ボクらと彼女の配役
ボクは、とある少女マンガに登場するキャラクターであるらしい。
なぜ知っているかというと、ボクにはここじゃない世界で生きた記憶──つまり前世の記憶があるから。
転生も、まあまあよくある話でしょ?
前世でもその手の話はたくさんあった……気がする。うん。
前世のことははっきりとは覚えていない。
だって、現世のこの体で過ごした時間の方が何倍もなん十倍も多いし重いんだから。
とは言っても、現世の記憶も大分曖昧だけどね。
で、あやふやな前世の記憶でかろうじてわかるのは、ここが『超能力者達の学園で~君は僕のマイエンジェル~』って感じのタイトルの少女マンガの世界だということ。
マンガの舞台は現代日本で、とても低い確率で人間が異能を持つようになる世界(まあ、よくあるよね)
異能を出現させた人間は国によって"学園"に集められている(これもよくあるよね)
主人公のナントカちゃん(名前なんだったっけ?)は高校に上がる年に異能を現し、"学園"の高等科に入学させられる。
そこでいろいろな異能を持った人に出会い、"学園"の闇を解き明かしながら、運命の人と恋愛模様を描いていく。
そんな話だった。
ボクはというと、もちろんその漫画の主人公でもなければ、ヒーローでもなければ、主人公の友人キャラでも、当て馬でも、ましてや悪役でもない。
かと言って、ただのモブでもない。
ほら、少女マンガにはよく、イケメンのヒーローと並んでも遜色ないくらい美形で、時には陰ながら主人公とヒーローをフォローし、時には陰ながら主人公とヒーローの仲を引き裂こうとする女子達を諌め、時にはヒーロー、また時には主人公を励まし、2人の恋愛を助けるキャラがいるでしょ?
そう、それが現世のボクの役。
ヒーローの親友ポジのボクは、マンガの3巻の表紙に載っていたよ。
──どうでもいい?……そっか。残念。
現世のボクの名前はノア。名字も何もない、ただの『ノア』。
マンガでのノアは親友役としては少し特殊だった。
それは一重にノアとヒーロー役の関係が親友と言うには少しばかり異質だったから。
ノアとミケは2人とも暗い過去を背負ったトラウマ持ちで、お互いとしかわかり合えないが故に、お互いにしか心を開こうとしない、互いに依存仕切った関係にある。
それはもう、幼い頃から2人とも相手に対して軽くヤンデレ化してるんじゃないかってくらいに。
所謂『腐ィルター』を御持ちの方々には大変喜ばれた関係でした。
──意味がわかんない? たぶんその方が健全だよ?
だからマンガでのノアは、確かにイケメンのヒーローと並んでも遜色ないくらい美形で、時には陰ながら主人公とヒーローをフォローし、時には陰ながら主人公とヒーローの仲を引き裂こうとする女子達を諌め、時にはヒーロー、また時には主人公を励まし、2人の恋愛を助けていた──けども
同時に主人公とヒーローの間の最大の障害でもあって、親友の幸せを思って彼のために身を引くという件もある自己犠牲キャラでもあるのだ。
ボクが覚えているのはそれくらいだよ。
だって君らも、3年前に読んだマンガを内容も全て覚えているの? 5年前に読んだマンガは?
ボクの場合はもっともっと経ってるんだから、覚えてなくて当然なんだよ。
ご都合主義なんかじゃ……ないよ?
今のボクとミケの関係は……たぶん、マンガとあまり変わらない。
仕方ないんだよ?
だって、ボクをわかってくれるのはミケだけだし、ミケをわかってあげられるのはこれからもずっとボクだけなんだから。
ボクにとってのミケも、ミケにとってのボクも、替えなんて効かない存在なんだよ。
これは主人公でも壊せなかった、ボクらのキズナ、なんだヨ?
──ああ、そうだった。
確かにマンガでは、ヒーローは主人公に救われたかもしれない。
でもマンガにはノアの救いは、なかった。
読んで下さってありがとうございますm(._.)m