表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/100

001.プロローグ

 この世界の始祖(しそ)の神、女神様は世界を創造しました。

 海と大地を。空には太陽と月と星々を。

 そして多種多様(たしゅたよう)な生命を──


 しかし、唯一神であった女神様の神力だけでは、

日を追う(ごと)に広がっていく世界、

大地に満ちていく生命の全てを見守る事が困難になっていきました。


 そこで女神様は、世界を構築する神力を、新たに受け入れた神々に。

 世界と神々との調和力としての因子を、異世界からの旅人達に(ゆだ)ねました。


 女神様は、その在り方を、創造の神から調和の神へと変えたのです。


 そして女神様は、我々の住むこの世界へと訪れる異世界の旅人達からは、

こう呼ばれる事となります。


 【運命の女神】と……


 ◇◇◇◇◇


 とある教会の礼拝堂の中、オレは陽光が差し込む窓際の席に腰を掛け、

多くの参列者と共に神父の有難い教え(チュートリアル)を受けていた。


 オレの首には、(あか)(かがや)いていた【宝玉(ほうぎょく)のカケラ】と呼ばれる物体が、

変化したプレート、ドッグタグがぶら下っている。


 ドッグタグとは、軍人が首から下げれいる金属製の認識票の事だ。


 氏名、生年月日、性別、血液型、所属軍(国籍)、認識番号、信仰する宗教が

刻まれた金属プレートで、例え戦死時に遺体が原形を(とど)めないほど損壊(はそん)しても、

認識票が無事なら個人識別が可能である。


 オレが身に着けているドッグタグには、そこまで詳細な記載はされていない。

 この異世界での簡易的な身分証明という程度のものらしく

『タカクワ マサト』と、オレの名前のみが表記されている。


 マサトは、神父の有難い教え(チュートリアル)に耳を貸しながら、

右手に持つ(しゅ)()びたプレートをもて遊びつつ、

周囲の参列者の様子を(うかが)う。


 参列者の中には、先程まで居た『白い空間』で見た顔があった。

 その姿は自分も含め、この異世界の住民の中にあって違和感の無い(よそお)いに

変わっており自然と溶け込んでいた。


 マサト達は、ほんの数瞬(すうしゅん)前にこの異世界に転移させられた。

それにも関わらず、ここに居る住民達は、その事に気づいた様子がなく、

ごく自然にマサト達の存在を受け入れていた。


(ああ、なるほど。つまりオレ達の立場は、(わずら)わしい束縛が無いお客様(あつか)い。

そして余計な異物の持ち込みは禁止って事か……)


 マサトは、『白い空間』で会った運命の女神の力と言葉を再認識した。


 マサトは、視界内の参列者の確認を終えると、

右手のプレートを(しゃ)に持ち背後に居る参列者を映し見る。

 時折、陽光が金属プレートに反射し、思わず顔をしかめてしまうが、

程なくして探し人が見つかり安堵(あんど)する。


 ◇◇◇◇◇


 オレ、高桑将人(たかくわまさと)は、『白い空間』に居た。

 そこには見知らぬ人々が、十数人居て何やら声を上げている。


「まーくん?」


 聞き覚えのある声に振り返る。そこには幼馴染みの少女、清水春菜(しみずはるな)が居た。

 耳の後ろで髪を結んだツインテールを揺らしながら近づいて来る。

 小柄なハルナの姿は、同じ高校の制服を着ていなければ、

その小動物のような愛嬌(あいきょう)のある童顔(どうがん)(あい)まって中学生のように見えてしまう。


 マサトがそんな事を考えていたその時、(まばゆ)い光が白い空間に満ち(あふ)れる。

 光源に向き直ると、その光の中には人の形をした(シルエット)が浮かび上がっていた。


 そして光の中の(シルエット)は、こう語りかけてきた。


「皆様、はじめまして。私は【運命の女神】と呼ばれる存在です。

皆様は現在、同じ世界、同じ時間において、生と死の狭間(はざま)(ただよ)っています。

その皆様に私からお願いがあります。それは異世界への転移です」


 突如(とつじょ)現れた運命の女神の言葉に、

その場に居た全員の思考が一瞬止まり、静寂が訪れる。


 そして次第にその言葉の意味を理解しはじめた者達から

次々と言葉が(あふ)れ出した。


「えっ、死んじゃったの?」

「おいおい、じゃあ、ここはあの世って事か!?」

「そんなの嘘よ、だって私は……あれっ?何をしていたんだっけ?」

「死んだ?でも、そんな記憶無いぞ!いや、直近の記憶も無いぞ?」


 マサトは、自分の死の間際の記憶を探してみた。

 しかし周りに居る人達と同じく死因も、直前の行動も思い出せない。


 運命の女神は、迷える者達に語り掛ける。


「ここに1つの【宝玉】があります。

これは皆様が居た共通の元の世界、すなわち

【同じ世界の同じ時間】が記憶されています。

これより皆様には、この宝玉を分割した【宝玉のカケラ】を譲渡(じょうと)します」


 運命の女神は、そう告げると、自身の胸の前に出現させた、

紅く輝く宝玉を分割する。

 そして宝玉のカケラをプレートの形状に変化させると全員に譲渡した。


「皆様に求めるのは、異世界へ転移し滞在していただく事です。

正しくは、皆様に譲渡した『宝玉のカケラ』を『宝玉』に(はぐく)んで(いただ)く事です。

宝玉のカケラは、身に着けていて下されば、

時間の経過のみでも数年で宝玉に成長します。

転移先の世界での活動によっては、皆様が保有している【因子の成長】と共に、

【宝玉のカケラの成長】が促進(そくしん)されます。

【因子】とは、転移先の世界において皆様の身体に発現する

【固有能力】の起源(きげん)となるものです。

皆様に求められているのは、皆様が持つ因子によって、

転移先の世界の調和を補強して頂く事です。

ゆえに最終的に育まれた【宝玉の奉納(ほうのう)】をもって、

【元の世界への帰還(きかん)ならびに死の運命の回避】を(おこな)います。

皆様に直前の記憶が無いのは、この死の運命の回避を行うにあたっての

必要な処置であると理解して頂きたく思います。

また、奉納後に転移先の世界に留まる事を希望されるのであれば、

それも可能です。

そして【宝玉の奉納】をもって、世界の調和に対する貢献の報酬として

【希望する願いを1つ(さず)けます】」


 運命の女神が語るその内容に、その場に居た全員が息を()み、

多くの者達がその瞳を輝かせた。


 自身の死に納得は出来ない。

 しかし、少なくとも異世界への転移をもって延命(えんめい)はされる。


 厨ニ心(ちゅうにごころ)(くすぶ)る、特殊能力が貰えるのに、勇者に(かつ)ぎ上げられ、

どこぞの魔王を倒せと言われる訳でもない。


 元の世界への帰還方法も明示(めいじ)されていて、

協力の報酬に願いを1つ叶えて(もら)えるときている。


(なんという高待遇。だからこそ……)


 マサトを含め、何人かは同じ思いだったようだ。

 一人の男性が運命の女神を牽制(けんせい)をする。


「あまりにも都合の良い話で、落とし穴がありそうで怖いな。

そこはどんな世界で、俺達が気をつけるべき事があるなら教えてもらいたい」


 男性の質問に運命の女神は語る。そこは、科学ではなく魔法が発達した世界。

 人間のほかに亜人種や魔物が存在し、

魔物から取れる魔石を使った加工技術が確立されている。

 

 これらの世界の基礎知識および保有能力は、

転移後にプレートに触れる事で開示(かいじ)されると言う。


 最後に運命の女神は、こう()げた。


「皆様に協力していただくに際しての注意事項ですが、

転移後の世界での皆様の死は、本当の意味での死になります。

元の世界への回帰(かいき)や、今回の様な転移や転生といったものは行われません。

そして、最も重要な禁忌(きんき)として【同郷殺(どうきょうごろ)し】があります。

この禁忌が破られた際に【連帯責任の呪縛】が発生します。

皆様は、同じ世界、同じ時間の宝玉、紅く輝く【紅玉(こうぎょく)】の元に(つど)った、

同郷の者達です。

転移した世界には、皆様と同じ様に 別の世界からの転移者も存在し、

トラブルが起きる事もあるでしょう。

そのような(おり)に【逸脱者(エラント)】と呼ばれる存在が現れる事があります。

このエラントとは、同じ宝玉の元に集った同郷の者を殺害し、

自身の因子に変調を起こした同郷殺しの成れの果てです。

エラントは、自身の宝玉のカケラを(かい)して、同郷の者達の身体に影響を

(およ)ぼすようになります。

この影響下にある同郷の者達は、次第に身体の一部が変容(へんよう)していき

【エラント化】していきます。

これが【連帯責任の呪縛(チェーンライブラリー)】です。

エラントは皆様の様な因子の能力を、強く育んだ者でないと立ち向かうのが

困難な存在になります。

エラント化が発生した場合、迅速(じんそく)に【始祖(しそ)のエラント】の

討伐を行い、連帯責任の呪縛の解呪(かいじゅ)を行って下さい。

その際、可能であれば、先に訪れている、他の転移者の助力を求める事も、

視野に入れて下さい」


 運命の女神がそう()げた直後、異世界への転移が始まる。


 マサトは、運命の女神が起こす転移の奇跡に目を奪われるも、

我に返って慌てて幼馴染みのハルナの姿を探す。


 転移の際に皆が同じ場所に辿(たど)り着くとは

明言(めいげん)されていない事に気づいたからだ。


 振り向いた先には、奇跡の光景に目を輝かせているハルナの姿があった。

 そんなハルナの良く言えば純粋さ、悪く言えば危なっかしさに、

のん気なものだと思いつつ、

少しでも転移先が、同じになる確率が上がればと、その手を取ろうとする。


 しかしながら、マサトの手がハルナに届く事は無かった。


 ◇◇◇◇◇


 気づけばマサトは、とある教会の礼拝堂の中で、有難い教え(チュートリアル)を受けていた。

 そして程なくして探し人が見つかり安堵する。


(少なくとも、運命の女神と名乗った存在に、悪意や害意は無いのだろう)


 マサトは自分の用心深さと言うよりも、

その(ひね)くれた在り方に思わず苦笑する。


 参列者達は、話を終えた神父の(もと)から離れ、帰路(きろ)に着こうとしていた。

 そんな人の流れに(さか)らい、幼馴染みの少女は、無邪気に微笑(ほほえ)んで近寄って来る。


 マサトは、ひとまず無事に合流出来た事を喜ぶのであった。

「面白かった」

「続きが気になる、読みたい!」

「今後どうなる!!」


と思ったら、下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援をお願いします。


面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つ


正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


なにとぞ、よろしくお願いいします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ