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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第五章 2つの異なる星で行われる、命の駆け引き
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第二話 遭難

「あ、あの……もう帰っちゃうんですか? こ、このままじゃ留年じゃ……」


「あ? ああ――僕、もう自分のことなんてどうでもいいと思ってるんだ。どうせ留年は避けられそうにないし。じゃ」


「ちょ、ちょっと待って! だったら、私たち2人で作戦会議をしませんか?」


「作戦会議?」


「どうやったら時々サボりながらも、卒業できるか! ――どうです?」



――ある男女の出会い

 目の前に、光が見えた。時空をつなげる「扉」、その出口だ。


「あっちに光が見える。きっと出口だ、離れるなよ、なつみ」


「あ、ああ……」


 頼む、ハーノタシア星に――ニュクスのところに、繋がっていてくれ――!


 俺となつみは、「扉」を抜けた。


 そこに広がる光景、それは――。


**



 「えー、つまり彼はこの作品を通して、人間が本能で行ういかなる出来事も、すべては大きな――そう、宇宙のような途方もないスケールのものによって定められていることを言わんとしているわけです、これは『宇宙的内在意志』とも呼ばれ――」


「こ、ここはどこだ! ニュクス! ヘメラ! エア! いたら返事をしてくれ!」


「誰だね、講義中に堂々と私語とは! 君こそ返事をしたまえ!」


「え――?」


 少し遠くに、緑色の物体が見えた。久しぶりすぎて、一瞬何なのか見当もつかなかった。


 その手前に、眉をへそ曲げた老人が見える。どこかで見たことのある顔だ――だが、ハクシキーノじゃない。


「朔、落ち着くんだ。まずい、ここはハーノタシア星じゃない!」


 そして俺は気が付いてしまう。目の前に見える、たくさんの顔、顔、顔――。その驚きと奇異に満ちた数々の瞳を、俺はずっと、ずっと――。


 恐れていた。


「そ、そんな馬鹿な――、こ、ここは……」


「君! 学籍番号は何番かね!? すぐに答えんと単位はやらんぞ!!」


 私立白希(しろき)大学。決して名門とは言えない、平均よりやや劣る偏差値の大学。


 そう、ここは、地球――そして、俺たちの――大学だ。


 「え、あれ神山じゃね?」


「どっから入ってきたんだ……気づかなかったぞ」


「新垣さん? と手つないでるんだけどー、え、2人ってそういう関係?」


「落ちこぼれ同士、気があったんじゃねーの笑」


 紅い心臓が、かつてないほどにバクバクと揺れ動いた。そんな馬鹿な……俺たちはハーノタシア図書館ではなく、地球――よりにもよって、自分の大学に帰ってきたというのか!!


「ち、違うっ、私たちはそういう関係じゃ――」


「君たち、グルのサボり魔と有名だよ。1年以上も大学に来ないで、他人の有意義な時間まで壊しにきたのかね!」


「え? 1年? 先生、私たちは1年も……していません」


「なにを言うか! 橋本とかいう君たちの保護者を名乗る女性が、君たちに……を、……で、退学……除籍……」


 なつみと老人が何かを話していたが、動揺していてよく聞こえなかった。


 「朔、大変だ! 私たちは1年以上も……間で……」

 

 その瞬間、複数の邪気を感じた。そして、唐突にも講義室の壁が大胆に破壊される。


「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 女子学生の黄色い悲鳴など、耳には入らなかった。


「敵、だ――」


「こ、今度は一体……なんだというのかね!!」


老人がぽっかり空いた大穴に近づいていく。危ない、そう叫びたかったけれど、声がうまく出なかった。


「あ、あ……」


「先生離れて! 殺されます!」


 老人の出っ張った腹を突き飛ばし強引に救ったのは、なつみだった。土煙の中から、乾いた機械音が俺たちの背筋を凍らせる。


 「……データ照合、……該当しません。能力検知……該当しません。無害な一般人と判断、排除します」


「ろ、ロボット……?」


 そうつぶやいたなつみの推測は正しかった。確かにその男は、褐色の地肌の上から押し付けたかのような純白の基板で赤い両眼を覆い、右腕と融合している大型のバズーカをなつみにかざしている。普通に考えれば、こいつは人工的な産物だ。


 だが、俺はこの男を知っていた。


 「フェイク……」


 かつての姿からは想像もできないような冷たい声で、「フェイク」は応答した。


「……声音確認。……該当しました。『新垣なつみ』、および『神寺宮朔』。魔王様の命令により、データを転送の上排除を実行します」


 そう言うと、フェイクはえらくゆっくりとした動作でなつみの頭にバズーカの照準を合わせた。威嚇射撃でなければ、なつみだけじゃない――ここにいる学生たちも、木端微塵だ!


「おい、フェイク! やるなら人のいない場所で……」


「……」


 返事はなかった。徐々にその暗黒の大穴に、白い光が充填されていく。間違いない、これはフェイクの《力》――! 以前のおしゃべりなあいつなら、なにか返答があるはずだが……完全に機械になってしまったというのか……!?


「排除成功率、97%。実行します」


「くっ!」


 俺たちの視界を、まばゆい光が覆った。そして……獰猛なライオンのようにうねる炎のバリアが、それを防ぐ。


「朔!」


「――お前は確かにあの時、倒したはずだ。なぜ生きている、答えろ!」


「……排除失敗。原因をサーチしています……『神寺宮朔』の乱入の可能性、100%。ターゲットを分離させることをサジェストします……障害物なし、実行します」


 障害物なし、だと……!?


 今度は遅い一撃ではなく、とてつもなく早い連射だった。フェイクの両肩が開き、その中から飛び出したマシンガンによって、無慈悲な連撃が講義室を襲う。


「くっ……これ、威力が落ちたわけじゃない! 1発でも当たれば、私たちでも危ないものだ!」


 いつの間にか、なつみもバリアを張っていてくれたらしい。横に並んで、必死に防御する。


「そんな弾が、一般人に当たれば……くそ、こいつの《力》は無尽蔵か!」


 2人のバリアも、徐々に押し負けていく。後ろの机にかかとからめり込んだ。とげのようなささくれが刺さって、痛い。


「うわぁっ!」


「なにこれ、映画の撮影?」


「この薄い膜みたいなの、どうやってやってるんだ?」


「ていうか2人って映画部だったんだ……」


 呑気にスマートフォンを片手に感心する学生たち。俺たちには、一刻の猶予も残されていなかった。恐怖がないわけではなかったが、力の限り叫んだ。


 「みんな聞けぇ! これは映画なんかじゃない! 本当の、殺戮兵器だ! 一刻も早く、この教室から――いや、この大学から離れるんだ!」


「みんな、お願いっ!」


 しかし、俺たちの必死の訴えに賛同して逃げていく人は、ほんのわずかだった。ほとんどの人は、その場から動くことなく勝手におしゃべりを続けている。


「おもしれぇ! 次どうなるんだ!?」


「ダッサ。今時こんなのがウケると思ってんのかなー」


 少しでも感情がある相手なら、まだやりようがあった気がする。だが、相手はロボットと化したかつての幹部だ。奴は学生を狙って撃っている訳じゃない。ただプログラムに従って、「実行」しているだけだ。


「これじゃあ、あいつを人のいない場所に誘導もできない!」


なつみが叫んだ。待てよ――それこそが魔王の目的……無感情な《感情》、それが俺たちに対抗する手段だったとしたら――。


「なつみ、俺たちはまんまと罠にはめられたみたいだ」


「え?」


「フェイクは動かせない。なら、俺たちが学生を動かすしかない。だけど――俺たちにとってここは、得意な場所じゃない」


なつみが大きく唾を飲み込んだ。


「魔王は、それを知ってて――」


「……俺たちに時間の余裕はない。そこを狙って、魔王は俺たちが地球に帰ってくるよう仕向けたんだ。これじゃあ、ニュクスたちの守りが手薄にっ……!!」


「それだけじゃない。さっきから感じる無数の邪気……明里さんの家に、敵が大量に押し寄せている!」


「ああ……やるしかない」


なつみが不安げな声で尋ねた。


「学生たちを避難させるのか?」


「ああ。俺は過去で約束した」



**


 「炸人さん! 俺はあなたを超える! そして、世界を――みんなを救ってみせる! 俺が、みんなの《希望》になる!」


**



 「……あの言葉が嘘じゃないって、証明しなくちゃ」


「――本当に変わったよ、朔は」


 一瞬、なつみの周りの空間が穏やかな雰囲気に包まれた。なつみのバリアから、香水のようないい匂いがした。


「――学生の避難と明里さんの救出、私がやる」


 さっきとは打って変わった凛々しい声。黒髪が、風になびいているように見えた。


「なっ……き、危険だ! こんな状況で、離れたらまずいことに――」


「じゃあ朔はこんな状況で、同時に2か所を救う方法を思いつく? 幸い、先生はあそこで気絶しているし――学生を動かすなら、今だ」


「先に一緒にフェイクを倒そう、明里さんはその後に――」


 迷いを見せた俺を、なつみの冷静な声が制止する。


「――学生の命、明里さんの命、そしてニュクスたちの命――どれもタイムリミットはすぐそこかもしれない。だったら、迷っていられないだろ?」


 そうだ、なつみの言う通りだった。


「ああ……!」


「忘れるなよ、朔。朔は『みんなを救う』って宣言したんだ。そのために――お互い、できることを精一杯しよう」


 なつみが白い歯をみせて片目をつぶった。そして、大きな声でこう叫んだんだ。


「みんな、私たちを信じて、ここから離れてくれ! お願いだ!!」



**


 数分後、半ば強引ななつみの頑張りによって、この講義室から、俺とフェイク以外のすべての人がいなくなった。


 「……『新垣なつみ』の逃走を確認。同時に、『神寺宮朔』の能力発動を確認。優先ターゲットをサーチしています……『神寺宮朔』、危険度『中』。排除を実行します」


「ずいぶんとお利口さんになったみたいだな……だが1度は勝った相手だ、容赦はしないぜ!」


 すぐに片づけて、なつみを、そしてニュクスを――!


読んでいただきありがとうございました。

次回は本作最初で最後のエログロ描写が入りそうなので、今更ながらR-15指定を入れたいと思います!

次回、第三話「タイマン」。お楽しみに!

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