第八話 勇者
「なにを食べたらそんなにおっきくなるんですか!?」
「背丈は私もサキちゃんもおんなじくらいじゃない。これから伸び盛りだよ」
「そうじゃなくって!」
――ある血縁者の会話
「私は――美海を、炸人を、みんなを止める!」
おばあさんが叫んだ。美海さんの表情は後ろからではわからないが、《感情》ならわかる。
おばあさんの言葉に、無理やり耳をふさいでいる。本当は、すべて分かっているのに!
「何を言っているの?」
無感情な声とともに、無数の氷の閃光が放たれようとしている。今度まともにくらえば、致命傷になる!
「私は、みんなとお別れするのが――嫌なの!」
幸い、美海さんの意識はおばあさんに奪われている。後ろからの不意打ちなら――いける!
「はああああああっ!!」
美海さんの白い背中に、ツルを伸ばした。背中を貫通してしまったって構わない。後で回復すればいいんだから!
「おとなしくしててよ、だって? そんなわけ――」
美海さんによく似た、透き通る声。私の《力》が、破られたのを感じた。そして、私の背中に、冷たい一撃が迫っている。
「咲夜ちゃん……」
「ないでしょ!」
氷の気功波が、私に向かって放たれている。でも、私はおばあさんたちから、目を離すわけにはいかなかった。
「ニーナの後ろに美海、その後ろにふゆみさん、そのまた後ろにサキさん……
「勝負の、行方は――」
「はーっ!」
おばあさんもたくさんのツルを、まるで生き物のように操り放出した。この触手に似たツルたちは、おばあさん自身を守る壁にもなっている。
うまくいけば、美海さんを挟み撃ちできる! うまく……いけば……。
「! ふゆみちゃんっ!?」
美海さんがこっちを振り向いた、その瞬間。私のツルと身体は、不自然に落ちていく。背中が、凍り付く――。あと一瞬、遅かった。
「ぐあああああああああっ!!」
「ふゆみちゃん!」
「咲夜ちゃん……」
「先輩――私たちの、勝ちだよ」
咲夜ちゃんの、したり顔が目に浮かぶ。ああ、私、また負けちゃうんだ……。
どこに行っても、うまくいかないなぁ。
「おい、あの女、あの高さから落ちたら――」
「分かっています!」
炸人さんの、《力》を感じた。ああ、私ってば、いっつも負けてばっかで、誰かがいないと――。
「ふゆみ、ふゆみちゃん!」
「なっ! ニーナ!」
炸人さんが私を助けるよりも先に、おばあさんの《力》が強まった。触手のようにうごめくツルが、私の伸ばしかけのそれと繋がった。
そう、繋がったんだ。そしてその瞬間、溢れるほどの《愛情》を感じた。咲夜ちゃんから受けたダメージが、急速に回復していく。それだけじゃない。
「なんだあの異常なパワーは!? まずい、爆発するぞ!」
「う、嘘でしょ……先輩」
ツルの結び目。そこが淡い赤色に染まり、中心からどんどん円形に広がっていく、その塊は美海さんと私、咲夜ちゃんを飲み込むと、大きな音を立てて爆発した。
「うっ、うわああああああああああああ!!」
不思議と、私にダメージはなかった。攻撃範囲を、おばあさんが選んだ?
「くっ」
晴れた砂煙から見えた美海さんは、初めて苦悶の表情をしていた。純白のワンピースも、汚れてしまっている。
「こんな、《力》が――」
「う~、もうダメ」
深刻そうな美海さんと、やる気がなさそうに這いつくばる咲夜ちゃん。
「……そこまでして、私たちを止めたいってこと? どうして、今になって手の平を返すの?」
《力》を放出しきったおばあさんは、少し落ち着いたように見えた。話をするチャンスは、今しかない。
「よく考えてよ、ニーナ。私たちは――私と『炸人』は元々、《闇の秘宝》を使って地球に帰る、そのためにシーボルスと敵対してきたはずよ。ニーナだって、それを分かってついてきてくれてたじゃない」
「うん……」
「そうでしょう? だったらどうして、この目前になって、私たちを止めようとするの? シーボルスのいる闇の城はもうすぐそこ。準備が整えば、すぐにでも切り込めるわ。それとも、サキちゃんたちが関係しているの?」
「……」
違う。朔と炸人さんの闘いを見に行った帰りに、おばあさんが話してくれた想い――それは、未来の私たちなんかが介在する余地もない、純粋な恋心と友情。
**
「私ね、最初はもっと炸人と一緒にいたくてついていったんだ。シーボルスとか、地球とか、そんなこと知らなかったし、どうでもよかった」
「好きになったんだ」
「……うん。でも旅の途中で気が付いたの。美海が、炸人を好きなんだってこと。2人はもともと地球から来たから、シーボルスを倒しても一緒にいられる。だけど、私は――」
「――じゃあ、美海さんと対決して、好きな人を奪い取ってみる?」
「そんなことできないよ! だって、美海は私の大切な、友達だから」
「じゃあ、どうする?」
「――シーボルスを倒さなきゃいい。そしたら、私たちはずっとこのままでいられる――時を止めれば……」
「それはダメだよ、ニーナちゃん」
「どうして?」
「未来に向かって歩かなきゃ――私の好きな人の言葉だよ」
**
ニーナという少女と、コロウという青年の恋は実らなかった。それは、「私たち自身」が、はっきりと証明している。でもその残酷な未来を、今、この子たちは知らない。
おばあさんと炸人さんがくっついてしまえばいい、とも思わない。そうなればたぶん、私の存在は消えてしまうから。それは私の傲慢であり、れっきとしたひとつの結果でもあった。
つまり、私には分かっている。ここでおばあさんは、時を止めることに失敗する。そう、分かっている。それでも――。
「ニーナちゃん、伝えるんだ! ニーナちゃんの――《感情》を!」
「ふゆみちゃん……」
今度は、私がおばあさんに《力》を与える番だ。今できる、私のすべてを――。
私の《力》を乗せ、ツルは少女に届いた。そして――。
「私はみんなが大好き……だから、いなくなってほしくないの――今更なのも、卑怯なのも、全部分かってる! ……それでも!」
それでも。
「いっけえええええええええええええええええええええ!!」
「情熱の赤い薔薇!!」
赤い紅い、紅の花吹雪が美海さんを襲った。吹雪の中心から、押し流されて吹き飛んでいく。やった。一矢報いた。
「そういう、ことだったんだね……」
感傷に浸るのもつかの間、私の後ろから、よろめきながら立ち上がる美海さん。全身ボロボロなのに、笑顔を見せてくれた。でも、眼だけは笑っていない。
寒気すら感じる、この気迫――。これが《冷徹》――。
「サキちゃん」
「ほいさ!」
それを感じ取ったのか、さっきまでだらけていた咲夜ちゃんが、スイッチでも入ったかのように俊敏に起き上がった。
「ニーナ、あなたの気持ちは分かったわ。だけど私の心を乱したこと、そう簡単には許しません。だからもし、全力の私たちに勝てたらその時は――仲直り、しましょう」
美海さんが氷の剣を具現化した。今までより大きく、太い。剣というよりは窯に近い形状のようで、中心から右に大きく湾曲している。
「いくよ、2人とも」
今度は咲夜ちゃんが、美海さんと同じ形の剣をつくりだした。咲夜ちゃんのそれは、左側に湾曲している。2人の氷使いは、結束を示すかのようにその剣を合わせた。キン、と冷たい音がした。
「先輩。私に勝てたら、仲直りしてくれる?」
言葉とは裏腹に、咲夜ちゃんは全く悪びれる様子もなく笑っている。私に勝てたらって……私が負けたらそのままなのか!
「だ、だめだよふゆみちゃん……もうさっきので《力》を使い果たしちゃった……」
へなへなとその場に座り込むニーナちゃん。確かに、私たちの限界は近かった。でも、まだ終わったわけじゃない。
「大丈夫、あの剣を止めよう。そしたら勝機はある」
「させないわ。私たちの《冷徹》、そう簡単にはとけない」
「お言葉を返すようですが、」
大丈夫、大丈夫。
「私たちの《愛》の結束も、そう簡単にほどけたりしません」
「ふゆみちゃん、すっごいしたり顔だったよ」
「いちいち言わなくていいよ……」
美海さんが笑った。つられて咲夜ちゃんも笑った。私も、ニーナちゃんも。
おばあさん、私と一緒に闘ってくれてありがとう。私。おばあさん譲りのこの肌、結構気に入ってるんだ。
「ニーナちゃん、私の一番好きな花はね、サルビアなんだ」
「花言葉は――燃える想い、それと――」
「家族愛、なんてね」
「ふゆみちゃんの家族って、どんな人?」
思いついたように、興味津々で尋ねてくるおばあさん。その瞳は、穢れを知らない。
「両親のことはよく知らないんだ――だけど私のおばあさんとおじいさんは、とっても素敵な人だよ」
「へぇ!」
私は、人前でうまく振舞えなかった。地球に帰ったら、また逆戻りだろう。私の心は穢れきってしまったのかもしれない。それでも――
「私、ふゆみちゃんに尊敬されるような大人になりたいな。なれるかな」
過去から脈々と続くこの英雄の血。この残酷さとすばらしさの両方を受け入れる、それができたなら、私は――。
未来に、進める。
「ねぇ美海さん、色白くって綺麗ですよねー。胸もおっきいし」
「え、どうしたの急に……サキちゃんだって、そうなんじゃない……かな?」
「うん。私、結構自分に自信あるんです」
「自信家なんだね」
「美海さんのおかげ」
「……あなたたちって、不思議な人。全然意味わかんないよ」
「えへへ」
私たちは、おばあさんに感謝の微笑みを向けた。
「いくよ! 絶壁氷斬剣!!」
2人の美しい女の子の声が重なった。氷剣が合体し、剣先が鋭く伸びたかと思うと、美海さんがそれを携え向かってくる。
「ニーナ、勝負よ!」
「私たち修行しに来たのに、これじゃあ手持ち無沙汰だよ。ブーブー! ……でも」
まぁいっか。
咲夜ちゃんのいたずらっぽい声が聞こえた。
気功波じゃない、真っ向勝負――これなら!
「ふゆみちゃん、どうするの?」
「ツルをがんじがらめにして、壁をつくろう」
「それじゃ、あれは止められないよ!」
「大丈夫。一瞬でいい――そのスキに、私が勝負をつける」
「――わかった」
おばあさんが、小さくつばを飲み込んだ。私はそれよりもっと大きな音で飲み込んだの、気付いてる?
私、小心者なんだ。でもそれを、恥じちゃいけない。
そうだよね、朔?
「あいつらの気迫、《力》――すさまじいものだな」
「見くびっていたんでしょう?」
「なっ……あの女のことを言っているなら、俺は謝らんぞ!!」
「どうぞお好きに。――あれが、未来を担う勇者の姿です」
熱く冷たい、2人の結束が私たちに迫った。美海さんが大きく振りかぶる。ブワッ、と舞い上がった冷気は、一瞬の吹雪のようだった。ツルで作った壁が、荘厳な一撃を受け止める。ガキン、と大きな音がし、壁が押されて歪んだ。
「ダメだよ、勝てないっ――」
おばあさんが弱音を吐いた。私は聞こえなかったふりをして、大声で叫んだ。
「頼んだよ! ニーナちゃん!」
ここで守りに入っても、ノーマークの咲夜ちゃんにやられる。だったら――美海さんを、倒す!
私は、自身の後ろと、咲夜ちゃんの後ろに樹木を出現させた。固い岩肌が、無理やり天に向かってこじ開けられていく。
「先輩が操れるのは、小さな植物だけだったはず……大木を出現させるなんて」
「もちろん十八番は、こいつさ!」
後ろの樹に飛び移り、咲夜ちゃんの方の樹に結び付ける。そして私はツルをつかんで、飛んだ。オータと闘った時も、同じことをした気がする。
そう、私たちは飛び移ってきた。未来から過去へ――そして、この闘いも終焉を迎える。
「ツルをロープ代わりに……!? 上に逃げられたら……」
空中から、2人の黒い頭がよく見えた。つむじまでそっくりだ。
「これで、終わりです!」
私はもう片方の手で、美海さんに気功波を放った。でも――。
咲夜ちゃんが、美海さんの真上へと飛んだ。そして、気功波を放つ。
私と咲夜ちゃんの気功波が、美海さんの頭上でぶつかった。美海さんの持つ大剣は冷たい火花を散らせながら、私とおばあさんの壁を今にも壊しそうだ。
「美海さん、まだ終わってない! ニーナさんだけでも――」
結構残酷なことを言うんだなぁ、咲夜ちゃん。これ彼女の言っていた、「自分の性格の悪さ」だろうか? 私はそうは思わないけれど。みんな、真剣勝負をしているだけだ。
「ふゆみちゃん、もう無理――」
「先輩。残念だけど、先輩たちは勝てない」
「確かに、勝利をもぎ取るのは、すごく難しい」
「え?」
おばあさんは炸人さんと結ばれない。だけどどういうわけか、彼らは地球に帰らずにここに残ってくれた。おばあさんの想いが伝わったからだとするなら、おばあさんは完全にみんなの足止めに失敗したわけじゃない。
それに。
私たちを見つめる視線。あの黒フードに気が付いているのは、私だけみたいだった。
「咲夜ちゃん! この勝負、勝たせてもらう! ――ニーナちゃんが前に進むために!」
そして、私自身も――。
「く、お、押される――美海さん!」
「今、決着をつけるわ!」
もう、草木の壁はもたない。早く、強く!
「はあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
ブチブチブチ、という痛々しい音を立てて、草木の壁が縦に割られた。と同時に。
「きゃああああああああああああああああああ!!」
咲夜ちゃんの悲鳴。咲夜ちゃんは、突破した。あとは――。
「み、美海――」
「私たちは地球に帰る。だから、ごめんね?」
美海さんの表情は上からでは分からなかった。でも、あの大剣から殺気が消え。ちいさな頭に触れようとするその時。
「きゃああああああああああああああああああ!!」
咲夜ちゃんとそっくりな悲鳴が、聞こえた。
私の気功波が美海さんに当たったのと、美海さんが剣先でコツンとやったのは、同時だったように見えた。くそっ、本当なら、壁が壊れる前に決着をつけるはずだったのに――。
美海さんは、最後の最後で《力》を抑えたらしい。あのままだったら、私のおばあさんは真っ二つだっただろう。私の方は、やりすぎたみたいだ。白い服を着た2人の少女が、うつぶせで重なり倒れている。
「美海! ……女ぁ、貴様――」
コロウさんが美海さんに飛びついて私を睨んだ。ここまでやらなきゃ、咲夜ちゃんに負けていた――勝利のために、仕方のないことだった。
「大丈夫ですよ、私がすぐに回復させます」
「炸人さん……」
「大丈夫ですか、ニーナ」
優しい声で、炸人さんはおばあさんに笑いかけた。頬はたちまち赤くなり、満面の笑みをみせた。
「うんっ!」
「――こっちの心配もしてよ……ね」
美海さんが、よろよろと立ち上がった。それと同時に、上になっていた咲夜ちゃんがずり落ちる。
「ふぎゃっ!」
「あ、ご、ごめんなさいっ!!」
「へーきだよ、美海さん」
「意外とピンピンしてる?」
私が尋ねると、咲夜ちゃんは頬を膨らませて答えた。
「そんなわけないじゃん! 私は――先輩に負けたんだから!!」
「そ、そうだ! 勝負の結果は――」
「当然、美海たちの勝ちだ」
コロウさんが勝ち誇って言った。炸人さんが、朗らかに笑い返す。
「私には、ふゆみさんの攻撃の方が早かったように見えましたが」
「なにっ――!」
私たちの攻撃は、ほぼ同時にそれぞれに当たった。どっちが先だったかなんて、誰にも――。
「ニーナたちの勝ちだ」
突然、後ろから声がした。そうだ、この人が見てくれていた!
「わずかにふゆみ――君の攻撃の方が早かった。確かだ。――君の勝ちだよ、ニーナ」
「ありがとう、ダグラ!」
おばあさんが――ニーナちゃんが、笑った。
**
「お互い、気は済みましたか」
数分後、私たち4人は炸人先生に正座させされていた。コロウさんは、「知るか」と先に帰ってしまった。
「やりすぎです、分かっていますね? 美海」
「! は、はい……」
「で、でも――!」
咲夜ちゃんが挙手した。
「どうぞ」
「美海さんがあれだけやらなきゃ、私たちだってやられかけていました! そこの――ふゆみさんに!」
わ、私? た、確かにやりすぎだったか――。
「……確かに、それも一理あります。ですがあなた自身が、何度か口にしていたでしょう、『敵』と」
「あ……!」
「あなただって、熱に浮かされすぎですよ。反省しなさい」
「は、はい……」
「そしてふゆみさん」
炸人さんの眼がこちらを捉えた。
「は、はい!」
「タッグである以上、パートナーから目をそらしてはいけません。おかげでニーナを危険にさらしましたね?」
「は、はい……」
「ち、違うよ炸人! ふゆみちゃんは早く勝負をつけようと――」
「そして何よりニーナ!」
「ひゃ、ひゃいっ!」
炸人さんは厳しい口調を緩めず、それでいて優しく語りかけた。
「今回のことはすべて、ニーナ。あなたが引き起こしたことです。気持ちは分かりますが、急でしたし、美海もいきなり攻撃されて困惑したことでしょう。ザク君にも言いましたが、これは殺し合いじゃない。平和に解決できるなら、その方がよかった」
「は、はい……反省しています」
「よし」
炸人さんはうんうんと何度かうなずいてから、言った。
「では、仲直りの握手を」
「でも、私たちは地球に帰るわ。それは揺るがない」
美海さんの異議に、炸人さんは首を横に振った。
「それはあとで考えましょう。もう一人の私とね」
美海さんは不服そうにしながらも何も言わなかった。
「さぁ、握手です」
「急に攻撃したりしてごめんね、美海。美海のこと――大好きだよ。これは本当」
「分かってる。私もやりすぎちゃってごめんなさい。これからも親友でいてくれる?」
「うんっ!」
「ったく、おじいさんも罪な男だよねー」
「しーっ! 聞こえちゃうだろ!」
「ごめんごめん。はいあくしゅあくしゅー」
咲夜ちゃんは私の手を握ると、だるそうに上下に振った。
「あ、あの――」
「なんてね。『敵』なんて言っちゃって、本当にごめん。改めて謝ります」
「うん、私も意地張ってタッグ解消しちゃってごめんな」
「いいのいいの。――あ、でも私が個人的に負けちゃったことは別の話だからね! 後日改めて勝負だっ!」
「はは……あれ?」
意気込む咲夜ちゃんの後ろに広がる夕焼け。その中央に現れたものに、私たちは戦慄した。
「あれは、なんでしょう……私が初めてこの世界に来た時に通ったブラック・ホールに似ていますが――」
間違いない。あれは――。
過去と未来をつなぐ、異次元の渦!
「な、なんであれが今出てるの?」
咲夜ちゃんが焦りながら小声で話す。《氷の秘宝》が無いというのに、確かに妙な話だ。ん? 氷?
「さっき美海さんと2人で出した大剣、まさかあれに呼応したんじゃ?」
「え、やば! だとしたら早く閉じないと……! この世界の英雄に正体がばれたらまずいよ!」
「何を話しているんです? 反省した皆さんに、夕食をつくってもらいましょう。そろそろ、彼も目を覚ます頃ですしね」
彼――そうだ、朔の修行が終わっていない。あの渦の謎は残るけれど、このまま帰るわけにもいかない。
にしても――なぜだ? なぜ今、これが出現した――?
読んでいただきありがとうございました。通常の2倍のボリュームになったのは、炸人さんの説教があったからです。あれだけやりあってて円満解決は難しかったのでこういう場を設けました。
次回、第九話「敗者」。お楽しみに!




