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011.宝刀

 ──セラ大森林──


「ターゲット、ワイルドディア。釣ります」


 サンディのクロスボウからの射撃で戦闘に入る。


 頭部の左右に巨大な角を持つ大鹿の魔物ワイルドディアは、

攻撃を受け振り向くと、最大の武器である大角を突き出し、

サンディを目掛けて一直線に突撃して来る。


 しかしながらワイルドディアは、その進路上のぬかるみに足を取られ失速する。

 ハルナの潤沢な水属性魔法を使って事前に仕込んでおいたトラップだ。

 そこに追加でバインドで足止めを掛ける。


 あとはサンディの射撃、ベスの投擲、

ハルナの魔法の集中砲火で戦闘は終了した。


「アッサリ終わったな。オレの出番なし……」


「事前準備がしっかりしていたもの当然ね」


「オマエが用心深くバインドまで入れさせたのにゃ。

一方的になって当然にゃ」


「いや、バインドが効かなかったらヤバイだろ? 

あんなに横幅に大きく広がっている大角の突進なんて回避の難易度が高すぎる。

効くかどうか試しておくべきだろ」


「まーくん、心配性だねぇ」


「ワイルドディアの回収は終わったわ。次のターゲットを探しましょう」


 サンディがワイルドディアをストレージコートに回収したついでに、

いくつかの薬草も採取していた。


「あれっ、薬草の採取依頼って受けてないよな?」


「そうね。でもみんな狩りの片手間に採取してギルドに戻ってから

受付に常時依頼表と薬草を渡して依頼の達成報告をしているわ。

セラの大森林全域で採取が出来る、ここのギルドのご当地ルールね」


「冒険者ギルドに、そんなローカルルールを作って良いのか?」


「冒険者ギルドだって、その地域の一部よ。

そこに住む人の気質や習慣からたルールが出来ていくものよ」


 サンディと狩りの合間に交わす何気ない会話。

 パーティの中でサンディだけが、この世界の住人である。


 冒険者としての経験ならベスだが、この世界の事を知ろうと思えば

サンディに聞くのが一番だった。

 マサトにとって、この世界の常識について率直な疑問を投げかけれる

サンディの存在は貴重な物であった。


「マサハルサン、ビッグボア、3。

一匹引き離すにゃ。釣って良いかにゃ?」


 ベスの報告で再び臨戦態勢に入る。


「了解、猪なら練習台になってもらおう。ベスは順次釣ってくれ。

基本は、バインドからの個別対応。

一匹目の相手はオレがする。

二匹目はハルナとサンディで対応。

その時点でベスは、加勢に入るか三匹目を釣るかを判断して対応」


「了解にゃ」


「ベスにゃんの皆の略し方が、とうとう「さん付け」になっちゃったね。

まーくん、慣れすぎて完全にスルーだよ」


「えっ、あれってあたし達の事を言ってたの? 

あっ、そのケダモノも拘束しておいてくれないかしら……」


「ガブリエル、お座り(バインド)」


「ク、クゥ~ン……」


 ハルナは、ガブリエルを戦闘エリアから離した所で座らせて宝杖を構える。

 マサトは、ロングソードを抜き、ハルナ達から少し離れて位置取りをする。

 サンディは、マサトとハルナの中間位置でクロスボウを構えた。


「ビッグボア、1」


 ベスが引き連れてきた魔物と数をマサト達に報告しながら駆け寄る。


「ターゲット、ビッグボア、1。引き剥がすわ」


 サンディが、ベスを追い駆けて来ている魔物と数に

間違いが無い事をベスに報告し、クロスボウで魔物を射る。


 これは釣り役が他の魔物も引き連れてパーティの下に

戻って来てしまった際に素早く、これらに対応する為の確認である。


 サンディが放った矢弾がベスの横を抜けビッグボアに突き刺さる。

 と、同時にベスは進路を横に変え、ビッグボアにサンディへの進路を開く。


 攻撃を受けたビッグボアは獰猛な瞳をギラつかせサンディに襲い掛かる。


「ハルナ、バインドを!」


 サンディの声に反応し、ハルナはビッグボアにバインドを放ち足止めをする。


 マサトは、拘束されたビッグボアに駆け込むと、

その横っ面にロングソードを叩き込み、

サンディに向けられていた殺意を一身に引き受けた。


 この間サンディは、武器をクロスボウから剣に持ち替え、

自身にビッグボアが向かって来た時に備え身構えていたが、

当初の予定通りに事が運んだ事で、再びクロスボウに持ち替え、

二匹目に対処すべく、位置取りをハルナの近くに寄せる。


 ターゲットの釣りからの一連の動きは、

事前に打ち合わせをしていたものでは無かった。


 しかしながらベスとサンディは、これらの動きを当たり前のように行い、

マサトが望んだ1対1の形に持ち込む。

 そしてベスは、スムーズに次の一匹を釣りに戻って行った。


 それはマサトと二人の、冒険者としての差の現れであった。


 マサトは、ビッグボアの頭部に初撃を叩き込むと、そのまま横を駆け抜ける。


 ビッグボアは拘束されているとは言え、

長く突き出された巨大な牙による、刺突と振り回し攻撃がある。


 まともな攻防が出来る技術の無いマサトは、

選択授業で取っていた剣道のわずかかな経験から、

バインドで足止めされた魔物に対して、飛び込み面または飛び込み胴の形で、

一撃離脱を繰り返し戦う。


 剣道の試合であれば、一本に成り難い打ち込み。

 しかしながら、カカシ状態の魔物が相手であれば、

勢いを付けた一撃を交差時に打ち込め、かつ追撃を回避出来る。


 マサトは上段に構えたロングソードを重量に任せて振り下ろし、

インパクトの瞬間に引き手で加速させ斬りつける。


「やはり、動きは見えるし身体も動く……」


 マサトはビッグボアに数合打ち込むうちに

前日までのグレイウルフとの戦闘に比べ、身体がスムーズに動く自分に気づく。


 ビッグボアが繰り出す刺突を回避し、カウンターぎみに打ち込む。

 擦れ違い様に反撃された大牙の振り回し攻撃を、咄嗟に反応して離脱する。


 その度に冷や汗を流しながら、幸運に感謝していたが、

ビッグボアとの相対的な動きから、自身の身体能力が向上している事に気づいた。


 それでも倒すまでには時間を要し、

マサトがビッグボアを仕留めた頃には、ベスが単独で三匹目を討伐していた。


 その後ホーンラビットを五匹、グレイウルフを二匹狩り撤収した。


 ──宿屋フォックスバット──


「マサトの戦い方って、何かチグハグよね?」


 ベスがビッグボアの肉で作った猪鍋(いのししなべ)を堪能しながら、サンディが(つぶや)いた。


「まともに剣の使い方を習った訳じゃないからなぁ」


「その割りに動き自体は良いのよね。勘所(かんどころ)が良かったり……」


「そうなのか?」


「身体の動かし方は、明らかに良くなっていたのにゃ。

チグハグに感じるのは、おそらく武器の使い方の違いにゃ。

武器が剣なのに動き方は、私の世界の『(さむらい)』ってのに近かったにゃ」


「ああ、少し意味が分かった。オレが使っている剣は、叩き斬る武器。

でもオレがやってるのは、刀で鋭く斬り込む動きの真似事だからだろうな。

あと朝に素振りをしていたのが良い準備運動になったのかも……

ってか、侍を知ってるのか?」


「私のシ-フと同じで技能上の分類にあるにゃ。

そうかにゃ~、アレを目指しているのかにゃ~」


「あたしは、その含みのある感じが、なんなのかが気になるわね」


「う~ん、アレは刀って武器があるのが前提のスタイルなのにゃ。

この世界に刀ってあるのかにゃ?」


「それって、どんな武器なの?」


「オレの宝刀の木刀を金属製にした物だな。

ガブリエルを最初に叩いた時の木製の武器だ」


 マサトは木刀を出現させてサンディに見せる。


「ああこれね。似たような物が何かなかったかしら……」


 サンディは後ろの二段ベッドに掛けていたストレイジコートの中身を漁る。


「これなんかどうかしら? あっ、中古能力があるわね」


 そう言ってサンデイは一振の刀を取り出しマサトに手渡した。


「中古鑑定で視た所、名前は【蒟蒻切(こんにゃくぎり)】ね。

対となる刀が、唯一斬れなかった物体を斬る為【だけ】に(つく)り出された刀、

ですって。スゴイの見つけたわ!」


「確かにすごいジョークアイテムにゃ」


「それでコンニャクってなんなの? 

唯一斬れなかった物体って事は伝説の鉱石?」


「今オマエが食べてる物にゃ」


「えっ、このプニプニした物?」


 ベスが猪鍋に入っているコンニャクを持ち上げて見せると

サンディが困惑の表情を見せた。


 マサトは蒟蒻切を(さや)から一部抜き、

その刃の上に猪鍋から取り出したコンニャクを落としてみた。

 コンニャクは刃を無抵抗に通過すると、その身を二つに分断される。

 そして蒟蒻切の刃の上には、

一緒に落ちたネギの皮だけがペトリと張り付き残されていた。


「うん、鑑定に間違いなし……。ひとまず使ってみるよ。ありがとうな」


 マサトはサンディに力なく声を掛け、蒟蒻切に付いたネギの皮と汁を拭き取る。


 それは、マサトのわずかな心の弛緩(しかん)(まね)いた出来事であった。


【ゴトッ……】


 蒟蒻切の長さを見誤り、引っ掛けてしまった事で、

マサトの手から蒟蒻切が転がり落ちる。


 転がり落ちた先には、先程取り出して片隅に置いていた木刀があり、

二振りの刀が交差する。


【ピカァァァーーーーーッ!】


 (まばゆ)い光が部屋の中に放出される。


「うわっ、なんだっ!」


「きゃぁーっ! 目が、目がーっ!」


「はにゃ?」


「まーくん、まーくんっ! まーくーーーんっ!」


「キャイン、キャイン、キャ【ゴツンッ!】クゥ~ン……」


 大惨事が起きた。


 マサトの対面に座っていたサンディは、閃光をモロに受けて目潰しを食らう。


 サンディの横に位置していたベスは、

たまたま閃光と反対方向を向いていた為に(なん)を逃れたが、

ハルナとガブリエルは、閃光に驚きパニックになる。


 そしてハルナは横に居たマサトの服の裾にしがみ付いて離れなくなり、

ガブリエルは駆けずり回った挙句、頭を打ち付け気絶してしまった。


 マサトは、咄嗟(とっさ)に目を背けた事が幸いし、被害が無かったが、

同じく無害だったベスに、ハルナにしがみ付かれている様子を

微笑(ほほえ)ましい目で長々と(なが)めらかるという二次被害にあう。


「もう、本当になんなのよ!」


「見事な眼射だったにゃ」


「そこっ、せめて目潰しと言おうな」


「まーくん、今の何が違ったの?」


「……発音の問題かな」


「うん?」


「それで本当に何が起きたにゃ?」


「いや、オレの木刀に蒟蒻切が転がり落ちたと思ったら、

いきなり発光したんだよ……って、あれっ?」


 マサトは木刀と蒟蒻切を拾おうと手を伸ばすも、そこには蒟蒻切しかなかった。


「ベッドの下にでも転がり込んだか?」


 マサトは蒟蒻切を持ってベッドの下とその周囲を探し回るも、

木刀の姿が見当たらなかった。


「驚いた拍子(ひょうし)に元に戻ったのか?」


 マサトは、改めて宝刀を取り出そうとするも反応が無い。

 いや、すでにそこに在ると感じ取れる。


 マサトは蒟蒻切に目をやる。

 その蒟蒻切の柄頭(つかがしら)には、わずかかばかり輝きを増した宝玉が存在していた。


 マサトの背筋に冷たい汗が流れる。


「ま、まさか宝刀が進化した? いや、蒟蒻切を取り込んだ?」


「おおっ、まーくん、バージンアップだよ!」


「それを言うならバージョンアップよ。

って言うかその~、なんかゴメン……」


「ド、ドンマイにゃ……」


 かくしてマサトは、異世界転移五日目にして

わずかばかりではあるが宝刀を進化させる事に成功する。


 そして念願(ねんがん)の刀を手に入れるのであった。

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