第1話
*お読みいただく前にご留意いただきたい点*
本作品は、モヤモヤ系の展開が続きます。
本作品は、一章終了以降の投稿が、現在予定されておりません。
本作品は、全面的に改定して、新バージョンで連載される可能性がございます。
「お前に、生きてる価値なんてあんの?」
「価値ないなら、死んじゃえば?」
ブラック企業での暴言、罵詈雑言など当たり前の話。
しかし、上司のあまりにも、あんまりな言葉に、俺は呆然としながら「……えっ?」と一言。
「ったく! これぐらいのフォローも出来ねーのかよ! クズが!」
――いや、そもそも、それはあんたのミスから始まった案件だろうが!
とは言えず。……言ったら言ったで、何されるか解らない。
責任をすべて俺に押し付けて、会社に負わせた損失を弁償しろとか言いかねない。
マジで!
そんな事して、法律上許されるんですか?
もちろん許されない。
しかし、これを平然とやって、自分こそ被害者だと言い切る。これがブラック企業だ。
その後も続く責任転嫁と、暴言の嵐。
夕方6時から始まって、もう直ぐ0時を向かえそうだ。
これ、残業代出るのかな?
当然でないだろう。
学生アルバイトにすらも平気で徹夜の残業をさせて、残業代を踏み倒す会社だ。
通常の業務でも出たことないのに、説教タイムで出るわけない。
見当違いな説教であったとしてもだ!
しかし、やっと腹立ちが収まってきたのか、もう帰りたくなったのか。
「いいか! 週明けまでに訂正してもう一度提出しろ!」
と言いながら、問題の企画書を俺に投げつけ帰って行く。
「クズのせいで、今日も疲れちまった」
とか捨て台詞を残しながら。
やっとダメ上司の非生産的な勘違い説教が終わり、俺はやれやれと、自分のデスクに戻る。
週明け提出ならば、今日が金曜日だから……、いや、もう0時を過ぎている。
土日でやるしかない。
――帰れるかなぁ……。
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金曜日の朝、出勤してから、日にち2度跨いで日曜日の朝。
――やっと終わった……。
48時間、不眠不休。さすがに体力の限界……ギリギリで完成にこぎつけた。
家に帰って、明日の朝まで、ゆっくり寝よう。
重い足取りで会社を出ると、気持ちの良い青空に、綺麗な朝日が差してくる。
――対極的だな……。
アルバイト、契約社員、正社員、全ての人に入社したことを後悔させる恐怖のブラック企業。
美しく輝く世界と、ブラックな薄暗い日々の俺。
そもそも、ダメ上司の間違った説明から始まった今回の事態。
あの上司の頭の悪さから来るプロジェクトに対する理解不足のせいで、ここまで尻拭いさせられる俺って……。
「お前に、生きてる価値なんてあんの?」
「価値ないなら、死んじゃえば?」
あの、クズ上司のセリフがフッと、フラッシュバックする。
確かに、こんな人生に価値なんかあるのだろうか? と、ふと考えてしまう。
こんな綺麗な朝日を見ると特に。……なぜか感傷的な、詩的な気分になってくる。
とは言え、あのクズ上司に言われたいセリフでは決してない!
生きる価値ねぇ……。
両親を中学生のとき亡くし、兄弟も、親戚もいない。
当然、彼女もいない。
心配してくれる者も、嘆いてくれる者もいない人生の価値……。
中学卒業と同時に、いまのブラック企業に入社してそれ以来、必死に毎日を送るだけだった……。
そんな事をフラフラと歩きながら、快晴の青空を見上げ、柄にもなく考えていたのが、良くなかったのかもしれない。
ブワアアアアアアアアァァァァァァァァァァンンンンンン!!!!!!!!!!!!!
静かな日曜日の朝。綺麗な空気。快晴の空。
それらをすべて切り裂くようなトラックのクラクション!
そのトラックの前!
道路の真ん中に小さい子供が一人!
歩道の向こう側で、両親と思われる男女が硬直している!
馬鹿たれが!!!
俺は咄嗟に体を動かしっ!
道路に飛び出す!
そして、子供を突き飛ばして……っ!
トラックが視界の端に入ってくる。
もう、間に合わない!
と、同時にすべての動きがスローになって見える。
人間は、生命の危機を感じると脳が通常より活性化し、普段より物事がスローに見え、……何たらかんたらと、昔読んだ本にあったが、これのことかな……?
そんな思考の中で、ふと見ると、歩道まで突き飛ばされた子供が、突然のことでびっくりしたのかキョトンとした顔をしている。
この後、我に返って泣いたりするのかな……。
出来れば泣かないでほしいな。
せっかく助けた命だ。
……そういえば、咄嗟のこととは言え、俺が助けたのか。
いや、咄嗟だからこそ、人間性が出たのだとしたら……。
俺は、自分のことを生きる価値のある人間だったと、思っていいのかな。
まあ、生きる価値を証明するために、死んでしまうわけだが……。
哲学的な矛盾だな。
だがしかし、後悔はしていない。
命がけで、子供を助ける行動。
別に、あの状況における、大人の当然の行動とは思ってない。
大人だったら、やって当然、いや、やるべきだなどとは、少し酷だと思うし。
実際、あの子の両親と思われる男女は硬直して、動けないでいた……。
だからこそ、咄嗟の瞬間、あのような行動に出る事が出来た自分自身が、少しだけ誇らしい。
であるならば、後悔しても、始まらない。
ちょうどそこまで考えた時、……俺の意識はなくなった。