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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第四章 未来に進むために、過去と向き合う
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第六話 美人

「人と出会う喜びがあるから、人と別れる辛さがあるのでしょうか。それは釣り合っているのでしょうか。同じ、重さで」



――ハクシキーノの独り言

「神寺宮咲夜さん――あなたならきっと、大丈夫です。過去へ行き、あなたなりの未来を勝ち取ってください」


 私は、目の前にいる過去の英雄たちを眺めながら、アイス・プリンセスの言葉を思い出していた。


 私なりの未来――私は、この闘いが集結したらどうするんだろう。世間的には中学中退ってことになってるし、大検とって大学行って――それで普通の会社に就職して――そんな生活を送るのだろうか。そのころにはもう、自分が英雄として激闘を繰り広げていたことなど、記憶の隅にかすんでしまうだろう。


 そんな権利が、私にあるのだろうか?


 帝王シーボルス、ネクロー、クライム、魔王……この星には、数えきれないほどの脅威が迫ってきた。それを排除したら、自分たちはのうのうと地球に帰って普通の生活をしていいのか?


 きっと、私のおじいさんとおばあさんも同じことを考えたはずだ。だからこそ彼らは――。


 「ねぇニーナ。どうして怒っているのか教えてくれない?」


身をかがませ、ニーナさんに目線を合わせておばあさんは訊いた。ニーナさんはそっぽを向いて答えない。


 きっとニーナさんは、複雑な感情をうまく表現できずにいるんだと思う。この、シーボルス討伐の直前になって。


 自分たちの未来が、どうなるのか。


 ニーナさんは、私のおじいさん、炸人を愛していたはずだ。でも彼女の恋は叶わなかった。彼は安藤美海と結婚した。コロウさんが、彼女を愛していたことなど知らずに。



 「いろいろな未来があるのですよ――あなたが私を殺めた未来、殺めなかった未来――あなたのおばあさんと、コロウが結婚した未来もきっとあるでしょう。たとえそうだとしたら、私の隣にいる人は、まったく違う人だった」


 再びアイス・プリンセスの言葉を思い出す。平行世界では、そういう未来もあったのだろうか。私と、なつみ先輩が出会わない世界――どっちの方がよかったんだろう。


 私たちは未来から来た。だからこの、「過去の」英雄たちがどうなるのかということを事細かに知っている。生き残るのはダグラだけ。他の英雄はみんな悲惨な最期を遂げる。どこでそうなった? たとえば、私たちが今、コロウさんを後押しして無理やりくっつかせれば、ああいう悲劇は起こらないんじゃないのか? そうすれば、私たちは消える。存在しなくなる――だけどそれで、英雄たちの未来が明るくなるのなら――。


 「何考えてるの? 咲夜ちゃん」


「なつみ先輩……」


その表情は、どこか物憂げだった。大方、お兄ちゃんが暴走したのだろう。温厚でおせっかいななつみ先輩、そして朔という1人の人間を愛しているなつみ先輩からすれば、ショックだったのかもしれない。私なら、「またかよ、バーカ」で一蹴して終わりなんだけどなぁ。


「とにかく、修行してもらおうよ。こっちから頼んだことだし」


 そうだ。なつみ先輩は涙を流してまで過去の英雄たちに修行をお願いした。私は、いつも悩んでばかりだ。だけど、なつみ先輩の笑みを見ていたら、まだ頑張れそう。


 「ねえ、ニーナちゃん。私たちの修行を手伝ってくれないかな?」


「ごめんなさいふゆみちゃん。ニーナは今怒っていて――」


 「……いいよ」


おばあさんの言葉を遮って、ニーナさんが小声で言った。なつみ先輩が笑った。


「ありがとう」


「ニーナ……」


すかさず、私もお願いする。


「私からも、お願いします」


 「サキちゃん、言ってくれたよね。仲直りできるって。――試してみるよ」



**


 「ほら、始まるぞ」


「別にわざわざ見学する必要なんてないじゃないですか。2人に水を差すようなことを――」


 私たちが広い場所に移動すると、おじいさんとコロウさんがついてきた。小声で何かを話している。お兄ちゃんは、ヘメラが治癒しているだろう。



「お前の鈍感なところは未来でも同じなのか。今、2人の――いや、4人の精神状態は不安定だ」


「この世界の《力》の源は《感情》――それが不安定だと」


「ああ、なにが起こるか分からない」


「行くよ! ニーナ、サポートお願いね」


「……」


 答えないニーナさんに、おばあさんも何も言わなかった。ただ、困った顔をして笑っただけだ。私のおばあさんは、とっても綺麗だった。


 「あのサキとかいう女」


「なんです?」


「美海に似て美人だな」


「……そうですか?」


 「はっ!」


私のおばあさんの氷柱が私に向かって伸びていく。氷の壁を出現させて、進攻を止める。先端が折れて、綺麗に輝いた。


「反応速度が速い――」


「先輩! 今がチャンスだよ!」


 なつみ先輩がどっちを狙うかはわかっている。


「はっ!」


 高速で新緑のツルが、私のおばあさんに向かっていく。やっぱりね。「優しい」先輩が、小さな肉親を攻撃するわけがない。


 逆に言えば、私が「冷たい」ってこと?


 いや、考えるな考えるな。なつみ先輩が特別優しいだけ。さっきの私の反応は正しい、よね? 向こうから攻撃してきたんだし。


 なつみ先輩と一緒にいると、自分の《冷徹》さが浮き彫りになる。それは能力者としてのこと? それとも、純粋に私の性格の悪さ?


 「……多分後者だな。はーっ、私って嫌な女」


「なんか言った? 咲夜ちゃん」


 「ふゆみちゃんの攻撃も速い――防御が間に合わない……ニーナ、助けて!」


そんなことを話しているうちに、ツルが私のおばあさんを襲う。《力》を充填し、気功波を放った。


 「美海は何もわかってない!」


 気功波は高速で向かう。


 私のおばあさんに。


 「え――」


 私は思わず、氷の壁で私のおばあさんを護った。さすがに手加減したらしい、威力は大したことなかった。


「な――」


 誰もが、状況の把握に脳をフル回転させた。なつみ先輩が、私のおばあさんの足に絡まったツルを解いた。


「な、何をするの!? ニーナ!」


珍しく私のおばあさんが声を荒げた。空気が、冷たい。ニーナさんは顔を真っ赤にして、今にも泣きだしそうだ。その泣き顔は、なつみ先輩にそっくりだった。


「……シーボルスを倒したら、2人はどうするの?」


「え? 2人?」


「いなくなってしまうくらいなら――ずっと足止めするよ、みんなを!」


「な、何言ってるの? ニーナ……」


「あ、それは私が――」


 「この闘いは中止だ!」


説明しようとしたなつみ先輩の言葉を遮って、コロウさんが割って入った。


「何もかもめちゃくちゃだ! ニーナ! お前、美海に何をしたのか分かっているのか!」


「……わかってるよ」


「お前っ……!」


 コロウさんが怒りをあらわにする。彼の周りに、水の音がゴボゴボと鳴り始めた。


「仲間割れはよしましょう。みんな一旦落ち着いて――」


 「炸人は黙ってて」


「え?」


 おばあさんの、静かな怒りと、ニーナさんの真っ赤な怒り。対照的な《感情》は、《力》の放出で丸わかりだ。


「いいわ、ニーナ。そっちがその気なら、私はサキちゃんと組む」


「美海は――私のことを何も知ろうとしないから……!」


 ニーナさんの言葉を無視して、おばあさんがこっちに歩いてくる。ひどいすれ違いだ。


「ね、そういうことだから、協力してくれるよね?」


 おばあさんの全力の笑顔。怖すぎる。有無を言わせない圧力を感じる。


「あ、は、はい」


 反対に、なつみ先輩が一人きりのニーナさんのところへ向かっていった。


「じゃあ、私たちであのお姉ちゃんたちを打ち負かしてやろうか」


「うんっ……!」


 ニーナさんの全力笑顔。かわいいっ……!


 「女、テメェ……」


「まぁまぁ、2人が納得するなら、好きなようにやらせてあげましょう」


 確かに、私たち4人は今めちゃくちゃかもしれない。だけど、お互いに同じ属性――同じ肉親と組むことで、見えてくることがあるかもしれない。これも修行の一環と思えば、悪くはないよね。


 なつみ先輩だって、こう思っていたはずだ。


 やろう、おばあさん。



読んでいただきありがとうございました。この4人大好きだ……!! (末期)

文書の検索をしたところ、


美海……168件

ニーナ……391件

咲夜……148件

なつみ……177件


あれれ~?(すっとぼけ)


次回、第七話「友人」。お楽しみに!


※追記(16/11/6)

「身をかがませ、~」のあとの「ニーナ」を「ニーナさん」に変更

検索の件ですが、「ニーナ」だと「にな」(例:ムキ「にな」って)も結果として表示されるようです。

さすがにおかしいと思ったぜ……ビビらせんなよな(汗

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