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僕はヒーロー  作者: 緋色の石碑
第四章 未来に進むために、過去と向き合う
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第五話 残忍


「トウトーラ歴 38

 コロウの遺体がニーナによって発見、埋葬される

 ああ、彼らに人並みの幸せは訪れたのだろうか」


――ハクシキーノの手記

「なに、このパワー!?」


食事中の咲夜殿が驚いて立ち上がった。確かに、拙者らの場所から少し離れたところで、異常なパワーが発生している。


「これはお尋ね者の――やはり《力》は相当だったようだな……これでも、修行が必要だと?」


コロウ殿が、なつみ殿に皮肉をぶつけた。なつみ殿は視線を落とし、小さな声で言った。


「だからこそ……です」


「フン」


「行って、先輩」


うんざりした顔の咲夜殿が、なつみ殿を促す。なつみ殿はニーナ殿と共に駆けていった。


「さ……て。あの小娘が少々気に食わないが、俺たちも修行を始めるとするか」


食器を片しながら、コロウ殿が立ち上がった。


「して……いただけるのですか」


「お前らにさっさと満足して帰ってもらわないと、シーボルスのところへ向かえない。さっさと始めるぞ、と金、だったか?」


「は! できれば、タッグ――2対2で闘っていただきたいのですが」


「いきなり現れて、注文の多いやつらだ……あいにく俺は積極的にそういうことをするタチじゃあ――」


「私でよければ、協力するよ」


美海殿が、立ち上がった。


「美――海」


「ん? なに?」


 美海殿の美しい黒髪が揺れる。あっけにとられているコロウ殿には気づかず、美海殿が言った。


「だって、なんだかニーナを怒らせてしまったみたいだからね。サキちゃんの修行を助けてあげたいけど、一緒には無理かも」


苦笑する美海殿に、パンをくわえたままふがふがと話す咲夜殿。


「ひーですひーです。ひっと仲直ほりでひまふよ。んぐっ」


「どうして、分かるの?」


 「私たちは、そういう人だからです」


咲夜殿が、ニッと笑った。美海殿も笑い返す。この2人の笑顔は、当然ながら似ていて、美しい。


 「じゃあ余りは俺だな」


黒フードの男性が、後ろから声をかけてくださった。この声は……。


「ダグラ殿……」


「その、なんとかドノってのはなんなんだ? 気持ち悪いんだが」


「ふっふっふ、ダグラ、彼は忍者だよ」


「ニンジャ?」


「地球の、日本――私たちの住んでいたところには、暗殺のプロ集団、『ニンジャ』の伝説があるんだよ」


「じゃあ、こいつも美海と同じ――」


 拙者が慌てて否定しようとすると、コロウ殿がすかさず言った。


「いや、こいつは純ハーノタシア星人だろ。この星に理屈なんざ存在しねぇよ。にしても『ニンジャ』か――面白い」


「じゃあ、決まりだね!」


 美海殿が笑った。拙者ら4人は場所を移動することとなった。


「頑張れよ、ラギン――じゃなくて、と金」


銀太殿が手を差し伸べた。固く握る。


「行って参る」




 「……なんか俺だけのけ者っぽくね?」


「銀太先輩はほら、食事の後片付けが残ってるから」


「雑用かよっ!……ていうか、食いすぎだろお前! それで何個目だ?」


「だってぇ、なつみ先輩とニーナさんのパン、おいしいんだもん。女子力◎。これでお兄ちゃんも困らないね」


「……何の話だ?」


**


 「タッグで闘うと言っても、特に俺らから教えられることはない。1戦して終わりでいいか?」


いかにも面倒くさそうに準備運動するコロウ殿。否、それではいけませぬ。ニュクス殿がおっしゃった通り、きちんとした「稽古」をつけてもらわねば。


「……で、私たちは何をすればいいのかな?」


「そ、そうでござるな――」


具体的な案が浮かばない。拙者が言い淀んでいると、ダグラ殿が言った。


「とにかく、やろうぜ」


ダグラ殿から黒いオーラが出現する。それに呼応し、コロウ殿からは青いオーラが。


「ああ」


「まったく、男子ってほんと闘いが好きね」


 突然、固い岩肌を突き破り、地面から水柱が何本も飛び出してきた。この下に水源などあるはずがないのに、この水量――。これが、コロウ殿の《力》――。


 「来い、アペルピスィア!」


対してダグラ殿は、召喚術で二頭獣を呼び出した。


「そのイヌッコロ、頭が増えてないか?」


「アペルピスィアだ、いい加減覚えろ! ……修行したんだよ。俺はもっともっと強くなる、もっともっと、な……」


「へぇ、ま、好きにしろ」


 不敵に笑うコロウ殿。天空へと伸びていた何本もの水柱が、アペルピスィアへと向かっていく。


「行くぞ!」


ダグラ殿が声をかけると、アペルピスィアが応え、水柱をかわしてコロウ殿へ相対していった。


「せ、拙者の立場がない……」


 忍者ともあろう拙者が、一方的に闘いをはじめた二人に困惑して動けずにいた。その瞬間、目の前に冷たい気配を感じた。


「どこを見てるの? こっちだよ」


 両手を広げて《力》を発動する美海殿。まったく気配に気付かなかった――。なんというスピード……。


「ぐあああああああああああああああああああ!!」


 拙者に向かって、氷柱が真っすぐに放たれ、それに押されて遠く離れた岩肌にぶつかるまで吹き飛ばされてしまった。


 大きな爆発が起き、拙者の装束がボロボロになる。反撃といきたいところだが、胸にこれだけ長い氷柱が刺さっていては、動けない。


「ぐっ……くっ」


 ちらりと、コロウ殿とダグラ殿を盗み見る。2人はどうやら互角にやりあっているらしい。拙者は大声で叫んだ。


「ダグラ殿! バラバラに闘っては勝ち目はありませぬ! ここは協力して――」


ダグラ殿はこちらを見もしないで答えた。


「知るか! 自分の問題は自分で片付けろ!」


「くっ……仕方がないでござる……」


「えっ!?」


動けなかった拙者が、突如丸太に変化する。そして、美海殿の後ろをとり――


「ご覚悟!」


美海殿の首元にクナイを持って接近する。しかし。


「変わり身の術でござるな!? しかしっ!」


 瞬時に振りむいた美海殿の両手がまた光る。そして、拙者のクナイはいとも簡単に凍ってしまった。


「な……!?」


「もう一回!」


 先ほどと同じ氷柱の技――今度は変わり身を用意する時間はない――ここまでか……


 美海殿の氷柱が拙者に激突しようという、まさにその瞬間――その美しい氷は、まるで凍った時間を無理やり破壊されたかのように、粉々に散った。


「え――」


 ダグラ殿の、気功波――。


「まったく、何やってんだ」


「ダグラ殿!」


「ダグラったら、ずるーい! 私たちの勝ちだったのに!!」


「まぁそう言うなって」


 後ろからでは、ダグラ殿の表情は見えない。しかし、きっと口角を上げ、意地悪く笑っていたことだろう。


「この間まで殺し合ってた仲だ、こういうのも、たまには悪くないだろ?」


「何? 私が悪いって言いたいわけ? 大体あれはダグラが炸人を殺そうとするから――」


「でもそのおかげで、お前は《力》に目覚めたんだったよな? 炸人にも、感謝しないとな?」


「ば、馬鹿じゃないの――」


 お2人が言い争いを始めてしまった――これでは、修行は――


「あ、あの……」


「チッ」


 遠くから聞こえる舌打ち。そして高速で接近する、水の《力》。


「炸人炸人って、気に入らねぇんだよ!」


「ごふぉ!」


 水をまとったコロウ殿の膝蹴りが、ダグラ殿の頬に直撃する。ダグラ殿は数m吹き飛ばされ、はだけた黒フードからとげとげの黒髪が姿を現した。


「フン」


「コロウ、ダメなんだよ不意打ちなんて」


 まるで教師のように、指を立てコロウ殿に注意する美海殿。コロウ殿は頬を赤らめ、しどろもどろになりながら言った。


「お、俺にも気に入らねぇことぐらい、ある……み、美海――その、俺と、協力――」


 「バウッ!」


「痛ってぇ!」


 後ろから、アペルピスィアがコロウ殿の腕に噛みついた。コロウ殿は何とか振りほどくと、心底恨めしそうに言葉を発する。


「ダグラ、てんめぇ……」


「と金、だったな」


 立ち上がったダグラ殿が、拙者に言った。


「協力しよう。俺はこいつが気に入らん」


「は、は――」


 やりづらすぎでござる。


 「もう面倒だ。稽古をつけてほしい、だったな。ならお前に水の適性があるか試してやる」


「水の適性――」


 それはすなわち、《冷静》でいられるかどうか――。いったい何を?


 美海殿の気配が消えた。拙者の後ろにまわられた――コロウ殿はダグラ殿の後ろへ回る。拙者とダグラ殿が、2人に挟まれた形になった。


「なんの――なっ!?」


「美海――いつの間に……」


 拙者とダグラ殿の両足が、氷漬けにされていた。これでは、動けない――。


「ナイスだ美海。その――ありがとう」


「コロウのことだから、こういうひどいこと思いつきそうだなぁってね」


「なんだそれは!」


 こ、これは一体……。


「簡単な1本勝負だ。お前たちはその位置関係のまま動けない。その状況で、俺に攻撃できたら、お前たちの勝ちにしてやる」


 この位置関係のまま――すなわち、拙者がコロウ殿を攻撃しようとすれば、同時に目の前にいるダグラ殿を貫通することになる。


「コロウ、でめぇ! 俺を盾にニンジャを試すのか!?」


「闘いには、残忍さが必要、なんだよ――お前はダグラを攻撃できるか?」


ダグラ殿を、攻撃――。ダグラ殿は、拙者の師の師にあたるお方――そんなこと、できませぬ。


「拙者の、負けにござい――」


「なーにが残忍だ。甘すぎだよ、おめーは」


「なに!?」


「バウアウッ」


「しまっ――犬――」


 アペルピスィアが、後ろからコロウ殿の腕に噛みついた。バランスを崩したコロウ殿は、左側へと倒れていく。


「今だ! と金!」


 コロウ殿が直線状の位置から、外れた!


乱河水(みだれがみ)!!」


 拙者の水流が、ダグラ殿を避け、コロウ殿にぶつけられた。


「かはっ――」


 あっけない幕切れ。拙者たちは、辛勝したのであった。



**


「惜しかったのになぁ。アペルピスィアを忘れるなんて、コロウらしくないね」


身をかがめ、倒れたコロウ殿を見下げる美海殿。その中央には、とても大きな――。


「最近、調子狂う」


 立ち上がり、頭を搔いたコロウ殿。不思議そうな顔をして、美海殿が言った。


「ニーナも最近同じことを言っていたわ。ニーナはなんで怒ったのかしら」


「お前、本当にわからないのか? あいつは――」


「え?」


 「と金、やったな! おかげであいつを吹っ飛ばせた」


「は、はぁ……」


「ダグラァ……!!」


 「しかし、拙者は忘れませぬ。コロウ殿のお言葉、『残忍さが必要』――闘いの中で、つい敵に甘くなってしまうこともありますから」


 ダグラ殿が笑う。


「気にしなくてもいい。こいつ、カッコつけたいだけだから」


「なんだと!?」


「まぁまぁ2人とも――」


 その時、ニーナ殿の手を引いたなつみ殿が、帰ってきた。


「どうでござったか、様子は」


なつみ殿が答える代わりに、ニーナ殿が小さくつぶやいた。


「炸人のバリアが、破られちゃった」


読んでいただきありがとうございました。肝心なところでミスるコロウ――彼の空回りする感じが大好きなのです!

次回、第六話「美人」。お楽しみに!

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