第六話 神器と力 その2
伏線回収及び話を進めるための準備の回になってしまいました。
現在、一軒の豪邸である四人が、会話をしていた。
この国の総司令官である、フェファーン、その師と仰がれる、フィアル、総司令官の娘であるパルゥシア、フィアルの孫であるユーキ、の四人だ。
「お前達に話さねばならないことがある。...本来ならば、知る由もないことなのだがな。あの者達の願いに反してしまう...。すべて彼奴の息子が悪いのだ...」
最後の方は、今にも消え入ってしまいそうな声だった。
フィアルは、静かに話し始めた、この世界に語られる七英雄のその後を...
「『神々の黄昏』において途轍もない戦果を残した、第一位 『纏神』トゥウィンクル・コーシュ、第二位 『疾風』ファイス・ナッシャーヌ、第三位 『紫電』シャファ・リッシュルーア、第四位 『煌炎』ワイト・ヴァイス、第五位『鋼龍』ザック・ナッシュ、第六位『影』クラッシュ・ストレシア、第七位『光』ヒーナ・キシュリール、彼らのことは七英雄と呼ばれていることは知っているな?」
「はい物語に出てくる方達ですね。」
フィアルは、微妙な顔をして再び話始めた。
「いや、彼らは実在した。」
「でも、魔族なんていないじゃないですか。」
「まだ、知らなかったのか...」
フィアルは、唐突に服を脱いだ。鍛えられた浅黒い肌をしていた。
背中から、蝙蝠のような真っ黒な二メートル程の羽が、ばっ、と大きく広がった。
ユーキの顔は、困惑していた表情から驚愕へと変化していった。
「じいちゃん。魔族だったの...」
「そうだ。魔族のじいちゃんは嫌いか?」
「ううん。その羽かっこいいよ。」
「そうか。」
フィアルは、嬉しそうに目を細めた。
しかし、すぐに彼の顔は真剣な表情へと変化していった。
「お前らの親について話さねばならんな。」
「僕らの親?」
「そうだ。まず、パルゥシアお前の親は、そこにいるあいつと、七英雄 第二位 『疾風』ファイス・ナッシャーヌだ。そして、お前の名前は、パルゥシア・ロマーノ・フォン・ナッシャーヌだ。」
「パルゥシア・ロマーノ・フォン・ナッシャーヌ。それが、私の名前なの?」
「そうだ。」
「お母さんは、どこにいるの?」
パルゥシアは、フィアルに問いただした。
彼は、小さくかぶりを振った。
「そう...」
「ユーキ、お前の両親は、七英雄 第一位 『纏神』トゥウィンクル・コーシュと我が娘フィス・コーシュ・ローデシア・フォン・ルック、魔族の元族長だ。」
「二人は、両親は...」
ユーキが尋ねると、彼は小さくかぶりを振った。
それを見た途端、落ち込んだ様子を見せた。
「そんなことしか言ってやれなくてすまない。おまえの名は、ユーキ・コーデシア・フォン・ルック。」
その後、彼らの話を聞いていると、いつの間にか戻ってきていた司令官が少し細長い40センチ程の長さの箱と、少し分厚めの重箱程の大きさの箱を持ってきた。
「ちょっといいか。」
「お父さん、それは何?」
「ちょっと待ってくれ。」
そう言って、箱を開いた。
箱から出てきたのは、細長い方の箱からは、30センチ程の白く輝くタクトが現れ、重箱のような箱からは、二枚の僅かに金属光沢を放つ扇が出てきた。扇は一枚が、紫紺の輝きを放っており、もう一方が、翡翠色の輝きを発していた。
「これは、できるだけ渡したくはなかった。」
「どうしたの?」
フィアルは小声でつぶやいた。そのことに気づいたユーキが、聞き直した。
「何でもない。この武器にはそれぞれ、お前達が本当に生まれたばかりのとき、大きな力を持って七英雄のように重責を背負って生きていくことを望まなかった彼らが、お前達の事捻力を移し、もし何かあったときに戦うことができるよう、お前達の親が全ての事捻力をつぎ込んだ神器だ。第一位階を遥かに凌駕する、二世代の武器じゃ。」
その話をしているとき、司令官、フェファーンはとても悲壮な顔をしていた。
「俺は、彼女にだけその重責を任せて、何もしなかった屑だ。子のために、次の世代のために戦い、命を投げ打ってでも戦った彼らと、司令塔の中で震えていた俺が、同列に語られてはいけない。力があるにも拘らず戦うことをしなかった俺と...ファイスが同じ舞台に立つことは...決して...」
彼は、激しく自責の念に駆られていた。自分は力があるのに、子のために何もできず、国のために最前線で戦うことをしなかった自分が同じ舞台に立ってしまったことを。
「お前は、自分を卑下し過ぎだ。お前は、彼らと違い戦術的なことや内政の面に長けておった。立つ場所は違えど、お前は皆のために戦った、彼らと同じ舞台に立つ者じゃ。」
「師匠...」
少し涙を流してしまったのを隠すように、箱を直しにいった。
「これらを、持ち主に与えようか。」
そう言って、彼は、この世界で戦争を終結させる人物へと、親の世代から子の世代へとつながっていった。
「「あ、ありがとう。」ございます。」
ユーキが、タクトを、パルゥシアが扇を受け取ると、神器達が突如、世界を真っ白に塗り変えるような閃光が放たれた。
彼らは、反射的に目をつぶったすると、握っていたはずの神器達の感覚が、上の方からなくなっていった。
代わりに体の中に、脱水症状になるまで何も飲んでいなかった体に、大量の水が滝のように注ぎ込まれたかのような錯覚に襲われた。
そして、体の変化に耐えきれず彼らの意識は、力の濁流に押し流され、気を失った。
読んでいただきありがとうございました。
誤字脱字あったら教えてください。