レベル32からレベル22に。
『はい、葵でーーすっ』
スーパーの角っこに自転車を停め、片足をぶらぶらとさせながら
高い声を出す。
周囲は気にしない。それがわたしのモットー!…になった。
思春期であったり、学生時代、社会人で入社した新卒時代は
人の目を気にして何も出来なかった。
後悔をする人生をするぐらいなら、すべて割りきってやろう。
そう私は思うようになっていった。
私は電話をしながら、時計を見る。時計は安物でそろそろ買い換えないとベルト部分の革がしわしわとなってきている。
時刻を確認しながら、ベルトをぐるりと回し圧迫された手首を解放させるため、穴を1つゆるめた。
ゆるめた瞬間、心にも余裕が出来た気がした。
一瞬私の髪に風がそよいだかと思ったら、同じように電話を
しながら片手運転で駐輪してきた男性が横にきた。
『どうしたの?』
私の電話の相手は不思議そうに、また怪訝そうに私に尋ねる。
私は咄嗟に気の利いたことを言わなければと思ったが、
それをするのをやめた。
『ううん、なんにもなーい!』
また高い声を出す、私のなかでは女性というより“女子”の声だ。
その甲高い声を出した瞬間、隣にきた男性がだれかと電話しながらまるで、いや意図的に私に向かって言った。
『横におばさんぽいくせに、女子のフリしてる変なやついる』
その男性は私より20cmぐらい上から見下ろして言った。
私は男性の顔をうまく見れず、頭がカーッと熱くなり頬が赤くなるのが自分でもわかった。
私は恐る恐る男性の顔を見るために、斜め45度に顔をあげそこから目線をぐんと20cm以上先にあるだろう的に当てた。
スーパー近くの外灯と彼の顔が被り、逆光になった。
ぼんやりと、しかしどんどんと目が慣れていき彼の輪郭、鼻筋、目の順番と見えていった。
鮮明に見えた彼の顔は、凄く『男性』というよりも“男子”だった。茶色の髪の毛はワックスでとばされ、顔はまるで犬みたいだった。人なつこいようなその顔は本音をいうと、私の理想のタイプだった。
『もしもーし』
男性の声が私の携帯の受話器から響く。
そんなことよりもわたしは目の前の“男子”に夢中なのである。
私は一気にぐっと見上げた目線をまた時計に向けた。
『おばさん』というカテゴリー化をされたことに恥じらいを持ち、そして目の前にいる“男子”に一目ボレしそうになった自分を気持ち悪く思った。
片足をついて自転車に乗っていたが、その場から、その“男子”から逃げたいという気持ちが強くなり私は両足を地面につき電話を切った。
その瞬間である。犬のようなかわいい顔をした“男子”が
私の肩をつかんで咄嗟にこう言った。