ボクらと彼女のぷろろーぐ
木漏れ日が差し込む、木々の間の拓けた空間。
葉っぱが互いに擦れ合ってささやく音と鳥達のさえずりしか聞こえないその場所だけ、なんだか時間がゆっくりと流れているようで。
そこで寄り添い合う男女の姿と合わさって、一層幻想的な情景を作り上げている。
少女の方は艶やかな黒髪をショートボブに切った小柄な、小動物的な可愛さを持った、見知らぬ人。
14,5くらいで顔立ちには幼さが残っているが、10人中6人は美少女だと言うくらいに可愛らしい女の子だ。
こんなところを見ていなければ、ボクだって可愛いと思ってしまっていただろう。
でも、今はそんな余裕はない。
だって、ボクはこの子を知っているんだから。見るのは初めてだけど、知っている。
少年の方はボクがよく知っている人。
波打つダークブロンドの天パのかかった髪で、アーモンド型の目は琥珀色。絵師の傑作が絵画から出てきたかのような、いっそ神々しいまでに美しい少年だ。
その背中からは一際夢幻的な雰囲気を醸し出す、純白の翼が生えていた。
天使のように美しい、ボクの親友で、唯一ボクが心を許せる存在。
2人の会話を聞くと、どうも少女は怪我の手当てをさせろ、と捲し立てていて、少年の方は自分でやるから君に頼むまでもない、と言っているようだ。
親友は心底不機嫌そうな、むすっとした顔をしている。
ボク以外の人間にはなかなか見せない、心の内をまるっきり表情に出している顔。
得も言われぬ焦燥感と憂慮に駆られて、ボクは心のある心臓辺りで手をぎゅっと握って、狼狽して揺れる心を抑える。
2人が一緒にいるところを見ただけでこれ、か。
──君がいなくなるなんて、ボクには耐えられそうにないよ、ミケ。
あの警戒心の強いミケが、もう心を開いているのだろうか。
やはり、2人の出会いは運命、なのだろうか。
あ、いつの間にか、少女が一人になっていた。いつも持ち歩いているのか、救急セットを背負っていたリュックの中に戻している。
表情はとても満足げだ。
ミケが怪我の手当てを許したのだろう。
学園に来てから8年間、初めて、ボク以外の人間に。
このままミケはどんどん彼女に惹かれていって、ボクから離れていくのだろうか。
──怖い。また一人になるのは、嫌だ。
気づくと、ボクは少女の前まで足を進めていた。
ボクを見上げる彼女の目は、大きくて。学園にはあまりにも不似合いなくらい、純粋で、優しくて、温かくて。
ボクでは与えられない、温もりや安らぎをミケにあげられる人の目。
今まで暗闇とは縁のない明るい場所で暮らしてきた人の目。
──ああ、きっと、ミケは彼女に惹かれていくのだろう。
だからボクは彼女に言う
「──学園は、君みたいな人間が来ていい場所じゃない」
彼女が自分の意思で学園に来たわけじゃないのは、知っている。
彼女にその気があっても学園を離れられないのも、知っている。
──だけど、どうか、ボクから居場所を取らないで。
今日中に第5部まであげるつもりです。
読んで下さってありがとうございますm(._.)m