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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第五章 2つの異なる星で行われる、命の駆け引き
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第九話 しのび

「にばんめの こどもは れいせいと なづけられた

さいしょの こどもは れいせいを こおらせる ちからをみせた」


――『ハーノタシア星創世記』 第三章 第二節

 「さぁて、私もあんたが気になってきた! 来な、『ニンジャ』!」


拙者を見つめて笑う、ディアナと呼ばれた光の使い。こやつの実力は、おそらく『影の封印者(シャドー・シーラー)』でも3本の指に入るほど――。調子に乗っていたとはいえ、あの咲夜殿があっさりとあれほどの傷を負うとは……。


「どうした? 怖気づいたか?」


ディアナは、したり顔を崩すことなく、手招きで拙者を挑発した。


「……覚悟!」


 闇の《力》をたぎらせたクナイを携え、ディアナへと向かっていく。しかし――ディアナは表情1つ変えない。


 「《絶望》は《希望》を食い荒らす――だったか? だったらそれすら超越してみせる!」


 ディアナが生成した光の剣を振りかざすと、その頂点が光り輝いた。無垢なるその光は、拙者のクナイから《絶望》を消し去ってしまった。


「くらいな!」


 ディアナが鋭い剣を振りかざすその瞬間、大波を巻き起こして逃げ道を探す。安直に属性に頼るのは失敗でござったか……ならば!


「水をかぶって頭を冷やしたつもりかい? だが無駄だ!……!?」


拙者の残像が真っ二つに切り裂かれる。拙者は背後から上空に跳び、空襲のようにクナイの雨を降らせた。


「上だと!?」


空澄魔鏡(あずまかがみ)!!」


「ぐあああああああああ!!」


上空からの全体攻撃に、ディアナだけではなく、ハーティアとて無事ではいられぬはず。しかし、彼女はいち早く氷のバリアで自身の身を守っていた。


「大丈夫か、ハーティア!」


ディアナの呼びかけに、返事はない。


「お主は平行世界の咲夜殿を大層心配しておる。彼女が真の戦友であると?」


「戦友……さぁねぇ。――それより、自分の身体を水面に映した影にするなんてね。まったく器用な奴だ」


 そう話す間も、ディアナを神聖なる光が包み、一瞬にして体力を回復してしまう。今の攻撃も、所詮は気休め――。これを続けていても、拙者らの体力が保つまい。


 咲夜殿の秘策に、すべてがかかっている!



**


 「あのディアナって人、ずいぶんあなたのことを心配してるみたいだね」


「何が言いたいの?」


したり顔で笑うハーテイアに向かって、氷の剣をブラブラと遊ばせながら笑った。


「あの人、仲間なんじゃないのかな、って」


「仲間……」


「さっきあなたは、仲間の力を否定した。だけどそれは、今のあなたの中にも息づいている」


「違うっ、ディアナは同じ目的を達成するための同志! 仲間なんていう言葉では片付けられないわ!」


「じゃあ親友? 戦友、かな」


「くだらないことを!」


喚き散らすハーティアを尻目に、氷の欠片を1つ、床に投げ込む。ハーティアには気づかれていない。


 まず、1つ!


「でやあああああああああ!」


怒ったハーティアが、私に斬りかかってくる。ふふ、単純な奴。わ、私じゃないからね!


「当たらないよん!」


柄の先を固い氷の表面で引き裂く。すると、ハーティアの刃はもろくも床に崩れ落ちた。


 2つ。


「無駄よ……私の氷は、無限に生成される!」


何事もなかったかのように生えてくる氷。いい感じだ、このままいけば必ず成功する!


「じゃあ見せてもらおうかな、氷の神髄!」



**


 なるほど、咲夜殿はああやって大技を決めるつもりでござるか……。ならば助太刀いたそう!


「どこを見ている!」


「目立つのは苦手にござる……一悪の砂(いちあくのすな)!」


拙者が念じると、周囲に黒い粒子が飛び散った。


「な、なんだ……砂? 違う、闇の《力》を粒子化したものか!」


「左様、そしてそれが結集いたせば――」


拙者の右手に、凝固した砂が集まる。


「しまっ――離れろ、ハーティア!」


 ボン、という大きな音を響かせ、ディアナの周辺に煙幕が広がっていく。一瞬のすきに壁に張り付く。


「ハーティア! 無事か!? ……くっ、煙玉とは……!!」


 今のうちに、咲夜殿が氷剣を完成させてくだされば……。


「くっ――待っていろ、ハーティア! こんなもの、私の光で……」


 戦友を心配し、《力》を解放するディアナ。しかし、その願いは叶わない。


「なぜだ……なぜ……! 馬鹿な、粒子が剣に凝固している!! ハーティア、ハーティア!」


 と、その瞬間、無数の氷の閃光が能力者を中心にまき散らされる。煙幕は割かれ、徐々に小部屋は本来の色を取り戻していく。あの黒き氷は――ハーテイアのもの。


「ハーテイア……」


 闇の粒子にあてられたのか、少しくたびれた顔をしたディアナが、弱々しくハーティアに声をかけた。


「そんなに呼ばなくても、聞こえてるよ」


 ハーティアはそっと黒に染まった件に触れ、砂を解放させた。


「いつも心配なんだ。私は、あんたのことが心配なんだよ」


その言葉に、邪気など感じようもなかった。この女が持っているのは、純粋に仲間を、同胞を想う気持ち。


「世話焼きめ」


「ずっと一緒に入れたら、私はそれで幸せだ」


「……安い幸せね」


「そんなことはないさ。かけがえのない、幸せだ」


 拙者が思わず見とれていると、部屋の隅からとてつもない《力》の集約を感じた。


 咲夜殿――この友情に、決別をもたらそうとしている。


 《影》を受け入れる者、封印する者――その違いなど、些細なことなのやもしれぬ。ほんの小さな違い、それが拙者らの目的を変えた――。


 人はそれを、「運命」と呼ぶのだろうか。



**


 さっきからラギンの動きが止まっている。隙だらけだというのに、どうしたんだろう。でも、私はラギンに声をかける余裕もなかった。

 

 さっきラギンが撒いた煙幕。それを晴らすために、ハーティアは大量の氷を使った。これだけあれば、剣は完成する!


「はああああああああああぁぁぁぁぁぁ……」


 目いっぱい《力》を込める。それでも生成はうまくいかず、相変わらず剣は方向を見失い伸び縮みを繰り返す。


「ぐ、ぐぐ……」


「しまった、あの子がノーマークだったか」


 ディアナに気づかれた。ハーティアが優しく微笑み、1歩前に踏み出した。


「私が決着をつける。終わったら、今後の世界について話そうよ」


「……ああ」


 ラギンは音を消し、部屋の隅へと急ぐ。


「おい、どこへ行く」


()の者の安全を確保する」


「ああ、あの無能力者か――あいつも殊勝なものだ。固く閉ざされていたハーティアの心を開いた」


「……最初に開いたのは、お主では?」


「……さぁな。とにかく」


 ディアナは瞬間移動して、ラギンの進路を阻んだ。そっちは頼んだよ。


「ここは通さないぞ、『ニンジャ』」


 「またそれ? いい加減諦めたらどうなの、そんなボロボロの身体で」


「……私さ、思うんだ」


「なに?」


 ハーティアが長い剣を私の首筋に当てた。剣の生成にほとんどの《力》を持っていかれて、抵抗する術はもうなかった。


「もしも立場が逆だったら、私も同じことをしただろうなって。あなたは、私なんだし」


「なにそれ、慰めのつもり? 全く嬉しくない。私が望んでいるのは、あなたの身体、それだけ」


 チチ、と剣が鳴き、心臓を冷たくする剣が私とくっついた。なぜだか、恐れはなかった。


「違うよ、そんなんじゃない。ただ、他人と自分はこんなにも近いのに、こんなにも理解するのが難しいんだなって」


「どういうこと?」


「あなただってわかっているでしょう? あなたは私なんだし。……境遇の違いで、もともと同じ存在だったものは別れ、相対し、時には傷つけあう。それに極めて平等な神判を下すのは、死だけ」


「死……」


「あなたは死を知っていて、私は知らない。だからあなたの苦しみを、理解してあげることはできない。分かったふりをして偽善的にふるまうのは、私の趣味じゃないから」


 チチチチチ、と激しく剣が鳴き始めた。ハーテイアの手元が狂っている。


「だから本当は、私があなたにかけてあげられる言葉なんてないかもしれない。だけど一言、おせっかいだけど言うとするなら、自分の人生を肯定してあげて」


「自分の人生を、肯定?」


「壊れてしまった時計は、もう針を前には動かせない。だけどそれでも、よかったなぁなんて思える時が、あなたにもあったはずだよ。あるはずだよ」


「い、今になってこんなことを言うなんて、何のつもり? 遺言?」


「違うよ、その逆」


 私の剣が、ハーテイアを捉えた。迷うことなく、ハーティアの首へと伸びていく。


 「あなたを殺して、私たちは前に進む」


「ふ、ふふ……」


 ハーティアが震えた声で笑い始めた。


「フ、フハハハハハ!! あなたが、私を殺す? ハッタリもいい加減にして! この状況でどっちが(まさ)っているか、一目瞭然でしょう?」


「ねぇ、私があなたの話を聴いてあげられるのは、これで最後なんだよ? 最期ぐらい、素直になってよ」


「ハン、その無鉄砲な溢れる自信! 傲慢! 私はそれがずっと憎らしかった! 憎らしくて、懐かしくて……それで……」


「羨ましい、でしょ?」


「え――」


「分かるよ。ねえ、認めなよ。あの金髪の女の人、あの人、大事な仲間なんでしょ? 私がみんなのおかげで強くなれたのと同じで、あなたは彼女のおかげで、ここまでこれた」


「私に、仲間などいない――!」


「そ。――じゃあ」


 これ以上問答をしても無駄だ。私は生成途中の剣の柄に、力を込めた。


「私が前に進む力を、ちょうだい」


「え――」


 いままで小部屋にまき散らされた氷が、私の剣目指して集まってくる。成功だ。


「私の氷を――エネルギーに転換するなんて!」


「私も、私を殺すのには抵抗がある、だけど、そうしなきゃ魔王は倒せない」


「ハーティア!」


 強大な《力》を感じ取ったディアナが、後ろからハーティアに駆け寄る。もう遅い。


 人は、前に進むしかない。


 これ、お兄ちゃんの言葉なんだよ? 信じられないよね。私も最初は、馬鹿にしてた。


 でも今は、信じられる。


 「絶壁氷斬剣メテオラ・クシポス・クルシュタッロス!!」


 私の《力》とハーティアの《力》、その2つが合わさって完成した剣を、私はハーティアに向けて振り上げた。剣というより鎌に近いその一撃で、ハーティアの肉体は吹き飛ぶだろう。そして私は、本来の肉体を取り戻す。


 はずだった。


 「どんなに私の精神を貪ろうとも、圧倒的な《力》の前にはすべてが無力!」


その瞬間、ハーティアは私の目の前から消えた。


「え――」


「咲夜殿! 瞬間移動にござるーッ――!」


ラギンの声が私に聞こえたのは、ずっとずっと後だった。すぐに私の耳に飛び込んできたのは、後ろにいたディアナが放った絶叫と、恐怖と罪悪感に顔を歪ませた、ハーティアの声だった。


 「ったく……わ、私たちタッグだろ? に、逃げるんなら逃げるって――さ、先に言ってくれよな――」


「い、いやあああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


読んでいただきありがとうございました。

今回で決着のつもりでしたが、できませんでした。すみません。11話で決着させます。

次回、第十話「ほころび」。お楽しみに!

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