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015.道具屋

 ──異世界転移を経て8日目の朝を迎えた──


「お客さん、おはようです」


「ダーハちゃん、おはよう」


 今朝も日課にしている素振りをしていると子狐のダーハから声を掛けられた。

ただ前日とは違い今日は仕事着ではなく私服を着ていた。


「あれっ、もしかして今日はお仕事がお休みなの?」


「はい、別の子からお休みの日を代わって欲しいって言われて

急にお休みになったのです。お客さんも今日はお休みですか?」


 ダーハに指摘された様にマサトもまた、いつにも増してラフな格好をしていた。


「野営用の道具を買い行く予定だから、狩り用の装備は必要ないんだよ。

今日は買い物に行くだけだし、お休みの様なものかな」


「そうなのですか。わたし達もここで住み込みで働いて、

お金を貯めてから冒険者になる予定なのです……

あのぉ、もし良かったら一緒に買い物に連れて行って欲しいのです

どんな物を買うのか見てみたいのです」


 ダーハが興奮気味に懇願(こんがん)してくる。

その尻尾は激しく左右に揺れ、純粋で(まぶ)しい眼が向けられていた。


「ああ、大丈夫だと思うよ。オレも(くわ)しくないから

サントスに、いろいろと教えてもらうつもりだし、丁度良いんじゃないかな。

一応、サントスに声を掛けて聞いてみるよ。

ダーハちゃんは、先に食堂に行って待っていてもらえるかな?」


「はいなのです」


 ダーハは元気良く返事をすると食堂に向け歩いて行った。


 マサトは、一旦部屋に戻りサンディに事の次第を説明して了承(りょうしょう)を得る。

それを聞いたハルナは興奮しながら食堂へと駆けて行った。

 マサトは慌ててハルナの後を追うもそこには、

にこやかにデレまくるハルナに対して、苦笑いを浮かべるダーハの姿があった。


 それは正に、溺愛(できあい)する妹を駄々(だだ)可愛がりするダメな姉の姿であった。

 それは朝食の間ずっと続き、ダーハの気が休まる時間が無かったのではと、

マサトは心底心配する。

そんな中ガブリエルだけは、久しぶりに(おとず)れた安寧(あんねい)の時間を満喫(まんきつ)していた。


 ──道具屋──


 大小様々な道具が所狭しと陳列されている店内を、

マサト達は興味津々(きょうみしんしん)と見渡していた。


「まーくん、何かいっぱいあるよぉ」


「思っていたより種類が多いなぁ。

うん? マントもあるぞ。

あっ、そうか、夜に毛布の代用にもなるからか」


「使い方の分からない物が、いっぱいあるのです」


「まずテントと調理器具あたりから見て回りましょう」


 そしてサントス先生の初心者冒険者向けの講義が始まった。


「テントはどうしても荷物が大きくなるので、

マジックバックなdの収納が無いなら無理に買わなくても良いでしょう。

この辺りは気候も良いし、()き火を欠かさなければ、

先程マサトが言った様にマントに包まっていても夜は過ごせます。

しかし人も動物も囲われた居住空間内の方が、気が休められて疲労が回復します。

可能であればパーティの半数に一人加えた人数が休める大きさの物で

設置が簡単な物を選ぶと良いでしょう」


「サンちゃん、なんで半数じゃなくて、一人分多くしておくの?」


「夜間の見張りを交代しながら休息を取るからです。

また、全員の荷物を置く事も考慮した場合、意外と居住空間が狭くなります。

居眠り防止と襲撃の見逃しを避ける為にも、二人以上で見張りをするべきなので、

運搬時の重量と相談した場合、最初はこれを目安にしたら良いと思います」


「う~ん、そうなるとコイツあたりかな?」


 マサトはテントを一つキープする。

ついでに杭固定用のハンマーもキープする。


「では次に調理器具を見てみますか。

必要な物として、まずは水を確保出来る容器。

後は現地でどれくらい調理を行うかに合わせた食器類と調理器具ですね。

乾燥物の携帯食をメインにして、現地でスープのみ作るのであれば、

金属カップとナイフ位でも何とかなりますよ」


「え~、ボクは美味しい物が食べたいよぉ」


「でもでも、お客さんの多くは

携帯食とスープと言う話をしていたのです」


「まぁ、それが一般的でしょう。

なので冒険者は、遠征前後に食べたい物を食べ、

飲みたい物を飲んで英気を(やしな)うのです。

昨晩に話をした、遠征後は二日間の休暇を取りましょうと言ったのも

コレが要因の一つです。

さて、マサトはどう考えますか?」


「何気にパーティの方向性を決める問題になってないか? 

個人的にはハルナに同意だな。悲しいけどオレ達、日本人なんだよ。

そうなると……お~いハルナ、

この小さいフライパンみたいなの一人一つで良いか?」


「まーくん、オーケーだよ。

スキレットみたいにお皿を()ねるんだね。みんなの分を買っちゃおう。

スプーンやフォーク、カップは持ってるから良いとして、

お鍋は一つで良いよね?」


「鍋は要らない。代わりに注ぎ口の大きいヤカンにしよう。

これで具材を小さ目に切ったスープを作る。

これならヤカンを振って中身をかき回せるから、お玉が要らない。

カップに注ぐのも楽だろ?」


「まーくん、面白い事考えるね。採用だよぉ。

あっ、やっぱりお(はし)が欲しいけど無いよね?」


「箸なんて木を削ればいくらでも出来るから気にしなくて良いんじゃないか?」


「あっ、肝心(かんじん)の包丁を忘れる所だったよ。危ない、危ない」


「それだけど、ちょっと思い出した事があるから

使いやすいのがあったら、一度オレに見せてくれ」


「これで良いんだけど、どうするの?」


「このサイズだと……まな板のサイズはこのあたりが丁度良いかな。

確かベスが木材加工の技術を持っていたから、

このまな板を蝶番(ちょうつがい)で半分に折り曲げれるようにしてもらおう。

そして折り曲げた内側に、包丁を収めれように型取って彫ってもらう。

これで包丁ケース兼まな板の完成だな」


「おおっ、まーくん、スゴイよ。採用!」


「えっ、何この二人。急に活き活きし出したと思ったら、

何気に新商品を作ってるんですけど……

と、とにかくマサト、今の包丁ケースの話だけど、

ベスに作ってもらうのは良いとして、

その後、商業ギルドにサンプルを提出して、販売を委託(いたく)してみないですか? 

コレは素直に売れると思いますよ」


「う~ん、売れるのかなぁ? 

こんな物は、荷物の空きスペースをわずかに圧縮する為の物だぞ。

野外で調理しないなら、わざわざこんな物を使うより良い物があるだろ? 

売るにしても対象は、調理をする冒険者限定になるだろうし、

包丁にしろ、まな板にしろ、頻繁(ひんぱん)に買い換える物でも無いだろ?」


「それじゃあ、ベスを交えて一度話し合いましょう。

ベスにはコンニャクの件で同様の話を持ち掛けたいと思っていたから」


「了解。それじゃあ他に必要になる道具の事を教えてくれよ」


 マサト達はサントスからのアドバイスを貰いながら順調に道具を揃えていった。

 そして最後に、それらの道具を持ち運ぶリュックを選び、

店内で選んだ物を詰めて(かつ)いで見るようにとサントスに言われ試してみる。


「お、重い……」


「はい、失敗。欲張りすぎ。必要の無い物を減らしなさい」


 この時点でマサトはハルナの分も含めて詰めていたのだが、

後々食料や装備品等をリュックに積まなければならないので、それらを考慮(こうりょ)して

二人分でも楽に担げる事を条件に持ち物の選別をさせられていた。


「あ~、なるほど。こうしてみるとさっきの包丁ケースが売れるかもって

言われた意味が分かってきた。

オレには包丁もまな板も外せない。

このタワシを外して、野草を(たば)にして使って洗うか?

くっ、今はパジェ○よりもタワシが欲しい……」


 リュックの中身を選別し、見直していると底の方に除外したはずの鍋があった。


 マサトがハルナの方を訝しげに見つめると、

ハルナは涙目になり首を左右に振っていた。


 ひとまず鍋を取り出す為に持ち上げてみる。するとその鍋は異様に重かった。

 中に何か隠しているらしい。


 マサトは鍋のフタを開ける。そこには袋詰めにされた米5キロが入っていた。

 

 マサトは無言で鍋と米を取り出すと元の棚に戻す。

 ハルナは力なく(ひざ)をつき、絶望に打ちひしがれたが、

マサトはそんなのものは無視した。


 そしてマサトは無言のまま、一回り小さな鍋を掴み、

その中に米3キロと味噌500グラムをぶち込み、

フタをしてリュックの底に沈めた。


 ハルナは感涙(かんるい)を流している。


「仕方が無いだろ。悲しいけどオレ達、日本人なんだよ!」


「まーくん、ありがとう!」


 そこから二人は必死に選別し、リュックを担ぎ、

「平気!」と答えた。(重いとは言ってない!)


 二人は守るべき物を守り抜いたのだ。


 その様子を見たサントスからは、冒険者は自己責任だからと(あき)れられ、

ダーハは、自分の理解を超えた執着(しゅうちゃく)に圧倒されていた。


 そんな中、マサトとハルナの宝玉が、その輝きをわずかばかり増加させ、

人知れず成長していたのであった。


 マサトとハルナは買い物を終えると荷物を分担して背負い、

宿屋に預けに戻った。

 幸いにも、リュックの重さが予想より軽く感じられた為、

二人とも問題なく歩けた事に安堵(あんど)する。


 それが宝玉の成長によってもたらされた恩恵(おんけい)である事に気づく事も無く……


 ──宿屋フォックスバット──


「ベスにゃん、ただいまぁ」


「おか~、何かバカみたいに買って来たにゃ」


「否定は出来無い。だが後悔は無い。

そこでベスにちょっとお願いしたい事があるんだけど良いかな?」


「何かにゃ?」


 マサトはリュックを床に置き一息つくと、包丁とまな板、蝶番(ちょうつがい)を取り出し、

道具屋で考案した包丁ケースの作成を頼んでみた。


「面白い事考えるにゃ。良いにゃ。

イメージも出来るしチャチャッと作ってみるにゃ」


 ベスは魔石を取り出すと魔石加工に取り掛かる。

(まばゆ)い光の収束(しゅうそく)と引き換えに、マサトがイメージしていた包丁ケースが現れる。


「ベスにゃん、スゴイよ!」


「ありがとう。イメージ通りの出来になったな」


「う~ん、私も一つ欲しいかもにゃ。後で材料買って来て、自分用に作るにゃ」


「ベスも欲しいって思うのかぁ。それならサンディが商業ギルドで、

委託販売しないかって言ってきたんだけど、売りに出してみるか。

あとベスのコンニャクも売リ出したいって言っていたな。

今から昼食にするから、一緒に食べながらサンディの話を聞いてみるか?」


「……分かったにゃ」


 マサト達は宿屋の食堂で待っているサントスとダーハに合流して昼食を取る。

 その際ダーハが、勝手知ったる職場を往復し、注文した物を厨房から運んで

来てくれていた。さながら専用ウェイトレスである。


 ひとまず料理が運ばれ、ダーハが戻って来るまでの間に、

サントスと話をして、午後から商業ギルドに行く事を決めた。


 そして料理とダーハが揃った所で、一緒に食事を始める。

ダーハには午後から商人ギルドに行く事を伝えると、

そこも見学したいと言われたので、その後も一緒に行動する事となった。

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