第三話 魔法
「トウトーラ歴 24
炸人は 地球へやってきたシーボルスの《力》に呼応して 次元を通ってここまで来たようだ」
――ハクシキーノの手記
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「ねえ、私たち、敵じゃなくて仲間としてやっていけると思わない? ニュクスは、彼女自身が《影》をいくつか生み出しているから、《影》に寛容なんだ」
「《影》も能力者も、能力者も一般人も共存できる世界。それが私たちの目指す世界なの。だから私たちは、魔王と敵対してるんだ」
「なるほど……あなたたちのことはよくわかりました。でも――。」
プリンセスは試し撃ちのような感じで、2、3発を撃ち込んだ。氷雷は壊されるどころか、それを吸収して大きくなっていく。
「私が油断した一瞬のすきに、これほど完成度の高い氷を生み出すとは……やはりあなたは、選ばれた英雄なのですね。私が、《影》をもってしても、絶対に届かない領域……。いわば氷の絶壁、でしょうかね」
「お嬢様……」
「私も私なりに、けじめがつきましてよ。あなたも、かなり冷徹な気持ちでそれを作ったのでしょう? ならば、私に撃ちなさいな」
「ううん」
私は《力》を解いた。頭上の巨大な氷雷は消え去った。
「な……」
「私たち、やり直せるよ、きっと」
アイス・プリンセスに歩み寄り、手を差し伸べた。お嬢様の表情がほころぶ、その時。
「そうはさせないわ、裏切り者」
「だ、誰っ!?」
「魔王様……」
魔王から、灼熱の光線が放たれる。よけられない。私たちは、ここまでだというの――?
「危ないっ!」
私たちは急に押し倒された。白髪の男が、私たちの前に立ちふさがる。
「あ、あなたは――おじいさん……?」
私が驚いたその瞬間、2度目の攻撃が、私を襲った。
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「話、というのは?」
夜。私たちはたき火で暖をとっていた。炸人さんが、私を岩陰に呼び出した。
「全て、分かっています」
にこやかに笑う炸人さん。私は、その言葉だけで泣きそうになってしまった。
「よく頑張りましたね、ヘメラ」
「でも……どうして?」
炸人さんが視線を外した。曇天は、乾いた大地によく似合う。
「私が元いた世界――そこで私たちは、シーボルスに敗れました。敗因はただ一つ――氷の能力者が、いなかったためです」
「氷の能力者――美海さんが、いない……?」
「戦力不足で私たちは敗れ、世界はシーボルスの支配下に堕ち、混沌に包まれました。しかし、私たちには最後の希望があった――《光の秘宝》です」
「《天使》、ですか?」
炸人さんがうなずいた。
「ハクシキーノが、万一のために《光の秘宝》を隠し持っていたのです。クライムに《天使》が吸収されたこの世界とは、違っていた」
「それで、炸人さんはどうしたんですか?」
「《すべてに届く力》――それを私自身にかけました。すべて、それは時空をも越えた究極の力になりました」
「そんなことが……でも、私たちの世界では、時を越えるためには《氷の秘宝》が必要だったはずです。それを使わないで時を越えるなんて――」
今度は、苦笑い。
「私も、最初は話がうますぎると思いました。でも、私のいた世界では、『氷の能力』という概念すらなかったのです。当然、《氷の秘宝》が誕生することもなかった。ならば、その分の力が、残りの秘宝に集約されていると考えてもいいでしょう。すでに闇に堕ちたこの世界を私一人でやり直すことはできませんでした。でも、過去へ戻り違う世界で違う未来をつくることはできる。そう思い立ち、私は私の世界を捨て、氷の能力者を探しに行きました」
「それが、炸人さんと美海さんの出会い――」
「当時、美海は氷の《力》に覚醒めてはいませんでした。でも私は一目でわかりました。彼女は私の探し求めていた――」
「およめさん?」
私が茶々を入れると、炸人さんは珍しく頬を赤らめた。
「――とにかく、こうして私は時を越えることができるようになったのです。美海を連れ出す帰り道、私は未来へ翔びました。そこで、咲夜とアイス・プリンセスに出会ったのです」
「まさか、あそこにいたアイス・プリンセスは――」
「はい、私が助け出しました。本当は咲夜も助け出したかったのですが、間に合いませんでした」
別の世界では、咲夜は死んでしまったということか。それだけじゃない、炸人さんがいた世界では、英雄はすべて――。
「私が未来へ寄り道した理由は、様々な並行世界の一端を確認するためです。そこに美海は連れて行っていませんから、安心してください」
「でも――」
「アイスプリンセスはハクシキーノのもとで、この星と地球をつなぐ役目をしていたそうです。この世界のお金を、日本のお金に換金していた。ダグラが、なつみさんを大学に通わせるためのお金をね」
落ち込む私の肩に、優しい手が置かれた。
「気に病む必要はありません。多くの犠牲を払いましたが、私たちは今こうして生きている。生きている限り、きっと未来は輝く――だってここは、魔法の星ですから」
ああ、炸人さん。あなたは――。
自分の最期すら、分かっているのですか?
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翌朝。ほかの英雄たちは、今頃目を覚まし、朝食の準備をしている頃だろう。私たちは、違った。
「さてさて、ご注文はタッグバトルでしたね」
「タッグバトル?」
「二対二で闘うのです。なんでも、連携を学びたいんだそうです」
「なるほどな。じゃあ、改めて自己紹介するけど、俺はラグレム。炸人とは同じ軍に所属してて知り合ったんだ。俺の方が先輩だけどな」
「私は神寺宮炸人です、これは未来から来た姿ですが――《情熱》の修行はあとで改めてしましょう」
「ああ」
低い声で、朔くんが返事をした。過去へ来てから、朔くんの様子がおかしい。常に何かに苛立っているようだ。何かに、焦っている?
「さっさと始めようぜ、3日後にはあんたら、シーボルスってやつを倒しに行くんだろ?」
「朔くん、言い方に気を付けて」
やっぱりおかしい。《力》を使っているとはいえ、ここまで乱暴な子ではなかったのに。
「いえ、気にしないでください。では」
彼のおじいさんが柔らかに言った。そして、ラグレムさんが告げる。
「始めるぞ」
一瞬で緊張が走った。その瞬間、ラグレムさんが大剣を振りかざす。三日月形の剣撃が、私たちを襲う。すかさずバリアを張ったけど、そのまま貫通される。
「きゃあ!」
「ヘメラ! 後ろで見てろ!」
私を振り返ることなく、炎をたぎらせてラグレムさんに向かっていく朔くん。いつの間にか炸人さんが視界から消えていることに、彼は気が付いていない。
「やれやれ……」
上空から、炸人さんの声が聞こえた。ほとほと困り果てた、という表情をしている。
「タッグバトルをしたいと言ったのは、あなたたちの方だというのに」
「ごめんなさい、炸人さん」
「いえ。私にも、焦っていた時期がありましたから」
また、優しく笑った。
視線を移すと、朔くんが炎の灯った拳でラグレムさんに殴りかかっているところだった。ラグレムさんはさっきと変わらず、剣を振りかざしているけれど、朔くんはうまく剣撃をかわしながらラグレムさんに近づいていく。
「やるな!」
「スピードが遅い……やっぱ俺たちの方が強いな」
勝ち誇ったように笑う朔くん。でも、ラグレムさんが笑い返した。
「それはどうかな?」
「なに――? ぐっ」
寸前のところで、朔くんが膝をついて倒れた。
「はぁ、はぁ……なんだ? 体が痺れる……」
「お前は俺の剣撃をかわしたつもりでいたようだがな。直撃は免れても周囲の電磁波を無意識に受けていたんだ」
「電磁波だと……」
「しかもちょっと遅効性にしといた。油断大敵だぞ、旅行者くん」
朔くんは完全に動けなくなった。この勝負――私たちの負けだ。
「うっせえ!」
朔くんが大声で叫んだ。その瞬間、両手の炎を逆噴射して飛行を試みる。
「脚がダメでも――俺は翔べる!」
「ほう……なんてパワーの放出だ」
冷静に感心するラグレムさん。余裕がまだまだありそうだ。だって――
「くらえ! バーンストライク!」
朔くんが構えて、炎を噴射しようとする。片手で浮力を確保しているから、右腕での片手撃ちだ。精度が安定しない。
「その技は……炸人と同じ!?」
「翔べるという条件は――私とて同じです」
射撃の瞬間、後ろから炸人さんが襲った。必殺技は失敗し、ラグレムさんの方へと墜ちてゆく。
「ぐっ……」
「容赦しねえぞ! そらっ!」
今度は、ラグレムさんが朔くんを蹴り上げた。単純な脚力で、朔くんを炸人さんのところまで送る。ラグレムさんの体術は、並大抵じゃない。
「ぐああ!」
「捕まえました」
突然、朔くんの身体が空中で止まった。朔くんを囲むように、白い球体が5つ浮いている。
「な、なんだ――」
「魔方陣です。あなたが地上でラグレムと闘っている間に準備しました。もう降参しますか?」
「誰が――降参なんかするか!」
「仕方ありませんね――」
炸人さんが指を動かした。その瞬間、5つの球体がそれぞれ光線で結ばれていく。
「あれは……星形?」
空中に浮かび上がった巨大な星形の魔方陣。朔くんを中心に残し、そのまま下に光線が降り注いだ。
「ぐああああああああああああああああああ!」
さっきの朔くんの炎の噴射を凌ぐパワーだ。単純に勝敗より、朔くんの身体が心配だった。
「ぐっ――」
ボロボロの身体で地面に這いつくばる朔くん。そこに、ラグレムさんの剣先が向けられた。
「俺たちの勝ちだ」
朔くんは、何も答えなかった。炸人さんが降りてきて言った。
「もう一度やりましょう。これは殺し合いじゃない、修行ですから」
読んでいただきありがとうございました。戦闘シーンに悩んでなかなか投稿を渋っていましたが、投稿することにします。次回、第四話「守り」。お楽しみに!




