第6話
パッと見、城は湖の上にあるように見えたが、落ち着いて冷静に見ると少々違うようだ。
城は美しい水が満ちた幅300メートルほどの堀に囲まれ、高台を土台に建っている。
堀がでか過ぎて、湖に見えたようだ。冷静に見れば、湖は言いすぎかと思う。せめて、超巨大な泉、くらいかな?
落ち着いて冷静に見ると、ということは、俺は冷静じゃなかったのか?
まあ、生まれ変わって、一種の興奮状態なのかもしれない。いかん、いかん。
冷静にならなくては。
そう冷静に。冷静に。
そして、慎重に。
まだ何も知らない世界、突然何が起こるかも解らない。
深呼吸……。
……。
ああっ! 冷静になってみると、こういったファンタジー世界のお約束があった!
「……ステータスオープン」
いやいや、たんなるお約束だから、……まさか本当に、……ねえ?
頭の中に自分のステータスが浮かぶ。
まさか、冷静になる為にと思って、ちょっとふざけたつもりが……。
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【名前】ルイ・アリス
【年齢】0歳
【種族】人種・人間
【称号】
【レベル】1
【スキル】
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マジですか!
俺はステータスをおもわず二度見する。頭の中でだが。
え? レベル? この世界はレベルシステムなのか? ゲームやラノベの様に? 聞いてないぞ! 責任者を出せ! 出て来い! あれ? でも、責任者は神様かな? ごめんなさい、もう大丈夫です。責任者の方はいいです……。すみません。本当は薄々解ってました。転生の間で、勇者や魔王、スキルまであったから、……たぶん……そうだろうなと。
とまあ、一人脳内劇場でストレスを発散する。
だって! 【レベル】1って、なに?
すごい大量のポイント使ったのに!
皆、最初は【レベル】1なのか?
まあ赤ん坊で生まれる勇者はそうかもしれないけど。
ダンジョンマスターは、0歳といっても、体や知能は成人として生まれると聞いている。
どうなってるんだ?
何かを具体的に期待していたわけではないが、ガッカリ感がものすごい。
まさか、魔王が、【レベル】1なわけではないだろう。
その場合、魔王より弱い、普通の人間の【レベル】はどうなる?
【レベル】0か? 【レベル】マイナスか?
しかも、俺には、【称号】や【スキル】も無いようだ。
【名前】が有栖類ではなく、ルイ・アリスになっているが、この際、瑣末な問題である。
取り敢えずは、城に行って確かめるしかないのか?
せめて、何か手がかりがあれば良いが。
……。
よしっ。
俺は、いまから城!
城に行く! 行くったら、行く!
そしてその際、この300メートルの堀を越えていかなければならない。
別に泳いで渡る訳ではないのだから、こんな意気込むことは無いと思われそうだ。
冷静になれと他人は言うかもしれない。
だが、それは違う。
俺は冷静だ。
ただ気合を入れただけだ!
なぜなら、幅300メートルの堀に架かる橋。
当然長さも300メートルの橋。
そして、橋の幅は、約100メートル。
それが、総大理石!
橋には一定間隔で、ファンタジー映画のような、ガーゴイルや甲冑騎士とかの、大理石の彫刻!
おもわず、圧倒される!
しかも、ピカピカ、ツルツル!
良く見ると、大理石ではない。
綺麗な光沢があり、真珠のような石だ。
真珠石と名づけよう。
もう一度、城のほうをチラリと見る。
やはり、気合を入れないと、立派な城すぎて、腰が引ける。
先ほどから、誰の姿も見えないことが、そのことに拍車をかける。
早朝の誰もいない学校や会社、休館日のデパートやビルのような、建物自体から圧力を感じる。
しかし、もう良いだろう。
よしっ! 行こう!
俺は、意気揚々と!
橋へと足をそろりそろり踏み入れる。
目には見えないミクロの凹凸でもあるのか、ブーツのおかげか、ピカピカツルツルでも滑らない。
良かった! 俺の城は安全仕様だ。
橋の欄干すら美しい。まるで、超一級の熟練職人が心血を注いで作った作品のようだ。
おもわずため息が出る。
そんな感じで周りを見ながら歩いていたら、あっという間に橋が終わってしまった。
そして、橋の次は、これまた美しい、階段だ。
幅200メートルはあろうかという正面階段。
幅で、200メートル!
幅200メートルの階段ってなに?
高さは100メートルくらいかな?
しかも、それに続く城の高さは、……とりあえず、首が痛くなるくらい見上げるほどの高さだ。
……これ上るのか? いや、登るのか?
さっきとは違う意味で、足を出すのが躊躇われる。
とりあえず、体が軽くなり速く動ける、俺、命名の『軽速のブーツ』を履いていて良かった。
うんざりする様な高さの階段を、ブーツのおかげか息も切らさずに上った俺は、階段の頂上で振り返って、おもわず息を呑んだ。
絶景!
遥か遠くを眺めれば、そこには光を反射する雪の様に、キラキラと光る雲海。
地球で見た雲海とは、まったくの別物だ。
そして、やはりここは天空島。
地平線が丸みを帯びてないのが少々気にはなるが、別の世界のことだ。
地動説が、天動説に変わろうとも、俺は驚かない。
いつまでも眺めていたいが、取りあえずは、中に入ろう。
見上げるほどの高さがある白い扉の前に立つと、扉がゆっくりと開いてゆく。
やはり、俺のダンジョンだ! 解っているのだ! 主たる俺を!
俺は今度こそ本当に意気揚々と入城した。
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入城して俺はおもわず、言葉を失った。
「……なんだここは?」
縦横10メートルほどの部屋。
高さだけは30メートルくらいある。
しかし、そこにあるのは、高さ1メートルほどの八角柱の台座に、虹色に輝く一抱えほどの大きさの球体。
それ以外は何も無い、白一色の真珠石で出来た部屋。
他の部屋に繋がるような扉などは、一切ない。
城の外観と、内部の広さが釣り合わない。
正面から入ったつもりだったけど、裏口だったかな?
「えーっと……」
一応の予想だが、あの球体が、ダンジョンコアかな?
などと考えながら近づいて行き、ペタペタと触ってみる。
この虹色の玉、台座から微妙に浮いている。
魔力か? 魔力なのか?
現実に目にすると不思議だ・・・・・・。
――さっきは慎重にと思っていたのに、俺も、たいがい無用心だな。
などと思ってみても、止められない。
橋の途中から感じていたが、さっきから、俺の中の何か、言ってみれば、魂のようなものが、この虹色の玉に引き寄せられる。
時間がたてばたつほど、それは、もはや物理的な力といっていいほどの力で、俺を引き寄せて、惹きつける。
そうこうしていると、突如、
【支配権限保有者、ルイ・アリスの波動を確認】
【神々より与えられた権限によりダンジョンマスター、ルイ・アリスと魂の融合、最終工程を実行いたします】
転生の間に続き、また頭に直接声が聞こえたかと思った瞬間、一気に灼熱のエネルギーが俺の体を駆け巡った。
そして、それと同時に、この天空島型ダンジョンに関する知識が、俺の中に流れ込んでくる。