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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第五章 2つの異なる星で行われる、命の駆け引き
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第七話 かげり

「ごめんなさい、ニュクス――こうなってしまったのは、全部私のせいなの」


「……美海さん?」


「あの日、私はその場にいなかった――買い物か、友人に誘われたか――些細なことすぎて、もう憶えていないくらいのことよ。でもそのせいで、ネクロ―がやってきて、炸人を殺し、あなたを《悪魔》に」


「美海さんのせいじゃない。あまり自分を責めないで」


「ありがとう。よく聴いて、ニュクス。あなたがもしここから出られたら、そのときは」


「そのときは?」


「《力》を、惜しみなく使って」


――ある家族の会話


 「伝えなくちゃ。だって、あなた勘違いしてるんだもん。私だって……強くなんかないよ」


「あなたが……強く、ない――?」


 やっとのことで立ち上がった私。ハーティアはすでに立ち上がっていて、氷の破片が当たった首筋を撫でている。


「《力》だって、精神的にだって――私ひとりじゃ、ここまで強くなれなかった。私自身が強かったわけじゃない」


「仲間の力……そう言いたいわけ?」


「陳腐に聞こえるかもしれないけれど、実際そうなんだよ」



**


「消えるがいい、英雄の子孫よ」


「ここは私が食い止める! 咲夜は早く朔のところへ!」


「先輩……サンキュ!」


「咲夜は英雄さんの所に、早く!」



**


 ニュクスが洗脳されて戻ってきたとき、2人がいなければ私はネクロ―に殺されていた。



**


「こいつを――この世界にいさせちゃダメだ! このまま無理にでも……」


「熱く青い英雄――私が、やすやすと従うと思いますか? 目いっぱい抵抗させてもらいますよ……最高の、《力》でね……!!」


「お、おえ――」


「あれは――蜘蛛?」


 私は、思わずえずいてしまう。奴の気持ち悪さ、そして圧倒的な《力》に。


 早くなんとかして、お兄ちゃん、おじいちゃん!


「こいつの相手は私がする!」



**


 過去にあのクモ男がやってきたとき。私の家族が、助けてくれた。



**


「神寺宮咲夜さん――あなたならきっと、大丈夫です。過去へ行き、あなたなりの未来を勝ち取ってください」



**


強さだけじゃない。過去への扉を開くとき、アイス・プリンセスがああやって言ってくれたから、だから私は、心が折れないでいられる。


 そして――



**



「サキちゃん、言ってくれたよね。仲直りできるって。――試してみるよ」



**


 過去のおばあさん――神寺宮美海。あの人との出会いがあったから、私はここまで来れた。そうだよ、みんなのおかげ。


 「仲間の力――? そんなもの、そんなものっ……!!」


ハーティアが怒りをあらわにする。透けた右半身で握られた拳が、震えている。


「なおさら、私にはないっ!! 未来は、かげったまま――くもったまま、永遠の闇へと葬られた!!」


「そうかな」


私は笑った。ラギンの方に目を向ける。


「ごちゃごちゃと世迷言を――私が引導を渡してあげるわ!!」


 ハーティアが巨大な氷の剣を生成し、私に斬りかかってくる。大丈夫、落ち着け。



**



「それに、かつてその強大な氷の力を持っていながら、それを使えずに一生後悔した人がいた。その人は言っていたよ」


「なんて?」


 私がいやいやながら聞いていると、ニュクスは急に神妙な顔つきになり、言った。


 私はその時の彼女の顔を、一生忘れないだろう。だから。



**


 「私一人でこの境地(ばしょ)まで来たんじゃないってこと、証明してあげる!」


 この《力》を、惜しみなく使う!!


絶壁氷斬剣メテオラ・クシポス・クルシュタッロス!!」


 私が《力》を込めると、霧状の《力》が、まっすぐと伸びていく。でも、剣として生成されない。《力》は不安定に、伸び、縮み、方向すら制御できない。


「なぁにそれ? お遊びのつもりなの?」


「くっ……くううぅっ……」


 おばあさんと2人でやっと完成させた剣。私1人では無理があるか……いや、今この場所にはおばあさんはいないんだ、やり遂げなきゃ!


「これで、終わりだよ!」


ハーティアの下卑た顔が、目と鼻の先に迫る。私は一旦練成をやめ、通常の氷の剣に路線変更した。2つの剣が、ぶつかる。


「切り替えが早い――でもそれじゃあ、勝てないよ」


「言ったでしょ、私は1人じゃない――」


 ピキ、と氷の剣にヒビが入る。


「やった……!!」


ハーティアの薄ら笑いを消したのは、中から飛び出してきた激流だった。


「なっ、水!? きゃああああああああっ!!」


 ハーティアは、びっくり箱のように突然現れたそれに吹き飛ばされて、壁に背中を打ち付けた。


「ハーティア!」


ディアナが心配そうに叫び、治癒の波動をハーティアへと送った。


「『ニンジャ』……貴様……あの一瞬で中に水を仕込んだのか!」


「さっき目配せがあったのでござる」


「目配せ?」


「ところで、お主には邪気があまり感じられない――優しいお方にござるな」


 「くっ……く、ほんと、戦士なんてやめて大道芸人にでもなったら?」


回復師(ヒーラー)か……長丁場になりそうだね」


 やっぱりあれを完成させるしか手はない……でもあれには時間が――!


「はっ!」


 考えごとをしていると、ハーティアが氷の破片(アイス・エッジ)を飛ばしてきた。とっさに同じことをして、空中分解させる。考えごともろくにさせてくれないなんて!!


 手があるとすれば、ラギンに時間稼ぎをしてもらうこと……でもラギンにはディアナがついている……。そもそも、ディアナの強さはどれぐらいなんだろう? もしヘメラと同じように非力なんだったら、練成しながらでも闘えるかも!


「どこを見てるの!」


「え――」


 ハーティアの接近に気が付かなかった。剣撃が私を襲う瞬間、水の壁にまぎれてラギンが私の前にやってきた。


「無事か、咲夜殿!」


「危なかったぁ……よし、ラギン! 交代しよう!」


「交代……?」


きょとんとしているラギンを尻目に、私はディアナの方へと向かった。


「あ、咲夜殿!」


「頼んだよーっ!」


 大丈夫、あの剣が完成したら、私がとどめを刺す――! その間まで、お願い!


「なんて生意気な子なの……まさか『幸せ』って、甘やかされて育つこと?」


「いつも振り回されている、と銀太殿がおっしゃっていた」


「フフ、そうなんだぁ。でもあの子、勘違いしてるよ」


「む?」


「ディアナは、私よりずっとずっと強い――!」



**


 「こんにちは」


「ふん、敵前逃亡とは。英雄の名が泣いているぞ」


 サラリ、と金髪が揺れた。ぼざぼさになった髪が、もう元に戻っている。ラギンが与えたダメージも、ほとんど回復している。


やっぱり回復師(ヒーラー)……私でも、倒せる!


「戦略的撤退と言ってくれる?」


 私は、剣の練成を始めた。もともと左が使えない身としては、これで両手がふさがったことになる。でも大丈夫。


私の周囲を守護するように、氷の欠片たちが対峙する。


「両手両足が使えなくても、あなたくらいなら――」


「ハン、私くらいなら、ねぇ……それじゃあ、お手並み拝見」


 一瞬にしてディアナの周りに鏡が出現した。この数――私の氷を上回ってる!!


「きゃああああああああ!!」


 鏡から放たれた閃光群に、私の氷は粉砕され、まぶしさも相まってよろめいてしまう。


「くっ……」


「これで、終わりだよ!」


 眼が開かない。まっすぐ前に氷の閃光を飛ばしてみたけど、ダーツのように壁に突き刺さった音が聞こえた。


「ど、どこ!?」


「後ろだ!」


「咲夜殿!」


 後ろを斬られる――。そう思った瞬間、キン、と短い音がディアナの剣を遮った。


「なんだ……その短い剣は――それは、《絶望》の《力》だな?」


 クナイだ。闇の《力》を宿すクナイ。それが彼女の《希望》を食い止めた。


「ラギン!」


「無事で……ござるか……咲夜殿!!」


 後ろから、氷の閃光が飛んでくる。とっさに振り向いたけれど、頬をかすめた。


「いつっ――」


「何が『仲間の力』よ。おんぶにだっこじゃない」


 ここまで圧倒的なのは初めてだ。どうやってあの巨大な剣を創るか――それが勝機を握っている! でも私1人じゃ無理そうだ。かといって他には誰も――!


 いる。氷の能力者が、私以外に――! この可能性に、かけるしかない!


 「まだ手は残ってる――ラギン、そっち頼んだ!」


「む……承知」


「自分から交代と言い出しておいて……忙しい子だ。あいつはあれだな、バカだ」


「それにしては、嬉しそうに見えるが?」


「ハーティアのあんな顔も、見てみたいもんだね。あの子の顔は、いつも暗いから――さぁて、私もあんたが気になってきた! 来な、『ニンジャ』!」


読んでいただきありがとうございました。回想を多く入れると文字数が稼げるので作者的には楽です。ハーノタシア編はいきなりボス戦みたいなものなので、地球編よりも戦闘を長くしています。

次回、なつみとファントムについに決着! 第八話「あかり」。お楽しみに!

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