2話
シリアスとコメディの乱立です。
荒ぶるエミュレットをお楽しみください。
あと、ディオルを舌ったらずにしたかったのでオールひらがなです。
読みにくいと思いますが、よろしくお願いします。
涙の膜が薄っすらはったアクアマリンの瞳を見つめて小さく手招きをする。
私の行動に驚いたのか、ただでさえ大きい瞳を見開きキョロキョロ視線を口論する2人に彷徨わせた。
2人の関心が自分にない事を確かめたディオルは、恐々とお父様の後ろから私の元にやってくる。
その小さな手をとって、修羅場から退散すべく部屋を出た。
使用人に「疲れたので休みます。」と一言告げて。
自分の部屋に戻るとくるりと後ろにいるディオルに顔を向ける。
愛くるしいアクアマリンの瞳を持つ幼児は「あなたはだれ?」と言いたげに不安そうな表情で私を見上げていた。
私は少しでも優しくディオルの目に映るように柔らかく微笑む。
「私の名前はエミュレット。今日からあなたの姉様になります。」
「……ねぇさま…?」
甘やかなボーイソプラノの声音が耳をくすぐる。
めちゃくちゃ可愛い…天使かな?
いやいや、それどころじゃない。
「はい、あなたの姉様です。今日は大変でしたね。怖かったでしょう?」
内心悶絶してる事などおくびにも出さず、ゆったりとディオルの頭を撫でて微笑みながら言う。
すると堰を切ったように、アクアマリンの瞳から涙が溢れた。
「…っ、し、しらないひとが…と、とつぜん…き、きて…ぼく、いや…だっていったのに…っでもっ」
つっかえながら紡ぐ言葉が心を抉る。
いきなり知らない人に攫われたらそれは立派な誘拐だ。
しかも、連れてこられた現場では修羅場がおこる始末。
どんなに怖かっただろう、心細かっただろう。
気付けばしゃくりを上げるその小さな体を包むように抱きしめていた。
「怖い思いをしましたね…。お父様のした事は許されるものではありません。でも…ごめんなさい、私にはあなたを元の場所に戻してあげる力がありません…。…ごめん…なさい。…ごめんっ…なさいっ。」
気づくと私も涙が溢れていた。
これからディオルに待ちうける、辛く苦しい毎日を思って。
そしてそれを助けられない自分の無力さを感じて。
すると、私の胸の中にいるディオルが「…ないてるの?ねぇさま…」と呟いた。
その顔を覗き込むと、泣き腫らして目を真っ赤にしながら私の顔を心配そうに見つめている。
「なんで…ねぇさまもないてるの…?」
幼い仕草で首を傾げた。
そんなディオルの何気ない優しさにも胸を打たれ、涙がまた溢れた。
この子はこんなに気遣いのできる子なのに。
自分が一番辛くてどうしようもないのに、見知らぬ私の涙を心配してくれることのできる子なのに。
その気持ちを潰されて生きていくのだ。
「どこかいたいの…?」
小さく真っ白な手が私の頬に伸び、私の涙を拭おうと必死になってくれる姿にまた胸が熱くなる。
「どこも痛くありませんよ…見知らぬ場所に1人でいるあなたのことを思っていたのです。さぞ心細い思いをしてるだろうと…それを思うと涙が止まらないのです。辛いのはあなたで、私が泣くべきではないのに…ごめんなさい。何もできず無力な私は泣いていい立場ではないのに…。」
その小さな手を私の手で包み込み頬ずりをする。
「…だれかのことをおもってなけるひとは、こころがあたたかくてやさしいひとなんだってせんせいがいってた。だから、ねぇさまはやさしいひとなんだよ。ぼくのことをおもってないてくれているでしょう?」
「いいこ、ねぇさまはいいこ」と懸命に背伸びをし、私の髪を撫でてくれた。
「ねぇさまはいいこ。だからなかないで…ねぇさまがないてるとぼくもかなしいんだ。」
おねがいねぇさま…と私を見つめるディオルの瞳にはまた涙の膜がはっていた。
懸命に慰めてくれているが、私の感情に引きづられて感情が高まってきたようだ。
そして溢れた一粒の涙は宝石のように美しかった。
他人のために流す涙はこんなにも美しいのだと思わずにはいられないほどに。
私は先ほどディオルが私にしてくれたように、ディオルの涙を自分の手で拭う。
「その言葉が本当なら、私のために泣いてくださるあなたも心が温かく優しい子なのですね。…ありがとう私のために泣いてくれて。」
そして、今できる最大限の笑顔をディオルにむける。
どうかこの優しい子が早く幸せになりますようにと、願いを込めて。
ディオルは一瞬目を見張った後
「…ねぇさまはずっとわらっていてほしいな。とってもかわいい。」
と微笑んだ。
目が蕩けるほど泣き腫らしたアクアマリンの瞳は湖のように揺らめき、白皙の頬と目元は紅く色づいている。
小首を傾げて私に微笑むその姿を見て一言言わせていただくのなら、私よりあなたが天使ですよと言いたい。
シリアスの中に何をいきなりブッ込んだんだよと自分でも思う。
しかし、出会ってものの数分でディオルルート最大の見せ場である天使の微笑みを直接見せられた私の気持ちを考えてほしい。
腕の中に天使がいるんだ…天使が…!
ニコニコ可愛い天使がいるんだよ!!
頭の中が大波乱で、笑顔のまま停止している私を見て「ねぇさま?」とキョトンと私を見つめる天使…いやディオル。
「…これから大変なことがたくさんあると思いますが、私はあなたの味方ですよ。辛くなったら私のとこらに来てください。」
無理やり思考を引き戻し、ディオルに伝える。
そしたら「ありがとう、ねぇさま。だぁいすき」とお言葉をいただきました。
…私、今日死ぬの?
思わず床に突っ伏した私は悪くないと思う。
その後「ねぇさま、ほんとうにどうしたの?」と私の奇行にオロオロするディオルに「…なんでもないですよ」と言いつつ立ち上がる。
当たり前だが、幼児ディオルはコロコロ表情が動く。
私の記憶の青年ディオルは無表情がデフォルトで少しの表情の変化でも胸キュンものだったが、いまは殺人級に可愛い。
悶え死にしないようしなくては…。
この可愛さは今だけの特権だ。
すぐにお父様のディオルの人としての価値を潰すような恐ろしい教育が始まる。
願わくば…少しでもこの可愛らしいディオルの感情が彼の心に残りますように。
モブでしかない私は役に立たないと思うけれど、そう願わずにはいられない。
「さぁ、今日は疲れたでしょう?いっぱい泣いてしまいましたし、もう寝ましょう。ディオルの部屋はまだ用意できていないでしょうから、良ければ私と寝ませんか?」
柔らかなベッドにディオルを連れて行く。
驚いたように「いっしょにねてくれるの?」と尋ねてくる。
「突然知りもしないベッドに一人きりは孤独で寂しいです。ご両親の事を思って泣いてしまうかもしれません。本当のご両親にはなれませんが、どうか姉様にあなたの涙を拭わせてください。怖い夢を見てあなたが泣いていたら抱きしめさせてください。…お嫌なら無理にとは言いませんが…」
ほぼ初対面の相手と寝るのはハードルが高かったか?と内心冷や汗をかいたが添い寝してみたかった。
「…っ。ぜんぜんいやじゃないよ!!うれしいねぇさまだいすき!!」
何故か大興奮のディオルはベッドによじ登って私に期待の目をむけている。
…そんなディオルも可愛すぎである。
ディオルの隣に入り、お互い見つめ合うように寝そべる。
「ぼく、こうやってだれかといっしょにねむるのはじめてなの」
どこか夢見心地のディオルは囁くように呟いた。
「ご両親とはいっしょに眠ったことはないのですか?」
優しくディオルの腕をゆったりとしたテンポで叩きながら問いかける。
「ううん。おとうさんもおかあさんもぼくがうまれてすぐしんじゃったから、されたことない。」
「え…じゃああなたはどうしていたのですか?」
衝撃的なディオルの答えに一瞬腕が止まる。
リズムを再開するよう強請るようにディオルは私の胸に擦り寄ってきた。
「せんせいのおうちにいたよ。せんせいはいろんなことおしえてくれた。…おしえてくれたけどいっしょにねたことはないんだ。せんせいはじぶんのおへやにかえっちゃうから。」
「そうだったのですか」とまたディオルの腕をトントンと優しく叩く。
ウトウトと微睡み始めたディオルに「おやすみなさい、ディオル。いい夢を見てくださいね」と耳元で囁く。
「おやすみなさい…ねぇさま…。おきてもそばにいてね…」そういってその美しくも愛らしいアクアマリンの瞳を閉じだのだった。
恐らくディオルの言っていた『先生』というのはディオルの育ての親なのだろう。
ゲームではディオルが侯爵家に来る前のことは殆ど描写されていない。
市井の人間としか記されていなくて、私はてっきり両親がいるものだと思っていたから驚いた。
先ほどのディオルの話を聞くに、先生はディオルに教育はしているが幼児が当たり前にもらうべき愛情を満足に与えていない可能性がある。
でなければ、添い寝に対してのあの異常な興奮はないだろう。
実の親を知らず、育ての親との関係も希薄。そして輪をかけての侯爵家のディオルの扱い。
…それは心も凍る。
当たり前の愛情がディオルには決定的に足りていないのだ。
いい事をしたら褒める。悪い事をしたら叱る。そうして育まれる情操がディオルには無かった。
その大切なものを私が育んであげたい。
いつか主役と確かな愛を育むけど、人としての大事な感情は私が育んでもいいよね。
明日から私はディオルの姉であり、親になり、必要であれば友になろうと決めた。
心の奥底に幼少期の優しい記憶が少しでも残るよう願いを込めて…。
そして私も瞼を閉じる。
これはディオルが5歳、私が7歳の出会った日のことだった。
…たぶんこの時点でかなりゲームとは違う…よね。
エミュレットは内心はかなり言葉が乱れていますが、外面は敬語キャラです。
あんな変態みたいな子ですが、敬語キャラでおっとりしてます。
まったく描写できていませんが。
あと、ねぇさま呼び最高と私は勝手に思ってます。
すいません…趣味が出てしまって…!