なら

まだ納得出来るんだけど、それも除外される事になるにゃ。

そう考えると、この閉鎖空間の作成は、人狼の間で伝統的に伝わっていた物が

魔法に昇華されたのでは? って思えてきたのにゃ」


「なるほど。少しだけ理解出来るかもな」


「そして現状の、鑑定や占いに対してのカウンタースキルが、

無効化では無くて、一日一回の使用制限って点にゃ。

どう考えても、悪ふざけなルールなのにゃ。

つまりこの点が、鬼ごっこや隠れんぼのような、人狼の間で伝わって来た、

伝統的な遊びが所以(ゆえん)の儀式的な魔法なのでは? と疑った要因にゃ。

狩りのマネ事からの派生と考えてもらえれば、納得がいくんじゃないかにゃ。

どちらにせよ、この人狼遊戯は、いざとなれば空間に閉じ込めた獲物を、

力尽くで襲撃出来る人狼にとって都合の良い状況なのにゃ。」


 ベスは腹立だしげに言った。


「なるほど、面白い見方だな。

じゃあ、この閉鎖空間を仮に【人狼遊戯】とでも名付けるとするか。

さて、そうなると前提が変わってくるな。

必ずしもサントスを狙って来るとは限らないって事になる……

あとベスは、ケヴィンとムーランの事をどう思う?」


「あのツガイの事かにゃ。アイツらは放って置くにゃ。

たぶん人狼の事に詳しかったり、妙に意思疎通が出来ていたりして

違和感ないし、疑問が沸いているのだと思うけど、今回の事に関係は無いにゃ。

あの臆病者の駄犬が(なつ)く位に敵意が無いのにゃ。

アイツらは、言うなれば【知識の共有者】にゃ。アイツらの知識は役に立つにゃ」


「そうか。一応頭の隅には入れとくよ。

あと可哀相だから、そろそろ八つ当たりでサントスをからかうのは止めような」


「分かったにゃ」


「まーくん、これからどうする?」


「ひとまず寝床の確保だな。空き家を確保して可能な限り補強する。

オレ達以外からすれば、サントスとスーラン以外は人狼候補だ。

オレ達と行動しているサントスが殺された場合や、

何かの切っ掛けで、オレ達が誰かを殺す事態になった時、

これまでの敵意を一気に向けられる事になる。

そんな事態を防ぐ為にもオレ達は、しっかりとした拠点の構築を行って、

サントスを死守し、観察で人狼の候補を絞っていく」


 マサトは皆に基本方針を伝えると近くの古民家を拠点に選び、

昨日大量に入荷した廃材を使って補修作業に取り掛かった。


 ◇◇◇◇◇


 陽が頂上から僅かに傾いた頃、

廃村に残されていた井戸がある広場に、スーランを始めとした全員が再度集う。


 マサトは、事前に用意していた野草茶を、皆に配り終えるのを待っていると、

ガブリエルがまたムーランの足下に陣取り伏せていた。


 その様子に、ムーランはガブリエルを撫でて可愛がり、

サントスはホッとした表情を浮かべ、ハルナは少しふてくされていた。


 マサトは、皆の最後にダーハから野草茶を受け取り、

手元の一杯を飲み干してから話しを切り出した。

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