023.廃村
──遠征2日目の朝を迎えた──
「状況は理解したわ」
前日からコトコトと煮込んでおいた豆の水煮とジャッカロープの肉で
ベスが作ったラビットビーンズと豆のスープ、ハルナがスキレットで焼いた、
ちぎりパンを食べながら昨晩の顛末をパーティで共有していた。
「そう言う事があったなら、起こしなさいよ」
「まぁ、確かに寝てる間に事態が急変していたら、そりゃあ怖いよな。
変に気を使って悪かった。今度からはそうするよ」
サンディから小言を言われたので、ここは素直に謝っておく。
朝食用に焼いた、ちぎりパンだったが、皆に気に入られた結果、
昼食用にと急遽量産される事となった。
発酵時間の関係で出発までの時間が出来た為、マサトはテントを回収した後、
ガブリエルと周囲の見回りを兼ねて、枯れ木を収集して回った。
そしてカマドに枯れ木をくべて火の番をしながら、
マサトは昨晩から積もった灰の中で焼き芋を育てる。
ちぎりパンが焼き上がり、火の後始末をしながら焼き芋を取り出すと、
ハルナに目聡くたかられたので、ちゃんと皆の分があるから、
と言って渡して、今日の目的地である廃村に向けて出発する。
昨晩の川辺の現場に差し掛かると、商人と護衛の冒険者達が、
大惨事の後始末に追われグッタリとしていた。
川に突っ込んでいった荷馬車を引き上げている者。
飛び散った売り物を拾い集めている者。
昨晩の襲撃で負傷した者を治療する者。
炊き出しをして労を労っている者。
様々な人が甲斐甲斐しく働いていた。
しかし当然、隙を見てサボっている者や、
ドサクサに紛れて懐に何かを入れている者達の姿も見受けられる。
ひとまずダーハの教育に悪いので、さり気なく歩く位置を調整して
視界を遮って現場を見せないようにして通り過ぎた。
その後は街道から離れ、川沿いに上流を目指して歩く。
陽が真上に差し掛かる頃、本流のピション川と合流した為、
更に上流へと上り廃村のサスを目指す。
街道ではなく足場も良くない道を歩いている為、
前日に比べて進行速度も遅く疲労も蓄積される。
小休止と間食による補給を取りながら進み、
なんとか夕刻前に廃村へと辿り着いた。
──廃村サス──
「お疲れさま。今日から、ここを拠点にしましょう」
人の生活感の無い老朽化した家屋の前に集まり一息つく。
「とりあえず、埃っぽいから大雑把に掃除しちゃうね『流水』」
ハルナが、お得意の水魔法を床にぶちまけ汚れを洗い流す。
「「「「おおっ!」」」」
床の汚れを掻き集めてた汚水を、
入り口から家の横の空いたスペースに流動させて排水すると、
キレイになった床が姿を現し、皆が感嘆の声を上げる。
ミシッ、ミシッ、ミシッ……【ドゴォーーーンッ!】
「「「「あああーーーーーっ!」」」」
皆の目の前で家屋が勢い良く倒壊した。
どうやら老朽化が激しく、ハルナの水流に耐えられなかったようだ
「……よし、次いってみよう!」
ハルナは、次の空き家の掃除に取り掛かる。
【ドゴォーーーンッ!】
「「「「…………」」」」
その後ハルナは計三件の家屋を解体し、明日以降の豊富な薪を調達してくれた。
そしてハルナが清掃してくれた家屋に誰も入ろうとしなかった為、
ハルナはご機嫌ナナメになっていたが、それを責めれる者など居はしなかった。
結局この日もテントを設営し、カマドを作った。
その間ベスは、ダーハを廃村の近くを流れる小川へと連れて行き、
魚取りの仕掛けを教えながら作る。
そして夕食には、朝に作り置きしておいた、ちぎりパンと、
ハルナが作った干し肉と芋の蒸し煮と言う肉じゃがもどきと、
簡単なスープを皆で食べた。
「そう言えば村の周りを見回った時に、
村に続く道が一本あったけど、あれは使われているのか?」
「あの道は、あたし達が来た狩猟都市が出来る以前に使われていた道ね。
遠回りになるから今回は使わなかったけど、
目的の採取の探索範囲と、盗賊団の出現位置が重なるって話をしたでしょ?
その街道につながっているのが、あの道なのよ」
「盗賊が出るって事は、人の往来が多い道だよな」
「鉱山のあるサンソンと製錬都市エイジにつながっているわ。
盗賊団が活動している街道がソレね」
「って事は、目的の薬草が生息している場所が、
盗賊団の待ち伏せ、又は隠れ家などの場所に近いって感じかにゃ」
「そうね。以前に出されていた採取依頼の内、
二件が失敗で、一件が未帰還だから、そう考えておいた方が良いでしょうね」
「それだと薬草が踏み荒らされていて採取が出来ない。
って事も有り得るのです……」
「そっかぁ、ダーハちゃん賢い」
「喜べない状況よね」
「それは実際に行って見ないと分からないな。
ひとまず今晩中に、本当に使えそうな家屋がないか真面目に探しておこう。
ハルナは、さっきのようなやり方は無しな」
「まーくん、了解だよ……」
食事を終え、ハルナとダーハに後片付けを任せ、
残りのメンバーで廃村の状況確認に向かおうとした時、
街道から数名の集団がやって来た。
「オマエ達、何者ウニ!」
身綺麗な男性が、剣を振りかざし問答無用で突っ掛かって来た。
「いきなりやって来て、貴方こそ何ですか!
一応、揉め事はお断りですから答えますが、
我々は冒険者パーティ[雷鳴の収穫]です。
見ての通り、夕食を取り終え、一段落していた所です。
そちらの素性も、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
サントスがパーティを代表して応じる。
サントスは、相手を非難しつつも相手が求める、
こちらの素性と状況を提示する事で、相手にも同様の情報の開示を求めた。
(こういう時の対応の仕方は慣れてるよなぁ)
マサトはサントスの対応に感心しながら推移を見守る。
「うっ、何ウニ、オマエ達は!ウニは……」
「すみません。私はスーラン。冒険者です。
こっちのアーチンさんの護衛をしています」
スーランと名乗った女冒険者は、仲間と思われる剣士に目配せをすると、
アーチンと呼ばれた男性を下がらせ、代わりに話し合いの場に上がって来た。
その結果サントスとスーランが、
互いの代表として話し合いが持たれる事となった。
スーラン達の集団は、三組みのパーティの寄せ集めであった。
一組み目は、四人組みのパーティ。
貴族の三男坊アーチンと、その盗賊狩りに同行させられた
お抱えの冒険者パーティ。
魔法剣士のスーランと剣士のマーカス、そして魔女のミラが紹介された。
二組み目は、三人組みのパーティ。
老商人の商隊が魔物に襲われていた所を、
イキったマーカスが突っ込んで行った結果、助ける事が出来た者達。
商人のモーリスと孫のゲルドと、その護衛の傭兵クモンの一行。
魔物はアーチン達の手によって苦闘の末、撃退したらしい。
商隊の護衛で唯一の生き残りであるクモンは、
大怪我を負い杖を突いて歩いていた。
三組み目は、二人組みの男女のパーティ。
廃村の手前で盗賊団に囲まれていた所を、
アーチンが盗賊団を撃退し、救助された銀髪碧眼の男女ケヴィンとムーラン。
ケヴィンは盗賊団を相手に、ムーランを庇いながら応戦していた。
スーランが言うには、かなりの剣の使い手との事だが、
さすがに多勢に無勢であった為、負傷していた。
また件の盗賊団の数人を取り逃してしまい、
その事もあってアーチンが、マサト達を相手に突っ掛かって行ってしまった
と言う経緯も伝えられた。
「そう言う訳ウニ。ウニ達が盗賊を退治するウニ。邪魔をするんじゃないウニ」
「はぁ……お好きにして下さい。としか言いようがありませんね。
ただし、我々が盗賊団からの襲撃を受けた場合は当然対処します。
その際は、どのような抗議も受け付けませんから、
お互いの為にも早く退治して下さい」
「言われるまでも無いウニ」
サントスが一定の不可侵協定を結び、簡単な食事と負傷者の治療を提供する。
ハルナが回復魔法で治療を行った際、
不思議な事にケヴィンとムーランの傷は癒せたが、
他の二組みのパーティの傷は、何故か治りが鈍かったと言う。
特に重症であったクモンの傷の治りが悪かったそうだ。
ハルナの治療の際、臆病者のガブリエルが、
珍しく他パーティのムーランを興味深めに眺め、そして歩み寄って行った。
ムーランも最初は、チワ・ワンティコアのガブリエルに驚いた様子だったが、
いつの間にやら仲良くなっていた。
この間、一夜の仮拠点を求め廃村を見回っていたアーチンが、
目聡くハルナが清掃した家屋を見つける。
「ここが良いウニ」
アーチンは早い者勝ちとばかりに家屋に突入する場面があり、
「あっ、そこはいけないっ!」
「ウニッ?」
マサトは慌てて制止するも……
ミシッ、ミシッ、ミシッ……【ドゴォーーーンッ!】
「ウニーーーッ!」
四件目の解体作業が完了し、薪の在庫が入荷されると言う事態が発生した。
「オマエ、もう少し落ち着いたらどうかにゃ」
幸いにもベスが、アーチンの首根っこを引っ張り、何事も無く済んだが、
廃村の家屋は全体的に老朽化が激しい為、
例えキレイに見えたとしても、十分に注意するようにと、
他パーティに助言しておいた。
その後、各パーティは解散し、廃村での一夜が過ぎた。