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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第五章 2つの異なる星で行われる、命の駆け引き
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第八話 あかり

「やっと見つけた。あなたが橋本明里だね?」


「そ、そうですけど――あなたは?」


「私は神山炸亜。突然で悪いけど、今日からあんたをうちの家政婦として雇わせてもらう」


「え? いや私、フリーターですけど……」


「心配することはない、報酬は弾むよ。うちのバカ息子を、頼んだ」


「え? えぇ~っ!?」


――ある家族の会話


 「偽物の咲夜ちゃんなんかに、負けないよ」


「それはどうかな?」


「もう勝利の方程式は――完成している!」


 私の背中で育っていた枝が、太陽の光を受けてグングンと伸びていく。


「な、そ、それは――」


 最初は左右2本だった枝は、地面から次々と顔を出し、私の身長よりずっと高い位置でくるぐると互いに巻き付いて収束していく。その姿は、てるてる坊主を連想させた。


「こいつは相手の《力》を読み取り、完全に捕える対あんた向きの植物だ」


「こんなものを、この一瞬で――?」


「いや、時間はかかったさ。けど有効範囲をこの住宅街全体にしておいた。――たとえば、そこ」


 私が指示すると、たこのように伸びた枝の1本が咲夜ファントムのずっとずっと先のファントムの一部をからめとり、粉砕した。


「なっ……」


「お前たちは完全に包囲されている――これが私の、繋がる枝たち(ニューロン・ツリー)!!」


「ニューロン・ツリー……脳を模したというの?」


「そうだよ。脳に刻まれた大切な記憶――いや、自分の生まれる前からあった大切なつながり――それは絶対に、色あせはしない!」


「フフ――だとしたら、あなたには――」


「笑ってるなんて、ずいぶん余裕だな! いけ!」


枝たちは、私の指示に従い待機していた保険たちをからめとり、殲滅していく。


「くっ――どこか、どこかに穴があるはず――! 私たちの集合体がそう簡単に捕食されるなど――!」


「どうしたの?」


「分かったわ。枝の1本1本がそれぞれ別の守備範囲を担っているのね。そしてその情報を、複雑に絡み合った上部で統合している――ならば攻めるべきは――」


 ファントムが氷の閃光を投げた。固いバリアがそれを弾き飛ばす。


「チイッ!」


「ご名答。だけど残念だったね。この司令塔を守るバリアは、絶対に、絶対に破壊できない!」


「何ですって……?」


「私の《感情(おもい)》の結晶――偽物なんかには絶対に壊せないさ」


「たわけたことを――」


 飛び上がり、鋭い剣を直接司令塔に差し込もうとするファントム。でもその刃は、永久に届くことはない。


「こ、このバリア――何層にも重なっている!」


「現在でも、過去でも――いろいろな人が私を支えてくれた。これが私の、強さの証明だよ」


「ぐっ、くぅっ……」


「いいのか? そんなことしている間に、お仲間はどんどん食い潰されてるぞ~? 早くほかと合体して、少しでも《力》を強めたほうがいいんじゃないのか?」


「な、もう同胞たちがこんなに……!?」


「ま、もう遅いけどな」


「ぐ、ぐあああああああああっ!」


「は、早く統合をっ……うわあああああああああ!」


 あちこちで聞こえる悲鳴。あっという間に、残りは咲夜ちゃんに扮したファントムだけになった。


「こ、こんな――ことが――」


「1人きりになって、少しは孤独の辛さを知れたんじゃないの?」


「な、なに……!!」


「チェックメイトだ、ファントム!」


 今まで後ろを向いていた、枝たちが絡まるのを避けてできた空洞。カメラのレンズのようなそれが、ぐるりとファントムの目の前に姿を現した。


 おばあさん、かたきは私がとりました。


 私が命じると、空洞から気功波が飛び出し、自身のバリアを突き破ってファントムの身体をみるみるうちに分解していく。消えゆくさなか、ファントムは物怖じせずに笑みを浮かべ、こう言い残した。


「《影》は不滅、そういったはずです――またあなたのもとに姿を現すことになるでしょう。『真実』を知ったあなたの顔を拝めることを、楽しみにしていますよ――」


 こうして、朔の家周辺を襲っていたファントムはすべて、跡形もなく消え去った。


「明里さん、明里さんっ!」


私は間髪入れずに、朔の家に転がり込んだ。



**


 「無事ですか、明里さん!」


「やっと終わったの……? いったいあなたは何者……?」


私に背を向け、リビングで小さく震える明里さん。窓が破壊され、棚や机が散乱している。ファントムめ、なんてことを……。


 「落ち着いてください、明里さん。私です、なつみです。大丈夫ですか、明里さん」


「え? なつみちゃん?」


おそるおそる顔を上げた明里さんの両目には、涙がたまっていた。かわいい。


「はい、なつみです。怖かったでしょう。悪い奴は私が倒しましたから、もう平気です」


「なつみちゃんが倒してくれたの? 変ね、なつみちゃんより少し年下の――高校生くらいの女の子と会わなかった? その子が私を助けてくれたの」


 高校生くらいの女の子――? そういえばファントムも、小娘がどうのって言っていた気がするけど――協力者だろうか?


「それと、その子がこれを……ああ、炸亜さん……」


 明里さんの視線の先には、静かに微笑む朔のお母さん――の石像があった。


「そ、そんな――お母さん」


 朔のお母さんが石になっているということは、彼女はあのクモ男に負けてしまったということになる。そんな、あれほどの手練(てだれ)が――。


「明里さん、その高校生くらいの女の子、自分のことについて何か言ってませんでしたか」


その子がこの石像を持ち込んだということは、その女の子のことを調べれば、何か見えてくるかもしれない。


「名前は明かせないけど、味方だって……炸亜さんの身体を安置してほしいってお願いされてるときに、黒いのが家をこんなのにしちゃって……家から出ないで、って言って、その子は多分、退治しに行ったんだと思う。で、静かになったと思ったらなつみちゃんが」


 名前を明かせない? 味方だというなら、名前くらい明かすのが普通だ。しかもファントムとやりあおうとしたなら、能力者であることは間違いない。その女――怪しいな。


「明里さん、その子どんな《力》を使ってたかご存知ですか? 例えば火を出してたとか、水を湧かしてたとか」


「いいえ、その子はすぐに外に出ちゃったから……どんな能力かは分からないわ。あ!」


「なんです!?」


 思わず身を乗り出してしまった。明里さんの口から伝えられた、希望の糸口。


「その子、魔王を倒せば石化した人たちが元に戻るから、って――だから、諦めないで、って」


「それ、本当ですか!?」


「そう聞いたのは本当よ。だけど、その情報自体本当かどうか」


「確かに。嘘を吹聴させられた可能性は否めませんね……」


 その「女の子」、一体何者なんだ?


「あ、そういえばその子、どことなく雰囲気がなつみちゃんに似てたなぁ。声とか、髪型とか」


「え?」


「あ、でも肌の色は違うか――私、なつみちゃんの小麦色の肌、好きだよ」


「あ、ありがとうございます……」


 照れていると、窓に人影があるのが見えた。2人とも宙に浮いている。能力者だ。


 「やるじゃねえか、あの数を1人で仕留めるなんてよ」


「しかし所詮奴は捨て駒。あなたたちのデータ収集のための時間稼ぎに過ぎません」


 ぶっきらぼうな言い方の低身長の男は分からないけれど、その隣の男、あいつは――。


「あんたが朔のお母さんを……」


「おや、やはり地球にあったようですね。僕たちはそれを回収しにやってきたのです」


「許せない……はっ!」


 私が右手からそいつにツルを伸ばすと、小さな火炎玉がそれを遮った。


「くっ――」


 この反応速度は伊達じゃない――。これほどの能力者が、まだいたなんて!


「家の中でやっちまっていいのか? その女は随分怯えているようだが?」


「もう、今度はなんなの――!?」


「ごめんなさい、明里さん……」


 さっきもう平気と言ったことを、後悔した。ぶっちゃけ、さっきよりもずっと危険だ。


「外に出て来いよ、英雄モドキ! どっちが上か、決めようじゃねえか!」


にへらと笑い、私を挑発する男。普段ならこんな安い挑発に乗る私じゃないけど、それしか選択肢はなかった。


「ごめん明里さん、絶対に家から出ないで」


「あの子と同じことを言うのね……」


悲しい目をした明里さんを尻目に、玄関へ走りだしたその時。


 「ごあっ!?」


男の叫び声が聞こえた。驚いて振り向くと、そこには。


「テメェら、人ん家で何してんだ?」


読んでいただきありがとうございました。このお話で累計30万字を超えてしまいました! 長らくのご愛読ありがとうございます。もうちっとだけ続くので、これからもよろしくお願いします。

次回、第九話「しのび」。お楽しみに!


**

追記(17.3.13)

誤字訂正


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