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“大切な”子供

ほんの軽い気持ちだったんだ。

臨死ごっこなんて皆やっているし、子供が死なない事はすでに常識で、ほとんどの大人はどんなに危険な行動でも子供に注意もしない。

こんな事になるなんて、思ってもみなかったんだ……。




――ああ、やっぱりいる。

四宮 悠は校門に母親の姿を見つけ、溜め息をついた。

過保護の域を超えた心配性の母親は、登下校だけでなく遊びに行く時まで必ず送り迎えをするからだ。


幼かった悠自身はあまり憶えていないのだが、7年前に遭ったという車の事故から、母は悠から決して目を離そうとせず、疎ましいと感じてしまうほど必ずそばにいた。

「死ぬわけないのに」

奇跡元年から子供が死ぬ事はなくなり、ほとんどの親は子供に対して身の危険の心配をしなくなったというのに、悠の母だけは毎日こうして迎えに来る。

よく理解できていなかった頃は、大切にされているようで母の愛情が嬉しかったが、さすがに中学生に上がっても迎えに来る母親に、苛立ちだけでなく憎しみさえ覚えていた。

同級生からは“マザコン”とあだ名を付けられ、「乳離れはまだでちゅか~?」などとからかわれる。

何度かもうやめてほしいと頼んでみたが、まったく受け付けてくれない。


“ママがあなたからほんの少し目を離したせいで、あなたを痛くて怖い目に遭わせてしまったの。本当にごめんなさい”

“あなたが死んでしまったと思った時は、悲しくて心臓がつぶれそうになった。パパやお祖母ちゃんやお祖父ちゃんに申し訳なくて、何よりあなたの未来を奪ってしまった事に絶望して、死んでしまいたいと思った”

“ママ、もうあんな思いは2度としたくないの”


そんな風に言われてしまうとそれ以上何も言えなくなってしまうが、だからといって同級生からの嘲笑に耐えるのもそろそろ限界だった。



「どうしたらいいと思う?」

「そうだなあ……」

親友の宇波に相談するのも1度や2度ではない。

「ショック療法ってどうよ?」

「ショック療法?」

「お袋さんの目の前で死んでみせて、無事に生き返れば、何があっても子供は死なないんだって分かってくれるんじゃないか?」

「そうかな……」

7年前に目の前で生き返った事実があって尚、今でも心配する母に改めて奇跡を見せる事が本当にショック療法になるのかは怪しいが、これだけの時間が経ち“奇跡”が“常識”となっている今、宇波の言う通り、心配の必要などないと理解してくれる可能性もあるかもしれない。

それに――そう、目の前で死んでみせるというショックを与える事は、ささやかな意趣返しにもなる。

「……そうだな。やってみるよ」

「やってみるのはいいとして、お前、どんな方法でやる気だよ?」

「そうか、どうしよう。俺、臨死ごっこってやった事ないんだ」

「お袋さんに禁止されてたんだもんな」

決して、絶対に、何があっても、と臨死ごっこをしないよう厳しく言われてきたのだ。今までは母の気持ちを汲んで参加した事はなかったので、いざやるとなるとどういう風にすればいいのか迷ってしまう。

「ショックを与えるなら、事故の時と同じ方法がいいんじゃね?」

「無理だろ。今はほぼすべての車に衝突防止装置が付いているし」

事故当時にも搭載は進んでいた衝突防止装置も、旧い型の大型車にはまだ付いていない事が多く、たまたまその搭載されていない車に轢かれたのだ。

「ショックを与えるなら、できるだけ派手な方法?」

「派手な方法ねえ」

「血が出るやつは?頸動脈切って血がドバッと」

「ああ、そりゃ派手だな」

汚れそうな方法だから、庭でやった方がいいかもしれない。

「よし、今晩にもやってみるよ」




――本当に、軽い気持ちだったんだ。

胸を焼く後悔に押し潰されそうになりながら、悠は話しかけても何の反応も示さない母を乗せた車椅子を押した。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


20代の頃はバリバリの仕事人間で、自分が文章を書くなんて考えた事もありませんでしたが、30代になって首を悪くして仕事が思うようにできなくなり時間ができた事と病院に通うようになった事が、この話を書こうと思ったきっかけです。


昔から本を読むのは好きでした。

魔法やファンタジー、ミステリー、物理学や科学やSF、自己啓発本と、全く別ジャンルでも面白いと感じる点で、私にとっては区別がありません。

だけど、同じ作家の作品でも、その話が完結するとまったく別の世界での話を始める事に少し違和感がありました。

クリスティが好きで、よくたくさんのシリーズの登場人物たちが互いに登場し合うのを読んでいたからかもしれません。(いわゆるスターシステム?)


同じ因果律からなる世界で、全く別ジャンルの話を展開できないだろうか?

その1歩目がこの物語です。

日常的な学園ものや推理もの、ファンタジー、ゾンビものや陰陽師ものなどなど、色々と書いてみたい。それをそれぞれ別に世界をつくりのではなく、同じ世界(”世界観”ではなく、あえて言うなら”因果律世界”とでも呼びましょうか。)で描きたいと考えています。

夢ばかりが大きくて、思うように描写や展開ができない自分の力の無さをかみしめる毎日ですが。


ここで、裏設定をひとつ。

この因果律世界では、ある理由から世界的にエネルギー問題がありません。

その為、開発研究は”小さくする”方向に進んでいます。その一つがフィジカルナノマシン。これが別ジャンルの方にも活かされる予定です。(というより、そちらの話を先に考えていて、こちらと繋がりました。)


医療島の場所は迷ったのですが、国際空港の有無で決まりました。人工島を造るにあたって日本海側では問題が多すぎるし(領土問題的に)、初めは東京湾内にする予定だったのですが、邪魔だろうと。

本当は懸垂型モノレール(千葉と言えば)を敷きたかったのですが、洋上だけに海風キツそうなので、泣く泣く諦めました。すぐ止まっちゃいそう…。



なんとなく当たり障りない話ばかり書いていて、その殻を破りたくて、”思いつく限り残酷な話を書いてみよう”とかなり無理をして挑戦してみましたが、後味の悪い終わり方で申し訳ありません。

次作も少しずつ執筆中ですが、まだ少しかかりそうです。

書きあがった際には、またお読みいただければ幸いです。

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