021.パーティ
──異世界転移を経て10日目の朝を迎えた──
「おはようなのです。今日からよろしくなのです」(ペコリ)
早朝、部屋に訪れた子狐のダーハが少し緊張気味に挨拶をした。
「ダーハちゃん、おはようだよぉ」
開口と同時にハルナがダーハに飛びつき、猫(狐)可愛いがりする。
しかし、それもすぐベスによって引き離された。
「オマエは、しばらく接触禁止にゃ。子狐は私が預かるにゃ」
「ベスにゃん、ヒドイッ!」
ベスの言葉にハルナが悲痛な声を上げ、
ダーハは安堵と困惑が入り混じった表情を浮かべている。
ちなみに、このベスの行動は、マサトと事前に相談して決めていた事だった。
その理由はベスとダーハは共に獣人であり、狩猟を主とした技能持ちな為、
ベスに付けてダーハの索敵と隠密技能を伸ばせないかと考えたからだ。
つまりマサトは、いろいろと聞いてみた結果、
ベスは敵の死角から接近して近接攻撃による不意打ちで仕留めるタイプで、
ダーハは敵の探知外から魔法による遠隔攻撃で仕留めるタイプだと考えていた。
とは言え、現状でダーハの索敵範囲はベスに及ばない。
ただし隠密技能に関しては、ベスも感心する錬度をダーハは有していた。
これらを加味してマサトは、ダーハの索敵能力を伸ばす事が出来れば、
先頭をベス、後方をダーハが担当する事で、パーティの安全性を
格段に上げる事が出来ると思い、ベスにダーハを預ける事を考えたのだった。
付け加えるなら、ハルナのダーハに対する溺愛行動に対する
教育的指導の意味もあった。
実際に、この陣形を運用するに当たってハルナがダーハを構いすぎて、
索敵の邪魔になっては困るので、最初にしっかりと理解してもらおうと
思っている。
「ハルナ、ダーハは本来は後衛位置なんだけど、
将来的に後方の警戒を任せたいから、最初はベスに付いて索敵を覚えてもらう。
ダーハの魔法資質を伸ばす時は、ハルナに任せるから、しばらくは我慢な。
あとダーハに対する過剰なスキンシップも止めような。
陣形を組む時に邪魔になるようなら引き離すからな」
「うぅ~、まーくん、りょーかい」
「ダーハも、頼りにしている。ベスもよろしくな」
「はいなのです。がんばるのです」
「ついでにエセ商人も鍛えてやるにゃ」
「誰がエセ商人よ。でも分かったわよ。あたしも良い機会だから参加するわ」
大まかなパーティの方針を共有し、マサト達は食堂に移動した。
マサトは朝食を取りながら、前日に目に付いた依頼表の話を振る。
そこで出た結論は、前日にマサトが考えていた物に近い意見だった。
とりあえず、実際に依頼表を見てから改めて考えようとなり、
宿屋を出て冒険者ギルドに向かった。
──冒険者ギルド──
「採取依頼、多弁草の納品。
ピション川に隣接する廃村サスの周辺に生息する植物。
滑舌が悪くなる奇病、寡黙病を直す特効薬、饒舌薬の素材……ですか」
サントスが依頼表を見て思案する。
「滑舌が悪くなると寡黙になるのかにゃ?」
「それはオレも思ったけど、あくまでそう言う病名って事なんだろ?」
「まーくん、デリカシーが無いなぁ」
「急に変な口調に変わったりしたら、親御さんも心配になるでしょう。
しかもそれが年頃の女の子なら特に」
「恥ずかしくて、話す事が出来なくなるのです」
「あぁ、確かに大の大人に、いきなり舌っ足らずな言葉で
話し掛けて来たら引くだろうな」
「まーくん、そう言う事だよ。ヤレヤレなんだよ」
「あれっ、オレが悪いのか? ベスが振った話だったはずなのに……」
マサトは、いつの間にか悪者扱いされていた。
「これって例の盗賊の出現地域に近くないかにゃ?」
そしてベスは素知らぬ顔で話題を反らす。
「そうですね、わざわざ廃村のサスに来るとは思わないですが、
採取時に行動範囲が重なる可能性がありそうですね」
「あとは魔物の生息状況が変わってくる事だよな。強さ的にはどうなんだ?」
「ピンキリなので一概には言えないのですが、
廃村の周囲である事、依頼の期日が長めな事、
引き受け手が居なかった事を考えて、
ある程度強い魔物が居る、又は多少弱くても集団で居る。
単純に多弁草って言うのが見つけにくいなどが考えられそうですね」
「はわわわ、依頼表を見ただけで、そんな事まで分かるなんて、スゴイのです」
「なんだか、サンちゃんが出来る人に見えるね」
「パーティで一番ランクが高いのに、ヒドイ言われようだな」
「日頃、いろいろとやらかしているので仕方がないのにゃ」
「……コホン、それはそれとして、
依頼表のランク制限が、シルバーランク以上となっているのが気になりますね。
遠征が出来るだけの能力があるパーティって意味合いなのでしょうか……
そう考えると多少遠方になる為、誰も受けなかった依頼とも思えますね。
近場の森林で狩りをしていた方が楽ですからね
以前にベスも言っていましたが、同格相手なら三体までは余裕で捌けるので、
パーティとしての戦闘力ならシルバーランク相当の力があります。
一応、依頼を受けるに際して、ギルドが把握している周囲の魔物の情報も
聞いてみましょう」
そう告げるとサントスは、依頼表を持って受付嬢のエルマの下へ向かい、
いくつか確認をとって戻って来た。
そこで確認が出来た内容は、
採取依頼が出されたのが、今回で四度目。
依頼の未達成報告が二件、未帰還が一件。
噂になっている盗賊団の介入が原因。
盗賊団の討伐依頼に人員が流れて、採取依頼を受ける者が居なくなっている。
依頼表のランク制限は盗賊団の介入を視野に入れ、上向きに再評価されたもの。
盗賊を倒した場合、別途褒賞金が出る。
周囲の魔物の分布情報に更新は無い。
「なんだかなぁ……キナ臭くなって来たな」
「魔物の強さ的には十分に戦えますね」
「盗賊団って事は、集団戦闘を警戒する必要があるにゃ」
「まーくん、ボクは対人戦はちょっと嫌だよ」
「でもでも、お薬を待っている人がいるのです……」
「マサトどうします? 別に無理に受ける必要は無いと思いますよ」
マサトはサントスの言葉を受け、暫し考え込む。
「この奇病って、別に命に関わる問題じゃあ無いよな」
「まぁ、そうでしょうね」
マサトの口から出た言葉に、皆は全てを察した。
マサトとは臆病とも思える用心深さで事を運ぶ。
ゆえにパーティに被害が出る行動は起こさない。
だからこれは必然なのだと皆が理解した。
「よし、受けよう」
「「「「えっ?」」」」
マサトの文脈を無視した言葉に、皆が呆気に取られた。
「えっ、マサト、どう言う事?」(おろおろ)
「あ~、まーくん、何か変な事考えてるね」(にこにこ)
「ほほう、面白いのにゃ」(にやにや)
「はわわわ」(どきどき)
マサトは皆の反応を見ながら答える。
「たぶん大丈夫だと思うな。
それと今回の採取依頼は、失敗する事も想定に入れていて欲しいかな」
「失敗するのです?」
「ああ、命あっての物種って言うしな」
「マサト、失敗すると分かっているのなら、最初から受けなければ良いのでは?」
「いや、別に失敗する事が前提じゃないよ。
ただ、この採取依頼が、いろいろと都合が良いんだよ」
マサトは、そう結論を導き出し判断を下した。
「それじゃあ、この採取依頼を受けよう。
予定としては、準備に一日取ってダーハの遠征道具と不足な物を補充する。
サントスは大雑把で良いから移動に掛かる日程を教えてくれるかな」
「え~と、そうですね。移動工程が往復で四日。
現地での活動に四日程。この際、廃村のサスを拠点にするのが良いかと。
一応、予備日を一日取って、今日を抜いて遠征工程を十日としましょうか。
そのうち、行きの道中で以前に話をしていた野営の実地訓練でどうですか?
帰りは収納を解禁しましょう。
これでかなり余裕を持って依頼と訓練を兼ねられかと」
「サントスありがとう。あと何か意見があったら聞かせて欲しい」
「一応、採取依頼が失敗した時のリスクの事を教えておきますが、
一つ目に、依頼未達成に対する賠償金が発生します。
二つ目に、冒険者ランクの昇格資格にペナルティを受けます。
どちらも重過ぎると、報告を誤魔化す者が出て、現状把握が出来なくなるので
報告の内容によっては軽減されます。
ただし、依頼が失敗したという記録は残りますよ」
「まぁ、そうだよな。
じゃあ、オレの方からは、依頼を受ける理由を言っておくか。
要するに、依頼の失敗がイコールで死に成りにくいのが大きい。
採取依頼の目的は当然採取なので盗賊団と遭遇しても単純に逃げの手が打てる。
逃げる前提ならオレ達には、いろいろと手段がある。
これが討伐依頼だと、おそらく他のパーティとの共同依頼になる。
そうなると、殺す、倒す、捕縛すると選択肢が増える。
下手をすると意見の違いから、撤退時を見誤っての全滅もあり得る。
オレは、このパターンが一番怖い。
他にも、他パーティとの誤認による戦闘開始ってのも怖いよな。
相手が、同じ討伐依頼を受けた冒険者なのか、盗賊団の偽装なのか……な。
採取依頼でなら、オレ達以外のパーティは居ないのだから
このリスクをわずかながら軽減出来る。
少なくとも、採取依頼が盗賊団の介入で失敗したとしても、
依頼主の家族が死ぬわけでも無いし、
オレ達は別に無敵のヒーローって訳じゃ無い。
依頼の達成は大事だけど、それで引き際を見誤りかねない依頼は、受けたくない」
「なるほど、そう言う考え方なのですね。
マサトらしい考え方ですね」
「はわわわ、おにいちゃんもスゴイのです」
「う~ん、まぁ良いけど、ボクは何だか納得が出来ないかなぁ」
「そこらへんの判断は任せるにゃ」
賛成五、ただし疑念が一。とパーティ意見が出揃った事で、
サントスが依頼表を持って受付に向かう。
採取依頼のランク制限がシルバーランクである為、
必然的にサントスが代表として依頼を受理した。
その後、ダーハの遠征道具と不足物資の補充を行い、
明日からの遠征に備えて、早めに宿屋へと戻った。
──宿屋フォックスバット──
「これから皆で、パーティ名を決めよう!」
マサトが追加で一部屋(ダーハの宿泊に伴って部屋を追い出されるマサト用)と
食事(遠征前にちょっと奮発)を用意してもらい部屋へと戻ると、
何やらハルナが盛り上がっていた。
事の発端は、サントスに採取依頼を受理してもらう際に、
ダーハのパーティ加入申請も同時に行ったら、お馴染みの受付嬢のアンナさんに、
「そう言えば、皆さんはパーティ名の申請がされていませんが、
もうお決まりですか?」
と話を切り出された事に始まる。
その時は遠征に向けての準備もあり保留にしておいたのだが、
準備が順調に整い時間が出来た事で、
ハルナがパーティ名を決める気満々になっていた。
「お約束的な、【まーくんと愉快な仲間達】は却下にゃ」
「うっ、そんな事は考えてないよぉ……」
「ハルナ、本当に止めてくれ。そしてベス、グッジョブだ」
「やるなら【♀出来ちゃったの……♂A?チーム】とか言ってみせるにゃ」
「ベス、シャレにならないネタは止めてくれ」
「Bチームも作るのです?」
「そうね、ベスの遊撃チームとかあっても良いかもね」
(サンディ、上手くダーハを誤魔化してくれてありがとう)
「その時は、もちろんあたしはAチームよね」
「サンちゃん、それはどう言う意味かな?」
ハルナは、微笑ましくない微笑みをサンディに向けている。
(サンディーーー!、コイツどう言うつもりで言っているんだぁぁぁ!)
「構成的に、ベスの遊撃部隊なら、ベスとケダモノがワンセットでしょ?
ケダモノがBチームなら、あたしはAチームに決まってるじゃない。
お願いだから、ケダモノと同じチームにはしないでぇ!」
「うん、サンちゃんはカワイイなぁ」
ハルナは、愛おしそうな微笑みをサンディに向けている。
(怖ぇーよ! ハルナも怖いが、天然も怖いわっ!)
「ダーハちゃんは、何か思いつく名前ってある?」
ハルナが、大人しく座っているダーハに話を振る。
「わたしはまだ、このパーティの事が良く分からないのです。
なので皆さんが決めるのが良いと思うのです」
「じゃあ、サンちゃんは?」
「すぐには思いつかないけど、ある程度パーティの特徴が出ている方が
良いかしら」
「まーくんは?」
「基本的にサンディの意見は良いと思うな」
その後は、先に宿屋で注文しておいた食事を部屋に持ち込み、
思いつくまま気の向くまま、話を脱線させまくりながら
パーティ名の候補を挙げていく。
そして夜が更け、皆に疲れの色が出始めた頃、ベスがポロリと呟いた。
「サンダー……ハーベス……ト?」
たまたま皆のアイディアが尽き、ベスの呟いた言葉だけが
部屋の中を駆け抜けた。
「ベスにゃん、サンダーハーベスト?」
「意訳すると、雷鳴と収穫かな」
「それなら、【雷鳴の収穫】で良いんじゃないかしら?」
「なんだか、スゴそうなのです」
皆の中に、その名が染み込んで行った。
「うん、ベスにゃん、良い名前だと思うよ」
「良いと思うのです」
「パーティの方針が迅速な狩猟です。ってアピールにもなるわね」
「ベスにしては、まともな名前が出てきてビックリだ」
「そ、そうかにゃ……」
この時点でベス以外にとって、パーティ名は
【雷鳴の収穫】に落ち着いていた。
「よし、パーティ名は、雷鳴の収穫で決定だな。
明日、冒険者ギルドで登録して、気分も新たに遠征に出かけるか」
マサトは話をまとめると、皆に明日に備えて休むように促し別室に戻って行った。
かくしてここに【雷鳴の収穫】が結成されるのであった。
◇◇◇◇◇
(ヤバイにゃ、少し寝ぼけてたとは言えなくなったにゃ)
ベスが呟いたパーティ名……アレは眠気に襲われ、
うつらうつらと船を漕いでいたベスが、
単純に名前を繋げて遊んでいただけのものだった。
つまり、ベスが呟いた「サンダー……ハーベス……ト?」とは、
サンディ、ダーハ、ハルナ、ベス、マサトの名前の羅列でしかなかった。
ベスは事の真相を、あの世まで持って行こうと思うのであった。




