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第8話

 突然の異常事態に、視界に入ったものの正体は、俺の常識を覆すに十分のモンスターだった。

 最初に見た印象は、ありえない大きさの、巨大なウツボ。

 太さは直径1メートル、長さが10メートルくらいあり、ネチャネチャと粘液を纏い、巨大なトンボ羽を持っている。

 海中でもなく、羽で浮いているのだから、ウツボではないのだろうが、ここは異世界。地球の常識は通じない。

 ウツボは羽でブーンと不気味な音を立てながら、俺の脚に噛み付いている。


 何なんだこれは?

 どこから現れた?


 目の端に俺がこの部屋に入るときに通ってきた大きな扉が映る。

 あそこからか?

 でも、橋を渡る前も、城の敷地内に入ってからも、生き物の気配など、何一つ感じなかったが。

 羽があるという事は、どこかから飛んで来たのか?

 上空にいたから気が付かなかっただけだろうか?

 いや、そんなはずは無い。

 階段頂上で振り返って、絶景を見た時には、それらしい気配はなかった。

 ならば、それよりも上に?

 いや、それも無い。

 城を振り仰いで、更に天空を見上げた時だって、いなかった。

 ならば、どこから?


 しかし今は、それどころではない!

 それより先ず、このウツボをどうにかしなくては。

 まずいっ! 足が抜けない!


 もう一方の噛み付かれていない足で思い切り蹴り飛ばす。

 粘液で足が滑るが、少しはきいたのか?

 ウツボは怯んで、口を離し顔を振る。

 と同時に、俺のローブが、ウツボの鋭い歯に引っかかり、その勢いでバランスを崩し尻餅をつく。


 その瞬間!

 ウツボが俺の下半身にかぶりついて来る。

 咄嗟に身体を捻るが、遅い。


 身体が自分の思っているように反応しない。

 先ほどから、体が重い気がする。

 いや、この感覚は何だ?

 思考自体が、この状況についていけない。


 俺の下半身は、ウツボに捕らえられ、さらに身体を引きずり込まれる。

 ウツボの剥き出しの歯茎が赤黒く光り、ダラダラと紫色の液体を振りまく。

 必死に手で床を掴む。こんな時までツルツルピカピカ真珠石が恨めしい。

 ウツボの粘液もそれに拍車をかけて手が滑る。


 何とかウツボの口を手で開いて剥がそうとするが、やはり、ここでも手が滑る。

 何か、何か無いか?


 必死になって頭をフル回転させる。

 頭が重い。

 身体も重い。

 上手く考えが纏まらない。


 ……纏まらない?


 マジックバッグ! アイテムを纏めて入れた! 剣がある!


 急いで手を腰のマジックバッグに伸ばす。


「くそっ!」


 もうすでにウツボに腰近くまで飲み込まれている

 ちょうどマジックバッグ辺りにべたべたと粘液がついて取りにくい。


 さっきから、この粘液がやっかいだ。


 でもいまは剣だ。

 剣! 剣!


「グルアアアァァァ!!!!!!」


 ウツボが咽喉の奥から呻き声をもらす。

 ウツボのは吐いた息のせいなのか、臭いし、息苦しくなる。

 むせって咳が出そうになるが、そんな場合ではないとばかりに歯を食いしばれば、息が詰まる。

 もはや焦りすぎてパニック寸前だ。


 そもそも俺は、何で最初から帯剣していなかったんだ!


 剣と魔法、そしてモンスターの存在する世界だ。

 伊達や酔狂で、魔法スキルや剣のアイテムが選択肢にあったはずが無い。

 愚かしい。


 自分で慎重にと思っていたのに。

 安全な日本の感覚では駄目だと思っていたのに。


 その瞬間、何かが手に触れる!


 一瞬歓喜するが……。

 手が痺れる様な感覚がして…………上手く握れない。

 あの紫色の粘液。麻痺の効果があるのか? それとも何か他に?


 また身体が引きずり込まれる。

 腰まで引きずり込まれた。

 すごい吸引力だ。

 悠長に考え事をしている暇は無い。

 取り敢えず、この窮地を脱しなくてはならない。

 考えるのはその後だ。


「……くっ」


 力を振り絞って、両手で何とか剣を握り締める。

 そして、そのまま振りかぶった。

 その瞬間、俺の体勢が崩れたと見て取ったのか、さらに口内に引きずり込まれる。


 俺は、さらに焦ってむちゃくちゃに剣を振り回す!

 剣すらもツルツル滑る。恐らく剣の歯を当てる角度が悪いのだろう。

 しかし、そんな事をいま言ってもはじまらない。


 その時


「グルアァァァ!!!」


 再び唸り声を上げたウツボの口が少し開いた。

 俺は、間髪いれずに口内に剣を差し込む。


「ギュじゅアあアあアアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 ウツボが苦しげに唸る。

 容赦なく、刺す! 刺す! 刺す!

 ここが勝負どころだ! 


 案外と易々貫ける。

 力がほとんど要らない。

 伝説の剣とかそういう剣は無かった筈だが、良い物なのだろうか?

 それとも、弱点が、口内だったか?

 まあ、普通の生き物なら、口内は、弱点の一つなのは当たり前だが、それにしても、柔らかい。

 もしかして、生まれ変わった、俺が強くなっている可能性もあるのかな?

 ……そんな事、あり得るのか?

 ……。

 しかし、そう言えば、魂の融合の最終工程の中で虹の光が【この融合によりルイ・アリスの新たな魂の全ての能力が開放され、そのレベルに限らずステータス全体が……】

 そこまで考えた時、急にウツボが大きくのた打ち回る。


「う“じゃあっ……ああ……あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 ウツボは瀕死寸前のような苦しげな声を上げる。

 考え事や、ためらっている暇は無い!

 俺は、とどめとばかりに、勢い込んで剣を深く差し込もうとした! 


 瞬間!


 ドンッ!!!!!


 何かを断ち切るような音と共に、ウツボがブルリッ、と震えて衝撃が走る。

 その直後、先ほどまで大きくもがいていたウツボが動きを止めた。


 今度は、何だ?


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