第二話 先生と模擬戦 その1
コンクリートによって造られた球場程の大きさの建造物。
ここは第二訓練施設と呼ばれる施設で、壁をコンクリートと合金の二重構造によってできている。
この施設内には、窓がないがそのかわりに、天井に大きな穴が三つ並んでいる。
光は、その穴から入り込んでくる日差しだけで薄暗く、冷気が入り込んで、シベリアの亜寒帯気候のせいで、春になったというのに、冬のように寒い。
薄暗いこの施設の唯一常備された鋼鉄製の扉がゆっくりと軋む音をあげながら開いた。
「さむっ!」
「暗くて気味が悪いね。」
そう言いながら、30人程の少年や少女が一人の大柄な壮年の人物に引き連れられて訪れた。
入ってきたのは、第四位階クラスのメンバーだ。
「これより能力のテストを行う。」
「「「「「はいっ。」」」」」
そう言ってロット先生は、奥の方まで進んで生徒の方へ振り返った。
「一対一で俺と戦え。俺は第四位階だから勝てないことはない。」
生徒は吃驚といった形相だったり、やる気に満ちあふれた顔だったり、困惑したりと様々だった。
「お前からだ、ユーキ。」
そう言ってユーキを指差した。
「はっ、はい。」
「ユーキ以外の生徒は後ろの待機室へ入れ。」
「はんっ。せいぜいがんばれよはずれ能力。」
そう言ってプロールは吐き捨てるように侮蔑の視線を向けながら言ってきたてきた。
全員が待機室へ入ったことを確認すると、静かに口を開いた。
「いくぞ。」
ユーキは、ロット先生へと静かに相対した。その刹那、ロット先生の事捻力が爆発的に高まり、それが地面へと流れ込んでいった。
そして、事捻力を通して土を持ち上げ、五本の槍を生成し、撃ち出した。
途轍もない飛翔音を響かせ、ユーキを貫かんと突き進んでいった。
威力は最小限に抑えてはいたが、あたりどころが悪ければ致命傷になりかねない一撃だった。
待機室で見ていた生徒は、槍がユーキのもとにとどき、肉塊へと成り代わる姿を幻視して目をそらした。
しかし、そこには肉塊ではなく涼しい顔をしたユーキが立っていた。彼の周囲には薄く白く光り輝く結界が張られていた。
「ほう。」
ロット先生は、興味深そうにユーキを見ていた。
「これはどうだ。」
今度も、五本の槍を生成し、撃ち出した。
飛翔音は先の攻撃など序章にすぎない、とでも言わんばかりに途轍もない爆音がこの施設全体に木霊した。
爆音が静まり、土煙が晴れると、そこには一本の槍が結界を一枚貫通して新たに作られた二枚目の結界によって停止していた。
「あっぶね〜。」
ユーキは、内心、冷や汗を流しながら次撃へと備えていた。
「やるな、結界を二枚生成するか。なら、これはどうだっ!」
突如としてユーキの周囲を砂嵐が襲った。
一分程して砂嵐がおさまり視界が晴れると、そこには、ロット先生の周囲を数えるのもおっくうになってしまう程の槍が浮いていた。
「はぁぁぁあああ。」
すべての槍が、ユーキのもとへ収束していった。
「ちっ!」
ユーキは咄嗟に三枚目の結界を生成しそれを半円状に展開し、防御力を前面に収束させた。
先ほどの轟音に匹敵する飛翔音を鳴らし槍がユーキを貫かんとしてきた。
◇
パルゥシアは、待機室でユーキのテストを見ていた。
ユーキが先生の三度目の攻撃を受けたとき、皆は、咄嗟に目をそらしていたが、パルゥシアは、しっかりと幼馴染の姿を見ていた。
そして、なんとかすべての槍を三枚目で受け止めきったその姿をみたとき、安堵したその刹那、彼の背中へ向かって飛翔する一筋の紅く燃え盛る炎の矢を見た。そのとき、咄嗟に叫んでいた。
「あぶないっ。」
ユーキは、矢に気づくと、結界を全面に張った。
しかし、矢を防ぐには間に合わず結界の中へ侵入された。
ユーキは、咄嗟に体を右に傾けたが心臓めがけて高速で飛んでいた矢を避けられるはずもなく、右肩へと突き刺さった。
「がはっ!」
ユーキは、体に刺さった矢によって生まれる激痛に顔を歪めながらも、周囲へ結界を四重にして追撃に対して身構えた。しかし、再度、炎の矢が飛んでくることはなかった。
緊張の糸が切れると、ユーキは、失血によって訪れる寒気と戦っていたが、やがて意識を手放した。
ロット先生やパルゥシアは、あわてて治療しようと駆け出した。
生徒も困惑していて、とある少年の不適な笑みを浮かべる姿に気づいたものは、一人としていなかった。
読んでいただきありがとうございました。
誤字脱字あったら教えてください。