第八話 神器と力 その4
「「召喚。」」
二人は、一週間程の間神器の召喚を練習していた。
二人とも一瞬で作り出す事が出来るようになっていた。
「もうよいかのぅ。次のステップへと移るのじゃよ。」
ユーキとパルゥシアは、フィアルの発言に爛々と目を輝かせた。
「「やったー。」」
そんな二人の様子を見て、フィアルは嬉しそうに目を細めた。
「次は、それらの能力についてじゃな。パルゥシアの持っている神器『疾風』は風、もとい気象や気圧、月の引力を操作できるのじゃ。」
「風を扱うんじゃないの?」
「風は、気圧の差や月の引力による潮の満ち引き、海と陸の温度差などによっておこるのじゃ。もっとも、他の者には、せいぜい竜巻を起こす程度じゃろうがな。その二対の神器が端末となれば、その程度は出来るじゃろう。」
「そんなに...」
「ユーキ、お前は神を信じるか?」
「いると思う。」
「ほう...なぜじゃ?」
「物語だと思っていた魔族や英雄は居たんだから、神様が居たっておかしくない。」
「その通りじゃな。神は、この世界に居る。お前の神器『纏神』は、神の力の片鱗をその身に宿す物じゃ。」
「神を宿す...」
「そうじゃ。話を聞いてもややこしくなるじゃけだろうし、早速やってみるとよい。」
「うん...」
「この能力は詠唱が必要になるからのう。」
詠唱文は自然と脳裏に浮かんできた。
其処には、多種多様な神の名前が出てきていた。
「『雷の神トールよ、汝が力を我に貸し与え賜え。纏え[雷装]」
すると、一筋の蒼い閃光がタクトへと落ちて、其処を起点として体内へ侵入してきた。
力が今までの何千倍にも膨れ上がり、体を張り裂かんばかりに体内を濁流の如く駆け巡っていった。
「結界術を使ってみるのじゃ。」
「はぁぁぁぁぁああ。」
結界術を使用すると、今までは白く発光していただけの光の膜が、今は光の膜を蒼い雷が縦横無尽に駆け巡っていた。
ひらひらと舞落ちてきた木の葉は、結界に触れる前に、蒼い雷が葉を貫き、一瞬で灰塵と変化させた。
「すごい...」
ユーキは、この神器の力の巡った結界の美しさに見とれていた。
「ほう...」
フィアルは、神器の齎す通常の能力とは一線を画した力に思わず感嘆の溜息が漏れた。
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パルゥシアは、僅かながらにユーキに対して感じる劣等感に苛まれていた。
「『風よ!』はぁぁぁああ。」
すると、突風が彼女を中心として収束を始めた。
突風は、渦を巻き激しい上昇気流を発生させ、周囲の木の葉や砂を巻き上げていた。
その突風が内包する威力は、木々を軽々と吹き飛ばす威力をしていた。
「はぁ...はぁ、こんな攻撃では全然ね...」
パルゥシアは、膨大な事捻力を消費してしまい、今現在も襲ってくる猛烈な眠気を精神力だけで押しのけ再度能力を行使する。
しかし、極限状態まで陥った彼女の残り僅かな事捻力は、優しい微風を吹かせる程度だった。
「だめ...こんな程度では...ユーキの...横に立つなんて...できない。」
そして、再び能力を行使する。
しかし、風は一切起きる事なく、彼女の抵抗空しく意識は襲ってくる猛烈な眠気の津波に押し流されて、意識を失った。
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ユーキ達から少し離れていたところで能力を行使していたパルゥシアの放つ突風が突如としてなくなり静かになった事を訝しんだユーキは、パルゥシアのもとへと駆け出した。
其処には、案の定、能力の過剰行使によって意識を失ったパルゥシアが居た。
「パルっ!」
ユーキはあわてて駆け寄り彼女を抱えて再びもとの場所へと戻ってきた。
フィアルは、彼女の容態を一見すると、さもありなんといった表情を浮かべていた。
ユーキは、彼女の事を気に掛けながらも自分の訓練へと取りかかった。
「ユーキ、お前にはこっちの使い方も教えておこう。」
そう言って、フィアルは遠くに立っている枯れ木に目を向けると、唐突に右手を上げ少し渋めな声で口ずさんだ。
「『撃ち抜け。火弾』」
そう言うと、彼の右手から一条の深紅の閃光が迸った。
咄嗟に木へと視線を向けると其処には、中心を何かが突き抜けた痕がありその周囲は、炭化していた。
「い...今のは。」
「今のは魔族個有の能力『魔法』じゃ。」
「魔法...僕にも使えるの?」
「ああ、お前が言っていた赤い力を使う能力だ。魔法はイメージが大事だ。さっきの攻撃をイメージして撃ってみるのじゃ。」
「うん。」
ユーキは、体内を流れる深紅の力ーー魔力を右手へと収束させた。その行動に要した時間はたったのコンマ一秒。一週間もの間事捻力を流していた訓練の賜物である。
彼が、魔法を放つ際にイメージしたのは、太陽を思わせる深紅の炎が、一条の光となって撃ち抜く様だった。
「撃ち抜け。『火弾』っ!」
すると彼の手の平に赤い魔法陣が現れ、一際激しく閃光を放つと、一条の紅い閃光が駆け巡った。それは、標的としていた木を瞬時に白い灰へと変化させ、数瞬後には、静かに崩れ落ちていった。
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