“贖罪”の献身
「英、昨日の夜ね、噂の“本物の魔法少女”を見に行ってきたよ。
やっぱり、君じゃなかった。本当の事を言うと、ちょっとだけ期待していたんだけどね。たぶん、『あずさ』最終話の宣伝の為に、しているんだろうね。当然、佐原さんは――君のお母さんは詳しい事を知ってるんだろうけど、聞いても、はぐらかされるだろうなあ。
なんでかその『魔法少女』は、伊豫さんっていう人のいる場所に現れるんだって。あんまり話せなかったけど、なんていうか“大人”って感じの人だったよ。
ただ年上っていうじゃなくて、ぶっきらぼうな中に優しさが見える、みたいな。
きっとあの人もすごくツライ事があって、乗り越えようとしているんだと思う。
鋭い人でね、君の事もちゃんと調べていたり、あと、“魔法少女”の正体を書いたメモをくれたんだけど……どうなんだろうね。それを見ると、やっぱり宣伝なんだろうなって思う。この島らしいけど。
……もしあれが君だったら、僕はどうしていただろう。
正直分からないけど、それでも、もし君のイキイキと動き回る様子を見られていたら、きっとすごく嬉しかっただろうって思うんだ。昔みたいに、楽しそうに笑いながら駆けまわったりね。
だからさ、――早く、目を覚ましなよ、英。
目を合わせて話したい。僕の名を呼んでほしい。笑いかけてほしい。
君の幸せな姿が見たいんだ。
楽しい事も美味しいものも、いっぱいあるよ。この前、大学の後輩の子にコンビニのプリンをもらったんだけど、ちょっとびっくりするくらい美味しかったんだ。
その子が言うには、今はどこもそういうスイーツに力を入れてて、レベルが高いんだって。僕はそういうの全然知らなかったけど、紹介するからさ。明るい子だからきっと仲良くなれるよ。女の子同士でお洒落の話とか美味しいものの話をしたり、買い物とか遊園地とか旅行に行ったりとか、きっと楽しいよ。
――そうだよ、本当なら君は今17で、友達と他愛もない話をしたり恋とか受験とかで悩んだり、そんな普通の日々を過ごしていたはずだったんだ。それなのに、どうして……。僕をかばったりなんて、しなければ……。
何百回も、何千回もそう考えたよ。今、僕がこうしていられるのは君のおかげだってちゃんと分かっていて、感謝もしているのに、君のこんな姿を見る事になるくらいなら、僕が事故に巻き込まれた方がマシだったって、どうしても考えてしまうんだ。
いや、今こんな事言っても仕方ないよね。分かってる。
だからね、せめて君から奪ってしまった時間を、僕に返させてほしい。いつか目を覚まして、失った時間を知った時、もしかしたら君は僕を恨むかもしれない。それならそれでもいい。陰からでも、君を守らせてほしいんだ。
……ごめん、明るい話にしようね。
もうすぐ、最終話の撮影が終わるんだよ。
執行監督は相変わらずで、いきなり現場で台本変えたりするんだよね。まあさすがにここまでくると、変えるっていっても大した変更じゃないんだけどさ。
最終話を見たら、君はなんて言うだろうね。戸惑うだろうけど、でも君の性格なら、最後にはきっと喜んでくれるって思うんだ。
いつも話している香寿紗ちゃんも、すごく頑張り屋でいい子だから、絶対に仲良くなれるよ。
……君の時間は10歳で止まっているだろうから、香寿紗ちゃんの方が話が合うかもね。
自分が成長してしまっているのに、目の前の香寿紗ちゃんが自分にそっくりだと、変な気分だろうね。
あ、はーい!すいません。もう出ます。
……また明日も来るね、英。よい夢を」