欠片
あたしたちが失った心の欠片という意味でのサブタイトルです。
「欠片」
――――1996年冬――――
クリスマスも近い寒い夕方、一人の赤ん坊が誕生した。
些か体重は軽い、女の赤ん坊。
それが、あたし。
まだ若い両親だったが、とても可愛がられ、大切に育てられた。
虚弱なあたしがいま、あまり健康上の問題がないのは二人のかけてくれた愛情の成せることだろう。
その点についてはあたしはまだ、恵まれた方だった。
――――1998年初夏――――
あたしに2つ違いの弟が生まれた。
家はあまり裕福ではないけれど、互いに切磋琢磨して成長できる。
一緒に遊んで、喧嘩して、あまり似てないけど、互いに言葉なんてなくてもわかり会える。
いまは、憎たらしい口を利いて可愛いげがないとか、たまに思っちゃうけど、家族のなかで一番近いそんざいなんだ。
――――2002年秋――――
あたしの目に異状が見つかった。
小学校の就学前検診。
あたしには物の輪郭しか見えていなかった。
このような状態は大変危険と判断を下したのか大きな病院への紹介状を書いてくれた。
大きな病院であたしの目は治ることはなく、治療で視力を回復することしかないといわれた。
そのときはまだ、その意味を理解してはいなかった。
――――2007年秋――――
あたしたち一家は隣町への引っ越しが決まった。
学校も当然、6年で転校するものだと思っていたけれど。
結局、あたしたちはあたしの卒業までもとの学校に通うことになる。
今思うと、この頃から母の異変は始まった。
――――2009年年明け――――
その一年は些細な約束が守られなかった事から始まった。
通学用のバスの定期を買うため、昼休みを抜けてくると言っていたのに。
何の連絡もないままに夕方近くになった。
このままでは定期を買えない。
危機感を覚えたあたしたちはお年玉片手に駆け出していく。
目的地はいつも定期を買っているバスセンター。
二人で学期中の定期を買う。
どうして連絡をくれなかったのか、帰った母を問いただしても釈然としない答えが返ってきた。
もう、この頃から母の意識下にあたしたちはいなかったのだろう――――。