表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/100

012.薬草採取

 ──異世界転移を経て6日目の朝を迎えた──


 マサトは、数奇な運命の導きにより、宝刀である木刀を

新たなる力が宿る姿へと進化させ、念願の刀を手に入れる事に成功した!

 

 と自分に言い聞かせる為に、中庭の井戸の近くで、

一心に素振り稽古を繰り返していた。


「いや~、今日はハルナに無理やり起こされる前に

目が覚めたおかげで、頭がスッキリしていて気持ちが良いなぁ。

それと刀が手に入ったおかげで練習にも力が入る。

やっぱり木刀と違って重量感があるから、取り回しも違ってくるよなぁ」


 空元気(からげんき)であった。


 マサトは、宝刀・蒟蒻切(こんにゃくぎり)(なが)めながら、ため息をつく。


「まぁ、実際に練習で使ってみて、いろいろと分かった事もあったよなぁ」


 木刀と刀との重量感の違いから、

木刀の時のような使い方が出来ない事が分かった。


 また、宝刀が蒟蒻切を取り込んだ事で、オリジナルの蒟蒻切の長さに比べて

宝刀・蒟蒻切は、マサトの身長に合った長さに変化している。

 それに(ともな)い、取り回しも容易になっているのだと理解出来た。


「あ~、これやってみて思ったけど、

真剣と剣道の技術って全くの別物だよなぁ」


 いろいろな思いからマサトは、ついついボヤいてしまう。


「運命の女神様。アナタは、どれだけ撲殺を推奨しているんですか?」


 それを切っ掛けに、完全に集中力を切らしてしまう。

 マサトは早朝の稽古を切り上げ、朝食を取りに戻って行った。


 そんなマサトの姿を、今日も通りかかった子狐のダーハが、

しばらくの間、眺めていた。

 朝の挨拶をしようと思ったのだが、何か悩んでいるのを感じ、

どう話せば良いのか分からなくなり、声を掛けられないでいた。

 そうした間に朝の仕事の時間になったので、その場を立ち去ったのだが、

マサトは相変わらず、その事に全く気づけていなかった。


 ──冒険者ギルド──


「皆さんは冒険者ランクの昇格はしないのですか?」


 いつものようにベスとサントスに見繕ってもらった依頼表をもって

受付のアンナさんの所に行くと、そんな事を言われた。


「全く考えてなかった。

オレは自分が強くなる事と、生活費を稼ぐ事くらいしか考えてなかった」


「ボクも同じかな。上げる意味ってあるの?」


「興味無いにゃ。国境のフリーライセンスであれば十分にゃ」


「いやいや、上げましょうよ。

受けられる依頼の幅が増えますし、報酬も上がります。

ランクを上げれば商人などの護衛依頼を受けられます。

他都市への移動時に合わせて受ければ、旅費が浮いた上に報酬も出ますよ。

大きな商隊なら他の冒険者との共同依頼になるので、

移動時の安全性が格段に上がりますよ」


「う~ん、サントスの言う事も分かるんだよなぁ。

先の事を考えて上げておくか?」


「それでボク達は、何をすれば良いの?」


「ギルドでは、皆さんが魔物の討伐と狩猟品の納品を

得意としている事を把握しています。

そこで採取依頼をいくつか達成してもらいたいのです。

この両方を達成出来る事が証明されて初めて、アイアンランクの認定がされます」


 アンナの説明を受け、本日は採取を中心とした依頼に取り組む事となった。


 ──セラ大森林──


「ホーンラビット、1。釣るにゃ……仕留めたにゃ」


早速(さっそく)、遊ばないでよ」


「ごめん、ごめんにゃ」


 ベスは採取に向かう道中で、目聡(めざと)く見つけたホーンラビットを

チャクラムの一投を以って仕留め、悪びれも無く戻って来る。


「今日はあたしが採取についてレクチャーしてあげるわ」


 サンディは、掛けてもいないメガネを掛け直す仕草をしてドヤ顔を見せる。


「サンちゃん先生、よろしくねぇ」


「何気にバカにされた気がするのだけど、気のせいかしら?」


「ワウッ!」


「だからハルナ、ケダモノをこっちに近づけないでっ!」


「いい加減、遊ばれてる事に気づけにゃ」


「サンディも先にふざぜた事をやってるんだから仕方がないよな」


「と、とにかく、基本の薬草と魔力草くらいはちゃんと覚えなさい。

それぞれポーションとマナポーションになる素材よ。

どちらにも似た毒草があるから注意して探してね」


 サンディが薬草と魔力草を取り出し全員に見本として配ると、

追加で赤色と黄色の塗料で目印をつけた野草を配る。


「赤色で目印を付けてあるのが、薬草に似た毒草で、

黄色で目印を付けてあるのが、魔力草に似た沈黙草よ。

分からなくなったら見比べて、判断出来る様になりなさい」


「サンちゃん先生、分かりやすい」


「それにしても、この類似性に悪意を感じるな」


「薬と毒は紙一重にゃ」


「はいはい、お(しゃべ)りはそれ位にして採取を始めるわよ。

それと見つけても全てを採取しちゃダメよ。次に生えてこなくなっちゃうから」


 サンディの合図で採取を始める。

 マサトは手持ちの見本を見ながら探していると、

程なくして薬草が固まって生えている場所を見つけ採取する。


「マサト、それ毒草が混じっているわよ」


 マサトは背後から掛けられたサンディの声に(うなが)され、

手持ちの薬草と見本を見比べる。

 改めて調べた薬草の中身は、半数が毒草混じりであった。


「あ~、薬草の群生地だと思って全部まとめて採取していた……」


「初心者によくある思い込みね。

そのままギルドに出したら、報酬と評価が下がるから気をつけなさい」


 そう言うとサンディは、マサトの採取品を素早く仕分けして、

他の二人の様子を見に行った。


 マサトはサンディに仕分けしてもらった物を横に寄せて置き、

改めて採取を再開する。


 ◇◇◇◇◇


 陽の高さが頂点に達すると、サンディは休憩の合図を出し、

皆を木陰(こかげ)の下に集め昼食にする。


 昼食は少し早めに採取を切り上げていたベスが、

ホーンラビットの肉を使って、串焼きとスープを用意してくれていた。


 ベスは皆に配膳すると、新しく(なべ)にお湯を張り直し、

その中に午前中に採って来たと言う芋を、

皮付きのまま適当な大きさに切って()で始める。


「ベスにゃん、何作ってるの?」


「大量の芋を見つけたので、今まで手作業で作っていた物を

魔石加工で作れないか実験してみようと思っているのにゃ。

これはその下準備にゃ。

あっ、それと、このままだと毒があるので、

間違っても味見をしようとしちゃダメにゃ!」


「なんでそんな物騒な物を作ってるのよ」


「出来てからのお楽しみにゃ」


 そう言うとベスは、最初の料理時に出来た灰を

水と一緒に桶に入れて、水溶液を作ってから昼食を取り始めた。


 そしてその後は、当然のように午前中の採取の結果報告会となった。


「では、あたしが採取量と正確性から順位発表をするわ。

心の準備は良いかしら?」


「まーくん、ドッキ、ドキの、ワック、ワクだね」


「どうでも良いのにゃ。ほれ、コレ食って良いにゃ」


「ワウッ!」(ガジガジ)


 ハルナは楽しげにサンディの結果発表を待ち、

ベスは茹でた芋を取り出して皮を剥きながら、

ガブリエルに干し肉を与え餌付けをしていた。


「第三位は、マサト。

薬草を一番多く採取しているわ。でも魔力草が見つけれていないわね。

薬草の判別も後半は間違いが無く、良く出来ていたわ」


「まーくん、おめでとう。胴メダルだよ」


「いや、三人しか居ないから最下位な」


「続いて第二位は、ベス。

薬草、魔力草の判別の正確性では第一位なんだけど、

途中から魔物狩りや芋掘りを始めて、採取量が最下位ってどう言う事よ!」


「ごめん、ごめんにゃ~」


「しかも採取依頼の必要最低限を、しっかり守っているあたり確信犯じゃない!」


「それは偶然にゃ~」


 ベスは悪びれた様子も無く、

サンディをからかうような返事を繰り返している。


「はぁ……もう良いわ。そして()えある第一位は、ハルナ。

薬草、魔力草のどちらも良く判別出来ていたわ

採取量で見ると魔力草の方が多く取れていたわね」


「わ~い、やったぁ!」


「午後からはマサト以外は自由行動で良いかしら。

周辺にいる魔物も大した事がないものね。

マサトはあたしと魔力草の採取の補習ね。

さすがに見つけられないってのは問題よね」


「そうだな。よろしく頼む」


「ガブリエル、取っておいでぇ」


「ワウッ!」


「きゃぁーっ! なんでこっちに干肉を投げるのよ! 

そのケダモノを(おさ)えてっ!」


「面倒くさいから三人で行って来いにゃ。駄犬は私が預かるにゃ

あっ、そこの鍋と桶に追加で水を入れておいてくれにゃ」


 ベスはガブリエルを捕まえると、適当に相手をしながら、

残り火でお湯を沸かし始めた。


 マサト達は、ベスが何をしているのか気になったが、

試行錯誤をしながら作業をするから時間が掛かると言われたので、

魔力草の採取へと向かった。


 ◇◇◇◇◇


「それじゃあ、ハルナは魔力草を見つけるのが上手いから

マサトに見つけ方のコツを教えてあげてくれるかしら」


「サンちゃん先生、まっかせってよっ!」


「えっ、サンディが教えてくれるんじゃないのか?」


「う~ん、実はあたしの場合、探そうと思えば中古鑑定で

ピンポイントで発見出来てしまうのよね。

だから一般の冒険者とは視点が違うの。

ハルナから聞いた方が参考になると思うわ」


「ああ、サンディの場合は、結果から逆算した状態なのか。

それじゃハルナ、よろしく頼む」


「まーくん、まっかせてよっ。まずは魔力溜まりを探すんだよ」


「「えっ?」」


 ハルナはキョロキョロと辺りを見渡すと、何かを見つけたらしく、

トテトテと一直線に歩き出した。

 マサトは、横にいるサンディの様子を覗う。

 サンディの顔にもマサトと同じく困惑の色が浮かんでいた。


 そして目的地に着くとハルナは、再びキョロキョロと辺りを見渡す。


「次に他と比べて地面の水分量が少ない所を探して……

あっ、み~つけたっ!ねっ、簡単でしょ?」


【出来るかーーーっ!】


 マサトは、満面の笑顔を浮かべて()んだ魔力草を持って

駆け寄って来るハルナに思わず叫ぶ。

 もちろんハルナは、思いっきりふてくされていた。


「え~とハルナ、ごめんなさいね。

一般の冒険者は魔力溜まりなんて見つけれないわ。

しかも無いに等しい物よね?

そんな物を魔力溜まりとして認識出来る人なんて限られると思うわ」


「ハルナが水属性魔法が得意なのは知ってたけど

地面の水分量の差なんて誰が気づけるんだよ……

ハルナの場合は、時代を先取りしすぎた天才の理論を聞かされているようで、

全く参考にならない」


「まーくん、天才だなんてぇ」(てへへっ)


「褒めた訳じゃ無いんだけどな……」


 その後マサトは、サンディのレクチャーを受け、魔力草の採取を覚えた。


 ◇◇◇◇◇


「おかえりにゃ。ちゃんと見つけれたかにゃ?」


「ワウッ!」


 マサト達は採取を終え、合流したベスとガブリエルから

労いの言葉を掛けられる。

 サンディはガブリエルの鳴き声に敏感に反応して、

ガブリエルから距離を取り、マサトの後ろに隠れてしまう。


「なんとか採取出来る程度には覚えられたかな」


「おお、おめ~」


「それでベスにゃん、出かける前に作っていた物ってどうなったの?」


「う~と、【一応成功した】にゃ。宿に戻ったら見せてやるにゃ。

そんでもってその合間に、駄犬を狩猟犬に調教してたにゃ」


「ワウッ!」


 ガブリエルが、思いのほかベスに従順になっていた。


「へぇ~、それでどんな感じだったんだ?」


「これが駄犬の成果にゃ」


 そこにはホーンラビット二匹と、なぜか薬草と魔力草が混じっていた。


「ホーンラビット二匹をガブリエルが狩ったのか?

それになんで薬草や魔力草があるんだ?」


「ホ-ンラビットは、駄犬が単独で仕留めた物にゃ。

狩らせて見たら、狩猟本能に目覚めたのか面白がってたにゃ。

調子こいて悪さしようとしたので、【教育】したら大人しくなったにゃ。

あと薬草と魔力草は、ついでだからと思って匂いを覚えさせてみたら、

前足や尻尾を使って器用に引き抜いて来たにゃ。

見つけさせるだけのつもりだったんだけど、思いのほか使えるやつになったにゃ」


「ガブリエル、エライ、エラ~イ」


「ワウッ!」


 ガブリエルは、ベスとハルナに褒められ、

今までの臆病さが消え、自信のある鳴き声を上げた。


 ただ、喜びのあまりにサソリの尻尾を激しく振った為、

幻覚液を飛び散らせる事となり、

ベスから教育を再び受けてビビリに逆戻りしていた。


「それにしても魔物を狩りながら、よく採取も覚えさせたわね」


「何を言ってるにゃ?

オマエも狩りの最中に採取してたにゃ。

その方が効率が良いに決まっているにゃ」


「まぁ、そうなんだけど……」


「特殊な野草ならいざ知らず、普通の薬草や魔力草なら

【魔物を追ってれば自然に見つかる】にゃ」


「「えっ?」」


 聞き捨てならない内容が聞こえた。


「はぁ~、まさか本当に気づいてなかったのかにゃ? 

魔物だって全てが肉食じゃ無いのにゃ。ホーンラビットは草食だし、

ワイルドディアやビッグボアも草食寄りの雑食にゃ。

なので、怪我をしたり体調が悪くなると薬草や魔力草を食べてるにゃ。

だから追跡して狩った時、つまり餌場の近くに生えていたのにゃ。

今までの狩りで気づいてると思ってたにゃ。

逆に、魔物がこれらの野草を食べないって、どうして思っていたのか、

そっちの方が不思議にゃ」


 ベスの狩猟者としての視点に、マサトとサンディは唖然(あぜん)とさせられた。


「コレ、ギルドでも把握していないわよ。

なんとなく狩りのついでに採取も出来てラッキーって位にしか

冒険者もギルドも考えてないわ。

冒険者にしたら、薬草と毒草が混じっていたら、邪魔だって感覚だけど、

魔物にしたら、薬草と毒草が混じっていても……いえ、

毒草を食べても横に生えている薬草を食べれば良いって感覚って事でしょ?

普通思いつかないわよ」


「毒草を食べてたとしても、毒消し草が無ければ、薬草を食べれば良いじゃない?

って発想だよな。どこぞの王妃様かよ。

いや、実際は言ってなかったんだっけ?」


「なんだか、不可思議なローグライクゲームみたいだねぇ。ガブリエル」


「ワウンッ?」


「まぁ……ドンマイにゃ」


 結局の所、ベスの一言が全てだった。


 マサトにとって、このパーティは、あまりにも一般のパーティから

掛け離れ過ぎていた。

 三者が三者とも個人スキルが特化しすぎていて、ついて行けないのである。


 マサトは、当初の目的であった採取の経験を積む事と、十分な採取量を

確保出来た事で良しとしようと思い至り、冒険者ギルドへと撤収した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ