第5話
強烈な光の後、意識を失ってから目を覚ますと、そこには、青い空。
転生の間とは違い、地球のような青い空が広がっている。
もう、転生したのかな?
まあ、そうだろうな、この状況で転生ではない理由がない。
しかし、「はい、チーズ!」ではないけど、何か一言ほしかった。「はい、転生!」みたいな?
ダンジョンマスターは、成人の姿で生まれると言われたし、前世の記憶を保持したままだから、生まれ変わった実感が、いまいち無いな。
視線を正面に向けると、ここは地形的に比較的高い位置にあるのか、視線の先は緩やかに傾斜が下がっていく。
巨大な石やら灌木の茂に邪魔されず、ずいぶん先に巨大な森や湖らしきものも見える。
……いや、海だろうか?
しかし、更にその先に、山々の連なりが見えるから、やっぱり湖かな?
いや、半島形の構造になっていて、海を囲むように半島の山があれば、海か?
まあ後で確かめれば良い。
それよりも、ここはどこだろうか?
キョロキョロとあたりを見渡して、後ろを見た瞬間、一瞬、自分の動きが止まった。
――えっ……?
城がある。
湖の上に白亜の城が建っている。
美しいシンメトリー構造で、直線と曲線を上手く組み合わせた、荘厳で華麗な白亜の城。
西洋風の城? で合っているのだろうか? 西洋風だが、どこでも見たことのない美しい城。
城の真ん中、半ばほどから水が滝のように流れ落ち、城の周りにある堀を満たす。
その美しさに、思わず息を呑む。
物語や、神話の世界のようだ。
……。
……俺の目の前には、城に向かう橋が架かっている。
ここで、ぼーと、突っ立っていてもしょうがない。取りあえず、城に向かうか?
ここがどこだか、確認せねば。
まあ、当然、大前提として、ここは転生先の世界であろうが、その転生先の世界の、どこなのか?
それを知らねば何も始まらない。
なぜなら、正確な情報は、身の安全に直結する。
正確な情報を知らずに、ブラック企業だと入社後に気づいても遅いんだ!
早急に現状を確認せねばならない!
慎重に、しかし、可及的速やかに情報収集だ!
いや、しかし、ここが紛争地帯や、人間差別社会だったらどうする?
捕まって奴隷とか、嫌だよ俺は。
おもわず、固まってしまう俺。
……情けない。
……へたれだな。
とは言え、ビビッても仕方あるまい。普通そうだ。こんな場面でグイグイいく奴の方が、生存本能が薄いと思う。
地球では、ビビリの兵士のほうが、長生きすると、どこかで聞いた気がする。
取り敢えず、安全な日本の感覚では駄目だろう。
『山で道に迷ったら、その場に止まれ!』の精神である。
しかし、それでもここがどこか、何かヒントになる物がないかな、と再びキョロキョロ。
その時、足元で何かがキラリと光る。
「んっ?」
視線を落とす……と、
……と、……俺は裸だった!
大草原で!
生まれたままの姿!
そう、俺はいまこの世界に生まれたばかりだから、言葉通りの意味で、生まれたまま!
おまわりさん! この人です! 呼ばれちゃう状態だよ! 日本だったら!
良かった、異世界で。……あれ? もしかして異世界でもアウトかな?
……アウトだろうな、普通に考えて。
あの城の技術水準的に、裸族は考えにくい。
どうしよう……服! お城にいけない!
どこかの童話のような展開だ。
いや、ふざけている場合ではない、それよりも、足元のキラリが……。
もしや、昆虫型などの小型モンスターとか?
……刺激しないように恐る恐る下を見る。
……アイテムが散らばっている。
剣、鎧、杖、指輪、本、マジックアイテム、その他もろもろ。どうやら鎧が光ったらしい。
そう言えば、光の玉に、
――指輪とか選択して、魚に生まれたらどうするんですか?
と聞いた時
――光の玉曰く【神様からのギフトとして、生まれた魚の横に指輪が現れる】
と言っていた。
生まれた、魚の、横に、現れる。
生まれた、俺の、横に、現れる。……後ろだったけど。
あれがダンジョンか!
あの城が!
城型ダンジョン!
一国一城の主!
ってことは、この場所は、天空島か!
やった!
俺、島持ち、城持ち!
今回の人生勝ち組!
急いでアイテム回収、城に向かわねば。
俺の城に!
しかし、多いな、この剣やら鎧やら……。最後は結構適当に選んでしまったし。
鎧とか、どうすればいいんだ? 着るにしてもでかいし、重そうだ。
そう言えば、ポイントで貰ったマジックバッグがあったはずだ。
どれくらい入るか解らないが……。
マジックバッグを探している途中で、服とローブを見つけた。
黒を基調に金糸がアクセントとして使われている。
俺には少し大きめのズボンとハイネックの上着。
何はともあれ、急いで着てみると、スッと体に合うように大きさが変化した。
マジックアイテムだったのか!
そういえば、マジックシルクの服、上下があったが、これがそれかな?
大きさの調整以外、どんな効果があるのかは解らないが、通気性もいいし、保温効果もあるらしく、着心地が良い。
ポイント的に大した事なかった様に記憶しているが、当りアイテムのようだ。
鑑定魔法が取れれば、ある程度の事が解ったかも知れないが、ない物ねだりはしても意味がない。
ローブも黒に金糸が使われている。光沢があり、軽くてスベスベの肌触り。まるで、王のローブのようだ。
これは確か、何かの鬣のローブだったか?
羽織ると足元まで隠れる、ゆったりとした仕様。
大きさに変化はないが、素晴らしい一品であることは素人の目でも解る。
そして、俺はローブの下にあった、小さなポーチを手に取る。
これが、マッジクバッグだろうか?
取りあえず近くにあった剣に、バッグの口の部分を当ててみる。
……入らない。
「収納!」
……入らない。
大声出したのに恥ずかしい。……誰も見てないのが、せめてもの救いか。
マジックバッグは、このポーチではないのかなと思いながら、ふっと思いつき、剣を手に取り、もう一度言ってみる。今度は小さい声で。
「収納」
手の中から、剣が消える。どうやら、成功したようだ。
後は簡単だ、次々とアイテムを収納していく。
どうやらすべて入る様でほっとする。
いくつか実験して解った事だが、バッグから出したい時は、バッグを触りながら、出したい物を念じると出てくる。
ただし、剣が複数本、収納されている場合、剣とだけ念じると、その剣全てが出てきてしまう。
限定して一本の剣を出したければ、その剣の具体的なイメージを持って、念じる必要があるようだ。
ちなみに、入れるときも、入れたい物を触ってさえいれば、収納と念じるだけで入れることが出来た。
さあ、後はブーツを履いたら、いよいよ城に入場するか。
あっ! このブーツ履くと、体が軽くなる!
垂直跳びで軽く2メートル以上はいけそうだ。