盤上の“黒騎士”
これが――。
「本当に、確かなのだな?」
老人はゆっくりと目の前の機器を見回し、見上げ、見渡した。
整然と並ぶその機器が本当に目的のものなのか素人の老人には分からなかったが、最高の人材、時間はもちろん私財のほとんどをつぎ込み、本来なら国家規模で動くプロジェクトを個人で開発させる長年の夢の実現を前にして、ただ喜びに打ち震えていた。
「発表すれば5年は世界第1位をキープできるでしょう。でも貴方は……」
狂喜に眼球が飛び出るほど目を見開き、ただうわ言のように繰り返し呟く。
「ついに、ついにやったぞ……」
そんな老人を横目に見て、嘆息する。
「……公表はされないのでしょうな」
受ける事のできるはずの栄誉と称賛を頭から振り払い、男は気を取り直して、老人の気を引くように声を高めた。
「さあ、まだ完成ではありませんよ。貴方が名付けてあげないと」
「名前なら疾うに決めておる。『Black Knight』だ」
その宣言で、老人の目の奥で燻りかけていた復讐の炎が燃え上がった。
突然若返ったかのように生気がみなぎり、遠く何かを思いながら残酷な笑みを浮かべる。
「早速、性能を確かめてみんとな」
「ええ、貴方の『黒い騎士』が最強である事を、証明しましょう」