アヴァロンの“切り札”
「つまり、どこかの正体不明の正義のハッカーが、クラッキングを受けたスパコンのコントロールを取り戻し、それを経由して戦闘機をハッキング、ミサイルを発射したという事かね?」
「そうです。こちらではスタッフに避難を命じた後は何の対応も取りようがありませんでした」
しばらく続いた質疑応答の後、ウソ発見器も恥じらう面の皮の厚さで言ってのけると、もう他に話す事はないという空気を醸し出す。
「もういい、下がりたまえ」
黙礼し静かに退室する佐原 真貴那を苦い表情で見送り、報告を受けたテロ事件の調査委員会の面々は、口には出さないものの全員がある噂を思い浮かべていた。
――『モーガン』はサービスのつもりだったのだろうか?
ミサイルテロの脅威から島を救おうとしたあの時、英の姿のホログラフィーを使用したのは。
妙なエンターテイメント性を学習してしまい、困ったものだとも思ったが、それでも“彼ら”が医療島を救ったのは間違いない。15万トンの液化天然ガスにミサイルが命中していた場合、その威力は原爆並みだったのではないかと言われている。爆破予定地点が1キロほど先の洋上としても、被害は甚大だっただろう。
ただ、それをシェルターにいた全島民にモニター越しに目撃させた事を、どう言い訳したらいいのかが悩みどころだった。
こうして委員会に出頭し聴取を受けた真貴那の印象では、おそらく今回の事件に関して日米合同の調査委員は、ミサイル発射の一連はすべて、緊急時の対応力と指揮系統の円滑さを測る為に抜き打ちで実施された演習だったと発表するつもりのようだ。
結果的に被害がなかったとはいえ、ミサイル防衛の穴とシステムの脆弱性を世間に公表するわけにはいかないと結論づけたのだろう。
「そうか」
演習中に事故が起きた場合も想定し、医療島の大規模防災訓練に合わせて行った事にされるかもしれない。そうなればこちらも把握していた事になるから口裏を合わせるよう要請されるだろう。
「まったく面倒な話ね」
それでも好都合な面もある。“正体不明の正義のハッカー”の存在は隠されるのだから。
映像の方は、『あずさ』の宣伝の為に利用していた実験開発中の投影装置が混乱の為に誤作動し、流れてしまったという事にし、動きが合っていたのは偶然と言い張る他はない。
香寿紗の撮影素材で充分に実験した後、英の映像と共に自由に使用できるようにしたのだが、まさかあんな風に使うとは思ってもみなかった。
真貴那がただ一つ懸念しているのは、“黒騎士”と呼ばれているクラッカーに『モーガン』の存在を知られてしまった事だ。モーガンの方が能力が上である事は、あの短時間で制御を取り戻した事からも証明された。必ず、また何か仕掛けてくるだろう。
ただ、モーガンは赤竜と白竜を通して攻撃を仕掛けている。もしかしたらこちらのスタッフに腕のいいハッカーがおり、対応したのだと勘違いしているかもしれない。いや、普通はそう考える方が自然だ。隠そうといているからつい、バレたのではないかと勘ぐってしまう。
痕跡を追ってこちらから報復をしようという提案にモーガンが乗り気ではない以上、どちらにしても今後は相手の出方次第だった。2頭の竜を奪われた時は怒っているようだった“彼ら”も、むしろ今は黒騎士の存在を面白がっている節がある。
それも仕方がない。あれはただのコンピューターではないのだから。
――それは、エネルギー資源に乏しく食料自給率も低い島国の、最高法規によって軍隊を持たない小さな国の、“これからの戦い”を勝ち抜いていく唯一の方法。
電子情報戦必勝の切り札。
2頭の竜を従えるこのアヴァロンの守護者は、この先の日本を支える柱になる。
たかだか騎士ごときに決して邪魔などさせはしない―――。
そこまで考えて、真貴那はフッと笑った。
――英のホログラフィーを使った理由。
『モーガン』にとって、あの程度の事態は“遊び”なのだ。




