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Step2 女性の意見をきこう

 お城がある都にもどってきたところ、門のあたりで同僚の側近をみつけました。彼のとなりには、ひとりの女性が立っています。

 逢引ならば邪魔をしてはいけない。空気をよんで場を離れようとした彼を、アネットが引きとめました。


「ねえ、トール。これからどうするの?」

「おまえは空気をよめよ」


 声に気づいた同僚が、こちらを見つけてしまいました。


「なんだトール。おまえも帰っていたのか」

「今ついたところだよ。ところで……」

「ああ、こっちは俺の郷里の女性で、靴の主を探すにあたって意見をくれたんだ。女性のことは女性にきいたほうが解決策がみつかるのではないかとおもって、きてもらったんだ。おまえのほうこそ、どうしたんだ」

「こっちもおなじだよ。女性目線の意見はたしかに貴重だ」

「はじめまして、トールの友人でアネットともうします」

「これはごていねいに。トールの同僚で、ビスクともうします」


 つづいて、一緒にいた女性を紹介してくれました。彼女はメイファと名乗ります。四人はそのまま歩き進み、お城のそとで足をとめました。関係のない女性が入城できるほど、警備は甘くありません。

 どうするべきかと考えていると、同じく王子の側近であるラックがやってきました。


「ちょうどよかった、話があったのだ」

「それはこちらも同じだ。場所をかえよう。付いてきてくれ」


 連れていかれたのは、どこかのお宅です。ノックをすると、別の同僚ブライトが姿を現します。案内された部屋には、最年長である側近長のヘイズルと、三名の女性がいました。

 つまり要するに、王子の側近五名は、そろいもそろって、「女性を探すには、女性の意見を大事にしよう」ということで、知り合いの女性を連れてあつまったようでした。

 会合の趣旨を理解した女性たちは、たがいに名乗り合い、さっそく話しあいをはじめます。


「だいたい、人をあごでつかう態度が気にいらないわ」


 そういったのは、マニエ。この都にある、わりとおおきな商家のむすめです。


「どんな方だったのか、雰囲気だけでもおしえていただかないと、こまるわよねぇ」


 おっとり返したのは、メイファ。やわらかい雰囲気のひとです。


「本気でさがしているのであれば、自ら率先してうごくべきだろう」


 キリリとした顔立ちのジルコニアは、どこか中世的な美人です。


「ばかなのよ、きっと」


 吐き捨てたのは、アネットで、同じくうなずいたのは、最後の女性――というにはいささか年令がたりていないような、まだ少女ともいえるアニエス。


「国中の女性という女性に靴を履かせてまわるだなんて、迷惑な話よね」

「っていうか、かるく変質者だわ」

「王子だからってゆるされる範囲を超えてるわよ」

「求められること自体は、すてきなことだけれどねぇ」

「裏側をしらなければ、な」

「そうね。自分のところでつかっている従業員をふりまわすだけふりまわすなんて」

「上に立つ者として不適格だ。風上にもおけぬ」

「王子がダメ上司ってことはおいておいて、とりあえずその女性をさがす方法をかんがえようよ」

「まず捜索範囲をしぼるべきね。招待客は管理されているはずよ」

「今回の舞踏会は通常時よりも客の枠がひろがっているはずだ。王子の相手をさがすという名目だったときいている」

「それにしたって、平民は除外されるでしょう? ぜんぶの女性をたずねあるく必要ないわ」

「そうだよ。貴族街のない町や村は、行くだけむだだよ。時間がもったいないだけ」

「まず地図を確認しましょうよ。そうして、貴族名鑑と照らし合わせるの。関係のない町はけしていきましょう」

「ならば、国全体がのっているものと、大きな町の詳細がかかれているものと、ふたつ用意したほうがいいな」

「うちにあるわ。地図は商売の要だもの。なにか他に必要なものはあるかしら?」

「紙とペンはたくさんあっても困らない」

「わかった。とりいそぎ家に戻るわ。話し合いはつづけていてちょうだい」

「マニエさん、外に出るなら、ついでにお茶とおいしいお菓子がほしいです!」

「そうね。それも必要だわ。待ってて」

「では、彼女がもどるまでにもう少し方向性をかためよう」

「おもったんだけどさー」

「なんだろう、アネット」

「その人、靴を落としたにもかかわらず、拾わずに帰ったんでしょう? はだしだったわけじゃない。結構目立つよね」

「そうだな」

「ほかのひとより先に帰ったんだとしたら、もっと目立つとおもうのよ」

「そうか。馬車を調べたほうがよさそうだな。家紋がはいっているはずだ」

「かもん?」

「家格をしめすために掲げるものだ」

「なるほど、自慢なのね」

「自慢といえばそうかもしれないが、掲げているということは、周囲に身元を知られるということだ」

「なるほど。悪いことをすれば、すぐにばれちゃうのね」

「そういうことだ。自らを律する意味もあるのだよ」

「ジルコニアさんの襟元にある飾りも、それと似たようなものですか?」

「よく気づいたな。そうだ。これも家紋だ」

「きれいな模様だなーっておもってたんです。似合っていてかっこいいです。すてきです」

「ありがとう」


 ジルコニアがほほえみます。アネットはすっかりこの女性がすきになってしまいました。迅速行動が常のアネットですので、彼女は好意をかくすことなく押しだします。


「あの、ジルコニアさん。ジル様ってよんでいいですか」

「そんなふうに呼ぶひと、結構おおいんだが、少しばかりはずかしいな」

「じゃあ、ジル姉さんでおねがいします!」

「あらすてきね。わたしもそうお呼びしたいわぁ」

「わたしも、すてきなお姉さまがほしかったの!」


 メイファとアニエスにもつめよられ、ジルコニアはすこしはずかしそうにうなずきました。


 さて、そんな女性陣のもりあがりを遠まきにみていたのは、男性陣です。

 王子に命じられ、靴を壊さぬよう運びながら、毎日ひたすら女性をみつけようとあるきまわっていた自分たちは、いったい何だったのでしょう。王子付側近班の長であるヘイズルは、なんだか遠い目をしています。

 そうしているうちに、マニエが地図をかかえてもどってきました。荷物持ちについていったラックも一緒です。いわれるがまま、つくえのうえに地図をひろげ、マニエが側近たちにいいました。


「みなさま方がしらべられた場所をおしえてくださいませ。そちらにはすでにいらっしゃらないということでしょう? 該当地域からはずします」


 側近たちは顔を見あわせ、おそるおそるといったかんじで指をさします。それは、規則性もなにもない、バラバラな箇所です。さらに、町の一部を探しただけで、次の町へ移動していたりもするようです。マニエの眉間にしわがよります。


「いったい何をなさっているのですか! ひとつの町を調べるのであれば、調べあげるまで滞在なさい! 大きな町を中心にして、そこを拠点に周囲の町をさがせば費用もおさえられるというものです」

「そうはいってもマニエ、我々にも予定があって、ずっと城をはなれているわけにも――」

「作業の分担をしなさいな。捜索をする者、城内にておつとめする者、分ければよいでしょう!」


 側近たちはぐうのねもでませんでした。

 ジルコニアもいいます。


「貴殿たちはたがいの情報をきちんと共有しているのか? この地図をみるかぎり、統率がとれていないようにかんじるのだが」


 おなじ場所ではたらく者同士、現状把握につとめなければ、仕事はうまくすすみません。わずかでもよいので、休憩をかねて顔をあわせることが大事なのです。業務日誌をつけることもひとつの手でしょう。

 側近たちはジルコニアのいうことを黙ってきいています。女性陣もまたきらきらした目でみつめます。


「これから改善すればよいことです。いまは、王子のさがし人をみつけることを目的といたしましょう」

「マニエが出ているあいだに話したのだが、当日の馬車をしらべてみようとおもう」

「そうですね。貴族の方ですもの、ご自分で歩いてくるわけがない」

「あとは、当日の警護の方にもお話をうかがえばよろしいわね」

「っていうか、王子にこそもっと話をきかせてもらうべきだとおもうんだけど」


 アネットがずばりというと、側近たちは視線をそらします。何度きいても、すぐにガラスの靴について語るので、かんじんの女性についてはいまだよくわかっていないのです。


「王子って、その靴が好きなの?」

「ガラスの靴なんでしょう? わたしも見てみたい」

「さぞかし美しいのだろうな」

「靴をみれば、着ていたドレスなどの見当もつくんじゃない?」

「ドレスによっては、店がわかるかもしれませんね」

「王子が見初めたのだ。それなりの家柄であろうから、馴染みの店や贔屓の店もあるだろう」

「あら。でも、王子がお探しになるってことは、あまり顔をみない方ってことじゃないかしら?」


 メイファが首をかしげながらいったことで、女性陣の目はまた男性陣にあつまりました。メイファの連れであるビスクが、しどろもどろにこたえます。


「……王子が見初めたという方を我々はみていないので、見当もつかない。王子の頭には記憶されているのだろうが、その、なんというか、ひじょうに詩的な表現をなさるので……」

「王子ってとことんばかなのね」


 アネットはどこまでもばっさりでした。トールはさすがに物申します。


「おまえ、もうちょっと言葉をえらべよ」

「だってトール、お嫁さんにしたいぐらいすきなひとなのに、覚えてないってばかにしてるとしかおもえないわよ」

「覚えてないわけじゃないだろう、ただ、我々に詳細をかたらないだけで……」

「それがばかなんじゃないのよ。説明せずに、どうやってさがすのよ。忘れ物ひとつで人がさがせるほど、狭い範囲じゃないのに」

「アネット嬢、おっしゃることはもっともです。王子はむかしから、言葉がたりないところがあるのです」

「自覚がないのね。それはご両親のしつけが悪いんだわ。お偉い方だから、乳母とかかしら。きちんとおしえてないのね。だからまわりの人が苦労するんだわ。みなさん、たいへんね」


 なんとなく気落ちした空気がただよいます。そこに最年少のアニエスがあかるく提案しました。


「つかれたときは、あまいものがいいっていうじゃない。きゅうけいしましょうよ。わたし、マニエお姉さまのかってきたおかしがたべたいわ」



 



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