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ボクらの片割れのボクの話





私がこの学園の学園長を勤めるようになってから、はや20年。

そろそろ後任が決まって欲しい頃合いなんだけど、これがなかなか決まらない。


私からすればバカらしい話なんだけど、お偉いじいさん方はここに住む子達の異能を恐れてこの仕事をやりたがらないのよ。



確かに学園ここの子達の中には強力な異能を持つ子もいるけど、皆、下手な大人よりちゃんと自分の力を理解していて、考えて行動しているわ。



私自身は異能は持っていないけれど、あの子達を見ていればすぐにわかることよ。


皆、ただちょっと変わった体質を持った、普通の子供なのよ。




大体、異能は能力というよりは体質なのよ。


普通の人の中にも、耳を動かせたり、体の骨が一本多かったり、いくら食べても太らなかったりする人がいるでしょ?


異能もそんなものなのよ。

ちょっと音速より速く走れたり、人間に加えて動物とも喋れたり、空を飛んだりすることができちゃうだけよ。


そう、そういう体質なのよ。

どうしてあのじじいどもはわからないのかしら?



間違ってもビームとか出す子なんていないし、雷をゴロゴロピシャーって落とせる子もいない。


あ、身体に電流を纏わせることができる子はいるけど、人間誰しも体に微小な電流を常時流しているのよ? そう驚くことでもないわ。




あら、つい脱線してしまったわね。

何の話をしていたんでしたっけ。ああそうそう、私の後任の話だったかしら?


私からしたらバカらしい話なんだけどね──って違うわ! 私が学園長を20年やってきたって話だったわ。



そこからかよ、ってそうですけど、何か不満なことでもあったかしら?


……そう? よかったわぁ。



それで就任してから20年の私だけれど、先日書庫を漁っていたら就任直後くらいに読んだ資料を見つけたから、読んでいたのよ。



あの頃はそういえば、あの子達とどう接すれば良いかわからなくて書庫の本を手当たり次第に──あらいけない、また脱線するところだったわ。



えーと……そうその資料はね、元祖オリジンと呼ばれている異能者についてのものでね、若い頃は軽く流してしまったのだけど……ほら、私20年も異能の子達を見てきたわけでしょ? だからもしかしたらって思ったのよ。


あの子達は皆本当に特別なのよ。とってもすごいの。



え? 元祖オリジンが何者か? ああ、そうだったわ。



異能者の本当の元祖ってわけじゃないんだけど、とても長い間生きているからそう呼ばれているのよ。

寿命がないそうよ。ある程度年をとると赤子に戻ってしまうらしいの。


……うーん、私も信じていたわけではないんだけど、あの子達を見ているとつい、あり得なくもないって思ってしまったの。



それで、ここからが大事なんだけど、文献にね、その元祖オリジンが学園の地下に封印されてるって書いてるのがあったから──うん、行ったわ。



地下は大樹──あの中庭にある樹のことよ──が侵入していて歩きにくいことこの上なかったけど、なんとか奥まで進んだら──


……そう、いたのよ。



5歳くらいで文献にあった通りの姿だったわ。大樹の根もその子を守るように巻き付いてて出すのが大変──


……何をおっしゃいますか。出すわよ。あんな小さな子を地下に放っておくなんて──



……封印されていた理由? お偉いじじい方なんて今も大昔も大差ないわよ。どうせ碌なもんじゃないわ。





あの子の記憶は酷く曖昧だったわ。

なんとなく自分は長い間暗いところにいたことは理解していたけど、それくらいだったわよ。

自分の名前さえ覚えていなかったわ。


身体も衰弱していて、酷いもんだったよ。



私らが生まれるずっと前から、あの子はあそこにいたのよ。精神はその割には奇跡的なくらいに正常だわ。全く、すごいもんよ。



私はあの子を『ノア』って呼ぶことにしたよ。元祖オリジンなんて呼ぶのは可哀想だしね。

方舟から出てきた人間の名前──あの子はこれから明るいところで生きるんだから。良い名前でしょう?



そういえば、あの子の異能たいしつはあの長寿なのかしらね。文献にも詳しくは載っていなかったのよ。



そうそう、あの子、すごく賢いのよ。テストをしたら、歴史はちょっと不出来だったけど、それ以外は高校まで学校に行かなくても良いレベルよ。

なんとなく覚えているのかしら? でも、理科の分野は近年になって発見されたものも多いのに、不思議よね。



……そう? 嬉しそうかい?


まあ、確かにできの良い孫ができたみたいで悪い気はしないわ。



……いいや、学校に通う気はないみたい。実際、通う必要もないし、私は自由にさせるつもりよ。


そうね。根本的なところであの子は他人を信用していないのよ。無理もない話ね。


考えてみなさい。あの子は何十年、もしかすると何百年もあの地下にいたのよ。それでどんなに大きく、どんなにたくさん助けを求めても、誰も応えてくれなかったの。

しようがなかったなんて言える? こういうのは理屈じゃないわ。

信じられなくて当然なのよ。






あの子は、ノアは、私にも心を開けてくれないわ。全く、やるせないもんよ。





そういえば、元祖ノアって異形だったのね。







読んで下さってありがとうございますm(._.)m



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